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2014年1月8日水曜日

「アメリカに潰された政治家たち」感想

孫崎亨著「アメリカに潰された政治家たち」(小学館、2012年9月)

 先日、孫崎亨著「アメリカに潰された政治家たち」(小学館、2012年9月)という本を、西友春日井店にて買った。早速速読した。この本が主張するもっとも重要なポイントは、日本の戦後政治は吉田茂、池田勇人らの対米追従路線と鳩山一郎、岸信介らの独自路線とのせめぎあいで進んで来たこと、そして、後者を米国はCIAなどの諜報機関とその手先になった人々を用いて潰してきたことで解釈できるということである。その潰された政治家として、鳩山一郎、石橋湛山、重光葵、岸信介、佐藤栄作、田中角栄、小沢一郎、など12名の名前が書かれていた。(注1)また、その手先として、政治家の他に、官僚、新聞などマスコミ、財界などに広く存在する、“人脈”(注2)を用いて来たと書かれている。
 中でも印象的なのは、60年代安保闘争に関する記述である。総理大臣岸信介の時、不平等条約である旧安保条約(吉田茂が調印した)を日本の立場を盛り込んだ形へ改定する際、安定多数の自民党政権下においては、社会党や共産党の安保破棄の主張があったとしても、国内的には容易なことと思われた。しかし、自民党の池田勇人や三木武夫は安保条約とそれに付随する日米行政協定の同時改訂を主張して、岸の安保単独改訂に反対した。(注3)この安保改定を困難な事業にした池田勇人や三木武夫の一派による反対は、米国の工作によると言うのである。何故なら、安保改定後総理になった池田勇人は、日米地位協定(旧日米行政協定であり、内容をあまり変えることが出来なかった。)には手をつけなかったからである。米国は徐々に独自路線を歩みだす岸信介を警戒するようになり、彼を退陣させ、もっと有利な形で日米間の関係を進めたかったのである。一方、国会の外では、左翼的思想に染まった学生たちの激しいデモが組織された。このデモの本質を示す話がある。それは過激な反対を行なった全学連(ブント)の中心的人物の一人、西部邁氏(当時全学連中央執行委員:ウィキペディアによる)は後に、こう言ったという。「60年安保闘争は安保反対の闘争などではなかった。闘争参加者の殆どが国際政治及び国際軍事に無知であり、無関心であった」と(38頁)。(注4)この本では、安保反対デモが大きく展開されたのは、米国の意向に沿って、右翼(注5)や財界を通して、全学連へ支援があったからだということである。また、女子学生(樺美智子さん)の死亡とともに混乱が過大になると思われた時に、新聞社7社が連携して沈静化を呼びかけたことも、米国の工作によるということである。(39-40頁)兎に角、岸信介退陣により米国の目的は大部分達せられた。初めて孫崎氏の本を読んだ私には、この60年安保闘争などの解釈は驚くべき内容だったが、この時の政治の流れに関する著者独自のモデル(42頁)と具体的な名前を挙げての詳しい説明により、十分説得力があると思った。
 米国が嫌う日本の独自路線であるが、それは、東アジアの一員として、米国抜きの政治経済圏をつくることだろう。そして、その中心にあるのは、中国と日本の接近である。日中接近の企てを、著者は「虎の尾を踏む」(74頁)と表現している。つまり、田中角栄が失脚したのは、米国に先だって、日中国交回復を成したことである。米国は、諜報機関を使って政治家が失脚するような情報をストックし、必要な時にそれをリークして、”虎の尾を踏んだ”政治家を失脚させるというのである。小沢つぶしも、同じような解析で理解可能である。小沢氏秘書の告発やそのタイミング、執拗な強制起訴などの出来事は、三権分立近代法治国家としてはあまりにも不自然である。(注6)我々素人の国民も注意して政治の動きを観察すれば、孫崎氏の書かれた米国の対日工作を確信できるのではないだろうか。(注7)  結局外交は、自国の国益を最大限優先するのであるから、米国は日本の国益など本気で考えてはいないだろう。(68頁)また、それは国際社会において正常なことである。従って、日本政界の対米追従派は、比較的無能な政治家で形成されていると思う。有能なる政治家を戦争時に失い、戦後も有能な政治家を米国の工作により潰されているということになる。対米追従は、日本国の改善すべき体質か不治の病かのどちらかである。どちらになるかは、今後有能なる政治家を我々国民が選挙で選ぶことが出来るかどうかにかかっている。私は、以前にも書いたが、一票の格差の完全撤廃がその為に必須であると思っている。
 この本も、発表後1ヶ月の間の3回刷られているが、その後の印刷は無い様で、テレビなどのマスコミにはそれほど取り上げられていない。(一度、テレビでみたことはある)その後、時間が経てば図書館の奥に消え、何時もの様に国民は何も学ばないだろうと思った。
 
注釈:
1)他の5名は、芦田均、竹下登、梶山静六、橋下龍太郎、鳩山由紀夫である。
2)必ずしもエージェントとまでは言えないものが多いと思う。例えば、米国の文化や政治の崇拝者や、米国との関係で経済活動をしている人など。
3)国会が紛糾することで、元々無知であった学生(注4参照)に反対の空気醸成と運動高揚の為の時間を与えるだろう。
4)西部邁は高校時代にはマルクスなど全く勉強していなかったという。一浪後東大に入り、三鷹寮に入寮して一年生の年末に共産主義者同盟(ブント)に加入している。秀才でも、国際政治などには詳しくはなれないだろう。大勢の闘争に参加した一般学生に至っては、尚更のことだろう。
5)戦前の日本共産党の指導者で60年当時は「反共右翼」としての活動を行っていた田中清玄から資金援助を受けていたということである。(wikipedia参照)にもこのことは記述されている。
6)東京地検特捜部は、GHQの管理下で日本国内に隠匿された物資を探し出す部門として組織された「隠匿退蔵物資事件捜査部」が前進だということである。(102頁)
7)鳩山由紀夫氏は、日ソ共同宣言に調印しソ連との国交を回復した鳩山一郎を意識して、無理な独自路線を走ったのではないだろうか。なお、長期政権を作った元総理大臣は全て、対米追従派ということである。
 

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