2019年1月18日金曜日

安倍政権の日露平和条約締結は無理かもしれない:日本の足元を見るロシア

1)ロシアとの平和条約締結はスンナリとは行きそうにない。ロシアは1956年の日ソ共同宣言を基礎とするとは言いながら、二島返還には応じないようだ。そして、日本国民が通常考えるような日露間の平和条約締結交渉の進展は、本当は何も無かったのかもしれない。安倍外交とはそもそも何なのかという疑問さえ生じる。以下、中日新聞の16日朝刊12版3面トップの記事を中心にして考える。

河野外相との会談でロシアのラブロフ外相は、日本は第二次大戦の結果を受け入れるべきだと発言している。そして、北方4島を北方領土と呼ぶことにクレイムをつけている。(補足1)それらの発言は、日ソ共同宣言(補足2)を基礎にして、平和条約交渉を行うという話は無かった、或いは取り消す、という発言に等しい。

勿論、「北方4島は日本固有の領土である」という表現は、日本側も日ソ共同宣言後は慎むべきであったと思う。それは、サンフランシスコ講和条約で、日本は国後と択捉を放棄しており、それを議会で質問された吉田総理と当時の西村条約局長が確認しているからである。https://toyokeizai.net/articles/-/145689?page=2 

しかし、それは千島の話であり、歯舞や色丹は、日本が講和条約で放棄した島には入らない。それ故、当時のソ連は二島返還を平和条約締結後に実施すると約束したのである。(あの時、平和条約交渉が潰れたのは、米国の干渉によると既にブログにも紹介した。)

ソ連から問題を継承したロシアは、現在の境界線が正しいと思っても、日本が歯舞と色丹は返還されてしかるべきだと考えるのは日ソ共同宣言を基礎に交渉するのなら当然である。そして、領土確定以外の部分については、日ソ共同宣言にも書かれているように、両国は第二次大戦の結果を受け入れ、将来に向けて善隣友好の関係に既にある筈である。

日露間で平和条約交渉をその日ソ共同宣言を継承しそれをベースにして開始するというのなら、殊更「日本側は第二次大戦の結果を受け入れるべきだ」などと言うのはおかしい。それでは、日ソ共同宣言以前に逆戻りするということになるのではないか。(補足3)ラブロフという典型的ロシア人の難癖である。

2)ロシアは平和条約締結を先延ばしにしたいようだ:

このようなロシア側の発言は、ロシアは日本との平和条約交渉を急ぎたくないという意思表明だろう。上記中日新聞の記事によると、ロシア科学アカデミー極東研究所のクジミンコフ日本センター上級研究員は、「事務レベルで事前の調整が行われなかったという印象だ。ロシアが平和条約締結を急いでいないという表れだといえる」と話しているという。

また、モスクワ国際関係大のストレリツォフ教授は、「ロシア側はもう少し妥協的かと思ったが意外だった。交渉を本気で壊そうとしているのか、意図が見えない」と言っているという。それらを総合して、ロシアは、近い将来もっと有利に平和条約交渉が可能だと考えて、方針を変更したのだろう。

つまり、ロシアは日本の足元を見ているのである。ラブロフ外相は、更に、日本が米国のミサイル防衛システムの導入することに対して懸念を表明し、北朝鮮の核・ミサイル問題やシリア内戦などの問題への対応でも、国連でのロシアの提案に日本が賛成していないことを批判している。

プーチン大統領も、昨年11月15日に、前日の日露首脳会談を行ったにも係わらず、日ソ共同宣言に言及して、歯舞色丹両島の引き渡しを行うとしても、主権のことは共同声明には記載されていないという訳の分からないことを言っている。https://special.sankei.com/f/international/article/20181115/0001.html

恐らくロシア政府は、ロシアよりも日本の方が日露平和条約の締結を必要としているという考えに至ったのだろう。それは言うまでもなく、現在の東アジアの国際環境が日本にとって非常に不利になりつつあるということである。

一旦は平和条約交渉を継続するという程度の合意をして、安倍政権はこの件を諦めることになり、退陣するだろうと私は思う。ロシア科学アカデミー極東研究所のクジミンコフ日本センター上級研究員の「事務レベルで事前の調整が行われなかったという印象だ」という指摘は、安倍外交を完全否定する指摘だからである。

再度、本格的に交渉するときには、日本は基本的な戦略を練り直して臨むべきだろう。そこでは、日中の友好関係加速も当然もう一度考える必要がある。

3)上に書いたように、今後日本は国際的に非常に不利な情況に追い込まれるだろう。米国は世界の一強ではなくなり、その相対的国力低下により東アジアから米軍は撤退するだろう。更に、トランプ大統領は北朝鮮の非核化に最後までこだわる事ができず、半島に核保持の統一朝鮮が出来るだろう。

その近未来の東アジアで、日本が中国と朝鮮による歴史問題を掲げたイジメに苦しむ時がくる。プーチン大統領は、このように歴史が動いている現在、ロシア国内での批判を覚悟してまで、損な条件で日露平和条約を急ぐ必要などないと考えているのだろう。

国際問題分析家の田中宇氏は、朝鮮問題を以下のように議論している。
先進国となった韓国と最貧国の北朝鮮の統一の過程の中で、南北で様々な問題が出てくる筈である。直ちに米軍が半島から撤退すれば、北朝鮮が軍事的に韓国を飲み込むことになる。従って、最終的に南北朝鮮が統一するまで、米軍の駐留は韓国にとって欠かせない。

この統一のプロセスで色んな問題が生じたとき、南北両政府が統一の意思を再確認するために共通の敵が必要である。その矛先として、米国は利用できないので、日本が利用されるだろう。(以上は、本ブログ筆者による解釈ですので、詳しくは原文をご覧頂きたい。http://tanakanews.com/190116korea.htm)

そして既に、韓国は徴用工問題などで国民の敵意に満ちた視線を作り上げ、日本に向けている。そしてそのような日本イジメが中国も参加する形で本格的になったとき、ロシアに有利な形で日露平和条約が締結できる。そのように、ロシアは考えているのではないだろうか。

日本はそのような事態にならないように、別の政権で外交を再構築すべきである。

追補(午前9:40):深読みをすれば、ロシアの以上の平和条約交渉は、巧妙な安倍降ろしの可能性もある。これ迄20回以上重ねた首脳会談の内容がわからなけれ判断できないが、安倍内閣にとっては深刻な事態であると思う。

(以上は以上は素人のメモですので、そのつもりでお読み下さい。)

追補2(午後6:40)佐藤優氏の解説があります。このプロの方は、日露の交渉はうまく言っているとおっしゃっています。読売新聞にはより細かい情報が出ているようです。https://www.youtube.com/watch?v=VD9E8sLNzK0
この動画に、mohkorigoriのハンドルネームで私のコメントを投稿しています。(午後10:25追記)

補足:
1)竹島を独島と呼び、日本海を東海と呼ぶ韓国を思い出す。日本はロシアと交渉中の現在、北方4島を固有の領土とは呼んでいない。

2)http://worldjpn.grips.ac.jp/documents/texts/docs/19561019.D1J.htmlに全文が掲載されている。第9項に平和条約締結後に「日本国の要求に答え且つ日本国の利益を考慮して、歯舞諸島及び色丹島を日本国に引き渡すことに同意する」と書かれている。

3)最初から、歴史認識問題を議論するのなら、日ソ中立条約の有効期間内にソ連は日本を、しかも、連合国に降伏の意思を伝達したのちも、その攻撃を止めなかったことなどの話、シベリア抑留というハーグ陸戦条約に反した行為、満州で大量の日本人を殺害し婦女を陵辱した問題なども議論しなければならない。

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