2024年7月20日土曜日

世界の政治問題の原点に大きくなりすぎた金融経済がある

現在進行中の世界政治の不協和音をグローバリストとナショナリストの戦いと見る人が多い。その一方、社会的大問題として貧富の差の拡大が議論されている。しかし、これは大きな根本的な社会の病(やまい)の異なる側面からみられる症状と考えられる。

そしてその病の原因は金融経済が実質経済よりも遥かに巨大化したことと関連すると思うので、ここでその観点からこの社会の病について考えてみたい。元物理化学系研究者の勝手な分析ですので、経済或いは政治が専門の方からのコメントを期待します。

資本主義経済の成長には金融の発達も大きな要因となったと思う。しかし、この世界の経済の考察には実体経済と金融経済に分けて考え、その両方を調べることが世界の“病理診断”には大事であると思う。先ず注目すべきは、経済活動中での金融経済の比率が近年非常に高くなっていることである。

伊藤忠グループのCSR report 2009というリポートに、「1980 年代は1 対 1だった実体経済と金融経済の比率は、90 年代には1 対 2になって、今は1 対 4といわれています」という発言が掲載されている。https://www.itochu.co.jp/ja/files/09j-08.pdf

実体(実物)経済の大きさとは、人間の生活に必要な財・サービスが最終的に人々に供給される全ての過程で産み出される価値の総和と考えられる。その中には、工場建設に使われる装置の製造・流通もあるだろうし道路建設のための経済活動も含まれる。そのすべてはGDPに算入される。

金融経済は、実体経済とは無関係な金融資産の移動で構成される。経済主体である人や会社の保有するお金が、他の経済主体に労働や販売などの対価として移動した時、それらの一部が金融機関等に移動することで預金を生じる。その預金で例えば株式や債券へ投資することは実体経済とは無関係であり、金融経済上の行為である。

それら実体経済に直接関与しない活動を価格で評価した額の総和が、金融経済の大きさと考えられる。これは野村証券の用語解説を元にした所謂「フロー」(補足1)の面からの金融経済に対する私の解釈である。https://www.nomura.co.jp/terms/japan/ki/kin_keizai.html#:~:text=%E9%87%91%E8%9E%8D%E7%B5%8C%E6%B8%88
 
現金或いは預金から株への投資は、金融経済上の活動だが、金融会社がその場を提供しその手数料を受け取るのは、実体経済の中に入るサービス業である。(補足2)

次に、「ストック」の面からの定義は、以下のようになると思う。

実体経済上のストック(或いは資産)とは、工場の不動産から施設一般、保有する在庫品、道路や鉄道、住宅、自動車などの家財類などが考えられる。金融経済上のストックとしては、タンス預金を含めた預貯金類、株券や債権類、保有する保険、ビットコイン等仮想通貨などが考えられる。会社の決算時には、これらの額が貸借対照表として発表される。

上記の実体経済と金融経済の比率は、ストックでもフローでも傾向としては同じだろう。これらの統計は全てお金の単位を用いて行うので、一般に貧しく通貨の安い国の経済は過小評価される。また、経済の大きさは貧富の差による補正部分を除いても、人々の幸福度とは直接関係しない。(補足3)

重要な点は、金融資産とそこから出る資金は、個人や企業、更には国家までも縛る道具としては甚大な力を発揮すること、従って、社会に対する影響も実体経済同様に大きいということである。人々の暮らしを円滑に行うための道具であった金融が、社会を変え人々を縛り、国家を破壊する道具にもなりえることがわかってきたのが、近現代の世界だと思う。


2)金融経済と実体経済の関係

金融資産には、実体経済の中での金銭の支払いによって発生する利潤や給与から発生する部分と、国家が発行する債券や銀行が行う信用創造で生じる預金などで発生する部分などが存在するだろう。この部分が最近異常に大きいのではないかと思う。ネットでの宣伝文句、Buy now Pay later (今買って後払い)の結果は、人々の未来を縛るが、それは国家にとっても同じことである。

国家は債務を返却する必要がないというのが、近代貨幣理論(MMT;補足4)の信者の主張だが、その方々の多くはグローバリスト(補足5)であり、そもそも国家など不要であると考える国家を持たない民族の方々が中心である。勿論、急いで返す必要はないが、それが積もり積もって、国家の様々な機能に障害が生じる。

金融経済と実体経済の境界は、当たり前かもしれないが曖昧である。日本の郵便局や農協の建物の中では、それらが混然として業務の中に存在する。ここで実体経済と金融経済の関係について述べた文章をネットの中から紹介したい。https://www.realexit.co.jp/607/

本来であれば、金融経済は実体経済の補助役のようなものです。お金を必要としているところにお金を貸して、企業が財やサービスの提供を継続して(もしくは新規で)できるようにしていくのが金融経済の役割だからです。そして、財やサービスを消費者である私たちが購入・消費することで実体経済(GDPを消費により押し上げる)に影響を与えることになります。

この補助役がまるで自分が主役であるかのように振る舞いだしたのが昨今の世界経済である。そして、その補助役を業として細々と生きる場を与えられてきた人たちが、世界の支配者のように振る舞いだしたのが、現在の世界政治である。金融が政治と結びつくことで武器化しているのである。

 

彼らグローバリストの中心に居る人たちは、彼らの金融資産を巨大化させる手段として、国家サービスとしての戦争や他国への内政干渉を繰り返してきたのである。


3)世界の政治

議論が後先になるがお許しいただきたい。金融経済の巨大化の原因として二つあると思う。一つは科学の技術への応用と株式会社というシステムが結びついて、益々巨大化する会社群の管理人として資本とその管理組織が振る舞いだしたことがある。その資本管理組織は、資本の自己増殖化を考える人々により支配されている。それは最早悪の領域に存在し、資本の力で政治にまで介入する。

富裕層となるのは優れた能力の人が多いかもしれないが、このメカニズムを経済社会に埋め込むことで巨万の富(いう悪)を蓄積している。つまり、貧富の差の拡大の背後にも、金融経済の過剰膨張がある。一般市民の貧者は労働で対価を得るが、富者は遊んでいても金融資産が自己増殖するかのように増大するのである。

その二つ目が、国家債務の際限のない膨張である。その政策を国の政治家が執りだした背景の一つにMMTがある。その理論の発生場所は、金融経済を巨大化することで自分たちの力として世界覇権を狙っている米国の富裕層が棲むWall Streetである。

先に紹介したサイト(realexit.co.jp)には、実体経済のことをMain Street、金融経済のことを Wall Streetと呼ぶこともあるという記述がある。この現実に上手く対処出来ない極普通の我々のような人たちが陰でいう言葉なのだろう。

(補足6)

金融経済巨大化の原因の二つ目の続きだが、米国はMMTが成立する世界で唯一の国である。彼らの政府債務は、世界の外貨という金融資産の中心となり、バカな世界の国々の政治家は米国債を喜んでため込んでいる。その米国債の価値を支えるのが米国の世界覇権である。これが金融経済と世界政治の重要な接点である。

米国政治の陰の中心にいるWall Streetの連中は、国民を豊かにするよりももっと早く金融経済を大きくするために、そして世界覇権を確実にするために、世界に戦争を輸出している。戦争や混乱を輸出して、その対価のように兵器を購入させるのである。東欧のカラー革命やアラブの春は比較的最近のものであり、20世紀後半は、そのような米国製戦争の時代であった。

 

英国や米国の政治は、金融経済が実体経済よりも大きくなることに積極的に協力したと思う。資本所得で巨大化した人たちは、政治への介入の手段として政治資金の供給元となり、その資本の巨大化のために法を改訂させ、タックスヘイブンを用意した。そして、資本所得は資本増加に向けられ、その結果あたかも資本が自己増殖するかのように巨大化したのである。


この病的症状を解決する有効な方法は、タックスヘイブンの完全廃止、政治資金規正の厳格化、教育における歴史の充実などだろう。なお最後の提言は、参政党神谷崇幣氏の慧眼が作り上げた政策である。


補足

1)フローとは一定期間(普通一年間)の活動に関する増減をいう。それに対してストックとは、これまでの総和をいう。会社の決算における損益計算書はフローでの業績評価であり、貸借対照表はストックでの業績評価である。そのほか、現金のみでのフローの評価としてキャッシュフロー計算書があり、この三種類の評価で会社の運営状況が議論される。 

2)実体経済と金融経済の峻別は困難である。同様に、サービスという項目も分かりにくいので注意が必要である。米国がウクライナに兵器を送ることは、分類としては政府の国民に向けたサービスであり、その兵器の製造は立派な製造業である。この政府サービスは、民主主義と自由を守るためという効能書を根拠に行われるが、そのインチキは今やバレバレなので、バイデン大統領は恥ずかしくて口にできない筈である。

3)そもそも、幸福とは単に欲望の充足ではないので、本当に意味のある人々の幸福度を考える上で今回の議論がどの程度役立つのかも明確ではない。また、金融資産と人々の幸福度との関係も明確ではない。経済規模を大きくすることを成長と呼び、そのためには戦争までする。「経済とは非常に恐ろしい学問である」は、政治評論家の伊藤貫さんの言葉である。

 


4)MMTとは、政府が必要に応じてお金を発行し使えば、それがその後国民の懐を温め、経済成長の刺激にもなるので、無理して税金を集める必要などないという考え方。日本のような食とエネルギーを外国に頼る国では、円安にならないことと物価上昇が急激にならない範囲で(きわめて限定的な範囲で)成立する。一方、米国は基軸通貨発行国なので、国債を発行して外国からモノを買って消費すれば、そのお金は外貨となって外国の財産となるので、日本よりも遥かに長期にわたって成立する。MMTは以下のブログ記事でかなり詳細に論じたのでご覧いただきたい。https://ameblo.jp/polymorph86/entry-12500444209.html

5)グローバリストと反グローバリストに関する議論は本ブログサイトのメインな題目である。その一つを下に紹介する。 https://ameblo.jp/polymorph86/entry-12830801894.html

6)演劇を象徴するブロードウェイと金融を代表するウォールストリートが交差する道路標示は世界を牛耳る二つの方向を暗示する。大衆と金融のハンドリングは世界統一のカギであると思っている人たちがここに棲む。

 

(10:30;12:30;19:00 編集後最終稿; 編集が3度にわたり大変失礼しました)

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