2016年2月11日木曜日

介護ヘルパーによる現金窃盗事件を考える: ”特ダネ”で放送された事件の感想

1)今日の“特ダネ”(フジテレビ系)で放送された事件についての感想を書く。放送内容であるが、介護ヘルパーが世話をする老人(88歳)宅を訪れた際、数千円の現金を財布から抜き取った窃盗事件である。この件、財布からどうも現金が消えるらしいと不審に思った老人の言葉を聞いて、親族が天井に設置したカメラの映像により明らかになった。

このケース、私には介護ヘルパーだけを責めることに若干の疑問を持つ。生活がもし豊かであれば、実の子供でも嫌がる介護など仕事にしていなかっただろう。そして、密室とも言える高齢の要介護老人宅の手の届くところに財布があり、それを開けるだけで現金が手に入る状況は、罠を仕掛けられた動物のように見えなくもないからである。

同類の犯罪として被害額が百万円をこえるものもある。その場合には、通帳を持ち出してATMなどから引き出すなどのかなり高いハードルを越える必要がある。番組では金額の問題ではないと言っているが、金額はこのようなケースの場合大きな問題だと思う。

「信じていたのに裏切られた気持ちである」という被害者の感想は良く理解できるが、しかしなお被害者と親族の対応には疑問を持つ。もともと介護人と介護を受ける側には、労働とその対象としての関係しかない。それ以上の、「人間的思いやりをこめた、明るい態度での暖かい介護」要求をするのなら、西欧圏でのチップのようなものが必要だろう。

このケースにはいくつかの美しくない点がある。それは、犯行が明らかになったあととった被害者の親族らの対応に、人間的な思いやりが不足していること等である。介護ヘルパーの犯行を疑って、カメラを天井に仕掛けるまでに何かすることはなかったか?数千円の行方を明らかにするために行った努力の大きさも不思議な点である。

その映像を介護ヘルパーに見せて、追求したところ、その介護ヘルパーは「返却しますから、警察には内密に」と泣いて頼んだ。しかし、被害者は警察に告発し、警察は検察に書類送検したという。警察だけではなく、そのフィルムや音声データをテレビ局に渡したのである。その対価については放送では触れられていない。

この番組を観たほとんどの人は、介護ヘルパーを非難して被害者の味方になるだろう。しかし、自分が見ている映像や音声データをテレビ局に渡す際に、お金や品物の授受が絡んでいたのではないかと想像するだけで、少し“味方の程度”は変わるのではないだろうか。

その一件がなければ、信用できる良い介護人であったのなら、被害者はそれを失ったことにもなり、その犯行と犯行の露見は双方にとって損であったのではないだろうか。そのようなことの無いように、現金を置かない工夫はできなかったのか?また、現金が必要になることがあれば、代わりに親族が済ませることは出来なかったのか?などの疑問を持つ。一定の努力もなく、「人間的な思いやりを持った、明るく優しい介護」を低い金額で望むのは、そもそも無理ではなかったのか。

あくまでもテレビを観た限りのことではあるが、この種のケースを刑法である窃盗罪で処罰することは裁判官にとっても難しいと思う。何故なら、犯罪人を多く作ることは社会にとっての損害になるからである。

2)以下に、一般論として法あるいはルールを如何に考えるべきかを書く。

犯罪はルール違反であるが、ルールは絶対ではない。ルールは全体が差し引き幸せになるように設定し適用すべきである。罠をいたるところに仕掛けるような法は悪法である(補足1)。もちろん、犯罪を犯した人は罰を受けるべきということは確かであり、それは「悪法も法なり」という論理、つまり、法により社会を運営するという大前提を守るためである。

「悪法も法なり」という言葉を批判する記事がネットにかなり存在するが、この言葉は本来罰せられる側の論理ではなく、法により秩序を守る社会の論理を表現したものである。ソクラテスが毒杯を仰いだのは、自分の思想:「法秩序を守ることが社会全体の益となる」を守るためだったのだろう。

したがって、その社会に自分が属していると考えれば、自分も社会の一員として法に従うだろう。しかし、その罰が社会と自分の繋がりを切るのなら、社会側の論理が「悪法も法なり」だとしても、裁かれる側はその法に従う必要はない。

補足:

1)田舎の直線道路で交差する田舎道があるとしても、制限速度を40kmに設定したところがある。そこを日曜の朝、60kmを少し超えたスピードで通りかかった自動車を、速度違反で罰金刑に処することが、法の適用として合理的だとは思わない。予算稼ぎ業績稼ぎの交通警察の悪業である。国家公安委員長が、「流れにのっていれば、現在行われている20km超えの速度取り締まりはいかがなものか」と言ったのに、警察官は知らん顔である。一般市民と警察の不信感は、社会にとっての損害であるなどという論理は、警察官には般若心境と同様眠たくなるだけだろう。
https://www.youtube.com/watch?v=aiD9CNHAS3U&feature=youtu.be

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