2021年5月8日土曜日

日立の米国企業グローバルロジック社買収について

全くの素人がこのような文章を書くのは僭越至極なのだが、敢えて挑戦してみた。日本企業の海外企業買収の最近の失敗例として、日本郵政によるオーストラリアの物流会社トール・ホールディングスの買収がある。親方日の丸の企業と日立を一緒にしてもらっては困るという声もあるだろうが、私は多彩な人材が議論をするという文化のない「日本病」の結果なのだろうと思う。

日本の菅内閣のコロナ対策やオリンピックに向けた姿勢などを見ていると、日本の何もかもが三流に見えてくる。今回の日立の件は、東芝や日本郵政、更にはソフトバンクなどの過去の海外企業買収劇とは全く別で、大英断なのだろうか?

日本郵政の「大型M&A」失敗は必然だった

 

1)日立のシリコンバレーにあるグローバルロジック社の買収

 

5月3日のテレ東TVyoutube)によると、日立製作所(株)は3月31日、約1兆円を投じて、米国のソフトウェア企業グローバルロジックを96億ドル(負債返済込み)で買収すると発表した。買収劇の主役を演じた同社副社長は、「本買収は日立の戦略ルマーダを進化させて、グローバル展開を加速するために行うものだ」という。https://www.youtube.com/watch?v=pX54eIZcpBw

 

 

テレ東の担当者は、今回の買収劇の取材でその主役となった徳永副社長から、「日立のITセクターの課題はグローバル展開の能力不足であり、その解決が今回のグローバルロジック買収の動機である」との説明を得た。

 

このシリコンバレーにあるグローバルロジック社(以下GL社)は、企業向けのソフトウエアを開発する会社であり、技術者2万名と、クラルコム、ロイター、マクドナルド、ノキアなどの著名なグローバル企業を含め400社以上の顧客を持っているという。この企業の買収により、「今のルマーダ事業を一気に世界展開し加速出来ると信じている」というのである。

 

ルマーダ(illuminate dataからの造語)とは「データを活用して社会や事業所の課題を、顧客と一緒になって解決するデジタルソリューション事業である」(補足1)。「社会や企業の課題が複雑化する中で、デジタル技術を用いてITOTと製品を組み合わせ、ルマーダの力で顧客の課題を解決するのが日立の生きる道である」と徳永副社長は話す。

 

外国語を効いているような感じであり、ルマーダ、OT、デジタルソリューションなどの専門用語を用いてしか、DL社の買収の動機が説明できないものなのだろうか。

 

個々の製品を対象にするのがIT(情報技術)で、製品が集合した事業所や社会でのそれらシステムの操作全体を制御するのがOToperational technology)だとすると、それらの事業所などでの最適化には、事業所への入力と出力のデータを解析して問題点を見出すのだろう。この問題点の解決をITOTの融合というのだろう。この最適化のプロセスが、日立のルマーダ事業なのだろうか? それとも、もっと複雑なノーハウを含むのだろうか?

 

「日立のルマーダ事業は売上をあげているが、海外は全体の3割に過ぎない。このグローバルな事業展開能力を5割以上にあげるのが、今回の買収の目的だ」と日立の問題点との関係を語る。しかし、優秀な従業員2万名と顧客リスト400がその課題解決の鍵なのだろうか?

 

過去の日本企業による海外企業の買収の多くが失敗していることから、GL社を日立の一員として成長させられるのかという心配も承知していると副社長は語る。日立はGL社の社員で、信頼できる情報を与えてくれる者を何人かと接触を持っているのだろうか? 

 

筆者は、日立も今回の買収で失敗するだろうと思う。何故なら、今回の買収においても、幹部らは専門用語を駆使して充分な議論をしていないと想像するからである。日本には議論の文化が無いという一般論の他に、副社長から海外企業買収における明確な問題点とその解決方法が示されている様には思えない。それが出来るなら、ルマーダなる社内用語を用いずに解説できる筈である。マスコミ取材は、そのような株主の心配を払拭するチャンスであるのにも拘らずである。

 

買収が成功するかどうかの鍵は、もっと泥臭いところにある様に思う。白人の幹部と派遣された日本人幹部との間で、充分コミュニケーションが取れ、一定の結論に到達できるのか? その到達した結論に彼らが従うのか? 欧米文化と日本文化の違い、その一部である英語でのコミュニケーションの問題、更に、日米の政治の問題、人種差別の問題など、充分考慮したのだろうか?

 

つまり、東芝のウエスティングハウス買収やソフトバンクのスプリント買収などが失敗した原因を充分研究しただろうか? この発表直後に日立の株価が急落したのは、株主一般は今回の買収を否定的にとらえている事がわかる。

 

2)過去の海外企業買収の失敗について

 

東芝によるウエスティングハウス買収の失敗は、海外企業の経営には日本企業ではあまり重視されていない特別のノーハウがあることを示している。東芝は結果的にウエスティングハウスを買ったまま、現地の経営者に任して(放置して)しまったという。この事情は下に引用の頁にも書かれているが、複数の頁にも確認される。https://www.shacyoyutai.com/toshiba_wh/

 

ソフトバンクのスプリント買収の件だが、最初から計画にあったTモバイルの買収が米国政府の介入で不可能になったのが、計画が暗礁に乗り上げ結果的に失敗した原因であった。https://news.mynavi.jp/article/mobile_business-67/ 

 

一般に、M&Aにおける他社買収では、現在の企業価値よりも高い価格が設定される。それは、自社との融合による“相乗効果(シナジー効果)”(補足2)を想定して決定されるからである。ただ、日立副社長の取材に対する言葉から、その片鱗は感じられ無かった様に思う。

 

GL社の、400社に及ぶ世界有数の取引先や、2万人の優秀な技術者集団、更に直近の年間売上高が1300億円に上るということは、GL社の現在の数値であり、化粧された外見である。また、GL社の買収無くして、グローバル展開が不十分である日立の現状の解析と、それがGL社のM&Aで解決するシナリオが充分な確実性で書かれているのだろうか? 

 

そのシナジー効果の具体的な説明がなければならないと思う。https://www.hitachihyoron.com/jp/archive/2010s/2018/04/07a06/index.html

 

 

補足:

 

1)発電から鉄道制御など、今までのユニットよりも大きなユニット、更には社会全体の全操作まで、デジタル制御する範囲を広げる技術の開発を、デジタルソリューション事業(DX)というのだろう。なお日立は、既に株式会社 日立ソリューションズ・テクノロジーという会社を持っている。

 

2)シナジー効果とは、一社と一社の融合が、1+1=2+αの式のように相乗的に企業成績が増加することを言う。

 

0 件のコメント:

コメントを投稿