2023年3月1日水曜日

百田尚樹氏の故西山太吉記者に対する強烈な批判に対する違和感

有名な作家である百田尚樹氏(補足1)は、226日のyoutube動画「百田尚樹チャンネル」において、24日に死亡した毎日新聞の西山太吉元記者に対し「こいつは人間の屑」などの感情的な批判を行った。この批判に私は大きな違和感を感じた。

 

西山太吉氏は日米間の沖縄返還交渉における密約を不正な手段で手に入れ、それを野党に渡すことで国会での政争に火をつけた。その後、この件で有罪判決を受け、記者をやめて退職し毎日新聞社を退社した。この事件は西山事件として世に知られている。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%A5%BF%E5%B1%B1%E4%BA%8B%E4%BB%B6

 

百田氏による故西山記者に対する「味噌くそ批判」の動画を以下に引用する。

https://www.youtube.com/watch?v=QLjasx224aM (第一弾)

 

 

https://www.youtube.com/watch?v=whB0Zo8FK5U (第二弾)

 

当時の政府は、この密約を全面否定した。しかし、2000年代にアメリカで公開された公文書に密約を裏付ける書類が存在した。当時の日米交渉の日本側責任者だった外務省元アメリカ局長の吉野文六も、その密約があったことを証言している。(ウイキペディア)

 

百田氏は、西山記者が①機密情報を男女の関係を利用して入手した、及び②その機密を野党にわたすことで国を裏切った、として夫々批判しているように見える。しかし、その批判は幾つもの点で正しくない。
 

この件は、国家の機密情報を国家公務員は漏らしてはならないという国家公務員法上の犯罪である。西山記者に機密文書を渡した女性事務官は処罰されて当然である。しかし、西山記者はその犯罪を教唆したに過ぎない。

 

教唆は、国民の知る権利の延長上にあり、正しい動機に基づいており、犯罪として成立しないと思う。
 

日本国憲法において国会は国権の最高機関であると定められ、国会において議論もせず秘密裏に外交を行うことは、本来許されない。従って西山記者の教唆は、正しい行為の範疇に入ると思う。
 

勿論、日本国が一つの共同体として「野生の世界」である国際社会に存在し、その中で有利な状況を探して時空を進んでいる以上、全てを理路整然と行える筈はない。従って、結果がよければ後は歴史学の仕事であると言えないことはないだろう。

 

しかし、この沖縄返還が単に施政権の返還であり、領土の返還を含んでいるとは言い難い。従って、結果が良かったのかどうかの議論もなされる余地が十分にある。そしてより重要なのは、この沖縄返還交渉が、日本を米国の強固な属国とするプロセスの重要なマイルストンだったと思う。

 

日本国が世界の中で名誉ある国家として21世紀を越えて存在するためには、この米国への属国化のくびきから解放されなければならない。それを考える上での重要な出来事を、単に男女の問題として批判する愚かな行為が、この動画だろうと私は思うのである。
 

男女の関係を結んだ云々については、民事裁判の対象となっても刑事罰の対象ではない。更に、それは私空間の出来事であり、論理的議論の対象でないし、真実解明は無意味且つ不可能である。山崎豊子さんの小説「運命の人」に描かれているかもしれない。


 

2)西山事件について:

 

この件はウィキペディアに長文の解説が為されている。最近かなり加筆修正が為されたようで、私の引用は最新のバージョンからではないだろう。例えば、沖縄返還交渉で米国に支払ったのは合計3000万ドルであり、ここで記す400万ドルはその一部である。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%A5%BF%E5%B1%B1%E4%BA%8B%E4%BB%B6

 

そのウイキペディアの記載内容を短くまとめると以下のようになる。

 

1971年の沖縄返還協定に際し、地権者に対する土地原状回復費400万米ドルをアメリカ合衆国連邦政府が支払うとの公式発表があった。ただ、その裏で日本国政府は、同額をアメリカ合衆国に返金するとの密約をしていたのである。

 

この外交交渉を取材していた毎日新聞社政治部記者の西山太吉は、外務省の女性事務官から複数の秘密電文を入手し、「アメリカ政府が払ったように見せかけて、実は日本政府が肩代わりする」などの合意文があることを把握した。

 

自分及び電文を持ち出した外務省事務官の身を守るためか、その情報を新聞に報じないで、日本社会党議員に提供した。日本社会党の横路孝弘議員による国会での質問に対して、政府は密約を否定する一方、東京地検特捜部は情報源の事務官を国家公務員法(機密漏洩の罪)、西山を国家公務員法(教唆の罪)で逮捕した。
 

政府が否定した密約だが、それを裏付ける書類が2000年代にアメリカ合衆国で公表された。当時の日米交渉の日本側責任者だった外務省元アメリカ局長の吉野文六も密約があったと証言している。(ウイキペディアから要約した事件の概要は以上である)

 

西山の罪は、機密情報漏洩教唆の罪であり、法的には重罪とは言い難い。また、結果として日本政府が機密漏洩を防止する十分な体制を持たないことを明らかにし、その後、特定秘密の保護に関する法律(と平成251213日法律第108号)制定にも繫がった。
 

一方、日本政府担当者は、国民の代表からなる国会に真実を告げず、不正な手段で合意を形成させ、沖縄の施政権を米国から受け取った。(補足2)

 

百田尚樹氏は、西山記者が外務省職員の女性と男女の関係を結び利用して秘密情報を持ち出したことを男として卑怯だと特に拘り、それを強調する。また、野党日本社会党の横路孝弘氏に渡したことと合わせて、まるで反逆罪のような感覚を視聴者に呼び起す調子で、西山記者の人格批判(人間の屑)をしている。

 

しかし、日本社会党の横路議員は、当時日本国民から選挙で選ばれた国会議員であり、国会議員は日本政府の行政について議論するのが仕事である。そこへ資料を持ち込むことも一般に、批難されるべきことではない。

 

また、百田氏は、当時その件で毎日新聞の不買運動が起こり、毎日新聞社の経営にまで影響したとして、当時の国民の国家意識の高さを評価すると同時に、昨今の若者などにおける国家意識の低さを憂いている。

 

ただ、この不買運動も密約の存在を前提としていない。単に沖縄の施政権返還にケチをつけるために西山記者が行った汚い行為という観点からのものだろう。私は、この不買運動も間違っていると思う。(補足3)

 

真実を知るための新聞なら、その取材努力を高く評価すべきである。最近の米国プロジェクトベリタスの似たようなタイプの取材とその事実の公表は、世界で高く評価されている。(補足4)

 

時として、密約があることも、外交にはあるだろう。しかし、行政権が返還されたとしても、領有権の返還には隣国からクレームが付く形であり、到底完全返還とは言い難い。それを考えた場合、国会でもっと議論されるべきだった。(補足5)


 

3)沖縄返還の意味を考え、動画にコメントを書きこんだ。

 

上記動画の第2弾に佐藤内閣が行った沖縄返還の意味を考えて、百田氏の西山記者に対する批判が適当でないとするコメントを書き込んだ。それらは以下の通り。
 

コメント1)

沖縄返還が世界史に例をみない快挙のように仰っているが、その評価には同意しかねる。日本と沖縄全体として、一段と米国への属国度を深め、二度と独立国日本を取り戻せなくなったのなら、単に沖縄返還という餌で、釣り上げられただけではないのか? 
 

百田さんはきっとウクライナ戦争に於いて、もっと日本はウクライナを支援すべきと考えておられるのだろう。何故なら、米国という巨大悪が見えて居ない様だからである。

 

コメント2)

沖縄を400万ドルで買ったというのも嘘でしょう。何故なら、沖縄や小笠原は国連の信託統治領になるという筋書きがサンフランシスコ講和条約に書かれているからだ。それが中国が領有権を主張する根拠である。そのサンフランシスコ講和条約の記述を超える法的根拠、例えば国連決議などをするまで、米国が面倒を見なければ、本当の意味で返還したことにならない。従って、その400万ドルが米国の国庫に入っていないのではないのか? そこまで考えて、話すべきだ。高山さんも、百田さんも。

 

尚、中国が沖縄の領有権を主張する根拠などについて、以下のブログを参照してほしい。

https://ameblo.jp/polymorph86/entry-12751773056.html

 

更に、関連項目として、北方4島の領有権問題についても過去記事をアップしているので、これもご覧いただきたい。https://ameblo.jp/polymorph86/entry-12466516752.html


これらから明確になるのは、これら米国の戦後の対日政策は日本がまともな独立国として独り立ちすることを妨害する意図があって、強引に受け入れさせたものである。沖縄返還も、日本属国化のための米国の狡猾な政策である。

 

 

補足:

 

1)百田尚樹氏は有名な作家である。百田氏の最初の小説「永遠の0」は日本人として読むべき本であると思う。6年以上前にこれを読み、非常に勉強になったので、子供たちにも読むことを勧めた。感想文も本ブログサイトにアップしている。

https://ameblo.jp/polymorph86/entry-12466515223.html

 

2)当時の首相である佐藤栄作は、その後ノーベル平和賞を受賞した。百田さんが最初の動画で言っているように、戦争で奪われた領土を平和裏に返還させたという、歴史上稀な出来事に対し、平和に対する功績として評価されたようである。ただ、本文に書いたように、領土の返還が完全に出来てはいないという見方が法理論的には存在する。

 

3)週刊新潮などが、西山記者が男女の関係を利用して機密文書を持ち出したことに注目して、三文記事を発表し、国民の関心もこの男女の関係という点に集中したように思う。この下劣な関心の所為で、本来の沖縄返還の詳細(つまり領土返還は十分な形で為されていない)と、この密約という卑怯な手法とについて、議論にならなかったようだ。

 

4)これについては、以下の動画及び及川幸久氏の解説動画をご覧いただきたい。

https://www.youtube.com/watch?v=u5n7RRKgDog

 


https://www.youtube.com/embed/rSwWzF0aig0

 

5)沖縄の領有権が国際的に問題提起された場合、当然領有権は米国から施政権返還と同時に返還されたと主張するべきなのは当たり前である。これまでのあらゆる国際会議で、日本の領有権に疑問が呈されたことはなく、歴史的に決着がついているとでも主張すればよいと思う。本記事では、沖縄県の領有権問題が日本に無いと言っているのではなく、いちゃもんが付くような形はなるべく無いようにすべきだと言っているのである。

 

(終わり;13:00補足5を追加)

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