2020年1月13日月曜日

ゴーン事件のモデル: 政府官僚の天下先としての大企業と日本の中国化

カルロス・ゴーンが特別背任罪で逮捕されたのは、日産とルノーの合併の話を日本の経済産業省が阻止するためだという話は、以前から聞いていた。そのモデルを、及川幸久氏が動画Breaking Newsで一つの可能性として慎重に提示している。https://www.youtube.com/watch?v=CIxHszWdo4s

https://www.youtube.com/watch?v=FDPVwPUFV9s

それを私流に解釈し考察したのが以下の文章ある。以下の前半は、あくまでもクーデター説の紹介であり、ゴーン事件そのものの客観的な解説ではない。クーデターモデルを100%支持する訳ではないが、そのように考えると事件が解りやすいこともあり、また文章が作りやすいという事情もあって、そのようにした。読んでくださる方は、その前提で書かれていることに注意してください。


1)問題提起:

 

経済産業省の天下り役員が一枚絡んでいたとすると、このゴーン事件は当初考えたよりも遥かに重大な問題を孕んでいる可能性が高い。官僚たちがコーポレート・ガバナンスとか、何とか言いながら、天下りの対象を私企業にまで拡大し、見方によれば、それは日本の中国化だからである。つまり、大企業と政府の一体化が、官僚の企みとして進んでいるのだ。

 

最近、「安倍総理が変だ」という話をよく聞く。安倍晋三首相は昨年3月の参院予算委員会で、日中関係について「完全に正常な軌道へと戻った日中関係を新たな段階へと押し上げていく」と強調した。一昨年の10月の訪中以来、21世紀のナチスと呼ばれるほどの人権侵害を行う習近平支配下の中国に、安倍総理は完全に融和的な態度を採る方向に急変した。日本の経済界の中心である経団連は、それを高く評価した。https://www.keidanren.or.jp/speech/comment/2018/1026.html

 

この国家の方針転換の背景に、私企業への天下り官僚が存在するとしたら、それは国家の一大事である。ゴーン事件で働いたと思われる豊田正和社外取締役は、腐敗を始めた経済界と国家の境界周辺で大繁殖している鼠の尻尾なのかもしれない。 

 

2)ゴーン事件は日産幹部によるクーデターだとするモデル:

 

先ず、ゴーン事件は、日産のクーデターであると解釈するモデルを説明する。これは元社長の西川(さいかわ)氏や経産省から天下りした豊田正和社外取締役など日産の経営陣が、自分達の解雇を怖れて行なった工作であるとするモデルである。

 

その背景にあるのは、西川氏が社長に就任以来、日産の業績が急降下した事実である。下に過去5年間の日産とトヨタの株価を示した。これらを素直にみれば、それは明らかである。ニッサンの経常利益は、及川氏の動画で紹介されているが、西川氏が社長になって以来急激に減少している。

ルノーと日産のアライアンスだが、その基本的部分に株の持ち合いがある。日産はルノーの株の15%を持ち、ルノーは日産の株の43%を持っている。また、ルノーの筆頭株主はフランス政府(現在約20%の株を保持)なので、フランス政府の意向が強く働けば、ルノーのCEOだったカルロス・ゴーン氏が西川氏らの解任を決めるメカニズムは、その動機とともに準備されている。

 

西川氏らが自分たちの解雇を怖れたのには、もう一つの理由がある。それは、フランスのマクロン大統領が、国が保持する株の議決権を倍にできるフロランジュ法を適用して、フランス政府のルノーの経営権拡大を行ったことである。https://www.sankei.com/economy/news/181121/ecn1811210002-n1.html

 

ニッサンの業績不振には、当然会長役のゴーン氏にも責任の一端はある筈。従って、ゴーン支配下のルノーという条件だけなら、一定の反論も可能だ。しかし、そこにフランス政府の圧力が働いた場合、その背後の上記業績不振を考えれば、西川氏の首は風前の灯火のように見える。その他の日産経営陣も同様に、フランス政府の意向が強く働くルノーを怖れたと考えられる。ゴーンが居なくなれば、日産とルノーの連携経路が一時不通になり、マクロン政権の圧力も日本の日産には届かないと考えても不思議はない。

 

また、天下りの取締役を含めて経産省関係者は、ルノーにフランス政府が顔を出すのなら、ニッサンに日本の経産省が顔を出すのは、当然だろうと考えた。或いは、そのような考え方を政府・経済産業省に入れ知恵したのは、同省元審議官で2008年には内閣官房参与も務めた(多くのサイトで同じ記述がある)豊田正和氏だろう。

https://global.nissannews.com/ja-JP/releases/masakazu_toyoda_ja

 

ただ、ゴーン氏が失脚したとしても、ルノーの持ち株比率が変わるわけではない。マクロン政権の意向が、日産にまで強く働くことには、長時間スケールでみればかわらない。そんな中、日産が日本国に必須の企業であり、日本政府の介入・助力があれば、それに対抗することが可能になる。日仏間の外交問題に格上げし、日産に対する日本政府の権限を増加させるのである。具体的には、送り込んだ社外取締役を抱える銀行などと協力して日産を増資すること、場合によっては日本政府がその一部を受け持つところまで行けば、完璧である。

 

ただ、そのような法整備などを迅速に行う実力は日本政府にはない。そこで、西川氏も行なっていた有価証券報告書に、将来受け取ると約束した給与を記載しなかったことを、特別背任容疑とする方法だったのだろう。これが、今回のゴーン事件の日本政府も巻き込んだクーデターモデルである。

 

このモデルが正しい可能性が大きい。その理由は、ゴーン逮捕の容疑として特別背任が挙げられているが、それは西川氏も同罪であったことである。西川氏は辞任したが、逮捕されていないという事実が、その理由である。

 

裁判が行われたとした場合に、重要な論点が一つある。それは、未来に約束された給与を有価証券報告書に記載する義務があるかどうかという問題である。未来に約束された給与と類似したお金として、退職金がある。この退職金の経費としての計上は義務ではないと、及川氏は言っている。(ネット検索をして、退職給付引当金などの項目を見てください。)もしそうなら、今回のゴーン逮捕は、検察が何か他の悪事を探すために、証拠隠滅を防止する目的で行った可能性がたかい。

   

3)日本の中国化:

 

ゴーン事件を契機に私は、私企業への天下りの深刻な実態を知った。そして、現在、自民党長期政権の中で、日本政治の脚本を書く官僚たちは、自分たちの権益を拡大し、国内の私企業の経営にまで干渉する時代になってきたことを示している。背景の一つとして、①経済のグローバル化があるが、本質的な日本政府の特徴として、②天下りと大きな政府を企む官僚独裁という実態がある。これらを、及川氏は日本の中国化と呼んでいる。

 

最初のグローバル経済の影響を考える。先進国政府は、大企業を国内に保持し、そこから税金を収めさせる形をどのように維持するかという問題がある。アマゾンが日本で大きな商売をしながら、つい最近まで殆ど法人税を支払って来なかった。それが可能なのは、多国籍企業体は会計処理により利益をかなり自由に移動させることが出来る点にある。(補足1)

 

そのような多国籍且つ変幻自在の企業を監視するには、ある程度政府が介入せざるを得ないだろう。それがコーポレート・ガバナンス(企業統治)の一つであり、その一環として社外取締役制度を作り、会社の不正を外部の目により監視させる機能をもたせるのである。日本では2015年に上場企業では2名の社外取締役を置くことが実質義務化された。その結果、社外取締役が日本の官僚の天下り先となった。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%A4%BE%E5%A4%96%E5%8F%96%E7%B7%A0%E5%BD%B9

企業のグローバル展開が進み、その結果優良企業は巨大化した。その結果、国家にとって個別企業との関係が大事になってきた。逆に、グローバル企業も、会社経営に外交など国家の行政が大きく関わるようになった。それは見方によれば、私企業の公益性が増加したということになるのだろう。

 

例えば日本の豊田自動車の売上は30兆円ほどであり、日本のGDPの5%以上である。それら大企業の世界競争力を維持することは、政府にとっても国民にとっても重大事である。国家のトップは、その国の企業体の営業マンのように振る舞うニュースを見聞きするが、それはこのような背景があってのことである。

 

今回のゴーン氏の件、西川前日産社長は、自分もやっていた“有価証券報告書の虚偽記載”を用い、元経済産業省審議官の天下り社外取締役の豊田正和氏とゴーン追い出しを画策したようである。その必要性として彼らが日本政府に漏らしたと想像するのは、「ルノーに日産が吸収合併されるので、その防止が日本国にとって非常に大事である」というリークだろう。

 

そこに、自分たちの首が危ないという私的な動機とともにゴーンの本当の目論見が隠された可能性がある。日本国の為というよりも、自分たちの地位の確保が本当の理由だったと考えられる。それがゴーン氏の主張である。

 

ゴーン氏の主張によれば、彼が計画したのは、持株会社を作ってその支配下に日産もルノーも入るという形式への移行である。ゴーン氏は更に、フィアット・クライスラーグループと連携し、世界最大の自動車会社として成長させることを目論でいたという。

 

電気自動車のテスラ社やソニーなど新規参入の会社が成長して、従来の自動車産業界が斜陽化する厳しい時代にさしかかっている。この困難な時代をニッサンが生き残るためのゴーン戦略の邪魔を、西川と豊田の日産幹部がした可能性がたかくなる。

 

4)エピローグ:

 

一年以上も前から、日本政府の「日産を日本企業として確保するための活動」が始まっていたようである。カルロス・ゴーンが中心となって、ルノー、日産、三菱自動車を合併させれば、日産や三菱自動車は、ルノーの日本支社となる。そのように日本国民は教え込まれ、それに反対する右派の人たちは、ゴーン逮捕をむしろ評価していただろう。

 

日本は永く官僚独裁と考えられていた。内閣を構成する与党議員らは、単に俳優であり、しっかりと霞が関が脚本を書いているというのである。一時民主党が政府を担ったことがあったが、それは官僚独裁国家の危機であり、霞が関が脚本執筆をサボることで、簡単に排除された。この件で、野党議員にバカが揃っており、やっぱり自民党議員でないとダメだと思わせるのも、官僚たちの計画通りだろう。

 

日本政府と私企業との関係は中国と似た形になってきた。この中国化のプロセスの第一歩は、私企業の社外取締役というポストが官僚の天下り先になったことである。それを明確に示したのが、上記動画で紹介された日産の社外取締役となっていた豊田正明氏である。

 

あるサイトに天下り官僚の日常がかかれている。「何もしなくていい、というのが実情です。企業にしてみれば、所管官庁の元幹部が天下りしていることで官庁とのやり取りがスムーズになるし、それが一番のメリットなのです。」「更に、それよりも問題なのは、財団法人などに理事として天下った官僚です。いつ会っても『暇だ、暇だ』と言っています」https://gendai.ismedia.jp/articles/-/50932?page=2

 

補足:

 

1)法人税は本社の所在地で支払う。子会社を、商売をする国に作り、そこに生じた利益を、様々な手法、例えば(ライセンス料や技術指導料など)経費として計上することなどで、本社が吸い上げることが可能だろう。同様の手法で、法人税率の低いところに利益をある程度集中させることが出来る。

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