2014年10月5日日曜日

近現代史は、英米による世界宗教の確立過程か:「銃・病原菌・鉄」に学ぶ

「銃・病原菌・鉄」(ジャレド・ダイアモンド著)上巻に学ぶ:

 人類の歴史を、アフリカでの旧人の出現と全世界への拡散、そして5万年前の現人類の出現、その後の農業技術開発や野生動物の家畜化の起こった場所と時期、そして、それらの地域的不均一性などを、大陸の形と場所毎の地形や気候などを基に、大きな視点から考察している。農業習得と集団の住む地理的特徴から、社会形態とその発展時期に差が生じ、それが民族の繁栄と絶滅という運命の差を決定した。広い面積において農業を営む部族は人口密度を増加させ、人の集合に階層や専門化(武装集団など)を備えた、”社会”を発生させる。農業の次に鉄器の発展が重要で、必然的に鉄は武器に用いられる。南米のインカ帝国の数万の軍を相手に、スペイン、ピサロ軍が征服出来たのは、銃とキリスト教(注釈1)で武装していたからである(この部分は他書にもあるが)。このような世界の歴史を、深部(下部構造)から解説した集大成的な本だと思う。

 買われた方には先ず、第二章の最初に記載されている19世紀の出来事である、マオリ族によるモリオリ族殲滅の物語(2頁ほど)を読むことを勧める。この本を読むエネルギーが一気に充電されるだろう。クロマニヨン人(現人類、ホモサピエンス・サピエンス)が西ヨーロッパで先住民だったネアンデルタール人(ホモサピエンスの中の別種)を約四万年前に全員虐殺したであろうことから、19世紀のモリオリ族の消滅まで、歴史は現存民族による他の民族の殺戮(皆殺し)の歴史であった。それから未だ200年も経っていない。

 この本は(注釈2)、科学的姿勢で人類史を語ることで、我々をこれまでの暦史の教科書から開放してくれる。それは、この本から人間の価値感や正義感も歴史の進展とともに変化することを学べるからだろう(注釈3)。そして、我々日本人が22世紀に向けて生き残るには、人が持つ正義感を絶対不変なものでなく、時間(歴史)軸と例えば宗教軸(或いは世界地図)などの多次元空間の上に広げることが大切であることまで理解が広がった。その理解は、近代史を考える上で、そして現代政治に生きる上で、非常に大きな武器となるだろう。例えば、ヒットラーを絶対悪とする事は、正義の問題と言うよりも宗教の問題であることが解ってくる。つまり、英米の現在の国際社会における活動を、キリスト教をベースとした世界的宗教を確立し、それを全世界に広げる宗教活動であると見る事も可能である。そう考えると、米国は何故、アラブまで出かけていってイスラム国を名乗る人たちと戦うのかが解ってくると思う。(注4)

 その枠内に入っていない国として、イスラム圏があるが、非常に微妙な位置にあるのが日本国である。韓国による従軍慰安婦像の米国においける建設は、この英米世界宗教の外枠にへばりついている日本を、ヒットラー一味とともに蹴落とす極めて現代政治的な活動であることが解る。ドイツは、完全にヒットラー政権を悪魔の政権であったと評価することで、外枠から中に逃げ込もうとして、ほぼ成功している様に見える。

 兎に角、歴史的出来事を考える時に、壮大な視野を与えてくれる良書だと思う。上巻で感想文の一部を書こうと思ったのは、本書の書き方に鮮烈な印象をうけたからであることと、下巻を読んだ後では、そのエネルギーを失う可能性があるからである(注5)。

注釈:
1)キリスト教が植民地政策に重要だったことはよく知られている。人間を盲目的な武器に変化させることが可能だからである。イスラム国で英国人やフランス人を殺害する際、イスラム兵士の言葉の中に頻繁に”神”が出てくることを聴けば、この事が理解出来る。一神教において、異教徒は人間と看做す必要がないからである。
2)ここからは、自説の展開になります。
3)世界史の教科書には動く価値観に関する記述がない。そのため、教える先生方も生徒も、現在的価値観で歴史的出来事を評価してしまう。人は考える存在であるから、体型や頭の能力(ハードウエア)に変化がなくても、時代とともに変化(ソフトウエアを含めた進化)している。それを考慮しなければ、歴史的事実は正当(つまり、将来へ向けて有益な様に)には評価できない。
4)経済的見地からは別の見方も可能である。つまり、基軸通貨を発行する米国の連銀は、世界の中央銀行と考える事も可能である。その場合、世界の中心にある米国が、遠くてもアラブの出来事に関与することも当然である。
5)つまり、私が期待するのは、多くの言語の発生と、それらの質に大差があることの原因、そして、現在の奇跡的とも言える科学技術が何故発生したか? それについて、書ききれてない可能性が大だからである。
(一部ヤフーブログに掲載済み;10/5午前7:30投稿; 19:20編集;21:00最終稿) 補足:最初この文章の表題として、「銃・病原菌・鉄」の感想文としていました。しかし、文章の内容は編集により、本の感想文から自説の展開へと、重心が移ってしまいましたので、タイトルを現在のものに変更しました。統計からは、読まれた方が未だおられないことになっていますが、もしそうでないのなら、お詫びしなければならないと思っております。

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