2016年8月17日水曜日

天皇陛下のお言葉について(2)宮内省と内閣は何故早く対応できなかったのか?

1)天皇陛下が、譲位の思いを国民への談話の形で発表されたのは、8月8日である。この言葉で注目されるのが、摂政は解決にはならないことと、象徴という言葉を何回も使われたことである。天皇が直接国民への談話という形で、国政に関係することを話されるのは異例であり、本来なら事前に宮内庁や内閣がご意向を汲んで対応するべきであった。

天皇が国民に直接談話の形でご意向を発表されたのには、深い理由があると思う。その一つは、宮内庁か内閣の怠慢である。天皇が譲位の意思をお持ちだというニュースがNHKで流された日の翌朝、宮内庁長官はそんな話は無いと明確に否定した。しかし、他の報道機関もその真偽を確かめて、相次いでNHKと同じ内容の報道をした。そして、それが確かであることが、8月8日の談話で明確になった。

宮内庁は、天皇と内閣の橋渡しをする機関であるから、その橋渡しができなかったことが明確になった時点で、その責任を追及されるべきである。しかしなんの前説もなく、天皇のおことばが宮内庁のホームページに淡々と掲載されている。http://www.kunaicho.go.jp/page/okotoba/detail/12

一方内閣もその責任を宮内庁長官に問う兆候は全くないし、国民への説明も単に「重く受け止める」というだけであった。その後のニュースは、秋に皇室典範の改訂にむけて有識者会議を組織すると報じている。そのような対応は、国民をバカにしているという意見がどこからも出てこないのが不思議である。

今後、有識者会議を組織するのなら、その人選を含めて詳細にその目的、設置する理由を国民に説明すべきである。目的は憲法上、天皇のお言葉と直接関係があってはならない。

2)何故そのようななし崩し的に皇室典範の改訂に向かうのか?こちらで勝手に考えてみる。

おそらく宮内庁は、内閣に天皇のご意向を何度も伝えた筈である。それ故、内閣は宮内庁の責任を問わないのである。内閣は天皇のご意志に沿いたくないので、ずっと無視してきたのだろう。そこで、天皇と内閣の板挟みになった宮内庁は、NHKにリークするという強硬手段をとったのだろう。 

しかし、天皇のご意志を報道機関にリークしたことが明確になれば、それは守秘義務違反になる。また、天皇のご意志で内閣が動けば憲法違反になるので、翌朝の宮内庁長官は、そんな話はないと否定したのである。では、何故内閣は天皇のご意志を無視したのか、また、何故天皇は強く今回の発表にこだわられたのか?  

天皇は、安倍内閣の考えている憲法改訂の方向を推察され、良からぬ方向だと危惧されたのだろう。その危惧とは、「安倍内閣は、天皇の立場を立憲君主的なものに変更する」可能性があることだろう。それが、談話の中で象徴という言葉を何度も使われた理由だと思う。天皇のご意向が無視され続けたことと、衆参両院で安倍政権が改憲勢力を確保したことで、陛下の心の中に高まった危惧の気持ちを宮内庁が強く感じたのではないだろうか。

  天皇はここ数百年実際的な意味での権力の座にはなく、単に日本の権威の頂点にあったのみである。この権力と権威の分裂は、あの悲惨な戦争の一つの原因であったと思う。天皇の権威を借りて、独裁的な体制を作り上げることは、その善悪は別にして日本政治における伝統的形だったと思う。明治維新の際にも、天皇の地位は倒幕に利用された。民主主義の時代である現代、そのような天皇の政治利用は避けなければならないと思う。 

自民党の新憲法草案では、天皇を「国家の元首」としている。また、天皇の国事行為については、天皇が国家の元首であるという線に沿って書かれている。https://jimin.ncss.nifty.com/pdf/news/policy/130250_1.pdf

例えば、草案5条には、「天皇はこの憲法に定める国事に関する行為を行い、国政に関する機能を有しない」と書かれているが、現行憲法3条に相当する条文は、単独の条文から第6条の第4項として変更の上残されている。(補足1)そのほか随所に天皇の国政への関与を強める表現が盛り込まれている(補足2)。それらは草案5条の”国政に関する機能を有しない”に矛盾する。天皇陛下がこの草案が新憲法となることを危惧されるのは、十分理解できる。

自民党の憲法草案では、現行憲法の9条二項を削除して、国防軍の設置を規定している。天皇を国家の元首とするのではなく、日本国民統合の象徴とする条文を残すのなら、天皇陛下は国防軍の設置に反対の気持ちを持たれないと思う。

憲法9条だけでなく、論理もなにもないのが、この国の政治の実態である。法(ことば)と実際(世界)をもっと近づけてほしいものである。

補足:
1)憲法3条:「天皇の国事に関するすべての行為は、内閣の助言と承認を必要とし、内閣が、その責任を負う」に相当する条文は、自民党草案では6条4項にある。ただし下線部分が「内閣の進言を必要とし」に書き換えられている。天皇は元首であるから、内閣の助言を内閣の進言に変えたのである。
2)「憲法4条:天皇は、この憲法の定める国事に関する行為のみを行ひ、国政に関する権能を有しない。」に相当する自民党草案5条の文章において、下線部「行為のみ」の「のみ」が削除されている。

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