2020年4月30日木曜日

新型コロナ肺炎と人類との戦いの歴史

新型コロナ肺炎(COVID-19)の問題を本格的に考え続けて、2ヶ月以上になる。ここで、ほぼ全体が見えてきたように思う。この病気が世界的大問題となった背景には、恐らく、人類の脆弱化と複雑な国際政治があるのだろう。この問題を、一般肺炎による死者数の年間12万人という数字で相対化してきたつもりだが、政治の貧困に対する攻撃により、取り扱いが大きくなり過ぎたかもしれない。https://ameblo.jp/polymorph86/entry-12580811884.html

 

この病気には、本当は集団免疫を得るまで緩やかな規制を続け、高齢者と基礎疾患保有者を隔離する方法をとり、結果としての相当の被害には目をつぶるスウェーデン方式が、賢明な政策だったのだろう。それは、都市閉鎖など力ずくで抑え込んだとしても、集団免疫が出来なければ、第二波と第三波などが来た場合、経済の疲弊による被害の方が大きいかもしれないからである。

 

しかし、世界ではSocial DistanceとかLock Down とか言って、強い規制がCOVID-19に対する正当な戦略であるとの考えが主流である。それは個の主張が極大化した現在、それと反比例的に人間社会が脆弱化したことの裏返しかもしれない。疫病の世界でのパンデミック自体はそれほど大きくは無くても、国際政治の舞台ではズームアップされたり、過度に照明されたりして、狂気の支配が始まっているのかもしれない。ここで、一度全体を振り返ってみる

 

1)第一波流行における中国の責任

 

武漢や重慶など巨大都市では、中国政府はほぼ完全な都市封鎖を行った結果、現在ではこの疫病を完全に抑え込んだとしている。4月27日には、武漢での入院患者ゼロを宣言した。その結果、中国全土での死亡者総数は、最近統計に漏れて居たとして加えた1200名を入れても、4633名(4月29日現在)であり、現在の米国死者数の1/13に過ぎない。https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200426/k10012406651000.html

 

中国で発表された、(検出された感染者の数を分母にしての)致死率は、武漢で5%程度であり、他の省では平均して0.8%程度である。(抗体検査などで見積もった)実際の感染者数を分母にすれば、数値は数分の1になるだろう。(補足1)これらの数字から、COVID-19に関する国際紛争において中国がとる戦略が読める。中国は、医療崩壊を引き起こさなければ、中国発のCOVID-19の致死率は小数点以下(%)であり、普通のインフルエンザレベルの病気であると主張するだろう。

 

①インフルエンザが何処で発生しても、その責任追及は国際慣例として行われて来なかった。従ってCOVID-19が最初中国の河北省で発生したとしても、その責任を欧米が提示する様には負いかねると主張するだろう。逆に、それが可能な様に数字を抑えているという見方も存在する。また、②武漢の5%を超える高い致死率は医療崩壊の結果であり、他国に非難されるべき対象ではない。更に、③その後欧米でウイルスに変異が起こって大きな被害が出たとしても、それら変異株がそれらの国の諸条件下で生じたものなら、中国の責任だと攻撃するのは論理的でない。

 

これらは、元のウイルスが天然に発生したウイルスであったなら、ほぼ正当な主張であると思う。更に北京政府は、流行初期に隠蔽したこと、そしてそのために武漢の李文亮医師らを弾圧したことは、全て湖北省地方政府担当者の犯罪行為であったとするだろう。ただそれも、「流言飛語により医療崩壊を起こす危険性を察知してのことであり、弁護の余地もある」として、トカゲの尻尾切が可能である。

 

中国政府は、通常のインフルエンザレベルの風邪の流行の原点になった責任は、都市封鎖により制圧したことで完全に果たしたと主張するだろう。4月下旬以降、旧満州地方でのCOVID-19の流行は、上述のように外国から持ち込まれた変異株によるものであり、この流行第二波においては中国は被害者であるとの主張し、その声は時間を経るに従って大きくなるだろう。

 

以上のような戦略で、中国はその責任を最小限に抑える戦略をとると思う。それに同調する国として、セルビアやエチオピアなどの親中国家が準備されている。

 

元の数値はジョン・ホプキンス大の発表しているデータから取った。https://coronavirus.jhu.edu/map.html

 

2)COVID-19流行第二波による被害とウイルスの変異株について

 

最初の流行(第一波)を、2−3ヶ月かけ都市をロックダウンして抑え込んだ場合、大きな集団免疫は出来ない。そこで、経済活動を再開すれば、一定期間後に第二波がくる可能性が大である。それは、特効薬やワクチンができない限り必然だろう。変異株が生じた場合、その被害は更に深刻になるだろう。

 

既にこの第二波が中国で起こり始めているようだ。(上のテーブルの黒龍江省や内モンゴルのデータを見てもらいたい。)欧米からの逆輸入による第二波に関しては、中国は被害国であるというのが、中国の考える歴史の筋書きだろう。勿論、それは事実かもしれない。ただし、COVID-19パンデミックに人為的要素が無い場合に限られる。

 

欧米では第一波が既に大流行となり、模範的な対策を取っているドイツやスイスでも検出感染者数を分母にすれば、致死率は5%を超える。フランス、イタリア、スペインなどでは、10%を大きく超えるだろう。それは韓国の2.5%、中国の武漢以外の0.8%より遥かに大きい。

 

この欧米での深刻な被害の理由は、変異株によるのだろう。最近のProNAS(米国科学アカデミーの論文誌)に掲載された論文では、幾つもの変異株とその変異ルートが記載されている。そこではメインな変異株として、A, B, Cを上げている。Bは東アジアでメインであり、Cは欧米及びブラジルで猛威を振るっているもののようだ。そして、Cは中国本土諸省では見られなかった変異株であると書かれている。(補足2)https://www.pnas.org/content/117/17/9241

 

つまり、中国が考えた通り、欧米での大流行は、変異したウイルスによるのであり、中国本土で発生したオリジナルなウイルスではない。最近、国立感染症研究所の報告によれば、4月に入って日本で急激に流行拡大しているのは、欧米から流入したものだと言う。多分、上記タイプCが日本でも猛威を振るっているのだろう。https://www.youtube.com/watch?v=pDLXTTKRRB4

 

この変異の速さと、ウイルスの凶暴化は、どのように説明されるのだろうか。更に、変異を続ければ、仮に一旦集団免疫ができたとしても、それは変異株には万全でない可能性がある。人類にとって、最大の危機なのかもしれない。 

 

中国は、国家の威信を掛けて、COVID-19を抑え込んだ。それは、上記のように欧米からの賠償要求を斥けるため、或いは、最小限に抑えるためには、相当役立つだろう。ただ、医療崩壊がなかった武漢以外の省での都市のロックダウンは集団免疫が出来ないので、第二波の流行を考えれば良い策ではなかっただろう。

 

それも中国は十分知っていた筈である。それでも尚、武漢以外の大都市、例えば重慶などを都市封鎖したのは何故か?

 

最初から、何処かに不自然なものがある。中国の主張する流行のモデルと異なり、最初の発病者が武漢の海鮮市場とは無関係のところで生じていること、P4研究所の地図上での消滅(https://www.youtube.com/watch?v=Cm0lZ8uDYRE;12分ころから言及)、更に、最初にこの病気に対する警告をネットにアップした李文亮医師らへの武漢政府の弾圧など(死後北京の中央政府は表彰したのだが)、賠償問題とは別に中国には説明する道義的責任がある。

 

3)治療法の無いパンデミック疾患は、集団免疫ができるまで続く?

 

集団免疫の話では、国際政治評論家の田中宇さんが、昨日配信のメルマガで議論している。(http://tanakanews.com) 田中氏の引用文献によれば、このSARS-CoV2ウイルスに対して免疫を持つ人は、河北省武漢でさえも人口の3%に過ぎないとのことである。もし3%が感染者だったとすると、河北省人口7470万から計算すると、本当の感染者を分母にした致死率は0.2%となる。武漢を含む河北省での流行でも、インフルエンザの倍程度の致死率だったのだろうか?

http://www.wsj.com/articles/wuhan-starts-testing-to-determine-level-of-immunity-from-coronavirus-11587039175

 

スウェーデンは、最初からCOVID-19の脅威を正しく理解し、弱者を隔離する方法(感染者の隔離ではなく、感染の可能性が大きい無感染者の隔離)を採用した。国家と国民の間に信頼感のある国でのみ可能な方法だろう。そして、世界で唯一、集団免疫を正面から目指す戦略を取っている。田中氏の記事によれば、近くほぼ集団免疫60%を達成するそうである。

 

米国、英国、フランス、ドイツ、イタリア、スペインなどの殆どの欧米の国々は、強い規制を敷いた。その結果、これら西欧諸国は恐らく5月中に、流行第一波をほぼ抑え込むだろう。これらの国々は第一波の対策で経済的に疲弊しており、第二波や第三波の流行では、ロックダウン戦略を取れず、第一波以上の被害を出す可能性がある。

 

集団免疫を得るまでの最終的な被害者数は、たいして変わらないかもしれないが、経済的損失とそれによる自殺者などの被害を考えると、スウェーデン方式を採用した場合が最小の被害となる可能性が大きいと思う。(補足3)

 

日本は、スウェーデンに近いレベルの緩やかな規制で対処してきた。しかし、その被害は隠れているのではないかと米国から指摘され、現在その規制を強化している(米国により強制されている)と田中宇氏は解説している。(補足4)

 

COVID-19を“武漢風邪”レベルという、与党有力議員(松田学氏;https://ameblo.jp/polymorph86/entry-12589838716.html)の発言から察すると、日本政府は、集団免疫を達成する方針だったのかもしれない。しかし、それをスウェーデンの様に、国策として正面に掲げると、英国同様、世論に潰される。それをどう実現するかを専門家会議で考えた結果が、クラスターを追いかける戦略(https://rcbyspinmanipulation.blogspot.com/2020/03/blog-post_16.html)だったのだろう。

 

そして、それを正当化すために、最初専門会議の副座長が言った言葉は、「感染者の80%は他人に感染させない」という不思議な台詞である。ドタバタした結果、人的被害を相当拡大することになったのだろう。(補足5)https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/newpage_00011.html


イギリスのジョンソン首相も、最初は集団免疫を作る方向で、多少の犠牲はやむを得ないとは言っていた。しかし国民の非難などがあったのだろう、数日でギブアップした。

 

第二波や第三波は秋以降にくるだろう。繰り返すが、高齢者と基礎疾患を持つ「弱者」のみを隔離し、その他は各自の判断で、感染者がいる空間での活動を許した方が、最終的な被害を考えれば最良の戦略だったのだろう。大きくなった個人の声と、複雑化し狭くなった国際社会の政治という不利な環境で、全体としてみれば民主主義体制を採る国家とその民は、近代文明誕生後の最大に危機にあるのかもしれない。

(午後4時に全体を編集しました。)

 

補足:

 

1) 致死率は死亡者が分子にくるのは自明だが、分母に検出された感染者を置くのか、推測される全感染者を分母に置くのかで数値が大きくことなる。通常最後に残る数値は後者だろう。その場合の分母には、一応疫病が終わったのち一定数の抗体検査から全体の感染者数を計算し、それを置く。例えば、ニューヨーク州での死者数は23,500人ほどであるが、最近行われた抗体検査での感染率13.9%で全感染者を推定すると270万人になる。そうすると、致死率は0.9%以下に落ちる。これでもインフルエンザの9倍程の致死率である。疾病流行の途中なので、本ブログでは一貫して前者の定義を用いてきた。ここでも単に致死率という場合は、分母として検出された感染者を用いた値を指す。

 

2)3月3日に発表されたOxford AcademicのNational Science Reviewに発表された中国の研究者による論文では、主に二つのタイプS(古いタイプ)とL(変異した症状のキツイタイプ)があると言う。類似のものをまとめているので、変異株の数自体は50を超える。Lは武漢で猛威を振るったが、都市封鎖により鎮圧されたようである。このSとLのタイプがあるという結果は日本でも報道された。この論文は、全文PDFで公開されている。

https://academic.oup.com/nsr/advance-article/doi/10.1093/nsr/nwaa036/5775463

 

3) ドイツやスイスでも致死率は患者数の5%程度である。そして、その背後に無症状な感染者が大勢入れば、感染者ベースの致死率は大きく減少するだろう。それでも、集団免疫を目指す方法を取れないのは、20世紀後半から先進諸国の人権意識の高まりと、同時に起こる“命の値段”の高騰だろう。最終的な被害は、スウェーデン方式が最小となると考える人は、知識人の間では多いだろう。

 

4)田中宇氏は、米国にたいする見方が非常に厳しい国際政治評論家である。李氏朝鮮時代の隣国のように、日本では事大主義者(大きな国に従属することが賢明で自然だと考える人)が政治評論家でも主流であるので、タイプが異なる伊藤貫氏同様、日本のマスコミに登場することは殆どない。

 

5)「これまでに国内で感染が確認された方のうち重症・軽症に関わらず約80%の方は、他の人に感染させていません。一方で、一定条件を満たす場所において、一人の感染者が複数人に感染させた事例が報告されています。」と書かれている。

 

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