2021年3月11日木曜日

リバタリアンの系譜について

3月9日の記事で、米国の政治を支配する大金持ちには二種類存在すると書いた。そこでは、「意志を持ったお金」と「ナイーブなお金」という表現を用いた。前者が米国を牛耳るDeep Stateの人達であり、後者がビックテック(GAFAM)の人達である。

 

現在、大きな話題になっているのがGAFAMらであり、その無法ぶりは現職大統領が政治的メッセージを出す為に用いたアカウントを消去したフェイスブックやツイッターの姿勢で判る。その傲慢さは、幼稚さであり、昨日はナイーブという形容詞を用いて表現した。

 

GAFAMの経営者全てがそのような幼稚さを持っているとは言えないだろう。しかし、そのようなビッグテックの横暴を予言をした書物が、茂木誠さんのyoutube 動画で紹介されていた。この茂木氏の動画は、社会と個人の関係に関する思想史を分かりやすく総括している。ここでは、その最後の部分を紹介したい。https://www.youtube.com/watch?v=aP1q_i4YXYk

 

 

それによると、GAFAを産み育てたのは、リバタリアニズムの考え方であり、その遺伝子は、①権威ではなく個人が夫々の目標と幸福を定義する「個人主義思想」、②少数の天才が社会を前進させる原動力になるという「英雄礼賛主義」、③最小限の国家の介入を理想とする「自由市場理論」、の特徴を持つ。(補足1)
 

リバタリアニズム(英: libertarianism)は、個人的な自由、経済的な自由の双方を重視する政治思想である。それは、上記遺伝子の3つの特徴と整合性がある。経済においては、上記③の立場は、市場原理主義の主張と同じだろう。


 

2)ノーランチャート

 

1971年に米国で、リバタリアン党という政党がデイビッド・ノーランという人により設立された。ノーランにより作られたチャート(ノーランチャート;補足2)が、リバタリアンの思想を知る助けになると思うので、下にそれを元に描いた図を掲載する。


縦軸は、個人の自由の尊重を主張する程度を表し、横軸は、経済的自由を主張する程度である。縦軸は、個人の人権尊重の主張を表すと考えるとわかりやすい。具体的には女性差別や人種差別などに反対する尺度だろう。

 

一方、横軸は経済活動に対する規制撤廃を主張する程度を表す。経済活動を行う主体には、個人と法人があるが、規制の対象となるのは専ら法人(或いは資本)であるので、横軸は法人(資本)の経済的自由度の尺度と考えるとわかりやすいだろう。ただ、法人を経営するのは、殆どの場合数人の個人である点に注意が必要である。

 

チャートの中の左翼と右翼、リバタリアンとポピュリズム(全体主義)であるが、直感的に解るような気がする。しかし、少し考えれば、様々な矛盾点があるように思える。この図が意味を持つのは、リバタリアンの考えを直感的に知る場合に限られるだろう。
 

上に述べたように、経済的自由は主に法人が主張し、その法人を少数の個人が所有運営するとすれば、リバタリアニズムとは、巨大化する”経済新貴族”を育てる社会を良しとする政治思想に他ならない。貴族以外は比較的裕福な農奴的平民ということになる。ここで一般の支持を得るために考えだされたのがトリクルダウン理論である。(補足3)

 

北欧の社会主義政策もトランプの個人の経済的地位を重視する立場も、この図には載せることは不可能である。そして何よりも、ポピュリズムと全体主義が同じ場所にしか、置くことが出来ないのはこの図の限界を明示している。


 

3)リバタリアニズムは米国金融資本家の創造した愚物

 

結論としては、上記表題の通り「リバタリアニズムは米国金融資本家の創造による愚物、愚劣な制度」である。少数の貴族とその他の比較的裕福な奴隷的存在を許す思想の発生は、科学と技術が発展した現代における、原始への回帰現象である。

 

経済力がそのまま政治力に転嫁されるように、長年の米国改造がリバタリアンを産みだしたと思う。改造された米国とは、馬渕睦夫氏が主張するディープステートの勢力が作り上げた米国であり、GAFA或いはGAFAMは、そこに誕生した私生児的巨大企業群である。

 

つまり、米国には二つの巨大な経済主体が存在し、一つは伝統的なディープステートの主人である思想的な巨大資本であり、もう一つはそこから突然変異的に生まれた経済至上主義の巨大だがナイーブな資本である。この二つに付いては、最初に述べたように一昨日の記事の主題である。

 

 

補足:

 

1)GAFAを産み育てた遺伝子は、2017年10月に米国で出版された本「the four GAFA-四騎士が創り変えた世界(訳書題名)」の翻訳者、脇坂あゆみ氏により示されている。上記本の著者Scott Gallowayは、ニューヨーク大学ビジネススクール教授。https://toyokeizai.net/articles/-/234258

2)英語版のウィキペディアには少し異なった図の表示がなされている。こちらの方がより原意に近いだろう。 https://en.wikipedia.org/wiki/Nolan_Chart

3)様々な経済的規制は、個人の権利を横暴化する経済的法人から護る為に制定されてきた。独占禁止法や様々なライセンスの制定などである。外国などとの取り決めなどもこの枠のなかに押し込めば、資本の国際間異動の自由を主張することは、経済的自由の主張の一つとなる。それは、国際政治問題と深く関わる。


 

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