2017年11月12日日曜日

米中の覇権争いと北朝鮮問題、日本の今後

1)世界には、現在二つのタイプの争い(又は戦争)がある様に見える。内戦或いは部族間闘争的なものと、覇権の戦争(争い)である。覇権の争い(以下覇権戦争)は、世界の幾つかの大国(覇権国)が、その経済圏や軍事圏の中に他国を組み込む際の争いと定義できると思う。勿論、明確に分けられないので、覇権戦争が部族間の争いとして表面に出ることもある。

覇権国間の戦争は冷戦として進む事が多いが、戦闘になれば大きな被害を覇権の境界領域で引き起こす可能性がある。北朝鮮の問題(紛争?)も、覇権戦争である朝鮮戦争が出発点であり、その延長線上で考えなければならない。何度も書いてきたが、日本の報道はその視点を無視したものが殆どであり、それは日本にとって致命的かもしれない。朝鮮半島の次は日本がその舞台となる可能性が高いからである。今回その視点で、朝鮮の部分をまとめてみたい。

改めて覇権戦争を定義すると、それは世界の幾つかの国家を舞台とする安全保障や物質及び金融経済の利益を巡る覇権国の影響範囲を巡る争いである。北朝鮮を囲む3つの覇権国は、中国、米国、ロシアである。(補足1)その中で、ロシアは現在若干オブザーバー的であり、北朝鮮問題に関係が深い主な二つの覇権国は、当然、中国と米国である。

米国が引いた覇権の境界(覇権ラインと呼ぶことにする)は、韓国、沖縄、台湾、フィリピンの西側の線であり、中国がさしあたり引いている目標とする覇権ラインは、所謂第一列島線であり、上記の東側である。北朝鮮の問題は、朝鮮戦争の続きだが、それを切っ掛けにして、この覇権ラインが現在のものから、アチソンラインに移るプロセスが始まると思うのである。
北朝鮮と韓国の対立の構図は、主に米国が第二次大戦後、東アジアを覇権の範囲と考えて作ったと考えられる。(補足2)アチソン国務長官の米国の防衛ラインは上の左図の赤い線であるという発言(補足3)で、金日成が南進したのが朝鮮戦争が始まり、最終的に現在の国境(休戦ライン)で休戦状態になった。休戦協定では確か3ヶ月以内に、高いレベルの平和条約の話し合いを始める様に要請するとなっていたが、米国はそれを無視した。

休戦から約22年経過した時、国連総会は1975年に朝鮮戦争の休戦協定を平和条約に置き換え、国連軍を解散することが望ましいと決議した(ウィキペディア参照)。国連軍というが、実質的には米軍であるので、北朝鮮は国家体制の承認を米国に要求したが、米国はイエスとは言わずに、北朝鮮問題を温存した。

米国は覇権の及ぶ範囲(以後覇権ラインと呼ぶ)の維持のために、朝鮮戦争の再開に備えるという口実で、米韓軍事同盟と在韓米軍が置かれ、毎年米韓軍事演習が繰り返されてきた。北朝鮮も強力な米韓軍に対抗して、朝鮮戦争再開に備えなければならない。それが、北朝鮮の軍備拡張の理由である。その軍備拡張に、中国やソ連は協力してきた筈である。

2)米国は、最近の急激な世界経済の膨張に伴い、覇権の及ぶ範囲を縮小せざるを得なくなった。(補足4)一方、中国は、その経済発展により覇権ラインを拡張しつつある。その結果、米国が東アジアに設けた、従来の覇権ラインが崩れ、中国の覇権ラインは近いうちに第一列島線(アチソンラインの少し東;九州から琉球諸島が線上にある)まで来るだろう。中国が目指すのは最終的に第二列島線である。小笠原諸島からグアム近辺に走る線である。(補足5)

北朝鮮の軍事的発展と米国との対立も、その様相は複雑であるが、その流れの中にある渦のようなものだと思う。つまり、中国覇権の朝鮮半島全体の包み込みプロセスの中にある。韓国は既に、中国圏に入る準備は出来ている様に思うし、沖縄に対しても中国は街宣車を走らせて、工作を進めている。沖縄県知事と韓国大統領は、同じくらい親中国の姿勢である。
上の図は、世界のGDPシェアを示している。1994年では中国は無視しうる経済規模だったが、20年後、日本のGDPは全く変化しなかったが、中国のGDPは20倍程になった。米国のGDPは3倍程に成長したが、それでも世界シェアは相当減少した。

この大きな世界経済の変化が、今回の覇権移動プロセスにあると思う。もう20年ほどすれば、日本はどのようになるのだろうか。政府は無策であり、マスコミは日本破壊工作と思われるような下らない議論と放送をし続けている。

3)複雑な北朝鮮問題のレビュー:

鄧小平(在位:1978/12/22~1989/11/9)の資本主義の導入により、中国と米国との関係が緊密化したために、中国にとって米国や韓国は取引の相手国となり、距離が近くなった。孤立感を徐々に深めて行った北朝鮮は、毎年の朝鮮戦争再開をシミュレーションした米韓軍事演習に脅される中で、当然の選択として核兵器の開発に向かった。中国やソ連(&ロシア)は、見えない様に応援しただろう。巨大な核抑止力を持っている両国に、北朝鮮の核兵器はそれほど大問題ではない。それに、独裁国家にとって、命の値段は(市民のそれも)安価である。

核兵器開発は、核拡散防止条約(NPT)を脱退したのちは可能な筈であるが、それは非核保有国(韓国や日本など)にとって脅威なので、国連でNPT脱退を思いとどまるようにと決議された。(国連決議825号;1993年)その後、地域の安定を害するとの理由で国連は国連憲章第7章に基づいて、北朝鮮に対して核兵器開発中止と制裁を決議する。(国連決議、1695、1874、2375など)(補足6)

米国は北朝鮮の核開発を止めさせるべく経済的及び軍事的圧力をかけた様に見えるが、本当は支援してきたのかもしれない。米朝枠組み合意(1994年)は、明らかに北朝鮮の核開発にプラスになっている。東アジアでのトラブルとそれに対する米国の関与は、米国の東アジアでの覇権を世界に確認させるプロセスとも考えられるからである。6カ国協議も、その為の儀式と考えれば、分かりやすい。

中国は、国連決議に違反する北朝鮮に対し、あからさまな支援が徐々にし難くなった。現在まで北朝鮮を支援してきたのは、所謂中国の江沢民派である。同派が勢力を持つ、瀋陽軍区(現在は北部戦区)の人民軍上層部は、北朝鮮利権とそれに伴う私的利益を手中に収めてきたのは想像に難くない。

金正日までは、その中国江沢民派との協力体制が出来上がっていたのだが、その次の金正恩になった時、そのパイプ役になっていた叔父の張成沢の存在が大きくなり、金正恩は自分の地位つまり命の危険を感じたと思う。

何故なら、金一家がトップを継承するのなら、長子相続の原則から、金正男が本来の相続者でなくてはならないからである。中国とのパイプ役の張成沢が金正男をトップの座におき、自分が権力を掌握しようと考えたとしてもおかしくはない。

その猜疑心もあり、金正恩は張成沢を排除するとともに、核武装を完成して国家として強い権力を持つという強績をあげ、それで自分の地位を確立したいと考えたのだろう。しかし、張成沢の粛清とそれによる中国との太いパイプの喪失、そして、国境を接する中国瀋陽軍区の人民軍上層部が徐々に習近平の支配下の者に移行するに伴い、益々孤立化を深めることになる。

その様に考えれば、金正恩のこれまでの姿勢は至極当然であり、マスコミで宣伝されているような、野蛮とか暴君という批判は全くあたらない。

4)独裁国家でも、そのトップは民衆の支持がなくては安泰ではない。自分の確かな実績をつくりたいのは、一帯一路構想やAIIB(アジアインフラ投資銀行)で中華圏の拡大を目指す習近平も同じである。一帯一路構想では、西欧諸国からも金を集めたAIIBの融資で、周辺国、例えばカザフスタン、などのインフラ整備を行い、中国の雇用と企業利益、更に、それらの国の富の収奪を考えているだろう。人民元で融資し、工事費用を人民元で回収するということは、元の基軸通貨化の最初のステップと考えられる。その構想は、非常に良くできていて、日本の行政など比較にならないレベルの戦略的能力を中国政府は持っていることを示している。

習近平にとっては、江沢民派は中国国内での大きな対抗勢力であった。その勢力圏の瀋陽軍区と北朝鮮を自分の勢力圏におさめるために、北朝鮮との関係改善も当然重要事項として考えている筈である。その一方で、経済的関係が深い米国の敵となった、金正恩を支援することは難しいだろう。

しかし、金正恩と米国、韓国、日本などが対立し消耗することは、第一列島線までの覇権域をさしあたりの目標にしている習近平にとっては大きな利益である。そう考えると、中国の北朝鮮問題に対する関与の仕方が見えてくる筈である。北戴河会議で結論されたという、“米国と北朝鮮を消耗させる様に放置する”方針を貫くのである。(今回のトランプ=習近平会談)

差し当たり、アチソンラインまでを習近平は目標とするだろう。その中国側には、韓国も台湾も尖閣諸島も含まれる。その際障害になるのは、台湾の政権と日本の政権である。更に、独立色を強めている北朝鮮の金正恩である。韓国の政権は現状で、直ちに中国の勢力圏に入りうるので、全く問題ではないと思う。(補足7)

米国の覇権は第二列島線まで後退するのは必至である。それは米軍がグアム島へ移転する計画を進めていることからも明らかである。https://www.nikkei.com/article/DGXLASGM27H3O_X20C17A4EAF000/ そのような情況下で、米国も北朝鮮とまともに軍事衝突することは、避ける筈である。韓国まで中国の覇権内に入る将来を考えれば、現在の休戦ラインの維持に努力するのは無駄なことだからである。

5)日本に対する核兵器の脅威は、北朝鮮の核兵器だけに限らない。しかし、日本列島が中国の勢力圏と接する時、日本が米国の覇権ラインの維持に努力するのなら、米国はそれを助けるだろう。もし、その気がないのなら、何れ中国が言うように米中で太平洋を二分することになるだろう。つまり、第二列島線まで中国が支配するのなら、それに日本も主体的な行動をとらないのなら、敢えて北朝鮮の核兵器を取り除くために、米兵の血を流すことはないだろう。

そこで日本のとる戦略が問われる。口先だけで、米国と一緒に戦うと言ってみても、米国に対する説得力はない。米国が日本を仮想敵国から永久除外し、真の同盟国と考えることができるかどうかであり、日本がそれにふさわしく振る舞うかどうかである。もし真の同盟国になれば、核兵器の日本での共同管理に米国が同意し、中国の太平洋への進出は暫くはアチソンラインで止まるだろう。その時、朝鮮(統一朝鮮?)の歴史問題を持ち出した脅迫も、何の効果もなくなるし、米国本土の慰安婦像は全て撤去されるだろう。

日本が米国の真の同盟国になると口先で言っても、権力の中枢にいる人間が靖国神社に参ることを義務だと考えている現状では無理だと思う。つまり、明治以降の歴史のレビューが必要だと思う。それは、天皇を政治利用した明治の日本のシステムとそれを改めることが出来なかった支配層の所為で、日本が軍事独裁国となり東アジアの支配に突き進んでしまったことを誤りだと評価することである。それができれば、日本と米国の同盟関係は新しい段階となるだろう。それは、政権与党が民族主義者と別れることを決断しなければならない。

追記:5)は、日本が根本から変化すれば、米国の対日姿勢が変化すると仮定した場合です。その目星がつかなければ、9日のブログに書いた様にロシアとの関係強化しか、日本に道は残されていないかもしれない。(18:30)

補足:

1)世界には主に4つの覇権国家がある。それらは当分の間、真に独立した国家(群)として存在する。それ以外の国は、それらの中の勢力圏の中になければ、安定的に存在できない。それらは、ソ連、アメリカ、ヨーロッパ、そして中国ではないだろうか。
2)朝鮮戦争が、初代大統領に据えた李承晩の韓国と金日成の北朝鮮の間の戦争であり、それに国連軍及び中国人民軍が介入したのなら、休戦協定には形だけでも韓国軍将軍の署名がなくてはならない。しかし、韓国の将軍の名前はない。それは、国連軍の名を借りて、米国が戦争を乗取ったのか、或いは元々米国の戦争だったからではないだろうか。(最初の図参照)
3)アチソン国務長官のこの発言はうっかり言ってしまったと言う説もあるが、わざと言ったと考える方が分かりやすい。つまり、米国は朝鮮戦争を起こし、そこの現場に居座り、ソ連や中国という共産圏の見張り台を作りたかったのである。
4)覇権国は、経済圏の中心でもある。米国はその中心にふさわしく、国際決済通貨の米ドルを発行している。決済通貨は、米国中央銀行FRBの負債として発行される。FRBはそれに相当する資産(多くは米国債)を国内に保有しなければならない。世界経済が膨張すれば通貨への需要が増大し、その信用を維持するだけの経済力を持つことは困難になる。さらに、黒字国は正常な為替を維持するためには、資本を流出させることが重要だが、それに答えているのが主に米国債である。IMFが加盟国から出資を受けて、それに対応する債務証書として特別引き出し権(SDR)を分配している。それを通貨と考えれば、世界通貨的ではある。しかし、世界国家の財務省としての格がなければ、無理だろう。
5)数年前の中国漁船団によるサンゴ乱獲騒動は、小笠原諸島までの距離感を得るための演習だった可能性が高いと思う。
6)国連決議1695は、非常任理事国の日本が中心になってまとめた決議。国連憲章第7章により、制裁を含めた決議にする予定だったが、中国とソ連が拒否権を行使すると主張したため、制裁は含まれなかった。その後、決議1718,1874など制裁を含む決議がなされた。最新のは、2017年9月の2375号である。日本が中心的に活動していることに、日本国民は注目すべきである。
7)韓国の文在寅大統領は、北朝鮮を混乱なく抱き込んで、中国の友好国である統一朝鮮を作りたいのだろう。しかし、それも至難である。北朝鮮は、韓国をまともな交渉相手とは見做さないだろうし、韓国は併合の対象であっても合併の対象ではない。韓国政府の解体と韓国内での多大の犠牲を覚悟できないのなら、米国側につくしかない。

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