2018年1月15日月曜日

日本はプライマリー・バランスに拘らなくて良いのか?:藤井聡内閣参与と西部邁氏の議論について

藤井聡内閣参与の西部邁氏との討論を見た。税収内で国家の予算を組まなければならないという考え、つまりプライマリー・バランス(補足1)の黒字化、を重視する財務省などの姿勢に対する反対論を展開している。しかし、素人の私にもその正確さは低く感じられたので、ここに少し書く。https://www.youtube.com/watch?v=6D3AX75K78w

1)最初に西部邁氏が、財政拡大策を用いて経済成長を目指すべきだという考えのあと、「この4半世紀の間、フロー(つまりプライマリーバランス)だけを考えていては駄目であり、ストックも考えるべきであると、大蔵省の幹部クラスに言ってきたが、誰も聞いてくれない」と言っている。しかし、株をやっている町中の男性を捕まえて聞けば、「ストック(貸借対照表:BS)だけを考えては駄目だ、フローが大事だ」と言うだろう。

つまり、資産の数値化には注意を擁するのである。預貯金ならそのまま数値化が可能だが、米国債など債券になれば数値化が多少或いはかなり困難になってくる。(補足2)そして、道路や湾岸施設などになると、それを数値化してどれだけの意味があるのか。国でも会社でも、資産の数値化には大きなバラツキがあるだろう。会社の場合、公認会計士がチェックしていても、東芝だけでなく不正会計がかなりあった。(補足3)国家(財務省)の作ったバランスシートをチェックする法的根拠やチェック方法を国会がもたないとすれば、更に信用できない。

元財務官僚で最初に日本政府のBSを作ったと公言している高橋洋一氏が、「現在発表されている日本政府のBSに、国の徴税権も資産として加えれば、債務超過ではない。国の徴税権は、税収の15倍ほど(補足4)つまり900兆円位の純資産として計上できるからだ」と言っている。しかし、今日気がついたのだが、これは資産の二重計上である。つまり、財務省の作った貸借対照表(BS)にある有形固定資産(つまり道路や湾岸施設など)があるから、その中で企業等の経済活動が可能であり、徴税ができるのである。

勿論、プライマリーバランス(PB)を死守する必要はないし、国家のバランスシートの拡大は経済発展とともに大きくなるのは当然である。そして、現在の日本が従来型のデフレ下にあるのなら、確かに財政拡大策は必要だろう。一時的な財政拡大が破綻に繋がるほど日本のバランスシートは悪くない様である。(日本政府と米国政府のバランスシート:https://blogs.yahoo.co.jp/mopyesr/43416690.html

従って、国家の防衛に不安があるのなら、そこに予算を倍付けたとしても、それは当然の決断である。しかし、地震に備えて防潮堤を築くなどの国土強靭化は、地震が予測出来ない以上、無駄遣いである。そのような無駄使いができる情況には、日本はないと思う。尚、国債の信用と日銀のバランスシートについては、昨年ブログで紹介した。 https://blogs.yahoo.co.jp/mopyesr/43424501.html

2)現在のデフレ的経済情況は経済のグローバル化による先進国に共通した現象であり、従来型不況ではない。日本は現在殆ど完全雇用にあり、企業は最高益を上げているところも多い。財政拡大で偏った部門、例えば建設業、に需要を起こしても、人手不足が深刻化して政府が外国人労働者受入枠を拡大するだけで、消費財での継続的な需要拡大に繋がらないのではないだろうか。

政府が議論すべきは、如何にして国民が感じる将来への不安を減少させ、国民の貯蓄性向を減少させるかということだろう。企業の設備投資を増加させて労働生産性を向上させるのは、企業が独自に判断することであり、国家が口出すことではない。企業も自社の実力と将来に不安を感じているので、設備投資や新規展開を控えているのだろう。将来に向けて考えるべきは、日本の企業の体質や能力の改善である。

米国(マイクロソフト、アップル、フェイスブックなどナスダック銘柄)で為し得たことが何故日本では為し得ないのか?創造性、革新性、攻撃性に欠ける日本文化がその主要な原因の一つであると思う。ダイソン型扇風機のアイデアが東芝の研究現場にあったのに、何故それが取り上げられなかったのか?何故、日本の大胆な経営が外国から帰化された人たちによって主に行われているのか?何故、ダイエー、日産、シャープ、東芝が潰れ、外国の支配下に入るのか?それらが本当の日本の問題である。

それらは、PBに対する考え方で解決する筈がない。経済のグローバル化と共に、独特な労働市場や社会構造に関する文化も根本的原因の主要な部分である。巨額の財政出動とそれによる大幅なインフレは、国民や企業の貯蓄の実質的評価を下げる働きがあり、それは益々それらの経済活動を消極的にするだろう。

また、資源や食料を外国に頼る日本は、円は基軸通貨ではないので、経常赤字になる可能性が予想されたら行き過ぎた円安は防がなければならない。そのため、財政もPBを意識しなければならない。円の価値は、現在日本国債の信用に裏打ちされている。国債の信用低下は、突然の利息上昇と円安を招くことになり、デフレどころか資源価格や食料価格の上昇による大幅なインフレとなり、国民は食えなくなる。

藤井氏の書いた本の表題「プライマリー・バランス(PB)の大嘘」は、日本語的に可怪しい。表題であっても、もうちょっと日本語の正しい使い方が出来る人でないと、意見を聴く気にならない。

3)最初に、会社でも国家でもストックよりもフローが大事だと言う主旨のことを書いた。例えば家計の話をすると、30代に家を買ってローンを組むことは普通である。その年は大赤字であるが、それが許されるのは返却の目途が立っているからである。返却の目途が立っているということは、キャッシュ・フローが黒字だということである。

ここ40年ほど日本の財政収支は赤字である。http://ecodb.net/country/JP/imf_ggxcnl.html また、現在日本の経済は斜陽であると私は感じている。その原因には色々あるが、上にも書いたように日本文化にまで遡る必要がある。https://blogs.yahoo.co.jp/mopyesr/43514249.html この様な時、借金をよりふくらませる方向で予算を組む場合には、明確な理由が必要であると思う。

その是非を議論するには、財政赤字を最少にすること至上命題と考える財務省と、そんなことを気にしている場合ではないと考える、防衛省、経産省、文科省、総務省などその他の省が議論をして折り合いをつけ、その議論の仕上げを国会でやるのが正しい筈である。従って、西部邁氏が財務官僚の幹部を非難する根拠はなく、非難すべきは内閣と国会だと思う。

現在を簡単にデフレというが、今年の物価上昇率は+0.37%である。宅配便の値上げや郵送料の値上げ、時間給の上昇など、現在インフレの気配が出ている。過去20年程のデフレ的経済情況は経済のグローバル化による先進国に共通した現象である。高橋是清の財政政策の猿真似で解決できるのか疑問である。最近の動画で、藤井氏は韓国の経済も財政をどんどん拡大すれば良くなると言っていた。私は、藤井さんの経済の知識を全く信用しない。

追補:西部邁氏の主張の中で、「日本国民の金融資産が1,700兆円あるので、国債残高を差し引いても700兆円あまる」とい話がある。しかし、国家財政と日本国民の金融資産とを合算するわけにはいかない。また、日本国債は円建てであり、殆ど全て日本国内で売られているという話があった。それは、国家財政の破綻を防ぐことは、可能であることを意味している。その場合、激しいインフレになり、国民の金融資産の価値が激減することになる。新円を発行して、旧円と交換することで、実質的に国民の金融資産の国家財政への移転ということになるような気がする。

今回の議論は筆者の専門分野内ではありません。厳しい反論や意見等期待します。(追補以下は21:30加筆)

補足:
1)プライマリー・バランスは、一般会計における歳出額から公債費と税収を引いた収支のことである。
2)トランプ大統領になって、米国の財政破綻の危険性すら議論されている。https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2016/03/post-4693.php
3)ストックの評価が難しいのは、ソフトバンクの貸借対照表を考えれば分かる。https://biz-kyoyo.link/mba-finance/franchise-softbank/
4)税額の17倍と言ったかもしれない。

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