2022年6月30日木曜日

結局NATO首脳会議に出席したニュージーランド

6月29日と30日のマドリードでのNATOリーダーズサミットにニュージーランドの首相も結局参加した。前回記事(26日午前8時43分)で参加しないという同国メディアの記事を鵜呑みにして紹介したことが悔やまれるが仕方がない。

 



ニュージーランドのNewsHubが、18日にはNATO事務総長のニュージーランドを招待するというアナウンスを、続いて25日の段階で事務次長の招待しない(タイトル:NATO says New Zealand will not be invited to join at summit, but develop its partnership)とのアナウンスを掲載していた。(以上前回記事)

しかし、27日のThe Conversationという非営利の専門的メディアに、前回記事で紹介したオタゴ大学のパットマン教授の解説が掲載されている。https://theconversation.com/some-see-nzs-invite-to-the-nato-summit-as-a-reward-for-a-shift-in-foreign-policy-but-thats-far-from-accurate-185591

そこには、米国ワシントンに本部があるon-lineニュースマガジンの”The Diplomat” による26日付けのツイートが引用されている:”Ardern首相の連合王国会議へ欠席してNATO首脳会議へ出席する決断は、ニュージーランド外交の変化を象徴している”

Prime Minister Jacinda Ardern’s decision to attend the NATO summit in Spain – but to skip the Commonwealth Heads of Government Meeting (CHOGM) in Rwanda – symbolizes the changes she is making to New Zealand foreign policy.

ニュージーランド首相の参加は、NATOとアーダーン政権との話し合いで、25~26日のどこかで纏まったのだろう。

上記The Conversation でのオタゴ大学のパットマン教授の解説では、政権側の型どおりの考え方を紹介している。そこでは世界に流れている説:首相のNATO首脳会議招待の受諾は、ニュージーランドの独自外交が新冷戦の犠牲になったという見解を否定している。

(記事のタイトル)Some see NZ’s invite to the NATO summit as a reward for a shift in foreign policy, but that’s far from accurate

バットマン教授が否定する見解:

アーダーンの参加は、最近ニュージーランドが米国とその同盟国の反ロシア姿勢に近く、中国との距離を遠くとるという外交政策に変更したことに対する見返りである。

この外交姿勢の変化は、プーチンのロシアに対する制裁、ウクライナへの人道的および軍事的支援、そして太平洋への中国の関与の高まりに対する国民の懸念という形で示されている。

これらの変更は、アメリカの権力がニュージーランドに2つの超大国間のヘッジという好ましい戦略を放棄させ、自国の利益と中国との重要な関係を犠牲にしてワシントンに従うことを余儀なくさせたことを示している。


パットマン教授はこの見解に対して「現在の国際情勢とそれがニュージーランドの外交政策に与える影響に関するこのような見方は、真実から離れている」と否定している。

But this reading of the current international situation and its impact on New Zealand foreign policy is wide of the mark.

そして、新たな冷戦など存在しないと主張する:冷戦後の世界は冷戦時の世界と根本的に異なる。1947-1989年の期間は、地球規模の同程度の二つの経済システムが競争する世界だった。そんな性質は、グローバル化が進んだ21世紀の世界には存在しない。

The post-Cold War era is fundamentally different from the period between 1947 and 1989 and its rival global economic systems and competing but comparable alliance systems. Those features simply do not exist in the globalising world of the 21st century.

このような言い訳こそ真実から遠く面白くないので、これ以上は追及しない。要するに、教授がうがった見方であるとしているのが正しい見方なのだろう。

そして、パットマン教授の語るニュージーランドの姿勢は依然親中的である。それは、

アーダーン首相は、中国がモスクワと同じ分類とされるべきではないと述べた。しかし、彼女はまた、ルールに基づく秩序に対するプーチンの攻撃に強く対抗できないことは、ニュージーランドとの活発な貿易と文化的つながりを持つ一つの州である台湾を組み込むという中国の圧力を高める可能性があることにも留意します。

Ardern has said China should not be “pigeonholed” with Moscow. But she will also be mindful a failure to strongly counter Putin’s assault on the rules-based order in Ukraine could increase China’s pressure to incorporate Taiwan, a state with vibrant trade and cultural ties with New Zealand.

オタゴ大学のパットマン教授の解説はニュージーランド政府の公的アナウンスに近いと考えて良いだろう。

以上、26日朝の記事の訂正をさせて頂きました。今後はこのように専門性の高い部分には挑戦を差し控えるようにします。(10:30参加者の写真追加;おわり)

 

 

2022年6月29日水曜日

異文化と原点思考:デヴィ夫人による草薙への言葉

文化的背景が違う人たちと共に暮らすことは困難である。それは、人類が民族毎に主権国家を作って生きることの理由である。

 

その困難は、先日の米国左翼の地区検事の話を思い出してもらえばわかる。或いは、6月2日に紹介した米国の有力な圧力団体サイモン・ヴィーゼンタール・センターの副館長の「原爆投下は戦争犯罪だと思っていません」という言葉を思い出せば理解できるだろう。

 

既に日本に暮らしていても、異文化の背景を持つと思われる方が多くおられる。それらの人々の言葉や人物の評価を正しく行って異文化を学ぶべきである。一般に、日本など孤立民族が滅びやすいのは、異文化を正しく理解しないことである。中世の米大陸の原住民もその例である。

 

以上のことを分かりやすく説明するために、日本人の多くが関心をもったであろうケースについて議論する。下に引用のgooいまトピランキングの中の一節をご覧いただきたい。以下の文章で使われる”ディスる”という言葉は、英語のdisrespectに由来し、disrespectする、つまり”侮辱或いは無視する”などの意味だろう。若者の感覚が十分わからないので、原文のまま引用する。

 

デヴィ夫人が、614日放送の『踊る!さんま御殿!!』(日本テレビ系)に出演。共演者の容姿を次々とディスり、視聴者をザワつかせた。

 

俳優の手塚とおるは「全く共感されない私のポジティブorネガティブ思考」とのテーマで発言した。手塚の表情を見て「ちょっと待って。だからあなた、なんか容貌が不景気ですよね?」と突然手塚の顔をディス。手塚は「60年生きてきて初めて言われました」と嘆いた。

 

さんまはここで『宮下草薙』の草薙航基に「草薙も不景気やもんな?」と話を振った。草薙が「顔がですか?」と反応すると、デヴィ夫人は「あなたは(顔や容姿が)汚い」とバッサリ。スタジオから笑いが漏れる中、草薙は「汚い…?」と目を見開いて絶句していた。(原文のまま)

 

この場面をたまたま私も観ていた。そして、デヴィ・スカルノさんのこの言動に非常に腹立たしく思うと同時に、何故この人はこのような汚い言葉を吐くのだろうかと考えた結果、この方は異文化の背景を持っていると思い当たった。

 

そして、インドネシアのスカルノ大統領の第三夫人デヴィル・スカルノさんの起こした犯罪やトラブルをネットで調べてみた。

 

その結果、デヴィ夫人にはたくさんの裁判沙汰があることがわかった。その中に、私の記憶にのこっている件が一つあった。それは、1992年の米国アスペンでの事件である。

 

その頃は、デヴィ夫人の行為を名誉を傷つける言動(フィリピン大統領の孫に売春婦呼ばわりされた)に対する反撃であると考えていた。そしてその後書いたブログでは、デヴィ夫人を擁護する文章を書いた。(補足1)

 

このケースでは結局、デヴィ夫人に禁固60日・罰金700ドルの実刑判決が言い渡された。

https://www.dailyshincho.jp/article/2019/07300558/?all=1&page=2

 

2014年に日本のテレビ局で起こった暴行事件もよく知られているが、ただその詳細はアスペンの事件同様、徐々に消されようとしているように感じる。

 

あるバラエティ番組で、六本木のホステスだったある女性が、人生相談のコーナーに出演し、「デヴィさんのように玉の輿に乗りたい」と言ったのである。その言葉に「私は玉の輿に乗ったのではない」と腹を立てて、その一般人女性を殴った事件である。

 

事の詳細は、週刊朝日に掲載されたようで、それを引用した記事がAERAdotにあった。https://dot.asahi.com/wa/2014012800059.html?page=1 他人にディスれれば、その相手を殴る。その一方、隙あれば自分の鬱憤を晴らすかのように、他人をディス

 

いったいこの人はどのように教育されたのだろうかと思い、デヴィ夫人の幼少期からの話を掲載したサイトを探した。https://invitesnostalgia.com/the-beautiful-mrs-devi-was-called-the-oriental-pearl-in-the-midst-of-the-battle-i-asked-an-enemy-general-to-meet/

 

相当貧しい幼少期を送ったようだが、それでも十分な理由にはなり得ない。そこで結論として、異国の文化を受け継いだ人なのだ思うことにした。或いは仮に、同じ日本民族の一員だと考えると、民族のアイデンティティが崩壊しつつあるのかもしれない。

 

兎に角、このような人物を頻繁に出演させるテレビ局は日本と日本人を馬鹿にしていると思う。

 

ただ、その時の腹立たしさは、デヴィさんを普通の人と考えていることの証拠である。もしテレビ局が日本の機関なら、原点から考えて、この人との付き合いをかんがえるべきである。(補足2)

 

尚、ディスるなんて言葉は嫌だが、言葉を変えると違う意味になるように感じたので、原文に従って、そのまま用いた。表題は、異文化との付き合いには原点思考が必須であるという意味。

 

2)戦いの本能を失った動物は美しくない。

デヴィ夫人が「あなたは(顔や容姿が)汚い」と言われた草薙だが、スタジオから笑いが漏れる中、草薙は「汚い…?」と目を見開いて絶句する以外に、何もできなかった。

ここでは、日本人の情けない姿が露呈された。ツカツカとデヴィさんに近づいて、平手打ちを見舞うべきだった。しかし、そのように振舞った場合、日本文化に染まった周囲から、十分な理解は得られないだろう。「やっぱり暴力はいけないです」というだろう。

その上、今後テレビ局は草薙を出演させることを避けるだろう。その現実を知って、何もできないのが日本人である。そこで非常に情けないのは、それを「暴力は不道徳だから」と自分でも納得してしまうことである。(補足3)

 

またの機会に議論したいのだが、「私は、一方で戦いを肯定する。戦いの中に美しいものを認めもする。否、戦いの無いこの時代に倦みさえしている。」そんな文章が月刊クライテリオンに掲載されていた。小畑敏という方の文章である。

 

この日本に対する指摘は、警告のようにも聞こえる。


3)三つの思考:哲学的思考、パラダイム的思考、現実思考

我々が物事を考える時には、そのレベルを先ず決定する必要がある。ボクシングをする場合、先ずそのリンクを設営する必要があるのと同様である。表題は、その3つの思考のレベルを表している。(補足4)

 

異文化との付き合いには現実思考だけでは解答が得られない。最終的には哲学思考(つまり、原点思考)からスタートする必要がある。

現在の国際政治は近代西欧文明の枠組みで考えるのが普通だったが、ある有力な(少数)民族が国際的に力を持ち出したとした場合には、(自分達が生き残るためには)思考のレベルを原点思考に戻す必要がある。一方、単一民族の現在の政治課題が対象なら、政策レベル(現実レベル)の思考で、能率の高い議論をすべきである。

 

繰り返すが、異文化の背景を持つ方との付き合いは、原点から考えて、決めるべきである。原点では人間は動物に戻る。法律も道徳も無い。そこから、現在の文明へのプロセスを考えて、ある異文化を背景に持つ人の行為を評価し、それに対する自分の行動を決定するのである。

 

その原点思考(或いは哲学的思考)では、サイモン・ヴィーゼンタール・センターの副館長の「原爆投下は戦争犯罪だと思っていません」という発言も、彼らが支配する社会では不道徳でも不思議でもなくなるのである。

 

つまり、副館長の言動の背後には「日本人は異文化の人たちであり、あの戦争で米国が受けた大きな損害は、異文化との闘いだったからだ」が存在する。つまり、映画「猿の惑星」の原作を思い出すべきである。(ウィキペディア参照)

 

更に、ロシアとウクライナの戦争が米国とロシアの戦争であることは、少し知的な人は十分知っている筈。そして、その戦争の背景にあるのは、文化的背景が異なる二つの覇権国の間の戦争であることに気付くべきである。

 

つまり、この戦争を国際法違反という人間文明の最後の方の基準で善悪判断すべきではないし、そのパラダイムでは全く理解できないということを意味する。そして、現在ロシアの原爆が未だ落とされていないのは、恐らくプーチンが敬虔な正教徒だからだろう。プーチンが思考の前提を原点に戻せば、その時核兵器はどこかに落とされるだろう。

 

最後に、この記事の中のディス(ブログ筆者の注:ディスる=disrespect; 侮辱する、馬鹿にする)という表現が、情けない。適当な日本語はないのかと思う。以上、自分の覚書としてこのブログサイトを借りて掲載・保存します。

(10時20分、編集あり;14時 最初のセクションの最後に一文章追加)

 

補足:

 

1)自分の尊厳(dignity)を守ることは人権の範囲に入る。その意識が日本人に少ないことを憂い書いたブログ記事だった。そしてデヴィ夫人が自分の尊厳を貶された場合には、平手打ちも許されるのではないのかと考え、以下のブログ記事の補足4に書いたのである。https://ameblo.jp/polymorph86/entry-12561622325.html

 

2)実は、この場面をテレビで観たのが、この記事を書く動機である。もっともらしく前後を囲っているが、それでも不自然だと気づかれる方のために書いたのが、この補足である。

 

 

3)米国のオバマ大統領が広島を訪れ、生存している被爆者の男性と面会した場面を覚えている人は多いだろう。そこで、なんとオバマがその男性を緩やかにハグするのである。それは美しい和解の儀式と見た人は多いかもしれない。しかし、オバマはドローン兵器で約3000の異国人の殺害を命令した人物であることを知っていたのだろうか? オバマが土下座したのなら兎も角、あのような醜い光景は、原点思考が出来ない日本人の姿である。

 

4)文系の方は、philosophical level, paradigm level, policy levelというらしい。哲学、枠組み、政策の3レベルである。

 

2022年6月26日日曜日

NATO首脳会議に出席する日本と欠席するニュージーランド

今日からドイツでG7首脳会議が開かれ、食糧危機やエネルギー危機についての話が、ロシア批難の合唱とともに出されるだろう。それに続いて29日と30日には、スペインでNATO首脳会議が開かれる。NATOメンバーではないものの、日本、韓国、オーストラリアの首脳も参加する。


 

これらの国々は、米国と軍事同盟の関係にある主な国々全てである。NATOの太平洋バージョンの結成ではないかと勘ぐる向きも多いだろうが、ホワイトハウスの報道官は否定している。


 

今回の拡大NATO首脳会議の意味と、その会議に日本、韓国、オーストラリアが参加し、ニュージーランドが参加しなかったことの意味を、夫々考えてみる。


 

1)ニュージーランドの首相が参加しない決断をするまでの経緯:

 

618日、ニュージーランドのメディアNewsHubは、NATO事務局長Jens Stoltenberg氏がオーストラリア、日本、韓国、ニュージーランドの指導者を今回のNATO首脳会議に招待したと報じた。(補足1)

 

Stoltenberg氏は、この招待は、アジア太平洋地域の志を同じくする国々とのNATOの「緊密なパートナーシップ」の「強力なデモンストレーション」であると述べた。今回のNATOサミットで、次の10年間の戦略を設定し、同盟が直面しているセキュリティ上の課題と、それらに対処するために何をするかを決定するとのこと。

 

また、防衛力の強化、ウクライナの更なる支援、フィンランドとスウェーデンの加盟申請についても話し合う予定だという。

https://www.newshub.co.nz/home/politics/2022/06/jacinda-ardern-first-new-zealander-to-be-invited-to-speak-at-nato-leaders-summit.html

 

しかし、25日になって同じメディアがNATO事務次長の言葉「ニュージーランドは今回の首脳会議に招待されない。しかし、ニュージーランドとの協力は、ロシアや中国などの独裁国の台頭と対抗するために大事である」を報じた。

https://www.newshub.co.nz/home/politics/2022/06/nato-says-new-zealand-will-not-be-invited-to-join-at-summit-but-develop-its-partnership.html

 

18日の報道は、招待の打診(または予定)を、間違って招待と報じてしまったのだろう。実際、下に引用の20日の記事では、招待される予定と書かれている。当然受け入れる筈だと思ったが、ニュージーランドの女性首相のJacinda Ardernが、世論and/or 中国との関係などを考慮して参加しないことに決めたのかもしれない。

 

そのNewsHub620日の記事の表題は、「何故連合王国会議(20日、ルワンダ)に出席しないでNATO首脳会議に出席するのか?」というものである。ニュージーランドは、連合王国会議に外相を派遣した。同じ会議にオーストラリアが副首相を派遣したのは、首相がNATO首脳会議に出席しなければならないからだろう。

 

アーダーン首相が連合王国会議に欠席しながらNATO首脳会議に参加しなかったのは、最初からNATO首脳会議には欠席の予定だったが、決してNATOを軽く見たのではないという姿勢を示しす為だったのだろう。


 

2)NATOサミットへの日韓首脳の招待は、ウクライナ戦争の真の意味をあらわしている:

 

611日の私のブログ記事「米国ネオコンが心に抱く新しい世界:ウクライナ戦争の今後」において、伊藤貫氏のウクライナ戦争の性質に関する指摘:「今回の戦争は100年間に一度起こる世界の構造転換の戦争であり、かなり長期に及ぶ可能性がある」を紹介した。

 

ここで再び最初に紹介したNewsHubの記事の中での専門家の指摘を引用する。ニュージーランド最古の大学オタゴ大学の国際政治の教授であるRobert Patman氏は、「この招待は重要で、現在の国際情勢の重大性と現時点のヨーロッパが極限状況にあることを現わしている」と語る。
 

また、「ニュージーランドとオーストラリア、韓国と日本は地理的にNATOから遠く離れているが、価値観と国際秩序へのアプローチの点でNATO諸国と多くの共通点があるという認識がNATO諸国にある」、「ウクライナでの戦争の劇的な背景を考えると、私たちがNATOに招待されたのはおそらくその様なNATO諸国の認識があったからだと思う。」(補足2)

 

ウクライナでの戦争の劇的な背景の意味だが、恐らく米国の代理として、ウクライナがロシアと戦っているということを意味しているのだろう。https://ameblo.jp/polymorph86/entry-12735014774.html

 

これだけ重要な会議だと同じ国の専門家が言っているにもかかわらず、アーダーン首相が欠席するのは、NATO首脳会議の期待が何かを彼女が予想できており、且つ、ニュージーランドがその期待に答えられない、或いは答える積もりがない、と分かっているからだろう。

 

NewsHubの記事の最後の方で、「サミットで、アーダーンはNATOの指導者たちに、この国が決定的に依存している規則に基づく国際秩序の重要性を再確認することを望んでいる」だろうというパットマン教授の言葉を紹介している。

 

ニュージーランドの女性首相は左派の政治家として知られている。今回のウクライナ戦争は、「規則に基づく国際秩序の原則」に何重にも違反しているのだろう。ロシアが規則に基づく国際秩序の原則に違反したことは言うまでもない。それは、彼女が参加しない理由にはならない。

 

今回のロシアによるウクライナ侵略は、NATOの総元締である米国による「規則に基づく国際秩序の原則に」に反したウクライナへの政治干渉の結果であることが、まともな政治家なら分かっている筈である。

 

このブログ筆者の想像だが、NATO首脳会議の共同声明の内容が、ウクライナを当事者的に支援すると概ね決定されていることを知ることになったのだろう。彼女の理想の実現が果たされる可能性がなければ、ニュージーランドの利益にはならないと結論した可能性が大である。


 

3)日本と韓国は第二のウクライナになる

 

NATOは、これらの太平洋地域の国々とも様々な協力関係を持っているが、日本や韓国まで招待して首脳会議を開催するのは初めてである。それだけ、拡大しなければ、今回のウクライナ戦争に対する十分な対処が出来ないということを意味する。
 

この辺りでウクライナ戦争を止めさせるべきだと、米国のキッシンジャー氏がダボス会議で発言したのだが、そのように出来ないと現在のNATO首脳、つまりバイデン政権が考えて居るのではないだろうか。

 

それが全子分国を集めて、スペインで会議を開く理由だろう。つまり、これまでのレベルでのウクライナ支援ではウクライナは敗れ、ロシアが殆ど弱体化しないということだろう。そこで考えるのが、これも筆者の想像だが、ロシアに東の方から嫌がらせをする作戦である。

 

この会議の後、日本や韓国が軍事力を増強するだけでも、西方で戦うロシアには大きな圧力になると考えられる。もし、東アジアで一発でも銃声が響けば、ロシアは二面作戦を強いられるからである。

 

日本は、これまでのウクライナ支援でも、ロシアから敵国指定されている。更に、ロシアの有志議員は、これまでの93日の戦勝記念日の名称を「軍国主義 日本に対する勝利と第2次世界大戦終結の日」とする法案を下院に提出したようだ。https://www3.nhk.or.jp/news/html/20220624/k10013687671000.html
 

つまり、今後恐らく100年ほどは、日本と冷たい関係になることを確信しているということだろう。それは、中国の支配下にはいる日本の将来の姿を、より一層鮮明にすることを意味している。今回のNATO首脳会議に参加することは、そのような重大な決断であることを岸田首相は承知しているのだろうか?

 

もし、戦争があと半年から一年まで続けば、ロシアは核兵器を使う可能性がある。その場合のターゲットとして、日本の北海道周辺が心配される。既にロシアは北海道の領有権を主張しているのだから、ポーランド国境よりもモスクワから遠く離れた北海道周辺の方が落としやすいだろう。ロシアも、ヨーロッパとの敵対関係を決定的にするよりも、日本との敵対関係を明確にする方が荷が軽い。
 

その時、NATO諸国は挙って日本支援を叫ぶだろう。つまり日本は第二のウクライナである。

 

今回の米国による日本や韓国の招待は、非常に重い意味がある。参加せずに済ませることは非常に困難である。しかし、喜んで参加することはないだろう。つまり、参加するにしても、ぎりぎりの判断で参加したというポーズをとるべきだったと思う。

 

勿論、主権国家なら、今回のNATO首脳会議への参加は、断ることも可能だった。それはニュージーランドの決断を見ればわかる。マスコミなどを使って反対の世論を醸成することも可能である。日本国民の一人として、あまりにも当たり前の顔をして、或いは喜んで参加する首相には腹が立つ。

 

追補: 集団的自衛権は、日本の防衛上非常に大事であると、今日午後の「そこまで言って委員会」で、ある評論家が言っていた。しかし、戦争を好んでする国家との同盟関係を考えれば、それは逆かもしれない。たとえば、第二次大戦で米国との戦争になったのは、三国同盟が主原因である。
(17時編集、追補の追加)

 

補足:

 

1)念のため原文を示す。NATO's Secretary General, Jens Stoltenberg, has invited the leaders of Australia, Japan, South Korea and New Zealand to attend the military alliance's meeting in Spain held 28-30 June.(下線はブログ筆者による)


2)これも念のために原文を示します。"There's a recognition among NATO that although New Zealand and Australia and South Korea and Japan are geographically a long way from NATO, they share a lot in common in terms of values and in their approach to international order.

"So I think that's probably why, given the dramatic backdrop of the war in Ukraine, that we've been invited to NATO."

2022年6月24日金曜日

米国サンフランシスコの地区検事のリコール

6月7日、サンフランシスコの有権者は、刑事司法改革における国内で最も先駆的な実験の1つに終止符を打った。現金保釈を廃止し、刑務所に送られる人々の数を減らすために働いた地区検事のChesa Boudin氏をリコールしたのである。
 

このニュースは日本ではあまり報じられていないが、香港系のyoutube動画「役情最前線」で、今年の米国や中国等での重要な選挙に関する話の中で解説されていた。この犯罪者減らしの話は以前にも聞いた記憶があるが、あまりにも異常であり、真偽は明白ではないとして放置してきた。https://www.youtube.com/watch?v=9TFrzgf5RQg

 

 

この動画によると、Chesa Boudin氏は、2019年の選挙では50.8%の得票率で当選したが、今回60%程の票で、リコールされることになった。地区検事が選挙で選ばれるというのは、日本では考えられないが、他の地区での結果などもネットに公表されており事実だろう。(補足1)
 

サンフランシスコ地区検察の方針は、HPはその理想主義的方針の考え方が記載されている:https://www.sfdistrictattorney.org/about-us/
 

Chesa Boudin地区検事はこの2年間の在任中に、極端な実験とも言うべき検察改革を行った。主なものは、①Cash Bail(現金保釈制度;補足2)の廃止、②”生活の質が低いことが原因の犯罪”は起訴しないこと(補足3)など。その左翼的な改革は、結果的に強盗などの犯罪増加の原因となった。

 

の「生活の質が原因の犯罪」は分かりにくいが、強奪や強盗でも950ドル以下のものはその範疇に入るという。つまり、スーパーで900ドル程度の品物を万引きしても、罪には問われないのである。全く信じられないという人が殆どだろうが、それは真実である。次の動画がそれを証明している。https://www.youtube.com/watch?v=2n10KfB1zPs
 

 

 

民主党左派の極端な思想を背景にした運動として、他にもシアトルでのBLM運動の延長上での解放区の設営があった。この解放国は民主党の市長により黙認されていたが、一ケ月ほどして多発する犯罪で敢え無く店じまいとなった。いずれも、単純な理想論に走った結果であり、失敗に終わるのは当然である。https://diamond.jp/articles/-/247423 

 

民主党左派は、暴力共産革命やアナーキズムを主張する人たちも含む。かれらの政策が実現されても、多くの悲劇とともに失敗に終わるのが必至である。そしてこの共産主義的理想主義が、米国の政治だけでなく、法曹界にも影響を及ぼしていることが分かる。「生活の質が原因の犯罪は罰しない」というBoudin検事の方針も、共産主義的理想論に基づくだろう。

 

人は全て平等で、現代文明の恩恵を等しく受けるべきである。ある人が非常に裕福であり、別の人は非常に劣った生活しかできない場合、後者は生活苦故に窃盗などの犯罪に走る可能性が高い。それを罰するのは、本質的に不公平である。

 

この考え方は、ある程度説得力を持つ。しかし、この検察の方針では、社会を維持する基本的なルールが崩壊し、その被害は全ての人に及ぶ。そして、人の性格や価値観には分布があるので、生活苦など主観的な感覚は社会のルールに持ち込めない。それらのことを意図的に見落としている。
 

その方針は、いったい何に由来するのか? 民族的怨念によるのか、Boudin氏の偏った思考癖によるのか分からない。異常な背景を持つ非常に優秀な頭脳は、突飛な理想論で一般人を不幸にするのだろう。「役情最前線」の動画では、この地区検事が生まれ育った環境などを紹介している。
 

2)Chesa Boudin氏の略歴から地区検事当選までの経緯

 

リコールされた地区検事の略歴を知ることは、個人攻撃に堕することがなければ、このような思想の背景などを知る上で有用だと思う。それは、米国という社会の層の厚さを学ぶことにもなると思う。

 

Chesa Boudin氏の両親は、極左毛沢東主義の”Weather Underground”(日本語サイトにはウェザーマンとして紹介されている)の運動家であった。Weather Underground はミシガン大学におけるベトナム反戦運動の学生組織から生まれた。

 

この極左組織は、1970年、爆弾を製造している際に爆発事故を起こし、FBIの捜査を受けた。メンバーのかなりが逮捕され、結局1970年代後半に解散することになった。そこで、彼らの一部は別の極左グループ「519日」を創ってそこに移った。

 

Chesa Boudinの両親も、その中で左翼暴力革命家としての活動を続けた。因みに、519日はベトナム民主共和国の初代主席ホーチミンの誕生日である。https://en.wikipedia.org/wiki/May_19th_Communist_Organization

 

彼らは、19811020日、現金輸送車を襲撃し160万ドルを奪う事件の犯人グループとして逮捕された。Boudin検事の父親が75年、母親が20年の禁固刑を受け収監された。生後14ケ月のChesa Boudinは、Weather Underground の創設者であるBill Hyersの下で養育された。https://en.wikipedia.org/wiki/Bill_Ayers

 

母親のKathy Boudinは刑務所で多くの論文と何冊かの本を書き、収監23年後に出所し、コロンビア大学の法科大学院(Law School)で教鞭を執った。Boudin家は著名なユダヤ人大家族であり、多くの裁判官、弁護士、共産主義活動家などを輩出している。

 

Chesa Boudin氏は、2011Yale 大学法科大学院で博士号取得、サンフランシスコ公設弁護士事務所で博士研究員として働き、その後プロとしての仕事をする。

 

博士課程の時代には、南米ベネズエラのチャベス大統領のオフィスで通訳を行うなどの活動を経験している。米国の社会主義者らは、南米の社会主義者や共産主義者と友好的なようだ。

 

2015年にはサンフランシスコ公設弁護士事務所の次席公設弁護士としてフルタイムで働く。そこで、保釈金の設定が、容疑者の支払い能力を十分考慮していないとして、カリフォルニアの保釈制度は憲法に反するという議論を始めた。
 

2019年の選挙で、暫定的に地区検事だった対立候補を破った。Boudin氏は、現金保釈の排除、不法な有罪判決を再評価するためのユニットの設立、移民税関執行(ICE)の支援拒否などを実行し収監者を減少させると、選挙キャンペーンで主張し当選した。

 

サンフランシスコ警察官協会などはBoudinを落選させるべく活動したが失敗した。当時のWilliam Barr連邦司法長官も、警察を弱体化させ、犯罪者を野放しにして公共の安全を危険にさらすと、Boudin氏と彼と親しい地区検事たちを非難した。
 

尚、Chesa Boudin氏の父親は、収監中のニューヨーク重罪刑務所で40年経過したとき、Boudin検事の申請を受け入れたクオモ州知事により保釈された。クオモ知事は、新型コロナの流行もあり人道的見地から辞任直前に保釈を許可した。クオモ知事のセクハラ疑惑(これは有名になった)は、民主党系が仕掛けたことだろうが、ぎりぎりの所で決断したのだろう。

 

3)米国極左の運動

 

役情最前線の動画では、米国左翼のCritical Race Theory CRT;批判的人種論)の原点にあると思われる思想がWeather Undergroundの思想との関連で紹介されている(7分あたり)。これについて一言書いておきたい。
 

このCRTでは白人には原罪があるとし、その根拠を以下のように考えているようだ:

白人たちは白人至上主義(有色人種との差別化)の恩恵を受けている。全ての人種は平等であるべきだから、白人たちは生まれながらに(その時代を共有した黒人たちに対する)犯罪歴を持っていることになる。彼らはそれを考慮し省みない限り、罪を犯していることになる。
 

この思想は、米国における犯罪率、収監率、平均所得などに人種間で大きな差があることを足場にして、貧しい黒人側の思想として考え出されたのだろう。この人種間の社会的経済的格差に対する黒人やヒスパニックらの苛立ちが、CRT、キャンセルカルチャー、BLM運動などを産み、左翼運動の活動エネルギーになっている。

 

従って、BLM運動のBlack Lives Matter というフレーズは、「黒人の命は大切だ」であり、「黒人の命も白人や黄色人種の命同様大切だ」という意味ではない。つまり、批判的人種論の逆差別思想と共通の思考が背景にある。

 

この逆差別を要求するCRTBLMの膨大なエネルギーを何らかの形で解消しなければ、米国の政治的安定は無い。そして、このことは世界の安定にも重大な影響を持つ。このエネルギーに由来する左翼運動を制御できるのは、この左翼運動の原点に存在するユダヤ人たちかもしれない。(補足4)その一人としてあらわれたのが、Chesa Boudinサンフランシスコ地区検事だったのだろう。

 

仮にトランプが次期大統領選で勝ったとした場合、このエネルギーは一層激しく燃え上がるだろう。逆にトランプが民主党の選挙介入などで負けたとした場合、WASPを代表とする側の反発は尋常ではない筈である。平和な世界はあと2-3年しかないかもしれない。ウクライナ周辺は既に混乱しているが、日本周辺も同様になる可能性がある。

(短縮及び最終編集27日、7:00)
 

補足:

 

1)地区検事に立候補するにはその州の司法試験(2月と7月)合格者でなくてはならない。更に、道徳性、犯罪歴、健康などの良好なことなどが地区の司法管轄者によりテストされる。通常は、地区検事補になった人から選ばれるようだ。https://www.indeed.com/career-advice/finding-a-job/how-to-become-district-attorney

このサンフランシスコ地区検事になった人として、現在の副大統領カマラハリスも居る。現在サクラメントの地区検事の選挙が進行中で、その得票数が数万のレベルであるので、選挙民としては議員などの選挙と同様だろう。https://www.kcra.com/article/2022-california-primary-election-sacramento-county-district-attorney/40181025#

 

2)重罪でなく再犯の可能性がなければ、裁判まで一定の保釈金を受け取って保釈する制度。ここで「現金保釈の廃止」が意味するのは、収監のまま放置することではなく、収監しないことつまり処罰しないことを意味する。①②から、軽微な犯罪は逮捕後直ちに釈放されるので、警察は逮捕すらしないことになる。それが犯罪率の激増となり、今回のリコールに繋がったのだろう。


3)米国の人口は世界人口の約5%であるが、世界の刑務所収監者の約20%を米国が占める。この大量収監の問題を根本から解決しようとBoudin地区検事は考えた。「犯罪の根本原因としてこの社会に差別があるからだ」という左翼思想を信じるBoudin検事は、相当な犯罪でも目をつむる(起訴しない)ことにしたのである。極左以外の人達は、社会を崩壊させることになると批判するのは当然である。民主党支持者のユダヤ人法律家Boudin氏に、それが分からない筈はない。私の想像だが、「犯罪という結果には原因がある。それが明確に表面に出るようにしただけだ。次に、その原因を解消するのは政治家の役割だ」とBoudin検事は答えるのではないだろうか。

 

2022年6月18日土曜日

日本人拉致問題の本質的解決

1)馬渕元ウクライナ大使による拉致問題解決に向けた話

 

最近、元ウクライナ大使である馬渕睦夫氏により北朝鮮の拉致問題の解決を妨げるものについての話がyoutube動画で公開された。https://www.youtube.com/watch?v=lC8gNmqxaAU

 

 

最初の方で馬渕大使は:
 

「北朝鮮による日本国民の拉致は、国家による侵略行為であり、戦争行為の一種である。本来なら、日本は北朝鮮に対し攻勢に出て然るべきだが、それが何十年と出来なかった」

「それが、北朝鮮問題というか、朝鮮半島情勢、或いは戦後日本の政治体制と言って良いのですが、それの闇というものの縮図である」

 

と仰っている。この言葉は本質的に正しいと思うが、文章①「攻勢」の意味が不明確であることや、文章②が回りくどい表現になっていることが不思議であり、その理由がわからない。特に②の「闇」とは何なのか、この動画の後の方にも説明がない。米国の朝鮮半島政策のことを言うべきなのだが、それを意図されているのかどうかもこの表現では分からない。
 

そして、
➂「この本質的問題があるにしても、とにかく拉致被害者を全員取り戻すことが政治的に重要であるから、様々な方法(タクティックスと言っておられる)を使って政治的解決をすべきである。その為に前提条件なしに金正恩に直接会ってこの問題を提起するのは、正しい方法だと思う」

 

と発言されている。しかし、そのような解決は間違いである。その指摘が本記事の目的である。


④「(上記①の理解に基づき)日本がこの問題を正面から取り上げるには、その為の土台が出来ていない。土台とは、軍隊が無いこと、そして情報機関がないこと等である。北朝鮮にはそれら両方があり、そこに日本と北朝鮮の差が生じている」と。
 

このあたりから、話が世界に対する情報戦について、日本が何もしてこなかったこと、国内メディアがまともに報道しなかったことなどを非難する内容となる。拉致問題について、正しい出発点(①の本筋論)に立ちながら、それ以下の議論は方向としては正しいものの、纏まりを欠く分かりにくい話で、非常に残念である。


上記➂の間違った議論になるのは、一つには、以下の様な分かりにくい言葉や表現を用いるからだろう。つまり、「政治的に重要」の政治的という言葉、「金正恩と直接会う」ことの政治的外交的定義付け、「問題を提起する」での提起という言葉など、意味が分かりにくい。何故このような表現になるのか、理解に苦しむ。そこで、以下のようなコメントを書いた。


非常に分かりにくい話です。根本にあるのは、朝鮮戦争が終わっていないことと、日本が北朝鮮を承認していないことです。日韓基本条約では、北朝鮮を含めて朝鮮半島全体を韓国の領土としていますから、韓国の了解を得て軍隊を(日本の立場としては原野と同様である)北朝鮮に出兵して取り戻すのが本筋の解決法です。(補足1)


それができないのは明らかですが、そのような解決に対する障壁を取り除くという考え方で、拉致問題の解決策を探るべきです。メディアの責任は、拉致問題の解決とは次元の異なる話です。
 

この大使の言葉の分かりにくさを、以下のような疑問文形式で指摘したい。


馬渕大使は上記③の部分で、「前提条件なしに金正恩に直接会ってこの問題を提起するのは、正しい方法だと思う」と発言されているが、日本の高官がどのような資格で、金正恩に会い、どのような(提案、叱責、懇願)を行うのか? 


日本国政府の文書に、金正恩との交渉をどのように書き残すのか? 国交がないのだから、国家の首脳間の会談ではあり得ないし、拉致という文字で合意文書など出来るわけがない。「行方不明者を探し出してくれてありがとう」と言って、「未承認国家のひとから日本国民を引き渡してもらった」と書くのだろうか?(補足2)

2)本質を離れた解決法の模索は、問題を複雑化し解決不可能にする:

この動画における馬渕大使の拉致問題の本質についての記述(上記①)は全くその通りであり、この点には敬意を表したい。政治家は兎も角マスコミまでもが、この本質論を明確にしてこなかった。勿論、自民党は日本を換骨奪胎する米国への協力者であり、マスコミはそのプロパガンダ機関であるとすれば当然なのかもしれない。(補足3)

 

ただ、馬渕大使の対策は、被害者のことを第一に考えた末のことであるとしても、間違っていると思う。一般の国民がそれが本筋の解決法だと考えると、拉致被害者の方にむしろ失礼になる。


つまり、拉致被害者の救出は、山で遭難された人の救出とは訳が違う。彼らの救出は、日本国と日本国民の義務である。それは国境を守れなかった日本国家の失政によるのであり、原状回復(つまり被害者を取り戻すこと)は日本国の威信をかけて行うべきことである。


拉致が北朝鮮による日本国への侵略行為だと考えれば、その被害者は、侵略戦争における戦死者あるいは捕虜となった人たちである。つまり、現在のウクライナ戦争におけるウクライナ人被害者やロシアの捕虜になったウクライナ人たちと全く同じ状況である。


ここでもう少し冷静になり、問題の本質を歴史を遡って考え、そのうえで損害を最小に抑えるもう一つの本質的な解決を考える。第一に注目すべきは、朝鮮戦争である。北朝鮮のこの行為は、彼らの国家防衛の一環であり、そのためのスパイ養成の為になされたことと考えるべきである。


従って、日本国が、拉致被害者の救出の一環として行うべきことは、この朝鮮戦争の正式な終結を関係諸国に要請し、その後日本と北朝鮮の間で平和条約を締結することである。(補足4)平和条約締結交渉の中で、拉致問題を解決するのである。

 

戦争状態も終わって居ない未承認の国から、捕虜だけ多額の資金と引き換えに取り戻すのは、(同盟国である米国や韓国の)敵側への軍費供給にあたる。


そのような解決法では、時間をとりすぎると言うのなら、上記のように日本も戦争の当事国となり、軍隊を派遣して北朝鮮から被害者を救出するしかない。どちらかの解決法にも努力しないのなら、日本国は国家としての基本的な要素も思想も有していないことになる。


日本国は、国民の命と財産を守るという最も根本的な機能も持たないで、国民に納税などの義務を押し付けていることになる。この一方的に”ぼったくりやくざ”のような日本国に対して日本国民はどのように対すべきか、一人一人がそれこそ命を懸けて考えるべきである。(補足5)


北朝鮮との国交樹立だが、それは北朝鮮が共産主義独裁の国であるとか、非人道国家であるとかの問題とは別である。そもそも北朝鮮は、英国やドイツを含め、世界のほとんどの国と国交を持ち、国連に加盟済の国であることを考えるべきである。そして、早急に国交を持つべきである。それが核兵器による攻撃などの悲惨な未来から日本を救う方法の一つである。


それら以外の解決法はない。拉致被害者を取り戻すために、直接金正恩に会うなど、言語道断であると思う。日米は軍事同盟を締結しているのだから、朝鮮戦争終結前に、日朝が平和条約を締結することはあり得ない。

3)朝鮮戦争が終結しないのは何故か:

 

朝鮮戦争が終結しないのは、恐らく米国が朝鮮半島を不安定に保ちたいからだろう。それは、米国が東アジアにおける存在理由を確保するためである。これはマッカーサーが朝鮮戦争に勝利しようとした寸前で、トルーマンがその考えを拒否し、マッカーサーを司令官から外したことからも想像がつく。


その後ソ連が崩壊し21世紀になり、共産圏の経済が停滞して資本主義圏との差が開いたときから、北朝鮮は継続的に朝鮮戦争を終結し、米国、中国、韓国、北朝鮮の間で平和条約の締結を望んでいたと思われる。


実際、2016年1月のロイターの記事に、「北朝鮮は中国を仲介として、米国(国連軍、追補1)との朝鮮戦争を終結し、平和条約を締結することを望んでおり、それが叶わないのなら、もっと核実験を行うと主張している」との記述がある。http://www.reuters.com/article/northkorea-nuclear-usa-をidUSKBN0UM12S20160108

繰り返すが、マッカーサーが極東を支配していた頃から現在まで、米国は北朝鮮を極東でのトラブルメーカーとして育てたかったのである。そして、北朝鮮の核武装も米国の希望通りだったということになる。北朝鮮制裁により、韓国や日本に恩を売る形で、米国の存在感を東アジアに示すことができるからである。

 

これは、中国やロシアに対して、米国の東アジアにおける存在感を示すのが主目的だろう。そして、中国にとっても暴れ者の北朝鮮の存在は、米国との綱引きの綱にあたるので、都合がよさそうだ。


ロイターの記事には、「米国と中国はどちらも、制裁の解除や、北朝鮮が核兵器開発を放棄し、平和条約の締結などより良い見通しをぶち壊した」という記述がある。原文は以下のようである。dangleの意味を考えて意訳した。
The United States and China have both dangled the prospect of better ties, including the lifting of sanctions and eventually a likely peace treaty, if North Korea gives up its nuclear weapons.


当然、日本人拉致は、朝鮮戦争休戦下のまま地域が不安定化されているために発生した。北朝鮮は、自国の安全をどう維持するかを考え、日本人を拉致して、日本語の教師などにして、スパイ養成などに使役したのである。このような歴史の総括とともに、朝鮮戦争を正式に終結し、平和条約を締結することは、拉致問題の本質的且つ唯一の解決法である。

 

 

終わりに:


このロイターの記事を参照して、「米国が東アジアでの米国の存在根拠を温存し、この領域が完全に安定しない様にする目的で、北朝鮮問題を温存してきた」との指摘は、過去の記事(2016年1月24日)で行っている。以下の二つの記事をご覧いただきたい。
https://ameblo.jp/polymorph86/entry-12466514866.html
https://ameblo.jp/polymorph86/entry-12466514862.html

米国ネオコンのウクライナを反ロシアに育てる企みと同様に企みが、緩衝国である朝鮮半島でも行われていたのだと思う。

 

追補1)ウィキペディアによれば、朝鮮戦争の当事国は韓国と北朝鮮であり、交戦国は国連軍と金日成の軍及び中国共産党義勇兵である。北朝鮮は国連に加盟しているので、当然終わっている筈の戦争である。正に、この部分が馬渕氏の話す闇の部分だと思う。


(11時30分、一部文章を修正、補足4追加、終わりにのセクション追加;6月20日早朝、追補1の追加と文章の間違い3か所ほど修正)

補足:

 

1)この方法は、本筋の解決法のうちの直接的方法である。日本国にとって損害の小さいもう一つの本質的解決は、以下に書くように、朝鮮戦争の正式な終結から、日本と北朝鮮の間の平和条約(多分日朝基本条約のような呼称になるだろう)締結交渉の中で解決する方法である。

2)小泉政権では国民から集めた税金を北朝鮮に与えることで何人か取り戻したが、それは上に書いたように、本質的解決にほど遠く、むしろ本質的解決を妨害する愚かな方法であった。それは、ダッカの日航機ハイジャック事件の時、福田赳夫総理が取った超法規的措置と同様である。
勿論、小泉内閣は、北朝鮮との国交樹立を考えたのかもしれない。しかし、朝鮮戦争の正式終結と米国、中国、北朝鮮、韓国の間の平和条約前にそれが可能と考えたのなら、愚かである。

3)日本の近現代史の様々矛盾点について、「国難の正体」などの馬渕睦夫氏の本で教えてもらった。従って、この文章も馬渕さんの本から学んだ延長での思考である。

4)朝鮮戦争を継続する理由は、韓国にも北朝鮮にもない。それは、米国のトランプ政権のとき、文在寅韓国大統領、金正恩北朝鮮首席の間で確認されたことである。朝鮮半島の両国には朝鮮戦争を継続する意味が消滅していることは、後で述べるロイターの記事内容からも明らかである。

 

5)本当に日本が国家として何も持っていないのなら、日本国を解体するのか、日本から逃げるのか、それぞれの地方が独立するのか、自分達の生命と財産を守ることを独自に考えて行動すべきである。拉致問題への解決に向けて何の行動も日本政府が行わないことは、重い政治的犯罪である。青いバッジを背広に着けて納得している政治家連中の姿が非常に疎ましい。

 

 

2022年6月16日木曜日

ウクライナ戦争が重荷になったネオコン勢力: 方針転換?

張陽チャンネルは日本からのニュース解説としてはトップクラスの質を維持している。彼は、ウクライナ戦争の今後についても素晴らしい解説をしている。ある情報によると、張陽さんは中国北京生まれの方で、現在は日本に帰化されていると言う。 https://gakumaji.com/archives/411

 

以前の当ブログサイトで、キッシンジャー元米国務長官がダボス会議で行った、ある意味で不思議な演説を紹介した。「ウクライナは、この2月のロシアの侵攻以前に支配下にない地域(東部ドンパス地域やクリミヤ)の領有を諦めるべきだ」という言葉である。https://ameblo.jp/polymorph86/entry-12745583759.html

 

「ある意味不思議な演説」と言うのは、キッシンジャー氏は、“ウクライナを利用したロシア潰し”という米国ネオコンの政策の中心に居る人物と思って居たからである。実際、キッシンジャー氏はロックフェラーの代理人という言葉を良く耳にする。(補足1)

 

今日の張陽チャンネルでは、ウクライナのゼレンスキーに対しての同じ様な厳しい発言を、あのヒラリー・クリントンが行ったことに言及している。それを聞いて謎が解けた感じがする。それは、張陽氏の言葉にあるように、米国ネオコンもこの戦争の幕引きを考えているということである。https://www.youtube.com/watch?v=y_p0n0HGOnM

 

つまり、今回の長引くウクライナ戦争の責任をゼレンスキーに負わせるために、「ウクライナがNATOとロシアの間にある緩衝国であるという、地政学的運命をゼレンスキーは十分理解して居ない」と言っているのである。(補足2)

 

そして、「我々が対峙すべきは中国であり、ロシアではない」と共和党が言っているセリフを横取りして、自分達の”罪逃れ”を始めたのである。ヒラリークリントン氏が同種の発言をしていることは、その「ネオコンによる幕引き開始のモデル」が裏書されたことになる。

 

米国民主党政権は、今回これほど深くロシアを追いつけることは考えて居なかったことを示す出来事がこの戦争の最初の段階にあった。それは、戦争が始まって数日後、米国はゼレンスキーにキエフからの脱出を勧めたことである。

 

その提案をゼレンスキーは、私が必要とするのは逃げ場ではなく武器だと言って拒絶した。この言葉は彼を世界の英雄に仕立て上げた。しかし、その結果、多数のウクライナ市民の犠牲者を出し、且つ、世界を食糧危機や経済危機に陥れようとしている。

 

米国は、ウクライナを使ってロシアを潰す戦略を、民主党政権が盤石になってからのこと(つまり、トランプを完全に潰した後のこと)と考えていたのだろう。今回は、ロシアに宥和的だったトランプと共和党をこの秋の中間選挙で打ち負かすことに役立てば十分だったのではないのか。

 

トランプ潰しの武器にするだけなら、ゼレンスキーがキエフを脱出した段階で、ロシアに「主権国家を侵略する極悪国」の烙印を押すことができる。今回のロシア潰しのステージは、それだけで十分である。しかしゼレンスキーの予想外の抵抗が、世界を食糧とエネルギーの危機に導き、且つ、米国を深刻なインフレに導いており、バイデン政権側に不利になってきたのである。

 

自分は生贄になりたくないとゼレンスキーは考えているのだろうが、欧米などから援助があって当然だと考えて戦っている姿はやはり異常である。長く持たないのは当然だろう。

 

 

2)岸田首相の愚かさ:

 

このウクライナ戦争の複雑なメカニズムを全く知らない、そして、知らされて居ない岸田首相は、馬鹿なことを昨日の記者会見で語っていた。今後も、ロシア制裁にとことん付き合うこと、そのためにNATOの会議に日本の首相として初めて参加すると語ったのである。

 

ロシアは、中国を抑えるための本当の意味での味方になりうる唯一の国である。それに、エネルギーの供給元でもある。NATOの構成員でもないのに、NATOの尖兵のようにロシア制裁に精を出す馬鹿さには呆れる。

 

ウクライナ国民の命と引き換えに自分の名誉を守りたいゼレンスキーと同程度あるいはそれ以下である。ロシアが北海道を、そして中国が沖縄から本州までを支配するという日本の未来地図の実現に、自分が精を出していることに気がつかないのだろうか?

 

これは付け足しだが、岸田総理の「新しい資本主義」も、クラウス・シュワブの「ステイクホルダーの資本主義」の真似をしたのだろうが、ひどい内容のようだ。その謳い文句を以下に記す。

 

様々な社会の課題を成長のエンジンに変え、持続可能で力強い成長を実現する、それが新しい資本主義である。実現するためには、企業が保有する320兆円の現預金、個人が保有する1100兆円の現預金を、しっかりと分散して投資に向けることが大事です。。。(補足2)

 

岸田総理は、個人や法人のお金を社会の様々な活動に投資すると言っているのだが、それは中国習近平がアリババの資産を貢がせたことが羨ましくて思いついたのだろうか? そのお金は、政府の無駄遣いのため発行した国債が民間に流れ、それを日銀が回収した結果なのに、この厚顔無恥なセリフに呆れる。(補足3)

 

課題をエンジンに変えるというのは、天才技術者の言葉でなければ、単なる言葉遊びか何かだろう。それは「プラスチックゴミを材料に」と同じだからである。(補足4)通常、ゴミは焼却して熱エネルギーに替えるのがもっとも経済的である。

 

個人や企業の現預金について、投資に向けるべきなどと政治家が軽々しく言うのは、本当に愚かだ。何とか庁を新設して対処するという官僚のポストを増やすことで、政権安定を狙うのも愚かだ。そんな愚かな発言のなかでも、最大のものが上記NATO会議への参加である。

(9:10編集、補足3追加)

 

補足:

 

1)キッシンジャーはハーバードの政治学専攻で、卒業後同学部の教官から、外交問題評議会(CFR)に入った。1960年の大統領選挙から、ロックフェラー家との付き合いが深い。(ウイキぺディアより)

 

2)なによりも大事なのは、政治の質の向上である。そのためには、日本のマスコミの質の向上が大事である。その後の質問の貧弱なこと、目を覆うべきレベルである。最後までは聞いていないが。。。

 

3)政府の無駄遣いのためだけではありませんという声が聞こえそうだ。尤もな意見だが、大量の国債発行をした結果の現在の日本の姿を見た時、このような評価は当然だと思う。

 

4)プラスチックの再利用のためには、光学的に瞬時に機械で分別可能にするための目印をつける必要があると思う。例えば、塩ビは青色に、ポリエチレンは赤に、ポリスチレンは黄色にするとか。

2022年6月14日火曜日

サンデル教授のトロッコ問題とその周辺

今回、サンデル教授のトロッコ問題を再び書くことになった。それは、president onlineの中の記事:“「人を助けず、立ち去れ」が正解となる日本社会”(2019・10・21)を今朝たまたま読んだからである。https://president.jp/articles/-/30327

 

トロッコ問題: 暴走するトロッコの先に、作業員5人が居る。このままでは5人が殺されてしまう。ただ、トロッコの線路前方に分岐があり、その切り替えレバーを切り替えて進行方向を変えれば、5人を助けることが出来る。しかしその場合、切り替えた進行先に作業員が1人おり、犠牲になる。レバーの近くに居るあなたは、どうするのが正しいか? 1人を犠牲に5人を助けるべきか、そのまま5人を見殺しにして去るべきか?

 

president onlineの記事では、この問題を授業に取り入れた岩国市立東小と東中で、児童の保護者から「授業に不安を感じている」との指摘を受けて、両校の校長が児童・生徒の保護者に文書で謝罪したことを紹介している。そして、日本社会では「人を助けず、立ち去れ」が正解となると書いている。

 

私は、この記事は「自分ならこうする」或いは「正解は無い」などの結論を出していないので、この問題を考える上では評価に値しないと思う。ただ、保護者の言葉に過剰に反応する日本の学校の現状から、日本社会の脆弱さを指摘する気持ちは分かる。それでも、表題(上記下線部分)は不適切である。

 

このトロッコ問題は、一時話題になったので、多くの方が議論している。レバーを中立にするとか、トロッコを急停止させる方法があるとか、問題の趣旨を変更して議論する無意味な投稿も多くあった。

 

それらの中で、NEWSポストセブンの記事に、この問題(補足1)に対する真面目な回答があった。例えば、山口真由さんは、自分なら法律の観点から判断するとした上で、何もしない(レバーに触らない)と答えている。また、茂木健一郎さんの答えは、「(詳細がわからないので)その場面にならないと分からない」だった。https://www.news-postseven.com/archives/20200428_1557445.html?DETAIL

 

茂木健一郎さんの指摘の通り、何らかの付帯条件無しに、この問題に答えることは不可能である。ただ、現代社会を前提にした場合は、山口真由さんの結論は正しいだろう。


 

2)トロッコ問題は回答不能である:

 

この問題について、以前議論したことがあった。善悪、そしてそれらを議論する道徳や倫理は、人間が社会を作って生きることになって初めて出来たと思う。そして、以下の様な意味の文章を書いた。ただ、以前投稿の文章を読み返してみたところ、自分だけ分かった気になっている拙い文章だと気づいたので、ここで再度解説する。https://ameblo.jp/polymorph86/entry-12567158034.html

 

 社会を作る目的は、敵や災害から構成員の生命や財産を守り、日々の生活を効率的に進めるためである。そして、構成員間の協力体制を築き守るために、善悪と道徳及び倫理を創った。従って、社会を構成する前提に関わる問題、つまり社会内、且つ、構成員の生命に直接関わるこの種の問題は、道徳や倫理の問題とはなり得ない

 

これでも分かりにくいかもしれないが、トロッコ問題への正しい理解であると確信する。以下、この問題とその周辺を考えてみる。

 

社会内とは対照的に、社会外の人間の生死は、問題として設定し得る。同様に、社会形成以前の原始の状況下にある人には、道徳や倫理は無関係である。社会内でもそのような情況(原始の情況)が、瞬間的に現れることがあり、その場合、法を適用をしない根拠の説明に「緊急避難」という言葉が用いられる。(補足2) 
 

ただし、上記トロッコ問題の場合、自分自身の生命には何の関係もないので、5人を救うことは緊急避難にはあたらない。従って、自分が社会の構成員として居続けたいのなら、つまり犯罪者となりたくないのなら、山口真由さんの出した答えの通り何もしないことである。

 

しかし、自分の大事な人(親族など)が5人の中に含まれるなどの理由があり、この社会から一時的に離れる覚悟を持つことが出来るなら、レバーを手にして5人を救うかもしれない。ただしその場合は、社会に戻った瞬間に殺人犯として罪を問われることになる。

 

山口さんは、「限界状況でやむをえないとなれば、犯罪とならない可能性もないではないが…」と書いている。限界状況という言葉は「緊急避難」の意味だろうが、裁判所がまともなら犯罪とはならない可能性は無いと思う。勿論、親族の命を救う行為であることと、そのほかの4人の命を救う行為なので、相当減刑されるだろう。

 

しかし、殺人罪に問われることは間違いない。そして、トロッコの進行方向を変えた結果、殺された一人の親族から恨まれ、場合によっては襲撃される可能性もある。それでも、5人を救いますか?という話になり、上記のように特別な状況にないのなら、誰もが何もしないだろう。

 

この場合、もし自分がレバーの近くに居て、事件後に「何故あなたはレバーを操縦して5人を助けなかったのか」と問われることが分かっていたなら、5人を助けないとその後非常に拙いことになるかもしれない。(補足3)
 

具体的になれば、この問題は無数に変形可能となる。

 

 

3)戦争や死刑といった殺人行為は禁止すべきか:
 

上に、社会外の人間の生死の問題は、社会内の道徳や倫理に照らして議論の対象になりえると書いた。具体的には、死刑と戦争がある。

 

死刑は、特別な刑である。その判決は、罪人を社会の外の存在と見做すことにより可能となる。ある犯罪行為により、社会から放り出され”社会の敵”と見做された人は、死刑になる可能性がある。あくまで死刑反対を叫ぶのは、自分と自分の味方の命を軽視する主張であり、「戦争絶対反対」の姿勢と似ている。勿論、冤罪もあり得るので、死刑判決は科学的な捜査と論理的な裁判が前提となる。慎重で論理的な判断を要するのは、戦争開始の決断と同様である。
 

ここで戦争は、自分たちの社会の外に存在する人(外国の人)に対する攻撃であり、自分たちの社会を守るために必須なら、最終的な手段としてあり得る。その権利を放棄することは、既に述べたように自分達とその子孫(つまり、自国民)の命の軽視にあたる。日本の人は、この厳粛なる事実から目を背けている人が多い。

 

トロッコ問題を延長して、このような議論が学校で為されるのなら、それは有益な授業となる。勿論、そのような教育は、義務教育の最後の方に限るべきだろう。
 

ここで戦争に関する理解は、時代とともに地域とともに微妙に変化することを書いておきたい。それは、「国際社会」に対する認識が時代や地域によって変化するからである。


 

補足:

 

1)実際の問題は、トロッコ問題を相当変更している。しかし、本質的には同じ問題なので、トロッコ問題への回答として、紹介した。

 

2)ここで、緊急避難とは、一時社会のルールから離れることが容認されるケースのことである。空間的に社会から隔絶された場所(密林や孤島の中)に無期限に閉じこめられた場合とか、自分の生命に危険を(客観的に検証しうるほどに)感じた場合などである。これらの場合、自分自身の生命を守るためにとった行為に関する責任は免れられる。
 

3)レバーを切り替えると当然殺人罪を犯すことになる。一方、何もしない場合、社会からバッシングを受けてノイローゼになるかもしれない。究極の選択を強いられることになる。そのような場合でも、5人を救うことは合法であると功利主義的な法整備を行うべきではない。

 

 

2022年6月11日土曜日

米国ネオコンが心に抱く新しい世界:ウクライナ戦争の今後

今回は、ウクライナ戦争の今後の展開を考える。その場合、米国の今後の体制に一定の仮定を置く必要があるので、すこしそれについて書く。

 

米国は今、深刻な分裂の危機にある。トランプが主力の共和党とネオコン支配の民主党の間の争いがのっぴきならない状況であり、ほとんど内戦状態にある。

 

トランプは、米国独立直後に主人公だった ”アングロサクソンの米国”をモデルに、主権国家としての米国の利益を第一に考え、MAGA(偉大な米国を取り戻そう)を標語にして、共和党の主力に登りつめた。
 

一方、民主党は労働者の権利を守る政党というイメージがあったが、現在は大きく変質している。ソ連を追い出されたトロツキー派とユダヤ系金融資本が所謂ネオコン勢力を形成し、最近はもっぱら民主党の中で活動してその支配層となっている様に見える。(補足1)

 

この米国の混乱が、2017年の大統領選挙から顕著になっている。この11月の米国中間選挙と2024年の米国大統領選挙の何れかで共和党が勝利すれば、その混乱は内戦状態になる可能性が大きい。また、両方に共和党が勝利すれば、米国のネオコン支配は内戦的混乱のあと終了する可能性が大きい。
 

ウクライナ戦争が今年起こったのは、この米国の混乱と大きく関連していると私は思う。民主党は、中間選挙までにインチキをしないで過半数をとるにはウクライナとロシアの戦争が必要だったのである。長年の準備(カラー革命に始まる準備)もあり、それに成功したしたものの、今のところバイデン人気は今一である。
 

以下の議論は、現在の民主党支配下の米国を前提に置く。


 

2)伊藤貫さんのyoutube動画「真剣な雑談」: 

 

このyoutubeシリーズは、国際政治を知るうえで非常に貴重な情報を与えてくれる。今回の話は、ウクライナ戦争及び今後の世界の歴史の動きについての、深層からの解説である。

 

 

重要なポイントの一つは、今回の戦争は100年間に一度起こる世界の構造転換の戦争であり、かなり長期に及ぶ可能性があるという指摘である。過去の戦争では、17世紀の30年戦争、18世紀のスペイン継承戦争、19世紀初頭のナポレオン戦争、20世紀の第一次と二次の世界大戦(補足2)である。

 

つまり、この戦争は世界の覇権構造が二極或いは一極支配から多極化する前の、世界史的戦争となるかもしれないというのである。

 

今回の米国によるロシア潰し(補足3)が、相当程度にロシアを弱体化させ、中露関係を中国上位の同盟の形に導けば、中国への応援になる。しかし、ロシアが完全に潰れてしまえば、米国は中国を次の標的にする可能性があり、中国にとっても厄介であると伊藤氏は語る。

 

3)私の考え:米国は中国に協力するだろう
 

上記のポイントについて、私は素人ながら少し違う風に考える。習近平の中国は、ジョージソロスがダボス会議で批判しており、現在の米国政権も歓迎しないだろう。しかし、それ以外の中国は、共産党下でも米国(民主党政権)は良きパートナーと認識し、見せかけの敵対はあっても、本質的な敵対はしないと思う。
 

米国の中国に対する評価は、国交回復の時にキッシンジャー補佐官と周恩来の間で確認されて以来、一貫している。その件については、一昨年の127日の記事に書いた。

https://ameblo.jp/polymorph86/entry-12642624464.html<

 

米国のネオコン勢力は、中国は憎きロシアの隣国であり、思考パターンも自分達と同じであり、話が通じる相手だと評価している。ロシアが潰れれば、多極化した世界の中で、東アジアが障害なく中国の覇権下に入るだろう。

 

ここで話が通じる相手というのは、協力或いは利用できる相手だと言うことである。彼らにとっての関心は、あくまで自分たちの利益である。中国人と比較して日本人は、利用しにくい相手である。何故なら、自分の利益が関心の中心かどうかも明らかではないからである。

 

中国共産党政権と米国ネオコンとの深い関係は、中国の政権に近い学者(中国人民大学国際関係学院副院長)からも証言されている。それを紹介するHarano Timesの動画を以下に引用する。<a https://www.youtube.com/embed/gTcWNnYltaU

 

このまま米国の政治をネオコン勢力が掌握し続ければ、日本は非常に苦しい立場に追い込まれる可能性が高い。ネオコンたちは、東アジアの自然なリーダーとして中国を考えており、それを妨害する東アジアに不要な勢力として、ロシアと日本を考えて居るからである。(補足4)

 

 

4)米国ネオコンの考え;

 

安倍日本とプーチンロシアの接近を妨害したのは米国だろう。それは、1956年の日ソ共同宣言後の平和条約締結を妨害したダレス国務長官の姿勢と同じである。https://www.sankei.com/article/20210406-KPA6MILKRVKTZNSVQMYGENBK3Y/
 

安倍内閣の日露平和条約交渉において、歯舞と色丹を返却した場合には米軍基地がそこに来る可能性があるという話が急に立ち上がった。この話の背後に米国の動きがあるように思えてならない。伊藤貫氏が動画の最後の方で話すように、「米国国務省は将来に亘って日本を独立させる気がない」ようである。そのような日米関係が無ければ、日ロ平和条約は遅くとも安倍内閣で、早くて日ソ共同宣言の後の鳩山一郎内閣の時に締結出来ていただろう。

 

そのような態度を米国がとる理由だが、米国ネオコン勢力は、日露接近が米国や中国にとって安全保障上の脅威になると認識しているからである。今回のウクライナ戦争が始まる1ケ月前に日本に赴任した米国のエマニュエル駐日大使は、 ウクライナ戦争にたいして日本の姿勢を完全制御するために日本に送りこまれたのだろう。

 

彼は、オバマ政権の時の大統領首席補佐官という大物である。NATO諸国とは意思疎通が出来ているが、日本政府は十分理解していない可能性が高いので、安倍元総理のように何をしでかすかわからない。その場合、脅すことができる人物が必要なのである。

 

その結果、今回の岸田内閣は、日露関係改善の可能性を自ら放棄した。米国ネオコン政権は、「将来の安全保障上の障害としての日露協力を計画通り潰すことが出来た」と思っただろう。インドと日本のウクライナ戦争に対する姿勢の差が、日本の現在の立場と能力を現わしている。
 

日本の岸田政権の米国への服従は、恐ろしく完璧である。NHKから産経新聞まで、ロシアの言い分を流すメジャーなマスコミは無い。ローカルなマスコミでは、例外的にテレビ東京の豊島記者のネット解説だけが、ロシアのウクライナ侵攻の背景を少し語っていた。

 

このまま、米国民主党政権が続けば、世界は多極化するだろう。それはネオコンの思惑とは異なるだろう。ネオコンの目標はあくまで、統一世界国家の樹立であり、そのリーダーとなることである。
 

最初に紹介した伊藤貫さんの動画では、ネオコンの弱点を米国を代表するユダヤ人哲学者及び言語学者であるノーム・チョムスキーの言葉を引用して解説している。チョムスキーは、以下のように言ったという。「ユダヤ人がアメリカのマスコミをコントロールして、Alternative World を作り出し、それをアメリカ人に強制している」と。

ネオコンの弱点をce="MS 明朝, serif">は、もう一つの新しい世界という意味である。彼らは、自分達が世界をコントロールすることが出来ると過信して、世界を混乱に導くと言うのである。それは文明の終末を意味する可能性が高い。もし、かれらが聖書の終末思想に導かれているとすれば、もはや何をか言わんやである。

 

補足:

 

1)労働者とネオコンを結びつける考え方として、当然トロツキーの共産主義思想がある。更に、元大統領補佐官のブレジンスキーが喋ったように、マイノリティー(ユダヤ人、黒人、性的マイノリティー)の権利拡大という左翼思想を武器に、政治で支配的になった。マイノリティーが支配層となるという皮肉は、米国を倒錯状態に導き、今やその倒錯状態は世界の文明の危機となっている様に見える。尚、ネオコンは共和党での呼称だろうが、現在では共和党の主力の座をトランプに奪われた様に見える。つまり、民主党も共和党も、その内部に分裂を持つ。

 

2)二つの世界大戦を合わせると合計約30年間の世界戦争になり、これをフランスのドゴールは第二次30年戦争と呼んでいたという。そして、この戦争を勃興するドイツを抑え込む戦争と解釈した。夫々の戦争の意味については、元の動画の23分丁度から語られているので、参照してもらいたい。

 

3)現在のウクライナ戦争は、米国民主党政権の企画通りに進んでいる。この伊藤氏の動画では、この点を2冊の本を参照して紹介している。これら2冊の本は、Steve Cohen元プリンストン大教授で歴史学者の書いた、”Failed Crusade” および”War with Russia” という本であり、米国民には何も知らされずに行われた対ロシア戦争までの米国の準備を書いている。現在の戦争は、そのネオコン勢力の企画の通りに進んでいると語る(34分から)。

 

4)日本は、セオドア・ルーズベルトの時代に東アジアの政治における米国のパートナーとなりかけた。しかし、身の程を知らず、米国と対立する道を進んで、第二次大戦で叩き潰された。もう一度、ニクソン政権のときに、日本を地域のリーダーにすることを米国は考えたようだが、その意図が時の首相の佐藤栄作には全く通じなかったようである。
 

2022年6月8日水曜日

小惑星竜宮にアミノ酸があった? 科学的成果は慎重に公表すべき

 

おととい夜のTVニュースで、小惑星「竜宮」から持ち帰った砂にアミノ酸が含まれていたという報道があった。そのニュースは7日の新聞(中日新聞)の一面トップ記事であった。その見出しは、「生命の源、地球外で初確認」だった。

その記事には、「関係者への取材で分かった」と書かれているのみで、その成果は学会誌に投稿する段階にも至っていないと思われる。それを大々的に掲載する新聞と、それを許可する担当研究者の良識を疑う。

本当に小惑星由来のものかどうかは、論文として出された内容を専門家が審査しなければ、第三者は信用する訳にはいかない。それが科学者の基本的姿勢である。一般に公表する方法として、最初に新聞紙やテレビ報道を用いるのは、異常であり非常に無神経である。

新聞(中日新聞)には、「小惑星竜宮で見つかったもの(アミノ酸)に左手型(L型)が多ければ、宇宙から、それは宇宙からもたらされた可能性が高まる」(カッコ内は筆者が補足)という解説があるが、一体だれがそのようなコメントを書いたのか?

しかもその内容の根拠がわからない。地球上で混入したアミノ酸でもL型が多い筈である。そんな下らない解説の前に確認すべきは、確かな結果かどうかということである。それは報道する側の良心ではないのか。

 

元研究者の私が関心をもつのは、世界の専門家の審査に耐えるだけの論文が書けるかどうかである。論文になれば、その真偽を考えることも可能である。そうでなければ、記事を読む気にもならない。何故なら、全くの間違いである可能性があるからだ。

スタップ細胞の件を忘れたのだろうか? あのケースでは、マスコミの報道は、学会の専門家の審査を経て論文発表されてからだった。しかし、共著者間で十分な知識の共有がなされていなかったため、間違った内容を発表してしまい、あとで論文を取り下げることになったのである。

また、新型コロナの件でも、一流医学誌に発表された論文が幾つも、再現性が乏しいということで、撤回された。https://bio.nikkeibp.co.jp/atcl/report/16/082300015/062500169/

日本の新聞や報道機関は、あまりにも科学研究から発表までのプロセス、そしてそれが学会で真実として定着するまでのプロセスなどに無知である。

今回の結果は、非常にエキサイティングだが、それだけにもっとマスコミ報道は、慎重にするべきである。先ずは学会誌に投稿し、専門家の審査を経て、受理されるのを待ってからにすべきである。恐らく、分析プロセスに間違いがないかどうかなど、慎重に審査されるだろう。


 

また、その結果に、地球由来でない証拠がしめされているかどうかも非常に重要である。例えば、炭素、窒素、酸素、水素すべてに安定同位体が存在するので、その比が地球上と異なるかどうかなど注目されるだろう。(おわり)


 

2022年6月5日日曜日

核シェアリングは危険な選択である

台湾の林建良氏が自分の国際政治講座へ招待するために送ったメールに、ある核攻撃のシミュレーションが紹介されていた。それは次の質問から始まる。

Q: もしロシアがNATO加盟国に核ミサイルを撃ち込んだら、アメリカはどうするのか?

1.ロシアを核で攻撃する;2.ロシアに経済制裁で報復する;3.何もしない;
などなど。

実は、もしこうなったらどうするか?という議論が、既に米国で何度もされていると、米ジャーナリストの裏調査で明らかになりました。・・・・

さて、このシミュレーションはどうなったでしょうか。その結果は:

A: ベラルーシに核を落とす。
https://in.taiwanvoice.jp/futakaku_release?cap=hs4

そして林建良氏は日本の考えるべき隣国の核の脅威とシミュレーションすべきテーマを上げている;
 
もし、日本に核ミサイルが撃ち込まれたのなら:
・米国はどうするでしょうか? ・日本はどうするでしょうか? ・日本ができることは?
・日本国民はどう備えるべきか?

私は、林建良さんの講座を聴講する経済的余裕がないので、その問題設定のみをタダで使わせてもらい、答えは自分で考え出すことにした。


2)米国との核シェアリングは危険な選択である理由

このシミュレーション:ロシアによるNATO加盟国への核攻撃と、米国からのベラルーシへの核ミサイルによる反撃は、ボクシングで言えばジャブの応酬レベルである。当事国であるそのNATO加盟国やベラルーシにとっては悲劇だが、米露両国にとっては、相手の意思を測るための最初の核応酬である。

そこで米国の態度を「強硬」と見て、ロシアは核攻撃をしなくなるかもしれない。今回のケースで考えれば、ロシアが一歩引いた形での和平案に合意する旨が、仲介国により米国に伝達される可能性があると思う。

ここで米国のベラルーシへの核攻撃に、米国の「抑制」をロシアが感じとった場合、次の核ミサイルの標的が日本になる可能性がある。それは、ロシアは全面的な核戦争を避けたい訳ではないという強硬な姿勢のシグナルを米国に送るための核攻撃である。同じところへ核攻撃を繰り返すのは、メッセージ性が欠けるからである。

それを見て、日本との同盟を重視するという理由ではなく、全面核戦争の覚悟が出来ていないという理由で、米国はロシアに若干有利な形での講和にウクライナを導く可能性がある。ただ、このような繰り返し毎に、全面核戦争の恐れが急上昇する。

つまり、米国やロシアの大国どうしの覇権争いであるにもかかわらず、攻撃を受ける側は、差し当たり同盟国だということになる。

日本がもし米国から独立しており、中立の軍事強国なら、そのような事態に巻き込まれることはないだろう。日本はウクライナと同じ二極(中露と米)の間の緩衝国であることを忘れてはならない。(補足1)

NATO等軍事同盟は、一般的な国からの通常兵器レベルの攻撃には一定の効果が考えられるが、覇権国からの攻撃に対しては役立たないばかりか、対立する味方側覇権国の防衛壁や傭兵となる可能性が高くなる。(補足2)

日本の周辺では、米国が北朝鮮に制裁を強めた場合、北朝鮮の核ミサイルによる米国側への攻撃の最初の標的は米国本土ではなく、日本となるだろう。米国を直接核攻撃すれば、北朝鮮は短時間に国土の全域が壊滅的打撃を被るからである。

もし、中国と米国が核兵器を向けて対峙する事態になれば、その場合も最初の中国からの核攻撃の標的も、今回のウクライナにおけるシミュレーションにあったように、日本が最初の標的だろう。このように、米国との核兵器のシェアリングは日本にとって危険性が多きい割に、利益は少ないだろう。

伊藤貫さんは、チャネル桜での議論で、日本が核防衛するには、独自に核兵器を持つ以外にはあり得ないと言っている。その理由は、核シェアリングでは、核発射のボタンを押す実権は、核ミサイル供与国であるという点にある。 

 https://www.youtube.com/watch?v=rfHAdcVtMpM

 

上記議論は、単なる軍事同盟関係でも成立するが、非核配備国への核攻撃には一定の躊躇が残る筈である。しかし、日本が米国と核シェアリングしているのなら、日本は核攻撃の格好の餌食となるのである。


3)改めて問題設定:

ウクライナ戦争で今後核兵器が使われる可能性が議論されている。当ブログでも、日本の核武装に関する簡単な議論をしてきた。その一つの結果は、核兵器を持つためには幾つかの条件が必要であり、日本には核武装するだけの総合的な実力が無いというものであった。

どのような武器を持つにしても、国家防衛の第一歩は諸外国とまともに交渉ができる政府を持つことである。その第二歩として、日本は米国から真の独立を達成することが大事だが、それには独り立ちする能力を持たなければならない。

独立していない国家に真の防衛力など存在しない。国境と国土の大切さに国民が気付き、国民の支持で国防を具体化できる政府を育てなければ、日本国に真の防衛力など出来上がらない。憲法改正を口に出すだけで、保守政党を名乗れるような国では、核武装は数ステップ乗り越えた後の遠い未来の話である。

この多段階のプロセスを考えず、いきなり核武装すべきなどとネットのみで議論しているのが現在の日本の情況である。議論しないよりはましだが、それでは非武装中立を叫ぶ左派と同レベルである。70年間近く改憲が党是であると言いながら、国会に一度も改正案を出さなかった政党を政界から追い出すことが、その第一歩である。

そのような趣旨で書いたのが、4月24日の記事である:日本は核武装の前にまともな政治体制の確立を目指すべきである。https://ameblo.jp/polymorph86/entry-12739095349.html

日本がまともな政府を持ったとして、その後すべきは、先ず一定のレベルの独立したシンクタンクを幾つか、技術系、外交系、内政系の専門家を集めて創る。そこから出たレビューを議論する。シンクタンクは、篤志家が自分の私財を用いて創るのだろうが、それに対する国家の研究発注という形の支援が必要である。

防衛費のGDP2%達成という目標は理解できるが、それを米国の軍需産業に奉仕する形で、役立たない武器の購入に充てるのは非常に愚かな自民党の政策である。予算予算増加分は、この種のシンクタンクを育てるため等の”ソフト”の充実に使うべきである。

そのように考えると、国際政治や防衛問題の専門家、技術職の専門家が著しく不足していることに気付くだろう。防衛大学校だけでなく、一般大学にそのような部門を創るべきである。米国のコーネル大学には、軍事教育の部門(大学が経営するホテルの隣にあったと記憶する)があることを知り驚いた。https://armyrotc.cornell.edu/
 
そのような国内の政治体制、軍事関連ソフト機関などが、国民の防衛意識と相互作用的に育ったとき、そこで核武装までの具体的なシミュレーションが可能となるだろう。そこでは、北朝鮮、米国、中国、ロシアなどの国々の反応を予想し分析することになるだろう。

議論は、その機会を見出してから短時間に行うべきである。トランプがイスラエルの米国大使館をテルアビブに移した。その速いスピードに反対意見や反対運動がついていけなかった。日本の核武装もそのように迅速に実現すべきである。

反対運動が燃え上がるような時定数で核武装するのは、完全な独裁国でなければ途中で計画放棄することになる。それを北朝鮮が教えてくれている。動きの遅い民主国家が迅速に行動する独裁国と互角に渡り合うには、陰に隠れた機関を含めて、米国に学ぶべきだと思う。
 

(6/6早朝、下線部追加;一番重要な点を、当然の前提として書き忘れました。)

補足:

1)この現実について多少異なる角度からだが、産経新聞米国特派員の古森義久氏がある討論番組で以下の様に発言している。「(元自衛官の方とかが)近づくNATOの脅威に耐えられず、ロシアが仕方なくウクライナに攻め込んだように発言しているが、それなら、日米安保に脅威を感じた中国が仕方なく日本に攻め込むことも考えられる」と発言をしている。https://www.youtube.com/watch?v=NNl9eCd3joE (59分30秒あたりから)

2)朝鮮戦争のとき、米国は日本に憲法改正と本格的な武装を求めた。吉田茂内閣がそれに従わなかったのは、米国の傭兵になりたくなかったからだろう。自民党の憲法改正に対する躊躇は、そのような事情もあったと思う。その後、その危険性が小さくなったにも係わらず、岸信介に憲法改正を強く勧められながら行わなかったのは、中曽根康弘である。

 

 

2022年6月3日金曜日

ネオコンとはどのような人たちなのか:世界の複雑化

追補:

以下のネオコンの説明は、6月4日アップされた馬渕睦夫元ウクライナ大使によっても解説されています。つまり:

 

「レーニンの考えを受け継いだ(トロツキーらの正統派)ボルシェビキらが米国でネオコンになったという話は、今徐々に明らかになりつつある(要約)」と明確に語られている。   

 

(6/5/19時追加)

ー-------

米国の世界政治が議論される際、ネオコンとかディープステートなどの用語が頻繁に現れる。つまり、ネオコンがディープステート(深層政府)を形成して、米国の政治そして世界の政治を支配しているという具合に用いられている。

ここでネオコン(neocon)は、 新しい保守主義(neo-conservative)の短縮形で、米国で”新保守主義”を看板に掲げる人たちを指す。この用語が、最近youtube「もぎせかチャンネル」において、茂木さんと日本人ユダヤ教徒である吉岡孝浩さんにより解説されたので以下に簡単に紹介します。

 

https://www.youtube.com/watch?v=a-bdqTNCqRI

茂木誠さんによるネオコンの説明:

ロシア革命のあとレーニンが亡くなり、世界同時革命を目指すトロツキーと一国社会主義革命を主張するスターリンの対立が起こった。スターリンがこの権力闘争を制し、トロツキーとその一派の多くは殺され、一部が米国に逃げた。彼らのほとんどはユダヤ系であった。

米国の中心層は、アングロサクソン&プロテスタントの白人(WASP)の移住者だったので、彼らロシアからのトロツキストのユダヤ人達は米国でも差別を受けることになった。かれらの多くはマイノリティの味方に見えた民主党の支持者となった。WASPの多くは共和党を支持者であった。

カーター政権(1977-1981)の頃より、米国はソ連に宥和的になった。彼ら元トロツキストユダヤ人は、そんな民主党に反発して共和党に寝返った。そして、自分達を新保守(ネオコン)と呼ぶことになった。


この解説に吉岡さんが補足をした。ドイツから流れたユダヤ人、例えばジェイコブ・シフ(Jacob Henry Schiff)などは、それほどの差別を受けないで伝統的に共和党を支持していた。彼らも民主党の対ソ宥和政策を批判し、ネオコンと歩調を共にした。(補足1)

2)以上の定義を用いた米国政治の考察を少し:


このトロツキーの支持者が米国に流れ込んで、ネオコン勢力となって大資本家共和党ユダヤ人に合流したという話は、共和党には二つの勢力が存在することの理解を容易にする。一つは米国は孤立主義を採るべきだとするWASPの勢力であり、もう一つはグローバリストのネオコン勢力ということになる。レーガン政権以降の他国へ干渉する共和党政権の理解を容易にする。

他国への介入は、グローバリストのほかに軍産共同体と呼ばれるネットワークも密接に関係協力して進められたのだろう。他国に米国の価値(自由と民主主義)を輸出するという形で、政治と金儲けの境界を曖昧にして”グローバル化”が進められたと考えられる。

グローバリストとは、現在の主権国家体制を消滅させ、彼ら米国の大資本家を中心にした世界帝国を創ろうとする人たちである。彼らは、国境の意味を消滅させ、世界を不安定にしている。この活動は、その主体が様々な人たちで構成されていることもあり、金儲けと政治的理想主義の本音と建前が交錯した玉虫色をしていると思う。建前は、旧トロツキストの理想主義者が、金儲けの現実主義は、大資本家が受け持っているのではないだろうか。(この二つは同一人が持つことが多いだろう。)

トランプが大統領になって以降、共和党のネオコン勢力が薄まることとなり、グローバリスト民主党と主権国家体制を守る共和党の対立の図式が鮮明になった。その結果、日本などにもトランプ支持者が大勢生まれることになったと思う。

3)マイノリティの世界支配と複雑な権力構造:

グローバリストの地球国家建設構想は、トロツキーの世界同時共産革命同様、現実的視点に欠ける。彼らは、西欧が築いた近代の政治外交文化である主権国家体制を否定する。その国家を否定する心の中に、ヨーロッパで迫害を受けた民族の黒い恨みの感情が混ざり込んでいるように思う。

マイノリティとしてその国の中に見えないように溶け込むには、彼らとそのネットワークは優秀すぎたのだろう。小さい自分達勢力がマジョリティを誘導しまとめ上げ、その中で民族の恨みの解消を図るには、複雑な構造の権力を作り上げねばならない。それには近代西欧が作り上げた明解な政治文化は否定されなければならない。

その近代西欧文化の上に国家を作り上げた諸国民にとっては、彼らの“近代法を超えた価値観”の強要には辟易とする。(補足2)

なお、陰に隠れて政治を支配しようと考える人たちは、公的組織(補足3)の他に、秘密結社なども形成してネットワークを広げている。フリーメイソンやイルミナティなどの世界的な組織からイエール大学のスカル&ボーンズ(補足4)のような狭い組織まで、人脈を作り上げて秘密裏に活動することが彼らの常である。彼らは、世界を複雑怪奇にしつつある。
(6月2日に一旦投稿しましたが、その後全面的に改訂しました。6/3 6:00; 表題変更9:06/4/5:00編集あり)

補足:

1)Jcob Schiff らが第二派として米国移民をしたと言う説明があったが、第一派が旧トロツキストだとすると、時代的に話が食い違う。何故なら、シフは1865年に一文なしで渡米したとウィキペディアに解説されているからである。トロツキーらがスターリンにより弾圧されたのは20世紀に入ってからである。このあたりは単なる思い違いだろう。

2)米国の有力な圧力団体であるサイモン・ヴィーゼンタール・センターのアブラハム・クーパー副館長の新潮社編集部の取材に対する言葉は、ユダヤ人グローバリストらが近代西欧文明の価値を否定する姿勢を如実に証明している。「率直にお話ししますが、個人的に言うと、私は原爆投下は戦争犯罪だと思っていません」(「新潮45」2000年12月号) 。その他、事後法で第二次大戦後の戦争犯罪を裁くなど、この21世紀をジャングルの法の支配に戻すのは彼らではないのかと思ってしまう。

3)大統領に直接任命される上級官僚の組織のSES(Senior executie service)が、ディープステートの実働部隊としてカーター政権の時に作られたという解説があるので引用しておきます。https://www.youtube.com/watch?v=EHeuNIQ9i68
 

4)歴代のCIA長官は、殆どエール大学の同窓生が創るスカル&ボーズのメンバー(ボーンズマン)である。トランプ政権の時に指名されたマイク・ポンペイオ(その後トランプ政権の国務長官)は、例外的にボーンズマンではない。