2020年5月24日日曜日

新型コロナ肺炎:クロロキン及びヒドロキシクロロキンの有害性

クロロキン及びヒドロキシクロロキンは、中国国家衛生健康委員会のCOVID-19の治療ガイドラインで使用が推奨された為か、世界で広く用いられてきた。(補足1)新型コロナ肺炎ウイルスの試験管内での抑制効果は、レムデシベル同様確認されていたが、アビガンなどと同様、決定的な確認はされていない。(補足2)最近、トランプ大統領が予防として、ヒドロキシクロロキンと亜鉛剤を服用していると公表して話題になり、この薬の使用は政治問題化してきたようである。そこで、再度、この件についてレビューしてみた。

 

1)最近のポジティブな効果の報告:

 

世界最大の医療調査企業で医師向けソーシャルプラットフォームを提供するサーモが、米、英、仏、ブラジル、ロシア、中国、日本、オーストラリアを含む31カ国の医師6150人以上からの33700の聞き取りから得た、上記諸薬を含めて療法の安全性と効果についてまとめ、5月7日に公表した。

https://au.news.yahoo.com/sermo-reports-covid-19-treatment-135900638.html

 

その結果を要約すると、医師は未だ一般的普遍的な治療法を見つけていないという結論になる。回復した患者の血清を用いることを例外にして、その他は16%から精々37%程度が高い効果が評価するに過ぎない。下の図にまとめられている。詳細は上記サイトをご覧いただきたい。

 

上図によれば、世界のCOVID-19の治療にあたっている医師は、安全性及び効果の両面からレムデシベルと同程度の評価を、クロロキン及びヒドロキシクロロキンに与えている。

 

因みに、血清剤を除き治療効果に一番高い点数が与えられているのは、アクテムラ(関節リウマチの薬)であり、それに続くのがアビガンのように見える。どちらも日本で開発された薬である。そして、アクテムラはクロロキンと同様、免疫抑制作用があり、本来重度な感染症に罹患した患者には、注意が必要な薬である。つまり、COVID-19の治療法探しは、未だに五里霧中ということである。

 

この様な情況下で、5月19日、日本でもヒドロキシクロロキンのかなりの治療効果が報告された。東京の江戸川病院の医師が30人に投与したところ、29人が改善、23人は平均して14.9日で退院できたというのである。

https://www.youtube.com/watch?v=VcX6XoutgxE&t=4s

 

2)決定的と思われるネガティブな効果の発表:

 

そんな中、ある意味で決定的な論文が著名雑誌であるThe LANCETに発表された。ハーバードのMehraという教授らは、いくつかの国での治験データを分析してみた結果、クロロキン及びハイドロキシクロロキンは効果が無いばかりか、非常に有害であると発表したのである。

https://www.thelancet.com/pdfs/journals/lancet/PIIS0140-6736(20)31180-6.pdf

 

クロロキンまたはヒドロキシクロロキンを投与された患者14888名を、クロロキン1868名、クロロキン+マクロライド抗生剤3783名、ヒドロキシクロロキン3016名、ヒドロキシクロロキン+マクロライド抗生剤6221名、の四つのグループに分けて、対照となる81144名のグループの治療結果と比較したところ、参照グループの死亡率9.3%と比較すると、ヒドロキシクロロキン投与18.0%; ヒドロキシクロロキン+抗生剤23.8%; クロロキン16.4%; クロロキン+抗生剤 22.2%と、大幅に死亡率が増加したと書かれている。

 

更に、参照グループで0.3%だった心室性不整脈の出現率は、クロロキン類の投与のグループで、6.1%; 8.1%; 4.3%; 6.5%と夫々増加した。

 

この一流医学雑誌掲載の報告により、一言も触れられていない亜鉛剤との服用も含めて、クロロキン及びハイドロキシクロロキンを治療に用いる医師は激減するだろう。それは、結果として患者にプラスになるのか、マイナスになるのか分からない。

 

亜鉛との共用によりよりポジティブな結果が得られたとするプリプリント論文は、上記論文を根拠に審査を通らず、撤回される可能性が高いだろう。

https://www.medrxiv.org/content/10.1101/2020.05.02.20080036v1

 

 

3)私の感想:

 

最初に上記ランセットの論文を読んだ時、非常に奇異に感じた。何故なら、上記SERMOの報告にあるように、決定的な治療法がない現状において、一つの治療法のみを対象にその大きな危険性を印象つける報告だからである。

 

その上、上記世界最大の医師向けソーシャルプラットフォームを提供するSERMOによる、33700の治療例の聞き取りから得た結果と全く異なる。そこでは、ヒドロキシクロロキン療法の効果と安全性は、ともに現在日本でも承認済のレムデシベルと殆ど同じだからである。これら全世界を対象にした膨大な二つの調査結果が、大きく異なった印象を読者に与えることが、奇異に感じる2つ目の理由である。ランセットの上記論文のような死亡率の上昇があるのなら、何故現場の医師がレムデシベルと同様の効果と安全性であると回答したのだろう。

 

トランプ大統領の選択は誤りである可能性は勿論ある。トランプ大統領はヒドロキシクロロキンと亜鉛剤のサプリ的な利用を止め、その後COVID-19に罹患する可能性があると想像する。確かなことは、トランプ大統領は、COVID-19の治療法としてクロロキンを宣伝すべきでなかったということである。治療法を政治的な問題にするのは、医療の分野にとっても迷惑なことだろう。

https://mainichi.jp/articles/20200409/ddm/007/030/102000c

 

因みに、私は元研究者であるが、科学者や研究者の良心を信じる者ではない。科学者の中には、DNAの二重らせんモデルを発表したワトソン博士だけでなく、利己的で小児的な人物が多いという印象を持っている。特に、Mehra教授のことを言っているのではない。


補足:

 

1)中国国務院合同予防抑制メカニズムの記者会見(2020年2月17日)において、中国科学技術部生物センターの孫燕栄は17日、リン酸クロロキンのCOVID-19治療に一定の効果を確認したと述べた。専門家はリン酸クロロキンを早急に診療ガイドラインの新版に組み入れるべきとの認識で一致した。

孫氏によると、北京市や広東省、湖南省など複数の省にある十数カ所の病院が共同で、新型肺炎の治療に対するリン酸クロロキンの安全性と有効性の評価を実施し、臨床面で非常に明確な治療効果を示した。

https://www.afpbb.com/articles/-/3269184

 

2)日本の感染症学会の「COVID-19 に対する薬物治療の考え方 第 3 版(5月8日)」での記述;

<ヒドロキシクロロキン> (クロロキンは)日本でも現在は未承認薬の扱いとなっているが、クロロキンと類似した構造で抗炎症作用、免疫調節作用を持つヒドロキシクロロキン(プラケニル)は国内では全身性エリテマトーデス(SLE)などに使用されている。In vitroではクロロキンはレムデシビルと同等の新型コロナウイルスの抑制効果が示されている。

 

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