2014年4月21日月曜日

「特定国立研究開発法人」制度の愚:スタップ細胞報道と関連して

 理化学研究所(理研)のスタップ細胞研究に関する捏造疑惑が、政府が成長戦略の一つと位置付け予定していた「特定国立研究開発法人」制度に影響を与えることになり、それが逆にスタップ細胞に関する報道に影響しているという話がある。私にもそのような解釈が、昨今のスタップ細胞報道の最も判りやすい解釈だと思う。もし、その通りなら、政府、マスコミ、マスコミという表舞台で活動する著名人が愚かな姿を世界に晒していることになる。
 この件の指摘は、経済学者の小笠原誠治氏のブログで見たのが最初である。(注1) スタップ細胞論文に関して否定的な評価が定着しつつあるにも拘らず、4月13日、森本元防衛大臣や中谷元防衛庁長官がテレビ放送報道2001において、「小保方氏が200回作成したというのだから、成功したのだろう」という発言を行なったのである。小笠原氏は、4月20日の同じ番組で芦田宏直氏という人が同様の発言をしていたとブログに書いている。(私は、昨日の放送は観なかった。)彼ら元政府幹部さえ、魂を簡単に売り渡す人種だったということである。「詳細な検討が他者によりなされ、現在否定的な評価が定着しつつあります」と指摘すれば、中谷氏や森本氏は、「いやー専門ではないもので、詳しくはしりません。」と逃げるのだろう。(注2)
 この「特定国立研究開発法人」であるが、その候補にあがっているのが、小保方氏のいる理研と経済産業省傘下の産業技術総合研究所(産総研)なのである。スタップ細胞の否定的な評価により、理研の指定は国民の批難を受ける可能性がある。その結果、台本どおりにはやり難くなったので、当面スタップ研究の評価をごまかそうとしているというのである。つまり、このままでは安倍氏の3本の矢の3本目が上手く打てないというのである。
 ここで私が言いたいのは、上記の情けないマスコミ周辺の姿など(注3)も一つだが、この「特定国立研究開発法人」は、東北のバカの壁と言われる聳える数百キロの防潮堤建設と並んで、金の無駄使いに終わるだろうということである。
 結論を言えば、科学振興は広く大学などの研究者のレベルアップ(留学の為の奨学金制度を拡充するなど)など底辺を広げることが大切であり、重点化は金の無駄使いに終わることが多いのである。何故なら、大発見は屢々思わぬ所から起こるからである。ノーベル賞に輝いた研究者の多くは京都大や東京大出身者であるが、その研究が他の場所でなされた場合も多い。例えば、湯川秀樹の中間子理論は大阪大で、朝永振一郎のくり込み理論は東京文理科大(後の筑波大)で、白川英樹の伝導性高分子は東京工業大で、山中伸弥氏のiPS細胞は神戸大である。理研理事長の野依良治氏も名古屋大での研究でノーベル賞を授賞された筈である。日本発の偉大な科学的発見を目指すなら、広く全国の大学に自由な研究環境(研究費を含めて)を実現すべきである。(注4)「特定国立研究法人」の指定や、競争的資金などによる重点化は、無駄使いに終わることが多い。
 ところで、何故理研と産総研なのか?(注5) 理研が優秀なる人が関係していたことはよく知られている。しかし、スタップ細胞の件と関連して、ノーベル賞受賞者、例えば湯川秀樹や朝永振一郎などが理研に所属していたことについての報道の仕方には問題がある。あのような報道では、ノーベル賞の研究を理研で行なったと一般人に誤解を与えることになる。理研の研究がノーベル賞に輝いたことはないのだ。上記両研究所には、現在でも多額の国費が投入されている。何故、それに加えて多額の金を経常的につぎ込む必要があるのか?大きな課題において萌芽的に成功を収めている研究があれば、既存の制度で支援は可能である。そして、全く思いもよらないノーベル賞級の研究を育てるのが目的なら、重点的に金をつぎ込むことは的はずれに終わる。特定の研究所を重点的に支援することが無駄に終わる理由は、それらは人が選ぶプロセスであり、一方、偉大な研究は神が研究者を選ぶプロセスだからである。白川英樹氏が電気伝導性高分子の発明によりノーベル賞を受けた時、白川氏は日本化学会賞すら受賞していなかったことを思い出すべきである。日本化学会という同じ専門家の会ですら、幹部と縁の薄い人に業績を評価して賞を出すことが出来なかったのである。日本は未だに縁故主義の国(注6)であり、“何かを客観的指標でもって選ぶ能力”など無いのだ。

注釈:
1)小笠原誠治氏の「経済ニュースゼミ」
2)テレビで元政府中枢が何かについて喋る場合は、この逃げ口上は使えないことを知らない筈がない。
3)そのような考え方が政府から出て、中谷氏や森本氏の発言に加えて、理研のバッジを付けて笹井氏が臨んだ会見における、「スタップ現象は存在すると思う」と言う発言なども、一繋がりの現象であると考える事も出来る。そうすると、前回書いた笹井氏の発言に対する疑問も解ける。
4)準教授や教授をその研究室出身者(大学院生及び助教)から選ばないなどの工夫がないと、縁故的採用が多い日本では、大学教官の質が上がらないことを指摘しておきたい。
5)理研は文部科学省の傘下、産総研は経済産業省傘下である。こんなところで、省益バランスに気を配るのも、特定研究法人指定が愚かな政策であることを暗示している。 6)元防衛大臣は政府の方から依頼されてあの様な発言をしたのだろう。人と人の関係が真実に優先する日本など東アジア諸国では、西欧文化は根付かないのである。 (4/21;午前8時投稿、10:30改訂;4/22最後の部分を改良して注6追加)

1 件のコメント:

  1. 特定国立研究開発法人制定が、今の段階では、害あって益無き政策であることは,科学の本質からかけ離れた、今回のSTAP細胞を巡る騒動が如実に示している。
    日本では,優れた研究、研究者を選ぶ機能は未だ無いと思う。それは,評価に当たる人の人選自体が適切になされていない(利害に無関係な専門家が起用されていない)こと、不適切な人事を行っても任命責任が問われないこと、に原因があるのでは無いか。

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