2017年8月7日月曜日

戦争の悲惨さを強調する新聞の知的退廃

1)今朝の読売新聞の一面には、北朝鮮への国連制裁決議、広島原爆忌、戦争文学「野火」の映画化作品が紹介されている。

国連安保理の北朝鮮制裁決議には、北朝鮮からの石炭と鉄鉱石の輸入禁止が盛り込まれたが(補足1)、北朝鮮への石油の輸出禁止は盛り込まれなかった。中国とロシアも賛成出来るように工夫されていたのだが、国連は北朝鮮が何処に軟着陸すべきかという着地点は与えていない。軟着陸は米国等の視野にはないのかもしれない。その指摘などは一切記事の中にはない。

「話会う前に武器を捨てろ」と国連(米国)は言う。しかし「武器を捨てれば、話の前に滅ぼされる」と北朝鮮が言う。この延長上に解決など見えない。戦前の日本に例えれば、くず鉄禁輸の段階なのだろう。

広島原爆忌についての記事は以下の様である:平和記念公園で平和記念式典が開かれ、約5万人の参列者が犠牲者を悼んだ。松井広島市長は、各国政府に対し核兵器の非人道性(補足2)を認識した上で「共に生きるための世界をつくる責務」を自覚するように求め、核兵器禁止条約の重要性を訴えた。

そもそも、兵器を作らないことで、この地球上で全ての人が共に生きることが可能になると、市長は考えて居るのだろうか? 戦争とは、単に人間の悪が為したことだと、この人は考えているのだろうか?

何故、米国の原子爆弾による無防備な一般都市の破壊と、市民の大量無差別殺害の記念式典を、平和記念式典と呼ぶのだろうか? 原爆の犠牲者になった人たちのお陰で、平和な世の中になったことを、記念する式典だというのだろうか? 

映画「野火」の概略と作者へのインタビューは、六面に続く形で掲載されている。映画「野火」は大岡昇平原作の小説を映画化したものである。戦争末期、フィリピン・レイテ島で、日本軍は米軍の攻撃(反撃)で総崩れとなった。補給のない状態で、生きる日本兵の悲惨な姿を描く。飢餓の中で、生き残る為に人肉食まで行う光景を描いているのだという。

毎年8月になると、この種の映画の上映など反戦行事が多くなる。戦争の悲惨さを訴える記事や評論なども増加する。私は、文学作品の評価とは別に、この現象に政治的プロパガンダの匂い感じる。

2)一面全体を通して、戦争を単純に悪とし、それを平和の対義語のように用いる単純さには、強い違和感を感じる。私には戦争を賛美する気持ちなど全く無い。しかし、我々現代に生きる人間は戦争における勝者の子孫であり、戦争を避けた民族の子孫ではないという冷厳な事実を、現代人は先ず理解すべきである。(補足3)

「野火」の中で紹介されている悲惨な光景には、戦争、飢餓、人肉食の3つの要素がある。戦争は舞台であるが、その悲惨さの責任全部を戦争に押し付けることは出来ない。それは、原爆で焼き殺された広島の人たちが、原爆だけにその責任を押し付けることが出来ないのと同じである。そして、「野火」の悲惨な世界を戦争の責任とし、広島の悲惨な戦禍を原爆の所為にして利用する、政治プロパガンダには気をつけるべきである。

戦争は悲惨であり絶対に避けねばならないと宣伝する人たちは、詳細且つ冷徹な戦争の分析とそこから真理を導き出すことを拒否するのだろう。太平洋戦争の悲惨な結末の原因となった、海軍陸戦隊や関東軍による中国侵略を明らかにされたくない人達も居るだろう。また、何故負けることが分かっている対米戦争を始めることになったのか、その原因分析を嫌う人たちも居るかもしれない。

「真理は細部に宿る」という言葉がある。詳細に検討した結果、今までの善人が悪人に、悪人が善人になる可能性があることを恐れていいるからかもしれない。単純な善人は、そのような緻密な思考力を持つ悪人に利用されることがある。太平洋戦争では、海軍の米内光政や山本五十六が善人として取り扱われている。しかし、話は逆であり、その背後に巨大な権力が存在すると言う人がいる。(補足4)

また、原爆の惨禍を記念する式典において、原子爆弾そのものを攻撃する(ひたすら核兵器廃絶法案の成立を主張する)人たちは、核兵器の拡散を防止することで、単純に平和に貢献していると思う人が大半だろう。しかし、それは核保有国の特権を守るために働いていることになり、その特権を守るべく働いている人たちに使われているのかもしれないと考えるべきである。

戦争全体を記述しないで、その中の一つの戦いの悲惨な光景をまるで顕微鏡で拡大する様に記述したものやその映像は、それを評価できる準備の出来た人、つまり戦争全体に一定の知識を持つ人のみに公開されるべきだろう。

一般に公開すれば、全体に知識のない人はそこから安易に結論を導き出すかもしれない。そして、その結論は別の部分の詳細な分析から、安易に導き出した結論と正反対かもしれないからである。それは、悲惨な殺人現場や、専門的な外科手術などの映像を一般に公開しないのと同じである。

補足:
1)北朝鮮に輸出を禁止するという制裁なのかどうか、原文がないのでわからない。つまり、北朝鮮への輸出禁止なら、北朝鮮が国連決議に反して(国連からの除名を覚悟で)輸出した石炭や鉄鉱石を中国が買うことは可能になる。制裁を実効性の有るものにするためには、国連加盟国が北朝鮮から石炭や鉄鉱石を買うことの禁止である。
2)この米国による原爆攻撃は、ハーグ陸戦条約の付属規則の23条(残忍兵器の禁止)や25条(都市、集落、建物の砲撃など禁止)に違反するというような指摘は、新聞には殆ど書かれない。
3)人間の歴史には、経済的困難による領土争いが日常的に存在した。それらのかなりの部分は、当事者間の平和裏の話合では解決不可能であった。その時、兎も角前進するために戦争で決着を付けることが屡々あった。その多くの戦争の経験から、戦争において犠牲者を最少にするために戦時国際法が出来た。ハーグ陸戦条約などである。
3)副島隆彦著「仕組まれた昭和史」参照。

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