2021年12月12日日曜日

中国人民の月収分布

中華人民共和国(以下中国)の国務院総理である李克強が、月収1000元以内の国民が約6億いるといって、一時話題になったことがあった。しかし、中国人の爆買いなどで、中国の経済発展が相当進んでいることを実感していた我々には若干意外だった。

 

しかしその後、6億人と言っても赤ちゃんも青少年や老人も含めての話であり、勘違いしてはいけないという指摘が中国専門家の遠藤誉氏よりなされた。そして、習近平との政争の中での発言であったことも影響して、今ひとつ頭に残らなかった。

https://news.yahoo.co.jp/byline/endohomare/20211109-00267232

 

しかし、12月10日のEpock Timesが提供する新聞看点というyoutubeサイトで、李沐陽氏が中国経済の今後には暗雲が立ち込めているという内容の話の中で、月収分布という形でかなり詳細なデータを紹介した。中国の大手投資会社の中金公司(公司とは中国語で会社の意味)が、全人口を月収で11の層に分け、そこへの分布を公表したのである。それにより、李総理の発言の意味が正確にわかるようになった。

https://www.youtube.com/watch?v=vIYbFP0oFIs (640〜)

上に引用の李沐陽氏の6:40からの話は、2億2000万人余りの月収が500人民元未満だというデータ紹介で始まる。

 

表によれば、中国では月収0の人が546万人居る。未就学児童や老人の人口を合わせば、数億人になることを考えると、ここでの月収は世帯の収入を世帯人数で割った値としての一人当たり月収と考えられる。また、それ以外には考えられない。(補足1)

 

つまり、上に引用の遠藤誉さんの言葉も不正確だったことがわかる。(追補1)おそらく、中国では世帯や家族という単位が、現代日本の家族などより明確であり、おそらく個人よりも重要な単位として存在するのだろう。一人当たりの月収を議論する際、日本なら家族単位で考えるという定義を予め示す必要があるが、中国ではそうではないのだろう。(補足2)

 

このデータ紹介が本ブログ記事の目的である。それだけで終わるのは貧弱なので、そのデータからジニー係数などを計算してみたので紹介する。

 

因みに、ジニー係数とは全人口の所得を下位から積み上げたグラフの両軸を1.0で規格化した曲線(ローレンツ曲線)から計算した所得の不平等分配を表す指数である。引用のウィキペディアの記事によれば、0.4以上が社会騒乱多発の警戒ラインである。(補足3)

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B8%E3%83%8B%E4%BF%82%E6%95%B0

 

下にその分布と解析図を示す。右上のグラフが月収分布曲線であり、縦軸は人数(億人)横軸は月収(人民元;一元はほぼ17日本円)

 

ここでは、月収500 元以上800元未満を800にラベルして示している。更に、二万元以上を仮に3万元として示した。月収二万元以上の人たちの収入分布は、特に大きな範囲に亘っているだろう。この部分の平均月収は、中国人民の暮らしむき(経済ではなく)を考える上でそれほど大きな意味を持たないが、ジニー係数には大きく効く。

 

図右下のローレンツ曲線から計算したジニー係数は0.476である。財務省の広報誌「ファイナンス」に発表された「中国における格差」という論文(2019年)には、各国のジニー係数が図示されており、その図を読めば2017年の値は0.48である。(因みに日本は約0.34である。)

https://www.mof.go.jp/public_relations/finance/201903/201903l.pdf

 

以上から、上記月収分布のデータが、ほとんど正確に中国人民の経済状況を表していることになる。今日はデータとその簡易的な分析を示して終わる。

 

尚、最初の李沐陽氏のyoutube動画は、今後の中国経済には暗雲が垂れ込めているという内容である。この中国の景気後退は、最初恒大不動産の倒産から不動産不況の形で始まるだろう。

 

 

この影響を、日米欧などはどのように受け、反専制主義を現在掲げている民主国のネットワークが、今後どれだけ維持できるか解らない。兎に角、来年は大変な年になると思う。

 

(18:00 編集、追補1を追加し、補足番号を整理)

 

補足:

 

1)月収0元の人とは、完全に自給自足で生きている少数民族だろう。自給自足とぶつぶつ交換では、月収として計上されない。0から500元も多くは自給自足にたよる農村部だろう。月収8500円は少ないようだが、日本の1950年台の農村部&大家族の家ではかなりあったと思う。

 

2)「こどもの貧困」が現代日本の問題として提起されているが、これも正しくは子供の親の貧困である。https://kodomohinkon.go.jp/hinkon/ また、最近の年収960万円以下の家庭の子供に10万円配るという話でも、政府与党は世帯の年収という言葉の定義を曖昧にして混乱を引き起こした。

https://news.yahoo.co.jp/articles/104dc7a4d5246063e9ee6292af30d74fd79f683c あらゆる問題に言えることだが、本質的な解決にはゼロから考える必要がある。そしてその為には、必然として言葉の定義には慎重且つ厳格でなければならない。https://ameblo.jp/polymorph86/entry-12466515785.html

 

3)ジニ係数は所得再分配後の値を示すのが普通であるが、時たま再分配前の値が出ることもあるので注意が必要。再分配とは、富者から税金をとり貧者に分配する制度である。社会保障や公的負担を通じて行われる。世界のジニ係数(再分配後)は以下のサイトにある。

http://top10.sakura.ne.jp/CIA-RANK2172R.html

 

追補1)遠藤さんの記事内では、”「働いている人の月収が1000元程度」と言っているのではなく、働いている人の世帯人口で割り算した一人当たりの収入を指している。”と書かれている。

この文の意味は、後で読み返して上記定義と同じだと分かった。「世帯人口」ではなく、「世帯の人数」と書いてあれば、さっと読んだとき誤解しなかっただろう。この点で誤解があれば謝ります。

0 件のコメント:

コメントを投稿