2021年6月20日日曜日

新型コロナパンデミックのモデル大転換から歴史の作られ方を学ぶ

1)将来の歴史書に新型コロナウイルス武漢病毒研究所起源説は記載されるのか?

 

新型コロナ(Covid-19)の発生源が武漢の病毒研究所ではないかという疑惑が、陰謀論から何時の間にかメジャーな見方になっている。G7サミットでも中国の名前を挙げて批判することになり、世界は民主主義圏と独裁圏に分かれての冷戦状態になったように見える。私自身は、民主国の見方(見通し)が正しいと思う。

 

このコロナパンデミックの理解に関する大きな変化を見て、「歴史の作られ方」というテーマで何か書けそうな気がした。つまり(結論は)、現代でも、歴史とは覇権の主により作られる物語だということである。(補足1)

 

新型コロナに関する上記最新の見方も一つのモデルであり、真実だという保証は無い。真実を知るには、一つのモデルを持つとしても、更にデータを集め、検証と考察を重ねる努力が必要である。それが真実に近づく科学的方法である。

 

その一方で、国際政治は予想を超えて動き、それに対して関係各国は、リアルタイムで応答する必要がある。その際の縛り(動機;束縛条件)は、各国家の支配層の利益であり、決して事実の解明ではない。その結果、国際政治もその現代史的理解も、真実から離れて定着する可能性がある。

 

上記モデルの大転換に関係している可能性が高い出来事は、米国国立アレルギー感染症研究所のファウチ所長が、武漢病毒研究所によるコロナウイルスの機能獲得実験を支援していたことである。

 

オバマ政権時代に高く評価されていたファウチ氏が、この武漢病毒研究所と深い関係にあったことと、パンデミックの原因としてコロナウイルスの武漢研究所からの漏洩説が浮上したなら、2020大統領選挙において米国支配層にとって何よりも鬱陶しいトランプを応援することになってしまう。そこで米国支配層は、ファウチ氏とその周囲に、この漏洩説を陰謀論として強く否定させたのだろう。

 

政権が予定通りバイデンに代わったが、中国のひどい人権弾圧や国際秩序を乱す行為に手を焼く米国は、この漏洩モデルを利用して中国を攻撃したくなった。その実行には、一端否定したこのモデルを復活させることが極めて有利であり、その場合、このファウチ氏関連の諸事実をバイデン政権に影響しない様に処理しなければならない。その一つの方法は、ファウチ氏とその周辺を上手く切り捨てることである。もしそれが出来なければ、最終的に研究所漏洩説はやはり事実ではなかったことなる可能性も残されている。(補足3)

 

以上を要約すると、将来の歴史書における新型コロナウイルスの起源に関する記述は、事実の解明という科学的視点と米国支配層にとっての利益はどうなるかという政治的視点の両方から決定される。この様な場合、力のあるのは政治の方である。実際、このようにして米国の歴史の中に非科学的な説が定着した例はこれまで結構あるだろう。例:https://ameblo.jp/polymorph86/entry-12466516473.html

 

 

2)歴史のつくられ方とそれに対する反抗の例:東京裁判史観

 

これまでの世界政治は、一般市民にも判る比較的単純なモデルで説明され、それらが歴史として蓄積されて来たように思う。第二次世界大戦では、いわゆる枢軸国が悪玉で、連合国が善玉である。本当はそのような善と悪の戦いでは無かった筈であるが、(現在の)国際政治はその“歴史”を基に成立している。

 

国家間の戦争では通常、味方を善、敵を悪とする。この単純なモデルは、国民に戦争への参加の義と意欲を与える。勝敗が決まれば、両国は講和条約により新しい出発点に就く。講和条約とは、戦勝国の作った歴史モデルを正史として採用し、戦敗国もそれに従うという合意約束である。(補足4)

 

例えば東京裁判史観と呼ばれるのは、戦勝国のモデルを日本の保守派が自虐的に言い換えたものである。そして戦後75年も経過すれば、そのモデルから日本が自由になり、その史観から脱却できると考える人が多い。つまり、現在の国際政治へ影響しないようにあの日米戦争をより自虐史観でない歴史として、過去の歴史巻物の中に封入する時期だというのである。それは可能なのだろうか?

 

この最も新しい数十年の外交や政治のファイルを、整理して近代史として創造する時、四方八方の政治勢力がそのプロセスに干渉するだろう。これが国際的歴史問題である。講和条約で用いられた歴史モデルを修正すると、当時の関係国の間の現時点の政治に、様々な圧力や応力を生じる。その責任を一体誰がとるのか? これらの事を考えると、歴史解釈の変更は、場合によっては講和条約の破棄につながる可能性があり、普通は不可能だろう。つまり、東京裁判史観を変更するには、講和条約締結国の同意を得る必要がある。そんなことが可能な筈がない。

 

歴史学が科学となりえるのは、実際の政治との関係が完全に無くなった時である。その時点では、歴史学と考古学の間に差がなくなるだろう。例えば、日本では2600年遡っても、現実の政治と歴史的出来事は絡んでおり、歴史学(日本史)は科学にはなりえない。(補足5)

 

3)安定な歴史の構築には敗者は殲滅されなければならない:敗戦国ドイツと日本の場合

 

ドイツが安定な近代史を構築できたのは、ナチスをその歴史において完全否定したからである。“絶対的な悪”を決定した後には、善の相対的修正は比較的容易である。国際秩序に根本的な変更が生じないからである。数年前に、ナチスの収容所で門番をしていた93歳の老人が有罪の判決を受けて服役した。この件を5年前に「ドイツの狡賢さと日本の愚かさ」と題して記事を書いたが、(今考えれば)あの件はドイツが連合国との間で締結した講和条約に従ったというだけのことだろう。https://ameblo.jp/polymorph86/entry-12466514445.html

 

日本の場合、降伏とその後の講和の段階では、日本は戦前の軍事政権を絶対悪とする連合国側の評価・決定を受け入れて、天皇制擁護(国体護持)を実現した。その軍事政権に対する評価とは、極東国際軍事裁判所の決定であり、それを国家として受け入れることは、講和のときに決定したことである。しかし、講和の際の約束でありながら、日本は大日本帝国を絶対悪と出来なかった。

 

その象徴として、東京裁判で戦争責任者とされた筈の人たちが、一般の戦死者が祀られるべき靖国神社に合祀されたのである。それを可能にしたのが、日本人は皆頑張ったという形で、戦争責任を他に押し付ける間違った思想である。そして日本国民は、戦争をまるで天災のような感覚で処理している。国際社会は本質的に野生の支配の世界であり、日本が敗戦国になった責任は日本人が取らなくてはならない。その原点に立たなければ、天動説と地動説を間違えるような結果になる。

 

「日本人は皆家族である」的な考え方で、嘗ての戦争責任者を許す思想は、右翼系に多い。その代表が、櫻井よしこ氏である。櫻井氏は、「独立を回復したとき、全国で戦犯の赦免及び保釈の運動が湧き起こった。赦免を求めて署名した総数は4739万人だった。A級戦犯をはじめとする全ての戦犯の赦免こそ、国民とほぼ全ての政党の切なる願いだった」などと語った。更に、「A級戦犯を含めた全ての戦犯は、日本国内外の合意と承認を得て赦されたのであり、合祀の時点ではもはやどの人も戦犯ではなかったのである」と言った。しかし、赦免されたとしても、戦犯では無かったとは言えない。そのごまかしが、日本の再生を妨害しているのである。

https://rcbyspinmanipulation.blogspot.com/2013/08/blog-post_29.html

 

櫻井よしこ氏のこの解釈は、もし講和条約を破棄するという覚悟も無いままになされたのなら、根本的に間違っており、知性の欠如である。

 

 

4)歴史的出来事の歪曲理解の例

 

歴史的出来事の歪曲の日本での代表例が、明治維新である。このブログでも2015年に「明治維新とは何だったのか」という題で、我々が中学や高校で習得し、NHKの大河ドラマで流された明治維新の物語は、実は山県有朋らが作った官製物語であると書いた。この歴史解釈の変更は、多少英国に圧力を発生するものの、古い問題でもあり可能だろう。ただ、高く立ちはだかる壁は、孝明天皇の死をめぐる疑惑である。https://ameblo.jp/polymorph86/entry-12466514404.html

 

慰安婦問題を含む日韓関係に対するモデルも、当然のように日韓で大きく異る。政治的環境の変化か、韓国における理解が徐々に日本の理解に近づいている。朴裕河教授(帝国の慰安婦)や李栄薫教授らによる(反日種族主義)修正は、より真実に近づく方向で行われ、それらは韓国の努力の結果である。勿論、この変化に対する見方は日本人(つまり私)のものである。(補足6)

https://ameblo.jp/polymorph86/entry-12532361574.html

 

全世界的なケースでは、例えば、「地球温暖化モデル」も事実の探求以前に、政治的匂いが強い。この件、今年2月に再度考察している。その結論だが、ある国際的政治勢力が非常に単純なモデルを建てて、自分たちの利益のために世界の政治経済をカーボンニュートラルという方向に牽引するため、そしてそれを通して世界覇権の実現のために利用していると思われる。(補足7)https://ameblo.jp/polymorph86/entry-12656482592.html

 

その際に利用するのが、Natureなどの一流の商業誌である。最初のホッケースティック図の誤りは、その後の温暖化現象の理解をむしろ阻害している。https://ieei.or.jp/2020/08/expl200819/

 

昨年からの新型コロナ問題も、このような見方をすれば、真実に近づくには少なくとも数年、下手をすれば数十年を要するのだろう。米国の視点の大転換は、単に事実に基づく議論が進んだというよりも、米国の国際政治の大転換の反映と考える方が正しいだろう。

(21:45 編集あり;6月20日午前5時30分編集と補足4、7の追加)

 

 

補足:

 

1)歴史は史実と思しきものを選択し、或いは捏造して、それらを繋げて作り上げた物語である。アジア最古の歴史書の史記も、日本最古の歴史書の日本書紀も、その物語は時の権力者が由緒正しく、偉大な使命として国を作り上げたと記していると解釈される。(岡田英弘著「歴史とは何か」、文春新書)

 

2)ファウチ氏がコロナウイルス漏洩説を陰謀論として否定したことと関係があると考えられる証拠の一つは、一流医学誌LANCETに掲載された27名連名のSARS-CoV2自然発生説を支持するレターである。このレターの投稿にファウチ氏に非常に近い人物、ファウチ氏の支援金を直接武漢研究所に送ったPeter Daszakという名前が存在している。ファウチ氏に近いDaszak氏は、WHOの武漢視察団にも入っていて、上記と同様の報告を出している上、武漢のコウモリ婦人こと石正麗と共著論文2−3報を持つ人物である。https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2021/01/post-95464.php 

 

3)ホワイトハウスはファウチ氏を評価し続けているようだ。SARS-CoV2の起源が武漢P4研究所であるという説には二つのバージョンが存在する。その一つは武漢P4研究室での遺伝子操作により作られ放出されたという説であり、もう一つはコウモリ由来のウイルスを研究中に誤って研究所から漏洩させたという説である。バイデン政権はファウチ氏をかばっているので、後者の説を採り中国との本格的デカップリングはしないつもりだろう。https://www.bbc.com/japanese/57353794 

 

4)この戦争のモデルも西欧文化が作り上げたものである。それはクラウゼヴィッツにより「戦争論」として整理されている。しかし、西欧文化により経済的に発展したにも拘らず、アジアの諸国はこの西欧文化を理解し従おうとしない。西欧諸国の間では、戦争後も講和後は付き合って行こうという前提、仲間意識がある。その文化を共有しないように見えるのが、アジアの大国と日本や韓国などの周辺国である。ドイツもナチス政権下の一時期、この戦争文化を無視した。戦後ドイツへの連合国の強い姿勢は、暗黙の西欧文化から遠く離反したからだろう。戦争が本当の野生の原理の下の国と国の戦いなら、敗戦国の国民全員が虐殺されることもあり得るだろう。暗黙の了解の消失は、人間文化の退化であり、それは西欧の見方では、恐らくアジアを政治経済の仲間に入れたからと考えている筈である。この世界経済の進行の背後に何があるのか? それは別のテーマであり、何度も書いてきた。

 

5)大阪府にある古墳の発掘は政府により禁止されている。https://www.mag2.com/p/news/399268

 

6)韓国も日韓基本条約締結後に政権により歴史解釈の変更を行っている。それが慰安婦問題や徴用工問題の賠償要求となって現れた。韓国も日本同様、自分たちが西欧文化の中に生きていることを良しとしながら、西欧文化を消化不良のままにしている。事後法で裁くことに禁止など法治の原則を十分国政に取り入れていない。

 

7)この世界的勢力は、中国共産党政権を利用する方針だったが、中国はそれほど単純では無かったのではないだろうか。つまり、西欧は中国を過小評価していた可能性があると私は思う。

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