2017年2月10日金曜日

「我々も殺人者だ」というトランプ発言について:軍事弱小国の悲劇

1)アメリカのトランプ大統領が、ロシアのプーチン大統領を高く評価していることに疑問を持つ米国人は多い。報道関係者ももちろん例外ではない。5日放映のFOXニュース(補足1)で、司会者から「プーチン氏は殺人者ではないか?」と問われて、「我々も殺人者だ。無実だと思っているのか?」とトランプ氏が答えたという。

これが反トランプの方々にとっては良い攻撃材料となっている。副大統領はロシアと良い関係を築けないか模索中であると言い訳をしているが、トランプ大統領は外交に関しては浮き上がった存在となっているらしい。

米国はこれまで、出来もしない理想論を弄び、結局中国に国際慣例を無視した行動を取られ、米国の軍事的脅威として大きく成長させてしまった。これまでの政権と異なり、米国の安全保障体制の構築を、原点から模索しているとき、従来の「プーチンは人殺しではないか」と、オバマ政権時の感覚で発言されてはイラつくのは当然だろう。

また、本音の世界では上記トランプ大統領の発言は正しいのだから、嘘だという批判はできない。ベトナム、アフガン、イラク、シリアなどでの米国の軍事介入(戦争)を考えれば、そして、それらが米国民の民主的手続きに従って作られた歴代の政権によりなされてきたのだから、米国人一人一人が殺人者と呼ばれても厳密な意味では正しい。 http://www.jca.apc.org/stopUSwar/Databank/interventions.htm

その発言が一人の評論家からのものならともかく、米国の大統領から出たのだから、時代が変わったと考えざるを得ない。世界は本音の時代に入ったということだろう。つまり、従来の骨組みを破壊する“がらがらぽん”の時代には、昔の建前は問題を複雑にするだけで邪魔なのだ。数日前のブログに書いたように、建前が通用するのは政治的安定期であり、建前と本音の二重構造が暗黙の了解として出来上がっている時のみである。

2)プーチンに関しては、現在は東ウクライナでの軍事介入があるが、それよりも酷い軍事介入がなされたのが、チェチェン共和国である。(以下、ウイキペディアによる。また、佐藤優氏の以下の動画参照https://www.youtube.com/watch?v=bCsTXQhvMSk

20年ほど前ソ連崩壊後に第一次チェチェン紛争が起こった。独立を目指したチェチェンをロシアのエリティン大統領が1994年12月に4万人のロシア連邦軍を派遣し、一般市民10万人以上を殺害し弾圧した。

一旦停戦合意がなされたが、その後1999年8月にコーカサス地方における「大イスラム教国建設」を掲げるチェチェン独立派が挙兵して隣国に侵入する。プーチン指揮下のロシア軍が翌月にチェチェンに侵攻した。長いテロ戦争ののち、2009年5月にロシアは「反テロ特別治安体制」を終了すると宣言し、第二次チェチェン紛争が終結した。ロシア軍によりチェチェンの民間人20万人が犠牲になり、1/4のチェチェン人が殺されたと言われる。

このチェチェン紛争に関して、ロシアの反体制物理学者アンドレ・サハロフ博士の未亡人が、米国下院において、第一次チェチェン弾圧はエリティン大統領の再選に必要だったし、第二次チェチェン弾圧はプーチンが世論調査で順位を上げるために必要だったと、証言しているという。

なお、チェチェンは、南下してきたロシアにコーカサス戦争の後、1859年に併合された。第二次大戦中1944年に、ドイツへの協力を恐れたスターリンによりチェチェン人と隣接民族であるイングーシ人50万人がシベリアやカザフスタンに移住させられ、多くは死亡したという。

弱小な民族であるということは、なんという悲しいことか。このような例は世界史に山ほどあるだろう。そして将来、日本が中華圏に飲み込まれた時には似た悲劇が予想される。なんとか現在の厳しい現実(補足2)に国民一人一人が気づいて欲しいものである。防衛省が研究予算をつけることに歯止めをかけるべきだと、机を叩いて主張したバカ丸出しの学術会議の委員をテレビで見て、その危険性を強く感じた。(昨日のブログ参照)

3)人間の歴史は虐殺の歴史である。それらが互いに生存を賭けた戦いの中での出来事だとすれば、それが我々現在生き残っている人間の存在条件ということになるので納得するしかない。その場合、そのような行為に及んだ皇帝や絶対権力者は、生き残った側からは英雄となり、ほとんど全滅した側からは悪魔として評価されるだろう。

しかし、現在のように一人一人の投票により国家のリーダーが選ばれる時代になってからは、一票を投じた個人の責任まで厳密に考えれば議論できる。

つまり、サハロフ博士の未亡人の方が証言したように、国家のリーダーに投じたその一票が殺戮に繋がったのだから、その一票を投じた人一人一人がその殺戮の責任を分け合わなければならない。トランプ大統領はそれを本音としてストレートに言っただけである。それを聞いてオタオタするのなら、そんな質問などしなければ良いのだ。

よく引き合いに出されるのが、ヒトラーのホロコーストである。これも国民の一票で選ばれたトップが行ったことであるので、その国の国民の責任であり、ヒトラー個人とその側近に押し付けるのは、卑怯なやり方である。それも戦後制定した法律で、ナチス関係者を探し出して罰する行為は、法の不遡及という人類文化を無視した行為である。http://blogs.yahoo.co.jp/mopyesr/42302353.html

親日派というレッテルを個人に貼り付けて、過去に築いた財産を没収するというとんでもない法律を作った隣国の場合は、もともと法治国家ではないので、さもありなんと思うが、ドイツがそのようなことをやるのは苦しみ紛れとはいえ、卑怯である。 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B3%95%E3%81%AE%E4%B8%8D%E9%81%A1%E5%8F%8A

補足:
1)FOXニュースは「Fair and Balanced」と「We report, You decide」をモットーとし、中立報道を心がけていると主張している。司会者は全く社是を理解していなかったと考えるよりも、経営者のメディア王と呼ばれるマードック氏の意向により、社是など投げ捨てて反トランプ運動のネタ作りをしたのだろう。FOXニュースの司会者を含めて、米国の知識層は米国のこの100年間の軍事介入の歴史を全く知らない筈が無いからである。しかし、それが反トランプ運動に使えるとするなら、米国民一般はそれを知らないことになる。
2)トランプ政権の顧問ピーター・ナバロの本、「もし米中戦わば」の中にも、日本が中華圏に寝返るシナリオや、米国が台湾を中国に引き渡すシナリオなどが書かれている。いずれの場合も米国の国益に反すると結論されているが、それはナバロ氏個人の結論である。

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