2020年4月6日月曜日

新型コロナ肺炎:日本には緊急事態基本法はない

1)日本の不思議な緊急事態宣言

 

昨今、マスコミの発表する記事には、今回の新型コロナ肺炎(COVID-19)流行を阻止するために、安倍総理が何時緊急事態宣言を出すかという類のものが多い。

 

その法律の解説は、以下のNHKのページなどに書かれている。また、朝日新聞の無料ページに図があったので、それを下に示す。その概要は既に本ブログでも多少触れた。それによれば、要請には従う必要はないし、指示には罰則はない。私権の制限云々が緊急事態宣言をためらう一つの理由らしいが、個人が受ける私権の制限はないに等しい。

https://www3.nhk.or.jp/news/special/coronavirus/tokyo/correspondence.html

 

(朝日新聞のサイトでの無料記事より)

 

この件、色々と不思議なことが多い。一つには、日本は既に非常事態対応をとっていることである。感染した国民の多い国からの入国制限である。その重要な決断を、安倍総理は非常事態宣言或いは緊急事態宣言をしないで行った。それは緊急事態での措置ではなく、日常的な措置なのだろうか?

 

米国大統領は、この3月13日の非常事態宣言と同時に、欧州シェンゲン協定(移動自由の協定)加盟国からの入国を停止する措置を発表した。つまり、他国との通常の外交関係を大きく変更するのは、米国では非常事態或いは緊急事態なのである。今回の記事を書いた動機は、何故緊急事態ということばを用い、National Emergencyの翻訳語の非常事態を用いないのかという疑問であった。

 

日本では、イベントの中止要請とか、臨時の施設開設のための土地使用とか言う、国内の小さい措置に対する法的根拠を与えることを、何故ためらっているのか? それも訳が分からない。後述のように、この極めてよく似た文言が、国民保護法(有事法制とともに2004年に制定された外国の武力侵攻への対応を示している。)の中にある。しかし、国民保護法が、どのような宣言に従って発動されるのかは、今回の私の調査ではわからなかった。

 

元に戻る。首相の緊急事態宣言によりできることの一つに、住民に対する外出自粛要請がある。それは外出禁止ではない。外出自粛の要請をするには、首相による「国家の緊急事態宣言」が必要だというのである。しかし、テレビを見ると「不要不急の外出はやめるように」と、首相は発言している。それは、首相としての発言ではなく、単なる私的な言葉なのか?

 

既に、都道府県は、同様の対応をとっている。東京都知事は、入院中のCOVID-19患者の一部(軽症者)を、ホテルなどの施設に移動させると宣言している。このような人権侵害を、都知事の分際で、普段顔で行っている。一方首相は、諸外国との外交関係を大きく変える決断は普段顔でできるが、COVID-19汚染地区の住民に「外出自粛の要請」など、緊急事態の宣言をしてからでないとできないというのである。背中が痒くなる。

 

 

2)非常事態宣言(緊急事態宣言)について:

 

非常事態宣言は、「危機に対応するために、政府が特別法を発動することである」とウィキペディアには書かれている。その宣言は本来国家元首が出すのだろうが、日本では元首が明確でないので、総理大臣が宣言するのだろう。特別法を発動すると言う点では、今回の緊急事態宣言と同じである。

 

しかし、今回安倍総理が発するのは、緊急事態宣言であり、非常事態宣言ではない。つまり、その種の宣言を出す法的根拠が「警察法」にある緊急事態宣言だからである。これは元々、治安維持のためのものであり、今回のような疫病による国家の非常事態に対応するための法律ではない。

 

米国には、国家非常事態法(The National Emergencies Act (NEA))という法律がある。それは、幾つかのケースにおいて、大統領の緊急権限を正当化するための連邦法である。 大統領は、定められた手続を踏んで、非常時にのみ定められた特別な権限を得ることになる。この非常事態に於けるこの法律の下で利用できる大統領の権限は、議会が法律で定めた136の緊急権限に制限されている。(尚、議会は法律に署名した共同決議により非常事態の宣言を終了することができる。)

https://www.whitehouse.gov/presidential-actions/proclamation-declaring-national-emergency-concerning-novel-coronavirus-disease-covid-19-outbreak/

 

既に前のセクションに書いたように、この3月13日の非常事態宣言と同時に、米国はシェンゲン協定加盟国からの入国を停止する措置を発表した。つまり、他国との通常の外交関係を大きく変更する決断は、非常事態宣言とともに行われている。これらの基本的な部分について、マスコミはほとんど報道しない。

 

なお、外国の武力侵攻などがあった場合を想定して、「武力攻撃事態等及び存立危機事態における我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全の確保に関する法律」という長い名前の法律がある。これは、自衛隊という名前の日本軍の行動を規定する「有事法制」と、「国民保護法」(補足2)と呼ばれる法律の基本法として存在するようだ。ウィキペディアのレベルでは、この法律を発動するにあたって総理が何らかの宣言を出すという記述はない。

 

つまり、日本には、非常事態或いは緊急事態に備えた基本法がない。緊急事態基本法は2004年5月20日に自由民主党、民主党、公明党の三党合意により、2005年の通常国会で成立を図ることが決定されていたが、直後に小泉内閣が総辞職し、衆院総選挙は郵政民営化へ争点が移ってしまい実現しなかった。(補足3、4)

 

このような重要な法律は、全て私権の制限と関係してくる。その私権制限を、一政党の代表が行って良い筈はない。国民の選挙で選ばれた人物が行うべきである。しかし、その記述、つまり国家元首を誰にするか、国家元首を選ぶのは誰かなどは、現行憲法には何も書かれていない。これを問題にして、国家の体制を整えようとすると、長期政権の座には座れない可能性が大きい。小泉という政治屋(二世議員か三世議員)がそう考えたのかもしれない。

 

小泉だけでなく、自民党の長期政権担当者は全て、この問題に触らないで長期政権を謳歌するという利己主義に徹した売国奴的人物である。つまり、米国への不沈空母となることが日本の存在意義だと考えた人たちである。その手本を作ったのが、戦後の吉田茂であり、それに従ったのが、吉田学校の卒業生である池田勇人や佐藤栄作や、その後継者、中曽根康弘、小泉純一郎などだろう。

 

以上は、理系人間の文章である。法律や経済出身の文系の人たちは、反論および議論をしてほしい。

(午前8;30;11:50編集)

 

補足:

 

1)ひょっとして、日本では要請が罰則付きの指示の働きがあるのかもしれない。つまり、自立した人にたいする周囲の厳しい目である。昨夜のテレビで木村太郎が、株主総会を止める決断を早くしたい会社の経営者も、この緊急事態宣言をまっているという。バカみたいな話である。

 

2)国民保護法は、他国の武力侵攻等の際に「国民の生命・財産を守る方法」を定めた法律である。住民の避難・救援に必要な場合、一定の範囲で私権を制限すること(例えば、私有地の一時的な提供、医薬品や食料の保管指示、交通規制などに従わなかった場合などに罰則が科されることがある)を容認し、住民に対する避難指示や救援活動は都道府県中心で行うこととされている。国の役割は、国民保護のための方針を定め、警報を発令し、避難措置を指示する。さらに自然災害と有事に対する包括的な法的枠組み整備に向けて2005年の国会において緊急事態基本法の法案審議が開始された。(ウィキペディア、および電子政府参照)

 

3)小泉は、緊急事態基本法の議論を続けると、必ず憲法の議論が始まり、それでは自分の政権が短期に終ることを予見したのだと思う。或いは、もし三党で合意がほぼできていたのなら、米国の妨害にあったのだろう。

 

4)米国からの年次改革要望書(米国の命令)の中に、郵政民営化があったので、それを表に出して衆議院を解散することで、上記議論をゴミ箱にすて、米国の飼い犬として長期政権を可能にした。郵政省事業の民営化でよく言われるのは、現在の簡保生命の保険金の、米国への投資を可能にすることである。年次改革要望書は、2009年(平成21年)に自民党から民主党へと政権交代した後、鳩山内閣時代に廃止された。

 

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