2023年7月8日土曜日

映画「君たちはまだ長いトンネルの中」はMMT(近代貨幣理論)教という邪教信者の作か?

昨日の記事で及川幸久氏のyoutube動画の内容について議論した。二つのテーマの内一つは先進諸国における低賃金労働者に関する問題であった。及川氏はそれを現代の奴隷制度という強い表現で非難している。https://www.youtube.com/watch?v=JoHT6PNX5KU

日本では技能実習生が“現代の奴隷”に相当するが、及川氏が「それら低賃金労働者が必要となるのは、我々が安いものを要求しその結果安い労働力が必要となる社会構造に原因がある」と語っている。そこで紹介された映画が「縁の下のイミグレ」であった。

今日、似た主張の映画が最近公開されたことが分かった。それは「君たちはまだ長いトンネルの中」という映画で、現在(9日まで)youtube上で無料公開されている。その公開は上記縁の下のイミグレ発表記念ということである。

25分ほど視聴したが、そこにはMMT(modern monetary theory)信奉者らしき女子高校生が、学校長を論破(?)する姿が描かれていた。(追補1)

 

(今週で無料公開終了)


その女子高生の主張は、①日本が長期間デフレに苦しむのは、消費税を導入したからであり、日本政府がもっと積極財政をして景気循環を助けるべきだったということ、②日本は対外純資産を世界一保有する国であり、積極財政を行う余裕がある。

日本の財政を議論するとき、③政府に借金1200億円があるとだけいうのはインチキであり、貸借対照表全体(特にその資産)を考慮すべきである、④いくら国家が積極財政の為に国債を発行し、政府の子会社的な日銀がそれらを買い受けても別に国家財政が破綻するわけではない、などと話す場面が出てくる。(上記動画10分から)

③以外は、無茶苦茶な論理である。

①:長期デフレは需要が供給能力を下回っているということで、国民がお金を使いたがらないこと、使ってしまうと将来が不安だと言うことを示している。その将来に安心感をもたらす行政が無いから、そのようなことになる。

消費税を無くしても、国民の消費意欲が格段に増加するわけではないだろう。何らかの乗数効果はあるが、あまり期待できないだろう。しっかりした政治を日本国に構築するのが先決問題であり、放漫財政でジャブ漬けにすれば情況は益々悪くなる。

現在インフレがひどく、それでも多額の国債をかかえる日銀は利上げが出来ない。それが円安の原因となり、更にインフレが進む。日銀が一応民間会社の形をとっているのは、このような放漫財政を防ぐためだということすら知らない人が多すぎる。映画でも、「日銀は政府の子会社で一体ですよね」とバカなことを言っている。

②:対外純資産は、様々な日本の会社や投資機関が保有しているのであり、別に国家(GPIFは除く)が持っている訳ではない。

④:勿論、日本円で国債を発行している限り、そして日銀を完全に抱え込めば、日本政府は財政破綻しない。しかしその結果、すさまじいインフレと物価高騰(特に食糧やエネルギーといった輸入品)が発生し、国民の全て食っていくことすら満足にできないことになるだろう。

 

黒田前日銀総裁は、アベノミクスとやらで2%の物価上昇目標を掲げ、政府からドンドン国債を買い受けお金を発行しつづけた。その半分以上が日銀に当座預金として逆戻りしているのに、それを続けた。この責任を取らずにトンズラした無責任さに怒るのではなく、褒めるという発言は無知の極みである。

植田新総裁は何も出来ない。学者だというが、多分誰がやっても何もできないことは分かっている。だったら、日銀総裁という名誉と大学教授より遥かに高い給料を貰わない手は無いと考えて、就任したのだろう。

それにしても驚いたのは、この映画の感想をまともに言わないで、主人公の父親の名前として自分の名が利用されたと話す元財務官僚の高橋洋一氏。#156 君たちはまだ長いトンネルの中 - YouTube

 

 

更に驚くのは、滋賀大経済出身の自民党代議士西田昌司氏が全面的に正しいとして、評価していることである。「プライマリーバランスにこだわる財務省は間違っている」というが、現在のジャブジャブの金融情況を考えれば、財務省の議論の方が正しいと思う。

反緊縮エンタメ映画!これは凄い❗️藤井聡 京大教授 監修『君たちはまだ長いトンネルの中』【西田昌司ビデオレター令和4年5月2日】 - YouTube

 

 

確かに経済規模が膨張している時には(そのように期待できる場合も含む)、プライマリーバランスにこだわることは無い。(補足1)しかし、経済規模がほとんど一定であるにも関わらず、債務だけドンドン増加させるのは間違いである。しかも、マネタリーベースはドンドン増加しても、マネーサプライを増加させないで日銀当座に積みあがるのは、病的情況である。(補足2)

 

財政の問題は、行政の効率化を行いつつ将来に向けたインフラ整備はシッカリしていくという努力を行政がしなかったからである。また、それを批判せず、個人として能力を証明できないような国会議員を送り続けた国民にも責任がある。


以上、コメント歓迎します。

 

 

追補:(8:30追加)

 

1)政府が財政に必要な紙幣を発行し、税金での徴収は行わないという貨幣の在り方を言う。孤立した経済の国では、税金は集めなくても行政経費は全て発行紙幣で賄うので、インフレは必然である。この考え方は、世界政府が実現したときには可能だと思う。その際、資産課税(相続税を含める)だけは導入すべきだと思う。(ウィキペディアの現代貨幣理論)
尚、現在この方式を採用出来るのは、米国などの基軸通貨発行国だけである。 もし、日本などでそれを行うと、著しい円安が始まり預金及び債権が2−3年で紙くずになるだろう。これを提唱するひとたちは、それを狙っているのかもしれない。

米国議会では、左翼のオカシオコルテス議員らが推奨している。その背後にニューヨーク州立大のステファニー・ケルトン教授らが中心にいる。彼女を上記映画の監修者の藤井聡(元内閣参与)京大教授らが日本に呼んで、講演させている。「財政赤字は悪でも脅威でもない」MMT提唱の米教授:朝日新聞デジタル (asahi.com) ただ、日本円は基軸通貨とは言えないので、日本では実行は無理である。

 

 

補足:

 

1)高性能半導体を日本に取り戻すために、TSMCを多額の金を積んで呼び込んだ。しかし、日本はその昔半導体王国だった。それが韓国と台湾を世界の半導体リーダーにする形で移転したと言える。何故なのか? それは総合的な機能体を構成する能力が日本文化にないからだ。それは、高次構造体をつくり、夫々のユニットが専門化し、それらの間で議論を通して情報交換するという言語文化が、日本に無いからだ。日産を回復させたカルロスゴーンが言った:「フランスでは社長が何か方針を出すと、周りで議論が始まる。しかし、日本では社長が方針を出すと、周囲は沈黙する」と。一体、何のための幹部社員なのだ。

そのような企業文化の結果、半導体でも、部品や何とか装置のレベルのみ、今のところ日本企業は世界的である。しかし、それも流出して日本で消滅するのは時間の問題だろう。この日本文化の問題を見ないで、財政のみでデフレを解決することは不可能である。日本をシャブ漬けにするだけだ。

 

2)世の中のお金の残高を言うとき、マネーストックとともにマネタリーベース(MB)という概念も用いられる。マネタリーベースとは、市中に供給するお金の総計である。紙幣発行残高に中央銀行の当座預金残高の合計を指す。MBを増加させるには、普通、中央銀行が市中から国債を買い集め、その代金を支払う形でなされる。それにより金融資産の形は変化するが、MSの形は変わるが広義流動性の指標に変化はない。これが景気対策として、いま一つ効き目がない理由だろう。市中銀行から信用創造の形でマネーサプライが増えない情況下で、マネタリーベースを増加させても、経済浮揚にはあまり役立たない。

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