2020年7月3日金曜日

ロシアの新憲法とプーチン大統領について

ロシアのプーチン政権は、憲法改正案を国民投票にかけ、新憲法案は投票率67.97%、賛成77.92%、反対 21.27%で可決された。(補足1)新聞等の文字での報道もあるが、これらよりも、及川幸久氏のyoutubeでの解説が、最も分かりやすく適確である。改正点200以上の大幅改訂は、プーチンの知性の高さを示しているように思う。他国から見れば、非常に悪賢いということになるかもしれない。

 

https://www.youtube.com/watch?v=H9wZOdvVcdI

 

改正点から帰納的に導いた基本理念は、主権国家体制を基礎にし、神(ロシア正教)と英霊(戦没者)、更に当然ながら論理を大切にすることである。及川氏は3つの項目に分けて、改正点を解説している。その範囲について、多少の新聞の記述を参考にしながら以下解説し、私の考えも示す。

 

1)第一点は、大統領の任期についての改正である。

 

及川氏のスライドでは「大統領任期延長」と書かれているが、正確にはそうではなく、「大統領の任期は、通算で最長二期12年である。但し、憲法改正前の期間は算入しない」である。つまり、改正前の憲法下では、プーチンは最初二期8年、現在二期目の12年の合計20年務めるが、この部分は新憲法の大統領任期に算入しないのだ。

 

そして、新憲法下の2024年の大統領選で新たに大統領になった人は、最長通算で12年間しか大統領の椅子に座れない。その後、選挙に立候補もできない。その代わり、終身上院議員となり不可侵権が与えられる。(補足2)

 

更に、この改正とともに、現在大統領の権限下にある首相、副首相、財務大臣の人事権(承認)を議会(下院)に譲る。財務省を支配する権限を大統領から議会に移す件、非常に面白い。首相が赤字国債を出すことに、財務大臣は許さないという事態も想像される。つまり、首相と財務大臣は横並びということになる。

 

ただ、憲法を新しくしたのだから、ここで大統領選挙をすべきだと思うが、その点はどうなっているのだろうか? また、大統領の弾劾の規定はどうなっているのだろうか?

 

 

2)第二点は、国家の保守化である。

 

主権国家体制を基本とすることは、“憲法と整合性のない国際機関の決定は適用されない”という条項にあらわれている。これは、全ての国家の権威と権力を超える権威と権力を夫々備えた国際機関ができない限り、当然のことである。つまり、国際共産主義革命や国家主権を侵すレベルのグローバリゼーションに対する反対の明確化である。

 

その他、ロシア語を公用語とするという項目、「大統領、首相、閣僚、判事など国家安全保障に関わる人物は、二重国籍を禁止する」項目、「大統領候補は外国の市民権保持を禁止する」項目、などを挙げている。

 

二番目に領土割譲の禁止と国境策定作業は禁止の対象外:この項目、毎日新聞4面の「憲法改正の主なポイント」では、「周辺国との国境策定作業を除く領土割譲やその呼びかけの禁止」と書かれている。

 

「国境策定作業を除く」とあるが、恐らくその場所は明確にしていないだろう。国家の命運を握ると判断したとき、プーチンは歯舞色丹を日本に返還出来る。しかし、それはロシアがよっぽど経済的に困窮したとき、且つ、日本がその状態からの脱却の鍵を握るときしかないだろう。

 

三番目に神への信仰を明記している。ロシア正教の国教化である。

 

四番目に、結婚は男女間のみで成立するとある。つまり同性婚は事実上禁止されている。この件、性転換の禁止項目、或いは「男女は生まれながら普遍であり」とか言う男女の定義文がなければ、同性間でも性転換後に結婚することが可能である。

 

五番目に、祖国防衛者たちの追悼の項目である。毎日新聞の「主なポイント(上記)」では、「祖国防衛に関する国民の偉業を貶めることの禁止」と書かれている。この明記は、主権国家体制維持に不可欠だろう。(補足3)

 

 

3)第三点は、社会保障についての改正である。

 

一番目に、最低賃金は最低生活水準を下廻ってはならない。最低生活水準の定義は、明確ではないが、日本では生活保護に相当するだろう。年金は、インフレに合わせて毎年調整する。これも、妥当な項目であり、及川氏によると、反対勢力がプーチン攻撃の材料にしてきた項目だという。

 

この社会保障に関する改正は、国民を憲法改正に賛成しやすくするためだと、及川氏は解説する。その通りだろうが、至極まともな内容である。

 

4)最後に

 

毎日新聞では、カーネギー国際平和財団のコレスニコフ主任研究員の言葉「投票の形式をとり、国民を共犯者にして、プーチン氏が権力にとどまることを正当化する」を引用して、その背景としている。確かにその通りだろうが、それを払拭する方法は、この憲法下で大統領選挙を直ちに行うことである。

 

このまま現在の任期の2024年まで大統領にとどまるのなら、プーチンは上記の言葉を裏付けることになるだけでなく、憲法の上にプーチンが存在することになり、憲法はプーチンの道具となってしまうだろう。

 

更に、憲法にどのような国民の権利と義務が書かれているのか、気になる。言論の自由、報道の自由、学問の自由など、国民の権利が明記されていなければ、民主国の憲法とは言えない。その点、及川氏或いは別の方(例えば北野幸伯氏)の今後の解説に期待したい。

 

最近、北野幸伯氏は、ロシアではプーチンの政治にたいして悪口を言えないと言っている。日本では、森友問題、加計問題、桜を見る会など、国家の最高指導者に対し、不信感を引き起こすような内容の報道は日常的である。しかし、ロシアでそれに相当する報道をすれば、その報道機関はただでは済まないと、youtubeで解説している。

 

もしそのようなら、プーチンは皇帝であり、大統領とは言えないという類の反論は可能かもしれない。しかし、大衆のいい加減さにウンザリする西部邁さん(故人)の言葉には共感する上、それを利用する悪しき連中或いは外国勢力の存在を、この日本国に強く感じる。その様な場合、少なくとも大統領の任期中に、弾劾とそれに関する項目を報道する場合を除き、三流週刊誌的なゴシップを禁止することは、政権の安定と国家国民の安寧のためには必要かもしれない。

 

 

補足:

 

1) 新憲法の投票結果と内容の概要は、毎日新聞の朝刊にも記載されている。ネットでは、朝日新聞https://www.asahi.com/articles/ASN722PD3N72UHBI001.html 及び時事通信https://www.jiji.com/jc/article?k=2020070200192&g=int 後者にAFPの報道を加えたヤフーニュースがある。https://news.yahoo.co.jp/articles/b2f4a793c64affdc9e48d23248e463494d2fc662

 

2)おせっかいかもしれないが、韓国はこの部分を参考にすべきである。

 

3)大日本帝国憲法には、それに変わるものとして、天皇の統治権があった。(因みに兵役の義務は帝国憲法20条に記載されている。)更に、各地に戦没兵を祀る忠魂碑が建立されていた。一方、日本国憲法には、何も書かれていない。つまり、国家の核についての記述が現憲法には何もない。有るのは国家の核の象徴として、天皇が書かれているだけである。

0 件のコメント:

コメントを投稿