2017年7月28日金曜日

嘘とインチキの支配する世界にどう生きるか

1)人間が言葉を用い始めた時、言葉は真実を他人に告げる道具として作られた筈である。その時、同時に嘘も生じた筈である。人類は嘘とどのように対峙してきたのだろうか?どのようにそれを最小限にするのか、知恵を絞っただろうか?その知恵は子孫に受け継がれただろうか?

「ペンは剣よりも強し」という言葉がある。その言葉の中では、ペンで書くのは真実であり嘘ではないと思う。しかし、ペンなんて何の力も持たないことの方が遥かに多いのが現実だと思う。何故、このような言葉がある種の精彩を放つように存在するのだろうか。それは単に人の持つ共通の希望なのだろう。この気持ちは、近現代の歴史書などを読むうちに強くなった。

そして得た結論は、「言葉(真実を語る言葉)は、信頼する者たちや利益を共有する者たちの間だけで、そして限られた話題においてのみ正しく機能する対話の道具である」ということである。信頼が無い社会において、或いは利害が対立する関係においては、“真実を語る言葉”は有害(補足1)か、意味がないか、のどちらかである。

現在、世界は政治的にも経済的にも不均質である。言葉はその様な世界を通る時、意味は曲解され、まともには伝達されない。それは丁度、粉々に割れた氷の空間に光が入射した場合に、光は屈折し反射され、偽の光を放つのと同じである。

場合によっては、雑音的な言葉が、反射と屈折を繰り返して、増幅され大きな声となって歴史を動かすこともあるかもしれない。(補足2)また、そのような空間に、ある意図を持って嘘が投げ入れられた場合、伝搬増幅された結果、思わぬ被害を受ける者と計画通りの大きな利益を得る者が現れるかもしれない。

昔の嘘は、単に当事者間のものであり、社会全体に伝搬する類のものはほとんどなかっただろう。社会の90%以上は政治に関与しないのだから、当然のことである。近現代になって特に、言葉が空間の中で反射伝搬されるうちに増幅され或いは変質して、大きな結果の引き金になる場合が多い。その様な世界が何故できたのか。それは現代人が、最高の政治形態とされる大衆が参加する民主政治(補足3)と高度広範な情報伝達機能をもったからではないかと思う。(補足4)

民主主義政治は、大衆が声をあげる政治形態である。発言権を裏付けるものは、単に社会のメンバーであるというだけであり、専門的知識に欠けるかどうかは問題にされない。言葉が正しく伝達される空間として、自分と同じ社会に属するとか、自分と利益を共有するとかの境界が存在するが、それは大衆には見えない境界である。それは、言葉とその意味の理解を妨げる。

以下に、その具体例を2-3挙げる。

2)民衆による政治が世界に広まってから、真実であろうが嘘であろうが、大衆の作る社会を大量の言葉がその真偽の検証もされずに右左に伝搬し、その言葉がどのような力学の結果かは不明だが、政治を左右することは事実である。それをいち早く知り積極的に利用したのが、英米など民主主義先進国だろう。

例えば、イラクがクウェートに侵攻した際に、クウェート市民の団体の手配で、クウェート人の娘ナイラがクウェートの病院で起こった幼児虐殺の場面について証言をした。https://www.youtube.com/watch?v=LmfVs3WaE9Y

証言の一部はABCのナイトラインとNBCナイトリー・ニュースに放映され、7人の上院議員はナイラの証言を力の使用を裏付けるスピーチで引用した。ブッシュ大統領は、次の数週間で少なくとも10回この話を繰り返し用いた。そしてイラク戦争に参戦した。あとで、証言した娘が在米クウェート大使の娘であること、クウェートには行っていない事が判明した。

ここで注目すべきは、クウェート人の娘と言いながら流暢な英語を話す。その当たり前の疑問さえ、その政治的プロパガンダの伝搬の妨げにならなかったことである。

3)1941年の対日戦争でも、米国の参戦には日本側の第一撃を必要とした。何故なら、前年の11月の大統領選で三選を目指したフランクリン・ルーズベルトは、「今私の話を聞いている父や母の皆さんに、もう一度はっきり申し上げる。私はこれまでも述べてきたように、今後も何度でも繰り返すが、あなた方の子供たちが外国の地での戦争に送りこまれることは決してない。」と心にもないことを言わざるを得なかったからである。

くず鉄と石油など軍需物資が日本に入らない様に経済制裁をし、大統領、国務長官、陸軍長官は日本の攻撃を待った。その年の夏まで、グルー駐日大使の戦争を避けるための努力、日米諒解案を作成して戦争を避ける努力をした近衛総理と野村駐米大使、それを期待して日本にやってきた米国神父2名の期待は虚しいものになった。

そして日本の奇襲が行われるや、「RememberPearl Harbor」というセリフが、フランクリン・ルーズベルト大統領の思惑通り米国人を団結させた。この手法はルーズベルト大統領の考案ではない。何故なら、スペイン領キューバをめぐって行われた米西戦争で、“真相は現在でも明らかではないが”、米国軍艦のメイン号がハバナ湾で爆発沈没した。

この爆発はスペインが仕掛けたものだとメディアに火がつき、国民の反スペイン感情を刺激して「Remember the Maine」がスローガンとして唱えられた。1898年のことである。https://www.loc.gov/collections/spanish-american-war-in-motion-pictures/articles-and-essays/the-motion-picture-camera-goes-to-war/remember-the-main-the-beginnings-of-war/

4)この「不均質な社会では言葉が通じない」ということをつくづく感じたのは、隣国との慰安婦問題である。最初からこのような問題は生じる筈もない話だった。例えば、下のコピーは公開された1945年当時の米軍の秘密資料である。

米軍が、日本軍に所属した何百人もの韓国人捕虜に慰安婦について、尋問した結果をまとめたものである。

英語を訳せば次の様になる。「捕虜が太平洋地域で見た韓国のすべての売春婦は、ボランティアであったか、両親から売られて売春婦となった。朝鮮風の考え方からは正当なものだろう。もしそうでなく、日本人が女性を慰安婦としての直接徴用すれば、年齢に関係なく男性は怒りで後の影響を考えずに日本人を殺してしまうだろう」と書かれている。

しかし、韓国系有志が韓国国内だけでなく米国などに設置しているモニュメントには、日本軍による韓国人少女(!)の性奴隷として強制連行したとする日本攻撃の文章が書かれている。

国連人権委員会が特別報告官にスリランカのクマラスワミを任命したが、その報告書には、ほぼ上記韓国系有志の主張に沿った内容と日本政府への要求事項が書かれている。 つまり、真実よりも明らかな嘘が、不均質な世界を走り抜ける能力を持つことがあるのだ。その理由は、その嘘がエネルギーの高いX線のような嘘なのか、或いは伝搬する空間に心地よく反響する嘘か、どちらかなのだろう。 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AF%E3%83%9E%E3%83%A9%E3%82%B9%E3%83%AF%E3%83%9F%E5%A0%B1%E5%91%8A

従って、この問題を日本政府が解決したいのなら、真実を訴えるという努力よりも、その言葉が伝搬する空間をどのように変えるかという視点で、対策を練らなくてはならない。そもそもこのようなプロパガンダは、「民主主義社会での嘘のつき方と効用」を熟知した組織のものととして理解すべきなのである。

5)洗練された態度と説得力ある言葉で語った嘘は、みすぼらしい紳士の真実よりも遥かに世界に早く広範に伝搬し定着するだろう。ましてやその空間の人間が聞いて喜ぶ嘘なら尚更である。一定期間過ぎれば、歴史の中で正当なる地位を得て、その詳細は全て忘れ去られることでその嘘は真実として定着するだろう。

米国がほとんど真実をアナウンスしているように新聞が書くのは、米国に国家としての実力があるからである。実力としては軍事力という見世物も大事であるが、国家の全体として実力である経済力がしっかりして居なければならないと思う。

ロシアの嘘が真実の様に報道されないのは、ロシア経済が米国とは比較にならないからだろう。総合的な力を失うと、日本も世界のなかでいじめの対象になるだろう。デモクラシーが大手を振って歩く国際社会では、中学校のイジメ同様の現象が起こっているのだ。つまり、その程度の社会なのだろう。

世界は嘘で満ちている。しかし、人間は言葉でコミュニケーションするしかない。明確な目的をもって、巧妙な筋書きの中の鍵となる箇所に嘘を配置する悪知恵は、歴史の中に多いだろう。我々はそれを知って、新しく何か大事件が起こった時に思い出すべきである。

補足:

1)本当のことを言うと、喧嘩になることはよくあることである。しかし、それをこのように再確認することはあまりなかったと思う。

2)オイルショックの時に、どういうわけかトイレットペーパーがなくなるという話が日本中を駆け巡った。そこで主婦はトイレットペーパーを買いあさり、実際にトイレットペーパーがスーパーから消えた。1973年のことである。https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%88%E3%82%A4%E3%83%AC%E3%83%83%E3%83%88%E3%83%9A%E3%83%BC%E3%83%91%E3%83%BC%E9%A8%92%E5%8B%95

3)チャーチルの、「民主主義は最悪の政治形態である。ただし、これまで行われてきた政治形態を除いては」言葉がよく引用される。It has been said that democracy is the worst form of Government except for all those other forms that have been tried from time to time.

4)ラジオを最初に有効利用したのは、フランクリン・ルーズベルトだろう。炉辺談話や真珠湾攻撃翌日の演説などが有名。後者の演説は、日本軍によって攻撃された地域の名前を羅列する時、民衆の中に反日感情が誘起される時定数を心得てなされている。https://www.youtube.com/watch?v=lK8gYGg0dkE

0 件のコメント:

コメントを投稿