2022年3月18日金曜日

ウクライナ戦争から学ぶべきこと:

今回のロシアとウクライナの戦争は、両国の消耗により停戦となる可能性が出てきた。勝敗は明確には出ないかもしれないが、ロシアの戦略的失敗という点は明白だろう。日本人にも様々な教訓を与えたので、その幾つかを議論する。

 

 国際法はあてにならないこと

 グローバリストの勝利、ナショナリストの敗退

 核兵器が国家の防衛力を決定すること

 国の地政学的位置は外交戦略上の非常に重要であること

 

あくまでも一素人の理解です。

 

 国際法について:

 

国際関係が法治原則の下にないのは、今日の常識である。つまり、主権国家間の関係(国際社会)は、最終的には野生の支配下ということになる。ロシアのウクライナ侵攻は明確な国際法違反であるが、国際社会はそれを防止する能力がない。米国はスネに傷持つ大親分であり「国際警察」ではない。

 

ウクライナはソ連崩壊直後、世界有数の核保有国だった。しかし米国のクリントン大統領(当時)はウクライナ等から核兵器をロシアに移し、ロシアによる一元管理を考えた。ウクライナを核不拡散条約に加盟させる代わり、安全保障の覚書に署名した。ブダペストの覚書(1994年;核大国の米英露が署名と呼ばれる。(補足1)

 

法治の支配下にあれば、ブダペストの覚書は実効性のある契約書となり、ロシアにウクライナ侵略のオプションなど無かった筈である。ウクライナの悲劇は、ブダペスト覚書の本質が「核保持国のエゴイズム」だったことを証明した。そして、国際社会が野生の支配下にあることを再確認することになった

 

世界の一元支配が達成されれば、国際社会は法の支配の下に入る可能性がある。その理想論が、所謂グローバリズムだろう。そこへ直線的に目指すのは、共産主義革命の悲劇を繰り返すことになる。そのことはグローバリズムを主張している核大国の中心にある人たちは知っている可能性がある。

 

つまり、グローバリズムという理想論は戦略ではなく、つまり本当に世界の一元支配と法治化を目指しているのではなく、単に自己の利益のための一つの戦術の可能性がある。(補足2)それは、グリーンニューディールなどと同様である。本当に賢い(ずる賢い)人たちは理想論に毒されることはないだろう。

 

 

② グローバリスト米国の勝利、ナショナリストの敗退:

 

ウクライナは 1990 年、「受け入れない、作らない、手に入れない」の非核三原則を盛り込んだ『主権宣言』を採択し、翌年非核化の声明を発表しているので、ブダペストの覚書の決定は一応ウクライナ自身の選択でもあった。https://src-h.slav.hokudai.ac.jp/publictn/68/68-1.pdf

 

この時ウクライナは中立国の方針を採択しており、ロシアとの関係もそれほど悪くなかった筈であるが、その後徐々に悪くなった。その裏に2004年と2014年の内戦があり、それらには米国の深い関与があったことは周知である。

 

2019年にNATO加盟を憲法に書き込んだのは、クリミヤをロシアに占領されたからであるが、NATOの意向を確認しないで憲法に書き込むのは異常である。上述のように、ウクライナをロシア攻撃の武器とするために米国が狡猾に誘導したのだろう。そうでなければ、恐ろしく粗雑な政府・議会ということになる。(補足3)

 

2019年の大統領戦では、ユダヤ人の新興財閥(オリガルヒ)が中心的役割を果たしている。国家を持たない民族は、国際的ネットワークを張り、情報と知恵の交換で生き残ってきた。世界の金融のみならず、方々の政治も裏で支配を強めつつあるということだろう。https://ameblo.jp/polymorph86/entry-12466516264.html

 

ゼリンスキー政権には、公約違反が数々あり、ロシアのウクライナ侵攻まで国民の支持率が大きく低下していた。例えば、ドンパス地方でロシア人を殺害する極右団体を内務省下の正規軍にするとか、政権誕生から今日まで腐敗オリガルヒとの親密な関係などである。

 

これらゼリンスキー政権と極右団体との関係はウクライナのジャーナリストAnna Myroniuk氏の言葉として、3月2日の記事にも書いた。また、昨夜公開の及川幸久氏のyoutube動画では、アゾフ大隊のほか、C14とか右派セクター(the Right Sector)などの極右団体との関係もかなり詳細に説明している。(補足4)https://www.youtube.com/watch?v=xd2JuhnPhb0

 

そのような背景で、(以下はプーチンの視点からの記述になるが)ロシアが国家の将来を賭け、ウクライナから極右人種差別者たち(ゼリンスキーを含め)を排除しようと乗り込んだ。それに対し、米国は究極の制裁を課した。あのウイグル人権問題などで国際的に非難された中国にも用いなかった、「SWIFT(国際決済システム)からの排除」である。

 

それに加えて、ネットやマスコミを用いる大々的プロパガンダで、ゼリンスキーは英雄でプーチンは21世紀のヒトラーというレッテルが貼られつつある。米国側は、総合戦力で圧倒的な力を見せつけた。以上の出来事は、”グローバリスト米国の勝利、ナショナリストの敗退”のように見える。時代の流れを感じる。

 

 核兵器の国家防衛上の重要性:

 

ソ連崩壊のとき、独立国家共同体(CIS)が作られたが、その中で最も独立志向が強かったのはウクライナであった。スターリンによるホロドモール(下のHaranoTimesさん等が字幕をつけた動画を公開しているhttps://www.youtube.com/watch?v=guT9DHjo3-Q)の記憶やクリミヤの黒海艦隊の帰属の問題でトラブルがあったので、当然かもしれない。

 

この時のロシアへの核兵器移送がなければ、ウクライナは今回攻撃されなかっただろう。シカゴ大のミアシャイマー教授は1993年の論文で、「独立を宣言後すぐに、ウクライナは独自の核抑止力を作るように静かに奨励されるべきだった。今でも、ウクライナに非核国家になるよう圧力をかけるのは間違いである」と書いている。https://www.jstor.org/stable/20045622

 

伊藤貫さんが以前、同教授が「世界の20程のまともな国は、核武装した方が世界の安定には良い」と言ったことを紹介した。それを聞いた対談相手の西部邁氏は「その20カ国の中に日本も入っているの?」と、日本がまともな国20の中に入っていることに、安心なのか意外なのか分からない相槌を打っていた。

 

ウクライナ自身による国軍の非核化はウクライナ自身の選択でもあったが、これはロシアと一定の友好関係を維持するという覚悟がなければ出来ない筈である。隣国との関係は時間と共に大きく変化する可能性があるので、出来れば残したかっただろうが、英米の圧力に屈したのだろう。

 

実際、あるロシア関連の研究者の著作には以下のように書かれている。チェルノブイリ原発事故による核アレルギーの影響もあるが、「主権宣言の採択から完全な非核化を遂げるまでの6年の過程では核保有を主張する声もあり、むしろ経済的危機を背景に核兵器の維持が不可能となり、西側諸国からの核保有論に対する批判から非核化に追い込まれたというのが実状である。」(末澤恵美、「ウクライナの核廃絶」スラブ研究センター研究報告シリーズNo68)(補足5)

 

地政学的な条件の重要性(日本とウクライナの比較)

 

ウクライナ大使館のHPには、主権宣言(1990716日最高会議採択)で「将来において軍事ブロックに属さない中立国となり,非核三原則を堅持する国家」となることを明らかにしている。それなのに何故、2014年に親米政権を樹立し、中立国という方針を放棄したのか? (このことは、2月24日の記事日の記事に書いた)

 

 

 

ここで日本の将来を考える。日本の地政学的位置は、ウクライナのそれに似ている。ロシアに相当する国が中国である。NATOに相当するのが、日米安保条約である。日本は安保条約で一定の侵略抑止効果を得ているが、セクション①に書いたように、条約は所詮紙切れである。

 

そして、ホロドモールの被害国はウクライナだが、中国国民が信じている南京虐殺では中国が被害国となっている。中国では低学年から反日教育が実施されているので、小学生に日本人について聞けば必ず、「日本人って悪い人でしょう」と答える。これら諸点は、隣国の侵略を考える時、日本はウクライナよりも圧倒的に悪条件下にある。

 

ウクライナよりも好条件なのは、日米安保条約だが、その米国政治の背後の資本家たちとそのブレインたちに、日本は嫌われている。更に、中国こそこれからの米国のパートナーであるという考えが、彼らには存在する。そのことについては2017年の記事に書いた。

 

 

ウクライナに戻る。隣国ロシアが一強米国の殲滅のターゲットであったこと、そのロシアの隣国であるという地政学的条件、更にロシア経済が今ひとつで将来にも明るい展望に乏しいことなどが総合的にウクライナの悲劇のエネルギーとなった。ネオナチなどは導火線にすぎない。(補足6)

 

日本国はウクライナよりも犠牲として打って付けである。その日のために、米中両国民には十分悪役としての刷り込みがなされている。中国に侵略のエネルギーが生じてきているか、その導火線となるものは何か、それらを常に考えて備えなければならない。今回はウクライナの件から得る教訓というところのみ考えた。

 

(21時50分、改訂)

 

補足:

 

1)実際は、ウクライナの他にカザフスタンとベラルーシも核不拡散条約(NPT)に参加する代わりに、米英露が安全保障の覚書に署名した。

 

2)世界の一元支配が達成されれば、この問題は消滅するという理想論が、所謂グローバリズムだろう。そこへ直線的に目指すのは、共産主義革命の悲劇を繰り返すことになるだろう。

インターネットと生産性の格段の上昇などにより、人類はその方向へ進んでいることにある日突然気づくかもしれない。その時まで地に足をつけて、現実的戦略をとるべきだと思う。

 

3)ロシア潰しのためにウクライナを利用するという戦略はあり得る。それは、日本を潰すために韓国を用いるようなものである。

 

4)ゼレンスキーはロシアとの対立を無くすることを約束して大統領に当選した。しかし、その後、ドンパスを訪問した彼は超民族主義者(ネオナチ)の味方になってしまう。そのあたりの事情をTowards Freedomという独立系メディアが報道している。立候補直後のゼレンスキーは、自分のユダヤ人としての血統を軽視していたが、ロシアとの全面戦争になり、プーチンがウクライナからのネオナチ追放を主張すると、自分の血統を宣伝し始めた。それは米国メディアも同様である。記事は「ロシアとの全面的な情報戦争に従事している米国のメディアにとって、大統領のユダヤ人の経歴は不可欠な広報ツールになっています」と書いている。=>Towards Freedomの記事

 

5)北海道大学スラブ・ユーラシア研究センター(https://src-h.slav.hokudai.ac.jp

は国内唯一の総合的なスラブ・ユーラシア地域研究機関である。そこで発行されている研究雑誌だろう。この論文は上のセクション①で引用したサイトでpdfとして公表されている。https://src-h.slav.hokudai.ac.jp/publictn/68/68-1.pdf

 

6)プーチンがロシア帝国の栄光を夢見たとすれば、それはロシア経済が未だに資源の切り売りで生きる姿から脱却できないこと、つまり「21世紀の技術立国ロシア」などのビジョンがあれば、大昔の栄光が脳内で大きくはならなかっただろう。

同様に、日本が恐ろしい事態を経験するとしたら、中国経済が傾き、その原因を外に転嫁する欲求を中国首脳が持ち始めた時だろう。その時、①で議論したように、日米安保など”屁の突っ張り”にもならないだろう。

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