2018年2月27日火曜日

愛国教育のあるべき姿は、愛国心を直接刷り込むことではない:日本は、「右の売国&左の亡国」である

1)現在の政府が推進する愛国教育についての朝日新聞社説批判の動画を視聴した。批判しているのは有本香さんで、話し相手として同席しているのは竹田恒泰氏である。https://www.youtube.com/watch?v=SWIYJ2t1b68これはネット番組かラジオ番組をyoutube動画に再構成したものらしい。

政府が推し進める愛国教育に対する朝日新聞の意見に対して、有本さんは酷く立腹されている。コメント欄を見て更に驚いた。全コメントが朝日批判で染まっている。その中身の詳細を聞いて、さらに検索でその朝日社説で確認してまたびっくり。それは全くまともな主張であったからである。私は反日だったのだろうか?

この動画で朗読された、2月15日(2018年)の朝日新聞社説の一部を聞き取り、書き起こした。それをそのまま(補足1)に書く。有本氏は、朝日新聞社説の中の「学習指導要領の改訂案において“多角的・多面的な考察が全体の基調”なのに、特に“自国を愛しその平和と繁栄を図る大切さについて自覚を図る”を強調するのは、木に竹を継いでいる」という部分を取り上げ、「近隣諸国だけでなく米国ヨーロッパなど愛国教育をたっぷりされた諸外国の人間は、多角的・多面的な考察が欠けるというのか」という反問の形で、噛み付いている。

しかし、それが正当な批判となるには、いろんな検証が必要である。我々聞き手の多くは、欧州をはじめ諸外国の愛国教育の実態を知らないし、諸外国の人たちが多角的・多面的な考察力があるかどうかもわからないのである。それを周知のことのように前提において、反論として聞かせるのはおかしい。有本氏はこの点について示さなければ、上記はまともな反論にならない。

また、「尖閣諸島がわが国固有の領土である」は真実であり、それを朝日新聞は「政府見解」としてしか認めていない(補足2)ことを、非常にけしからんと怒っておられる。しかし、尖閣諸島の領有権を中国だけでなく、米国も認めてはいない(日本の実効支配は認めている)し、台湾も認めていない。更に、日本の学者の中にも、意見は種々存在する。

有本氏の反論に同調する竹田氏は、その論調なら「“人を殺しては行けない”と教えると、多角的・多面的な教育ができないことになる」とか、「“人を殺してはいけない”という教育は、一緒に“人を殺しても良いという理由”も教育しなければいけないことになる」と言って、援護しているつもりでいる。しかし、竹田氏は、戦争において或いは刑罰として、我々の祖先や我々は人を殺すことを正当な行為と認めていることなど、念頭にないのだろうか。彼らの主張はめちゃくちゃである。びっくりするくらいの不見識に怒り心頭に発したと語る、有本氏の心や頭には何が入っているのだろうか? 

コメント欄は全てその有本氏や竹田氏の意見に同調するものばかりである。また、その社説を教えてくれたのが百田尚樹さんだと紹介していた。百田さんもそのような意見なのだろうか?それで日本の保守を名乗る連中は大丈夫なのだろうか。「右の売国、左の亡国」という佐藤健志氏の本の題目が思い出される。そこで、コメントを書いた。そのコメントに少し手を加えて、彼らの意見にたいする反論とする。

2)コメントをされている方々は有本氏に調教されている。逆説的だが、とんでもないことでも、教育により人は調教できるようで恐ろしい。先ず私の政治的意見は、朝日新聞のそれらとは、ほとんどの場合、全く反対であることを明確にしておく。私は、日本は出来れば自主独立を達成し、戦術核を保持すべきだと考えている人間である。そして、日本政治のあり方を考える際に意見を聞くべき論客は、故西部邁氏や伊藤貫氏だと思っている。

上記、有本氏の考えには全く反対である。有本氏は、政府案に100%賛成のようであり、それに異を唱える朝日新聞の社説に論理的反論ではなく、単に立腹しているようだ。しかし、現政権の殊更に愛国精神の大切さを強調する教育は、教育というより人間の調教だと思う。

子々孫々のためになる愛国心を国民の間に育てるには、「我々国民は、国家のおかげでこの豊かで安全な生活を維持できている」ことを、歴史などの科目の中で論理的に教えるべきであると思う。つまり、「日本国を維持発展させること」と、「自分たち日本人とその子孫の将来」との関係を、歴史と論理を用いて考えさせることが、真の教育である。取り立てて「我々は日本国を愛する」と合唱する類の愛国教育など不要であるし、ましてや現政権「日本国政府」を盲目的に愛する教育は将来に憂いを残すだろう。

有本氏の主張する愛国教育の不健全さは、隣人愛教育に例えて考えるとわかりやすいかもしれない。つまり、有本氏の主張する教育は「汝の隣人を愛せよ」と聖書のセリフを信じこませることと同じである。それは、調教である。(補足3)本当の隣人愛の教育には、将来何かの時に隣人との間で協力することの必要性を、具体的論理的に学ぶことが第一に必要である。それを学べば隣人愛は、自発的に生じるだろう。愛国心教育もそのようでなくてはならないと思う。

安倍総理には良い政策も多いが、米国金融資本などが牛耳る米国政府に完全に服従している。70年談話と日韓慰安婦問題合意がそれを明確に示している。日本が抱える領土問題の原点には、戦後米国の日本統治政策が存在する。つまり、米国は日本が近隣と問題を抱えて、東アジアから浮き上がるように設定したのである。

北朝鮮問題も、米国がトラブルを半島に残し、それを理由に日韓に米軍を置く理由として作ったのである。朝鮮戦争の休戦協定や1975国連総会決議では、和平を進言している。しかし、それを受け入れなかったのは米国である。このような路線を米国の支持通りに信じることを愛国教育として教えるのは、日本民族にとって非常に危険である。尖閣諸島問題や北方4島問題も、昭和史をしっかり勉強することが何よりも大事である。「戦前日本人が住んでいたから、現在も日本固有の領土である」と云う論理は一般には通らない。

(尚、上記感想などは、引用したyoutube動画の最初の5分間の内容にたいするものである。それ以降を聞く興味は私にはないので、その点お断りしておきたい。)

補足:
1)朝日社説として朗読された内容: “多面的多角的な考察が全体の基調なのに、こと愛国心や領土問題になると政府の立場を強く押し出す  2022年度から実施される高校の学習指導要領の改訂案は木に竹を継いだような内容だ。 これまでの現代社会を再編した新科目公共は目標に自国を愛しその平和と繁栄を図る大切さについて自覚を図る。地理歴史の目標にも日本国民としての自覚、我が国の国土や歴史にたいする愛情を深めると明記された。 国際協調の重要さについても言及している。しかし、いまの指導要領の「良識ある公民として必要な能力や態度を育てる」といった記述に比べると、かなり踏み込んだ表現である。
教科を学ぶうえで大切なのは、学問的・客観的な事柄について理解を深め、追求する姿勢を養うことだ。そこに人の内面に関わる問題を紛れ込ませるべきではない。再考を求める。

領土問題に関する書きぶりを見ても、たとえば「尖閣諸島は我が国の固有の領土であり、領土問題は存在しないことも扱うこと」などとなっている。 政府見解を知識として生徒に伝えることは大切だ。だが「これを正解として教え込め」という趣旨なら賛成できない。相手の主張やその根拠を知らなければ、対話も論争も成り立たない。他者と対話・協働して課題を解決する。それが新指導要領の理念ではなかったか。
いま、政権批判や在日外国人の存在そのものを「反日」と決めつける風潮がはびこる。それだけに、日本の立場をひたすら強調する方向での記述の変更には、危うさを覚える。” (より正確には朝日新聞のサイト参照:https://www.asahi.com/articles/DA3S13359788.html?iref=pc_ss_date
2)日本政府の主張は、唯一の正式な日本国の主張である。それ以外の主張は、「言論の自由」を根拠に許されるが、日本国の主張ではない。朝日新聞がどう主張しようが勝手であり、何故有本氏が怒り心頭に発するのかわからない。国民の間での結束が弱いのなら、出来れば結束を強めるべきだと思う。しかし、国際社会という半ば野生のルールが支配する世界の中で、日本が生き残る手法を単に「愛国心」を育てるだけで乗り切るのには無理がある。日本の無残な敗戦の一因は、その時代の無能な指導者が、天皇陛下万歳的な愛国教育で国民の命の値段を安くして利用したことだろう。
3)調教と言ったのは、そのまま信じ込ませることを言っている。世界的な宗教における知恵は、ほとんどの場合、論理的な説明が可能だと思う。

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