2016年5月21日土曜日

日露の政治経済協力は、ロシアが国際法を無視する国でないことを確認して進めるべき

昨夜のBSフジプライムニュースで、駐日ロシア大使と元外交官の東郷和彦氏がゲストとして参加し、日ソ関係を議論していた。領土問題では日ソ共同宣言とプーチン大統領の“引き分け”という表現についての議論などがあり、特別に新しいものはなかった。(補足1)

経済協力については、様々な具体案、樺太からのパイプラインや海底トンネルの建設なども、夢としてはいろいろあるだろう。ベルリンまで新幹線で結ぶことも将来的には可能だという大使の言葉もあった。

しかし、肝心の問題についての議論はあまりなかった。それは、ロシアは何らかの同盟関係を将来日本と持ちうる国なのかという点、そして国後択捉に存在する軍事基地をどうするのか、などである。素人の私には関係改善のどのような段階でそのような話が出るのか、わからないので、トンチンカンな意見かもしれない。しかし、日本人として一番の関心事ではないだろうか。(補足2)

現在の路線上で、将来の経済はそれほど明るくはないが、それでも国内の行政がまともであれば、全ての人間は食っていける。何もロシアの天然ガスは必須ではない。しかし、国際的な混乱がおこれば、問題は別である。その国際的な混乱時に日ソ関係がどうなるかは、両国が関係する其々の国際的同盟関係のネットワークで決まる。そこのところに何らかの洞察が与えられなければ、この平時の感覚で経済だけでの相互協力は、歯舞と色丹の返還があったとしてもすべきでない。

日本は中国に国交回復後に相当の経済協力をした。大地の子という小説に、上海沿海での大型製鉄所建設に対する日本経済界揚げての協力の様子が描かれている。更に、1970年代での松下幸之助に対する中国の歓迎と松下電気産業の技術協力も有名である。しかしそれらは、いったいどういう形で現在の日中関係に生きているのか?

つまり、長期での日ソ関係はどうなるのかについての議論無くして、近視眼的な相互協力だけのそろばん勘定は慎んだ方が良い。もちろん、経済的に親しくなるに伴って、国家間の関係も深まっていくという考えもある。しかし、それには互いにその萌芽(あるいは遺伝子)の確認があってのことだと思う。

それを占うような場面が番組の最後にあった。一般視聴者からロシア大使になされた「中国が、南シナ海や西シナ海で岩礁を埋め立てて軍事基地化していますが、この中国の姿勢を大使はどう思われますか」という質問に対する大使の答えである。それは「その問題については、中国の人が来たときに、質問してください」というものだった。

岩礁を埋め立てて自国の領土とすること、そして、その周囲に領海や排他的経済水域を主張すること、ましてや、そこに軍事基地を建設することは、現在の西欧文化圏では国際法違反である。ロシアがこの国際法違反を、関係国間の問題でありロシアは関与しないというのなら、日本とロシアは全く異なる価値観を持つ国と言わざるを得ない。そのような国と経済協力のみ拡大するのは、1971年からの対中国関係で犯した失敗を再現する可能性大だと思う。

クリミア併合の問題を西欧諸国が国際法違反だとしている。そのことから、ロシア大使は西欧型秩序維持のルールと西欧のそれを強引に利用したロシア攻撃を警戒しているのかもしれない。しかし、以前のブログで書いたように、それはウクライナでクーデターを画策したのは欧米であり、クーデターの混乱下でのクリミアの独立が有効なら、ロシアとの条約による併合も国際法に違反するとは言えないと私は思う。 http://rcbyspinmanipulation.blogspot.jp/2014/03/blog-post_22.html

大使の意見と現時点でのロシアの外見だけで、ロシアとの政治経済協力を中止するのは、日本にとっても大きな損失である。兎に角、現在のロシアは帝国ではなく、本質は近代国家であり、国際法でもって国際紛争を解決すべきだとする国であることを確認して、話を進めてほしいと思う。

補足:

1)日露問題の重要性についてはすでに本ブログサイトに投稿している。http://blogs.yahoo.co.jp/mopyesr/42783129.html 

2)ソ連は、日ソ中立条約の有効期間内の同年8月8日に宣戦布告を行って対日参戦し、ポツダム宣言受諾表明後に千島を占領した。ロシアはソ連の中心国である。その時代のソ連とロシアは違うのだと、日本が信じるような何かをロシアは表現すべきである。もちろん、歯舞と色丹の返還はその一つの表現だろう。更に少なくとも、国後択捉からの軍事基地を撤収すべきであると私はおもう。サハリンと北海道に橋を渡すような事業は、互いの信頼感が強くなければあり得ないことを、この大使は分かっているのだろうかと、最後の一般読者の質問に対する答えを聞いて思った。

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