2017年9月19日火曜日

北朝鮮のICBM抜き核保持と日本と米国の核共有:佐藤優氏の北朝鮮問題解決法の影

1)佐藤優氏は北朝鮮問題に関して面白い考え方を紹介している。
米国と北朝鮮との交渉は、北朝鮮にICBMは許さないが、中距離ミサイルと核兵器までは認めるという条件で、決着するだろう。その代わり、日本は米国と核兵器の共有(補足1)をする形に、同盟関係を深化してそれに対する抑止力を持つしかない。https://www.youtube.com/watch?v=lzlkDxbExLQ

10分ほどの動画なので、先ずは是非上記サイトにアクセスしてもらいたい。

この核兵器の米国との共有は本ブログで何度も主張したことである(補足2)が、私は北朝鮮と米国が上記のような合意をする前で無いと、核の共有すら実現しない可能性があると思う。その当たりを明確に言わないところに、上記佐藤氏の考えは不自然な粗雑さがある。

日本との核の共有の発表前に北朝鮮と合意すると仮定すると、その時米国は中国とロシアの強い反対を押し切ろうと努力するが、結局その反対に屈するだろう。そして日本には、「核共有が無くとも日本への核の傘は非常に強靭である」と強調することで、話を済まそうとするだろう。上記前後関係がどうなるか分からないが、全て予めシナリオを作りその通りに進めるだろう。(この2文、18:00修正)

次の段階として、佐藤氏は北朝鮮への積極的な経済進出を議論している。
北朝鮮の人たちが、日系企業やその他の外国企業で働き、経済的に自立した場合、国民の心はキム王朝から離れるだろう。その経済的な繋がりは、戦争の動機を消滅させる。その後、核兵器の廃棄に向かわせる。

この考え方も、佐藤優という知の巨人の考えにしては、不自然なレベルで粗雑だと思う。先ず、佐藤優氏は北朝鮮の国民の気持ちはキム王朝を支持していると前提しているが、その根拠が示されていない。テレビ討論などで良く聞く意見は逆であり、国民の気持ちは今でも殆どキム王朝から離れているというものである。

もし、佐藤氏の言うように金正恩が国民の心を掌握しているのなら、米国の脅威がなくなれば政権は安定に継続できる筈であり、命を賭けたチキンレースなどせずに、核兵器抜きの平和条約締結と国家承認を得る道を選ぶ筈だと思う。自動的に日本や韓国も、北朝鮮との平和条約締結をする筈である。半島の統一は、その後経済力が付けば自然に進むだろう。西側の国をしっかりと見ている金正恩が、今更、社会主義に拘る筈はない。拘っているのは、自分と家族の命であり、それと不可分な自分の独裁体制である。

北朝鮮のGDPは日本の茨城県くらいであり、田園部では年により餓死者がでるという状況である。それにも拘らず、核ミサイルの開発など軍事力強化の道をひた走る金正恩体制が、国民の心を掌握している筈がない。

2)次に、日本などの経済協力による北朝鮮の軟化政策であるが、これも欠陥だらけの議論である。勿論、日朝間で国交を樹立し、日本が支払う経済協力金とそれを足場した経済振興は、関係を良くするように見えるだろう。しかし両国の関係は、中国との国交回復後と似たプロセスで進むだろう。つまり、独裁体制には敵国が必要であるから、そのうち経済力がつくと、徐々に日本に対する牙が現れる筈である。現在中国に見せているらしい敵対心は、成長期の子供が親に見せる類のものだと思う。

米国の核付き国家承認と、日本との国交樹立と経済協力という佐藤氏の考えは、日本にとっては中国のケースと較べものに成らない位に悪い結果を招くだろう。それは日本国にとって致命的と言える位だろう。(補足3)

その第一の理由は、北朝鮮にとって中国的な共産党支配の資本主義経済体制を実現することは難しいからである。中国では毛沢東が皇位を子孫に継承したわけではないので、共産党独裁という集団指導体制ができた。しかし北朝鮮の体制は、共産主義国家を標榜しながら経済的には後進国であり、その国家権力がキム一族で相続される、キム絶対王制である。

絶対主義体制は、経済が発展し貿易や人の出入りなどで国際交流が盛んになれば、潰れることになる。それがあの国が信奉する共産主義の教えるところである。(補足4)その場合、体制維持のために必要なのは、外国との緊張関係と力の内政である。力の内政が国家や国民の経済力がつくと、用い難くなり、前者に一層頼る。それが現在の中国であり、未来の北朝鮮である。

その対立関係の維持のために格好の対象となるのは日本である。その際の強力な手段は核兵器と、韓国と共同で歴史問題を捏ち上げて脅すことである。現在韓国が利用している従軍慰安婦問題という日本イジメの道具は、挺対協という北朝鮮のオルグ機関製であることを、佐藤氏は知らない筈はないだろう。つまり、今となっては核兵器は体制の柱であり、廃棄することはキム絶対王政の崩壊と同義であり、あり得ない。

もし、そこでキム王朝から共和制への革命ということになれば、その中で日本に核兵器の2-3発は落とされ、千万人レベルの死者が出る可能性が高いと思う。

3)拉致問題の解決と日本と北朝鮮との関係正常化は、米国の邪魔が入らなければ、小泉政権の時の交渉で成功していただろう。それは、北朝鮮経済の発展を促進し、その結果中国のような集団指導体制の国にまで進んだ可能性がある。その際少なくとも、対立関係の方向を、韓国に向けることが出来ただろう。(補足5)

その時に要する米国の決断は、今回佐藤氏が予言するようなレベル以下のもっと軽いものだっただろう。その結果は、日本と半島の関係も今ほどギスギスしたものでは無いだろう。小泉総理が米国の相談抜きに話を進めたのは、最初から米国と話をした場合には、その段階で話が潰されると読んだからだろう。

現在のような情況下で、北朝鮮が核付き軟着陸を果たし、韓国との関係も穏やかなものになれば(連邦制が実現する可能性もある)、両国は一緒になって日本を敵対視する筈である。その練習は、ミサイル発射まえの脅しでも分かるように、今回十分した筈である。北朝鮮が現在非難しているのは、米国と日本である。文在寅韓国大統領は賢明にも、北朝鮮への人道支援を口にしている。

この北朝鮮問題の本質は、米国が北朝鮮を作ったということを理解しなければ分からない。つまり、前回のブログで書いたように米国が北朝鮮と朝鮮戦争を必要としていたのである。例えば、下に引用した馬渕睦夫氏の話を聞いて欲しい。https://www.youtube.com/watch?v=cEyuDPPVK-4&t=320s

兎に角、佐藤優氏の上記動画での意見はまともではない。佐藤氏は智者である。私は佐藤氏の近くに米国の影を見る。https://blogs.yahoo.co.jp/mopyesr/42023202.html

補足:
1)核兵器の共有は、米国とNATO諸国との間で行われている。米国から核兵器の提供を受け、それを米国と共同管理する方式である。そこで核兵器のボタンを押す権利は、米国と核共有する国にも存在する。しかし、NATO諸国と違って日本の場合は、独自核保有しか安心できる防衛手段はないと考えるべきである。米国は人種の違いと文化の違いなど、更には、過去の歴史的経緯から、日本を本当の意味での友邦とは考えていないだろうからである。
2)佐藤氏は、核兵器の共有が米国との交渉で可能になるように言っているが、それは中国やロシアの強烈な反対を招くだろう。その前に、日本国内で強烈な反対運動が、中国等によりオルグされるだろう。
3)この危機的情況から日本を救うのは、日本に核のボタンが存在することと、巧みな自立外交である。特に国際社会へ正しい歴史認識を提供すること、そしてそれを上手に宣伝することなどは不可欠である。
4)マルクス思想の基本である唯物史観では、国家の上部構造である政治構造は、下部構造つまり経済構想に依存するということである。それで絶対王政から市民革命を経て資本主義国家ができ、その後、経済の高度な発展が進めば、資本家も力を失い、共産革命が起こる。
5)キム絶対王政は、金正恩への世襲譲位により完成した。2代だけなら、絶対王政と共産党独裁の中間状態である。もし、金正日の時に北朝鮮が軟着陸したとすれば、差し当たり韓国と敵対するだろう。しかし、現在のような韓国の政権ができれば、他国に大きな影響を及ぼさずに、連合国のような体制に移れるだろう。(補足5は、19時修正)

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