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2017年5月11日木曜日

日本の賃金と労働市場の問題:欧米と比較して、高年齢高給与でない日本の給与体系

1)日本の賃金システムが、同一労働同一賃金の原則に基づいていないことが屡々問題視される。その原因は、日本では会社に就職するが、欧米諸国では文字通り職種を選んで就職する。つまり、日本では会社と労働者の関係が君主と家来の封建的関係にあるからである。本来の家来である正規社員が、外部から臨時に雇った職員よりも同じ仕事でも給与が高いのは当たり前である。その代わり、家来であるから、大事な時には超過勤務も厭わず多少のサービス残業も当たり前である。

同一労働でも同一賃金ではなく、当然家来としての期間が長い人間には、その忠義に応じて賃金を上げるのも至極当然のこととなる。それはまた、重要な仕事を家来にさせてもさほど給与が上げなくても良い言い訳となる。「家来にとって重要な仕事を“させてもらう”のは名誉であり、それで高い給与を要求するのは人としての出来に問題がある」という丁稚奉公時代の考え方が、未だに日本の社会通念として生きている。

そのような考えで漠然とテレビを見ていた私は、今朝のモーニングサテライトでびっくりするデータを見せられた。それは日本の給与対年齢の関係は全体としては、欧米諸国と異なって年功序列的にはなっていないというものである。そして、“ここ数年賃金が減少傾向にあるのは、高齢労働者が増加したからである”という解説者の話を聞いて、またびっくりした。解説者が示した年齢対給与のデータの一例を下の図に示した。

明らかに高齢者の賃金は米国の方が高い。この米国のような傾向は、欧州の主要国においても同様にであった。

このデータを見てから、しばらくしてデータ解析は出来た。それは、欧米諸国では仕事に対して給与を支払うという事実を考えれば当たり前である。つまり、欧米の賃金が年齢とともに上昇するのは、年齢を重ねるに従って経験を積むことで仕事の質が高くなっていくということである。

そこで、給与が44-46歳付近にピークがある日本での給与と年齢の関係を考えると、大手の会社に入ってもその年齢付近で退職することの反映であると理解される。つまり、年功序列の給与体系を維持できないので、会社等が高齢になった職員で相当する地位から溢れた人は、実質的に解雇されることを意味している。

その傾向は国家公務員でも同様である。よく引用されるケースであるが、一種採用(昔の上級甲種採用)の国家公務員で、同期が課長に出世すれば残りの人に相当するポストがないので、天下り先に去るという話である。その結果、特別優秀な鼻持ちならないと周囲には見える人間が早々と去り、凡庸な人間が最後に次官となるのである。そのような凡庸な人間がのちに政界に下る(!)ので、政治家のレベルが低いのだろう。つまり、この慣習は国家の政治にも関係する大問題なのである。

上記早期退職が大きな問題なのは、それまで蓄積した経験と知識が新しい職場で必ずしも発揮されないだろうということである。仕事をするということは、同時に技術や知恵を学ぶことであると考えれば、その損失の合計は非常に大きく、国家の発展に直接的に関係するほどの大問題である。

2)日本という国では、実績よりも名前あるいはラベルが評価される。それは、どこを見ても共通している。芸能界から政界まで、更には競争の場が国内に限られている学会でもそうだろう。(テレビでおなじみの三代目の国語学者を思い出す。)ラベルになり得るのは出身大学名であったり、所属している会社名であったり、有名な家系だったりする。

例えば、最近、日本郵政(株)が巨額(約4000億円)の損失を豪州の流通会社をあまりにも高値で買収した失敗の尻拭いのために計上した。その結果、日本郵政の株は大きく値下がりした。また既に大きな問題となっている東芝の不正経理問題の元にあるのが、米国原発大手のウエスティングハウス社の買収とその後の運営で大赤字を出したことである。この東芝のウエスティングハウス社買収の主役であった方が、驚くべきことに後に日本郵政で豪州トール社の買収の主役となった西室泰三氏である。同じ間違いで巨額の損失を出したのである。

私立の名門大を出て、名前だけがどう言う訳か巨大化して出世した方であるが、その能力は結果が証明している。もし、日本の会社と会社員の関係が仕事の成果とそれに対する報酬の関係であれば、このような方は出世しなかったのではないだろうか。凡庸なトップは能力のある人を遠ざけてしまう。非凡な能力を引き上げるのは、トップが優秀であり、且つ、トップの視界が末端まで及ぶようなフラットな組織の会社である。

何故この方名前の政界にまで届いたのか?それは、日本の原子力行政との関係で官界との人間関係が大きく太くなったのだろうと想像する。しかし、その官界の側の人間が一流の方であれば、二流以下の方の名前が大きくなるわけがない。英語のことわざにある:First-rate people hire-first rate people;Second-rate people hire third-rate people. 翻訳すれば: 一流の人間は一流の人間を雇う。二流の人間は三流の人間を雇う。

しかし、日本の官界は同一労働同一賃金の原則から最も遠いところである。そして基本的に地位は、入所後の期間で決まる。そのことが、官界の人材の質を悪くしていると思う。政治と直接接点があれば、成果が直接関係する職場となり得るが、政治の質が高くないので、官界は閉じた空間となっている。それは必然的に人材の質の低下を招くのである。(補足1)

つまり、同一労働同一賃金の原則は、日本国が三流国への転落するのを防止する必須の課題だと考えられるのだ。

話がそれてしまったが、今日のように巨大化した会社は公に属すると考えるなら、同一労働同一賃金の原則は、国民みな公の空間では平等であるから、当然のことである。年齢差別も女性差別もあってはならない。

年齢が高いから高い地位につくのではない。長年の経験と知識があるから、高い地位につくのである。もし、10年かかる仕事を1年でマスターしたのなら、若い人でも堂々と高い地位につけて高い給与を支払えば良い。その下で働く高齢者も、上司として受け入れるべきである。そうならば、退社後には会社での上下の関係など無くなるのは当然である。一流会社の社員だから、或いは、一流大学に合格したから尊敬されるという馬鹿げた習慣もなくなるだろう。

それらの改革ができれば、日本は現在より遥かに風通しの良い社会になるだろう。

補足:
1)具体的には次官会議というのがあり、行政上の決定はそこでなされてきた。政治が関係するのは、その追認だけであった。最近少し変化の兆しがあるが、基本的な政治と官僚組織との力関係は変わっていない。

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