2020年8月15日土曜日

日本やドイツなどとの同盟解消を主張する米国シンクタンクの論文について

現在、米国は中国と対立している。世界の民主国が連携して戦わなければ、中国共産党政権に勝てないと、ポンペイオ国務長官は言った。この大事な時期に、米国は、日本、ドイツ、スペイン、トルコ、サウジアラビアなどとの同盟を今こそ解除すべきであるという文章を、American Spectator (8月8日, 2020)に発表した人がいる。シンクタンクであるケイトー研究所(CATO Institute;補足1)の研究員Doug Bandowという人である。

 

記事の表題は「同盟国の問題、今2,3の同盟を解消すべきだ」(The problem with allies: Its time to un-friend a few countries)であり、副題は「嘘の友情と(同盟関係)タダ乗りは、その価値以上のトラブルと無駄金(False friendships and free-riding are more trouble, and money, than they’re worth)」である。その趣旨はわからないでもない。しかし、この文章の評価は今それを言い出す時期かどうかを考えれば、自明である。

 

その理由の中に、”今こそ”という時期が判るヒントがあるかと探したが何もない。中身は、素人受けを狙ったよう文章である。サウジアラビアに関しては、「絶対君主制であり、贅沢な王子たちの尻拭いを何故米国がするのだ」と言うたぐいのもの、日本やドイツに関しては、GDPの1%程度の金しか自国防衛に出していないということが書かれているのみ。歴史的経緯、世界の客観情勢などとの関連は書かれていない。米国に対する中国の脅威は何ものべられていない。(補足2)

 

恐らく、スポンサーは中国との関係を重視する米国のディープ・ステートの方々(馬渕睦夫元ウクライナ大使が主張している)だろう。中国がインド太平洋地域での覇権を達成する上で最も邪魔な存在の在日米軍を、米国世論の力で排除するためのプロパガンダだろう。それを説得力ある形にするために、一応システマティックな形で組み上げた文章だろう。ただ、米国の大衆向けのようで、論理はめちゃくちゃである。これが一流シンクタンクの文章なのだろうか?

 https://www.cato.org/publications/commentary/problem-allies-its-time-unfriend-few-countries

 

この文章の目標は、米国の孤立主義の方々を動かすことである。しかし、既に書いたように「何故今なのか」という疑問は、一定の知性があれば浮かぶだろう。何故なら、ポンペイオ国務長官が「4人の騎士」を組織して(補足3)、西側諸国が連携して「世界覇権を目指す中国」と如何に対決するかをスピーチしているとき、その西側の最重要なパートナーである筈の国と同盟関係を解消すべきと、主張しているからである。https://www.epochtimes.jp/p/2020/07/59953.html

 

 

2)Doug Bandow論文は、中国のためのプロパガンダだろう

 

もう少し詳細に見てみる。

この記事が、切るべき同盟関係として最初に取り上げたのはサウジアラビアとの同盟である。その理由が面白い。今だに独裁国であり、そこの王族はイスラム教の聖地を抱えていることを利用して、贅沢三昧に暮らしている。米国がその防衛に協力するのは馬鹿げているという内容である。そこに、石油利権の問題(:石油のドル決済を維持するためにサウジアラビアを味方にした)、イスラエルとアラブ圏の対立など、一切無視である。歴史的背景を考慮していないのは、既にのべたように米国大衆相手のプロパガンダだからだろう。

 

興味あるのは、絶対君主制(absolute monarchy) との対比で、「共産主義は悪だが、理論的には魅力的だ」と言っている点である。今の時期、共産主義の国として中国を思い出さない人は居ないだろう。つまり、著者は中国に魅力を感じる雰囲気を大衆の中に醸成することを狙っているのである。現在の中国は、共産主義の欠片もない絶対君主制に似た国家になっていることを、この研究員も承知している筈であるにも拘らずである。

 

その他、標的になった国として、モンテネグロ、ドイツ、フィリピン、エジプト、トルコ、スペイン、ジョージアなどの国がリストアップされている。お決まりのセリフは、「わずかGDPの0.92%(スペイン)、1.38%(ドイツ)しか防衛費を計上していない」や、「 ドゥテルテは、ころころ態度が変わり信用できない(フィリピン)」「ロシアの封じ込め役などではなく、むしろロシアと仲がいい(トルコ)」などである。

 

そして、最後に日本が俎上に上げられている。「東京(つまり日本)は、未だ平和憲法の影に隠れている」とか、「都合によっては適当に(平和憲法を)無視する一方、しんどい事はアメリカに頼ってばかりだ」と書いている。そして、挙げ句の果に、「真実を言えば、平壌や北京は米国の直接的脅威ではない」と言う。

 

米国の脅威でなければ、トランプが4人の騎士を配して、中国との対決戦略を煉る必要などないだろう。何度も言うが、この文章には別の意図が隠されているように思える。中国に対する敵対心を、ここに上げられた諸国の傲慢さや身勝手さを強調することで、希薄化すること。更に、米国と日本やヨーロッパとの同盟関係を分断することで、トランプ政権とその西側連携による対中攻撃の有効性を弱めることである。

 

この序論に「アメリカの同盟はアメリカの安全保障にプラスにならなければならない。それらは方法であり、目的ではない。その効果は他国の防衛に寄与するだろうが、その究極の目的は米国をより安全にすることである」という文章があるが、それは至極当然の理屈である。

 

上記がもし米国やその同盟国による連携した対中国封じ込め作戦を妨害するためのプロパガンダでないのなら、今の時期に、米国と同盟国との関係を現在という時間だけでスライスして取り出し、これらの同盟国は役立たないというのは、民主国に相応しくない考え方だろう。

 

3)日本との同盟関係は米国覇権の継続には必須である。

 

中国の台頭を意識したのは、米国のレーガン政権のころだろう。当時のシュルツ国務長官が、世界で一番大事な同盟は、日米同盟だと言ったという。日本国民はどう考えているかは兎も角、そして、それは決して日本人にとって幸せなことではないだろうが、日本が米国の対中国戦略の重要な位置にあることは明白である。30年後になって、今その「米国側にとっての日本の真価」が将に発揮されんとしている。

 

実際、インド太平洋地域の司令官であるPhilip Davidson海軍大将が、昨年7月18日、Aspen Security Forum(シンクタンク、アスペン研究所主催)において、「日本は地域でも最重要な同盟国であるだけでなく、世界(globe)でもっとも重要な同盟関係にある」と話している。

https://www.dvidshub.net/video/697704/us-indo-pacific-commander-discusses-china-aspen-security-forum (9分ころ)

 

上記Bandow氏の論文がまともなものなら: 米国は今後、世界の政治経済金融などのリーダーとして存在していくのか、それともこの辺で孤立主義に切り替えるかの議論が先ずなされるべきである。トランプ大統領が、「今米国が中国と対決しなければ、米国は中国の傘下に飲み込まれるのだ」という考えについても、議論しなくてはならない。

 

トランプが大統領候補の時代には、欧州各国や日本韓国などすべての主権国家は、自国の防衛を自国で行えば良いという孤立主義的考えだった。そして、北朝鮮や中国の核に脅威には、日本も韓国も核武装すれば良いではないかという発言もあった。大統領になって、その話は消えた。

 

3年間の在位により、大統領も理解を深め、成長するだろう。今、日本やドイツとの同盟解消は頭の中心(片隅には残っているだろうが)にはない筈。その結果、新しいバージョンの「日韓核武装」の話まで出ているようだ。朝鮮日報によれば、韓国、日本、台湾の核武装は「今後2カ月間で主に議論するテーマだ」とトランプが述べたという。http://www.chosunonline.com/site/data/html_dir/2020/08/13/2020081380004.html

 

このトランプの新しい発言の意味は以下のように解釈される: つまり、米国にとっても中国との本格的な戦争は、武力衝突のない単なる経済戦争でも、非常に大きな負担になっている。ましてや武力衝突になっては大変である。最小のエネルギーでの対中政策として、5Gネットワークなど先進部分に絞った形でのデカップリングと、日本、韓国、台湾の核武装の実現が、一番安上がりな対中国政策だろう。

 

同盟国への武力における中国の優位性が弱くなれば、中国の世界覇権の野望は消滅するだろう。それが、中国にとっても現在の経済レベルを維持する(中国一般市民にとって最良の)シナリオだと私は思う。このシナリオが中国共産党政権の世界覇権実現を目指すという遺伝子に本当に反するのなら、そこで国内問題として民主化がより穏便な形で議論されるだろう。その国際的圧力が強化された環境での歴史の進展が、中国国民一般にとっても良い話である。

 

ただ、心配がひとつある。日本の核アレルギーは日本国を滅ぼすことになるかもしれないということである。

(18:40 編集あり)

 

補足:

 

1)ケイトー研究所/財団(本部:アメリカ合衆国ワシントンD.C.)は、「小さな政府、個人の自由、市場経済」の立場から、米国の公共政策の議論を使命とするシンクタンクのようだ。リバタリアンを自称しているようだ。

尚この記事の日本語版は、最初ヤフーニュース(韓国の中央日報)が報じている。https://news.yahoo.co.jp/articles/70c793a09e223d86a0b8af72578144081f9411d9

 

2)一年ほど前に、トランプ大統領がその様な発言をしたという話が流れた。政府はそれを否定したが、十分考察しないで行った発言だろう。そこで思い出したのが、大統領候補のとき「韓国も日本も核武装すれば良い」という発言があった。

何でも原点から考えるトランプ大統領には、考えるだけなら何の制限も置かない。時として、口先から出ることもあるだろう。しかし、最終的には慎重な人だと思う。

 

3)第37代大統領のニクソン記念図書館でのポンペイオ国務長官の演説は、対中国政策の考え方について述べている。ニクソン訪中から始めて、中国との関わりを振り返っている。興味ある事実は、「中国は期待したようにはならないで、フランケンシュタインのようにならないか」とニクソン大統領が心配したことである。実際その通りになったことを、具体例を挙げて説明している。(その部分の原文:President Nixon once said he feared he had created a “Frankenstein” by opening the world to the CCP, and here we are.)

このスピーチは、バノン元補佐官の言う対中国戦争の戦略を担当する4騎士筆頭としてのスピーチであった。スピーチの中で、「My remarks today are the fourth set of remarks in a series of China speeches that I asked National Security Advisor Robert O’Brien, FBI Director Chris Wray, and the Attorney General Barr to deliver alongside me.」(私の今日の話は、ロバートオブライエン国家安全保障顧問、FBI長官クリスレイ、そして、バア司法長官に夫々依頼した中国関連のスピーチに続く、4番目のものです)と言っている。

https://www.state.gov/communist-china-and-the-free-worlds-future/

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