2017年12月26日火曜日

民間企業の技術革新による生産性向上は、国家の財政拡大でスイッチオンできるのか?

三橋貴明氏のyoutube上での講義「お金とは何か?失業率と戦争、基軸通貨」第6回を視聴した。“安い賃金の外国人を受け入れたら、日本の未来はない。技術革新による生産性向上が明るい道”と主張する講義である。それを見ての感想を書く。 https://www.youtube.com/watch?v=6-HCaOWRRi8

1)三橋氏は、「日本のデフレ経済を脱却するには、財政拡大による景気刺激が必要である」と、1929年の大恐慌と比較して主張している。そして、三橋氏の友人の藤井聡氏(内閣参与の土木屋)は、国土強靭化計画を主張して、経済立て直しを主張している。(補足1)

国土強靭化政策は、例えば巨大地震に備えて、数十メートルの防潮堤を作るなどの馬鹿げた話だろう。他への波及効果はむしろマイナスではないだろうか。(補足2)最近、十勝沖地震の危険性を喧伝しているのは、その藤井という土木屋の安倍総理への影響力を利用して、ゼネコンなどが画策しているのだろう。 講義の中で「安全」に金を使うのは良いとおっしゃるが、使う金に限りがある場合、そんな簡単な理屈では困る。日本人の伝統には、災害から正面対決して克服するという愚かな考えはない。30mの岸壁をつくっても、もし史上空前の地震があって津波がそこを越えれば、岸壁を築くことなく逃げることを考えた場合の方が、はるかに被害が小さい。彼らは、安全への投資には明確な限度がないということを知らない。

また三橋氏は、日本は内需依存型の国だと常々発言している。確かに、GDPの内訳からはその通りだろう。しかし、全てマクロの数字で考えるのは非常に危険だと思う。日本は、エネルギー自給率6%、鉄鉱石やボーキサイトなど資源の自給率0%、食料自給率35%(程度)の国である。従って、日本は基本的に貿易立国である。

現在景気がよくないと判断し、しかも1929年の世界不況と同じような原因と考えて、内需拡大で景気浮揚を考えるのは、分析も対策も間違っているのではないのか。

大規模な内需拡大を財政で行えば、現在健全な国債に対する信用も悪化するだろう。一旦国債に不安が生じれば、日銀は大部分の資産を国債でもっているのだから、円の信用低下から円安と大きなインフレにつながると思う。日本国債は円建てであるので、そして、財務省が日銀の株をほとんど持っている現在、その償還は確実である。また、円安による実質賃金低下とそれによる国際競争力の増加、および円安による国債の実質的減少により、円安とインフレは一定のところで歯止めは掛ると思う。

最終的に国民の銀行預金の実質的な目減りという形で、日本の財政や金融は、新しい均衡点に落ち着くと私は考える。しかし、国民は大部分の預金を目減りという形で失うだろう。

尚、高橋洋一氏が初めて作ったと自慢する国家の貸借対照表を正しく見れば、財政状況は健全であり、PM(プライマリーバランス)にこだわりすぎるのはよくないというのはわかる。そして、景気浮揚の為に生産性の向上を図るべきだという意見も机上の議論としてはわかる。しかし、その方法はもっと根本から考えなくては駄目である。

2)20世紀後半の(第何次か分からないが)産業革命時においても、日本にはグーグルもインテルもアップルもテスラもマイクロソフトも発生しなかった。その日米の差は、何なのか?

日本では、ダイエーという先端を走った企業の破綻に始まり、凄まじい小売業の再編、伝統的に強かったシャープ、東芝などの破綻、三菱重工の停滞、最近では三菱マテリアルなどの不正があった。この流れは、三橋氏の考えるほど単純な方法で克服はできないだろう。そこを問題視しないで、PMにこだわる財務省ばかりを槍玉にあげる意見には賛成できない。

グーグルやテスラはあまりにも遠いので、身近な家電を考えて見る。日本のシャープ、東芝、ソニーなどのテレビは、韓国や中国のブランドであるLGやハイセンスのテレビの倍の値段である。日本で売れても、外国で売れる筈がない。一方、扇風機や掃除機のような小型製品でも、最新式のものは全てヨーロッパで生み出された。

友人どうしだという安倍総理に近い藤井聡内閣参与や三橋貴明氏(補足3)など、財政拡大で景気浮揚を考える人たちは、マクロ経済政策では解決できそうにないこれらの現実を全くみていない。

その原因などについては、これまで何どもいろんな面から議論してきた。(補足4)日本の教育、雇用、(その改善が一向に進まない)日本の政治(補足5)、その背景にある日本文化などに本質的な原因があると私は思う。例えば、日本の大企業においても、経営のトップ層にはまともな人材がいないのではないのか?

何故、発想力豊かな人材が、経営者のトップになり得ないのか?そこを考えるべきだと思う。カンフル的な財政拡大を考える経済評論家やそれを内閣参与に抱える政府は、思い通りに国を動かすことになれば、結果として国を潰す可能性が高いと思う。

財政健全化を勧めているのは、財務省(補足6)だけではない。IMFもそのように発言している。三橋貴明氏、高橋洋一氏、上念司氏、藤井聡氏らが、財政均衡を主張する人たちを非難しバカにするのは、何時も相手が居ないところにおける大衆向けのパーフォーマンスに見える。総理は気をつけてもらいたいと思う。

補足:
追加補足:日銀の今までの金融政策は勿論成功をおさめた。この点誤解を受けないように追加します。(PM 5:25)
1)藤井氏は、韓国の経済についても、政府がどんどん金を使えばよいのだと言って居た。従って、その方は経済には無知だと私は考えている。
2)景観を害して、観光客の足が遠のくとか、漁に出にくくなり漁獲量が減少するなど、マイナスの効果が出る可能性がある。
3)最近の動画で、三橋氏は安倍総理と食事を共にしたと言っていた。
4)ダイソンの扇風機は、一旦機内に空気を吸い込んでから吐き出すタイプである。このタイプはすでに東芝の技術者が考案していた。 それを何故育てられなかったのか?日本の経営者が優秀であれば、採用できていただろう。また日本が、仕事の命令系統では上司と部下であっても、そこを離れれば対等に口がきけるという社会なら、そのアイデアは別のお偉方に流れて、製品化だれていたかもしれない。本ブログの12/9; 12/11の記事参照
5)内閣が参与や有識者会議などの外部の人間を多用するのは、民主主義の原則から考えて問題がある。日本は、三権分立の国であったことはなく、長く官僚独裁で動いてきた。それに行き詰ったので、安倍政権が考え出したのが“行政の独裁”だろう。大きな派閥を持たないことを逆手に取って、全ての基本方針を上記内閣参与や有識者会議などを用いて内閣で打ち出すのである。
6)高橋洋一氏は、あるyoutube動画で、財務官僚を東大阿法学部出身だと揶揄して居た。そんな威勢の良い姿勢は、仲良しの総理や大衆には勇ましく見えるかもしれない。しかし、それは財務官僚と対峙した場面で言ってもらいたい。

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