日銀の金融政策決定会合の結果、今後も金融緩和を続けることになった。日銀の植田総裁は為替レートの変化が直接物価に影響する部分を物価上昇の第一の力と呼び、日本国内の景気循環の効果(第二の力による物価上昇)とは関係が薄いとして無視するようだ。目標2%とは、後者による物価上昇に限っての話のようだ。https://www.youtube.com/watch?v=k4LHqEHOd3s
インフレ率2%を目標に続けたアベノミクスの金融緩和は単に円安誘導であり、輸出業者に対する不景気対策としての短期的効果はあったものの、本質的な経済対策ではあり得なかった。そして、今日の様に日銀がほとんど金融政策が実行できないという大きな副作用を残した。つまり本質的な経済改革の必要性に対する誤魔化しとなり、時間を浪費するだけとなった。(補足1)
今回の記者会見では、3月の会合の時と殆ど何も変わらない話に終わり、結果として今後更に円安が続く可能性が高くなった。実際、会見後一日でドル円レートは2円程円安方向に動いた。記者会見の中で(上の動画12分ころから)、為替介入の他にも国債買入量を減少させるかどうかの話もあったが、それも3月の時の話と変わらず、何らかの行動に出る可能性は無いようだ。
この円安の効果だが、タイや台湾等東南アジアから日本に来る人達には物価が安くて助かると言う人が多く、我々日本人にはまるで経済破綻近くの国として馬鹿にされているように感じる。最低賃金などもタイなどの国よりも安いと言われると、日本はアルゼンチンの様に再び途上国状態になるのだろうと思ってしまう。
円安の原因は周知の通りである。日本はゼロ金利だが米国は金利が5%以上であり、その金利差による。FXでも何でも1万ドル買って持っていれば、一年後にはほゞ500ドル分の利子が付いていることになる。差し当たりドルを買っておこうと考えるのは極普通である。
植田総裁への記者会見では、ドル売り介入しないのかという質問が多く為されていた。植田総裁にはその意思は無いようだ。つまり、出来ないか効果があまり見込めないのだろう。この為替介入をしない理由を分かりやすく説明しているのが、楽天証券のアドバイザーの方の話(以下の動画)である。https://www.youtube.com/watch?v=YhiNmVDf01s
一般に為替介入は何らかの異常があって発生したことなら短期にそれを是正する効果はあるが、本質的な原因で起こっている場合には、為替介入の効果は一定時間後に無くなり、結局資金の無駄遣いに終わってしまう。国債買い入れ量を減少させることの可能性についても聞き手から質問があったと思うが、様子見状態だという話だった。
つまり、本質的な円安に対して為替介入をすれば、FXや株式で、その動きについて行けない素人が損をして、それを利用する玄人が金を稼ぐだけということになる。為替介入は外貨準備を用いて行うが、その資金を無駄に使うだけであると言う。(補足2)
現在、日本の外貨準備高は1兆2000億ドル程度とG7中最大であり、原資に不足はないという。今後本質的な理由で更に円安が進めば、この外貨準備金がより有効に使うことが可能である。今無駄遣いして、投機筋に儲けさせるのは得策ではないだろう。(補足3)
上記動画で、日銀は国債買い入れを急激には減らさないと言う植田総裁の話については、十分な解説が無かった。多分それは政治つまり財政の問題だからだろう。本ブログでは、巨額の財政赤字の累積が日銀の利上げを阻止していることを説明するために書いている。
2)国債買い入れを減らさないこと
植田総裁は、国債保有の減額を能動的な金融政策として使いたくなく、将来自然に減額していくことに期待しているようである。日本円の価値が急激に低下する今日、政治的にも非常に不安定化した日本国の国債の価値は、10年前に比べて大きく低下している。そんな中で国債買い入れを減額すると、国債価格が市場で決定されることになる。
ゼロ金利時代の長期国債の価格は、大きく低下することが予想される。前回ブログ記事にも書いたことだが、日銀が保有する500兆円以上の長期国債の価値が既に実質的に大きく低下しており、日銀は実質債務超過であることが明確になる。つまり、国債価格を市場が決定することになれば、日本国債の利率を相当上げなければさばけなくなり、金利を上げることにつながる。
従って、日本政府の放漫財政が原因で、日銀は国債を買い入れざるを得ない。そうしなければ、国家財政が破綻する可能性が高くなる。(補足4)日銀の金融政策よりも国家財政が上にあり、それへの対応として日銀が買い入れる量を決める必要があるということである。
この問題は、以下の動画の6分15秒から、為替アナリストとして著名な佐々木融氏により解説されている。是非、最初の10分程を視聴してもらいたい。https://www.youtube.com/watch?v=KysROBY3Xc8
政府の巨額財政支出継続の結果、日銀は現在約500兆円以上の巨額の国債残高を持つに至った。もし、この国債を市場に徐々にでも放出するとなると、国債値下がりは防止できない。国債値下がりは金利上昇から2%よりも遥かに高いインフレを招く可能性がある。つまり、日銀の資産の実質的価値の減少は、同時に円の信用下落に繋がる。(補足5)
国会議員には、この国家の財政に対し安易に考えているように思う。前回引用の江田憲司議員の言葉もそうだが、他にも自民党の西田昌司議員の以下の動画での言葉も、上記のような危険性への配慮が全く感じられない。https://www.youtube.com/watch?v=vnjDuA8IVJg
以上から、この円安に対して日銀には打つ手が無いのである。つまり、黒田前総裁の時に行った異次元の金融緩和の付けを、今になって日本は支払わされているのである。日銀にはとり得る金融政策の幅が殆どなく、米国連銀の金融政策に同期して、ドル円レートが上下することになる。
為替が不安定な現在、円安だからと言って日本の企業の国内回帰が進んでいない。それは、米国が利下げをすれば、直ぐにでもまた130円からそれ以上の円高に振れることになる。そんな情況では、危なくて国内回帰することが出来ないのだ。
大まかに言って日銀券発行の裏に同額の国債発行がある。日銀に十分な幅で金融や為替政策がとり得る余地を残すことを考えれば、財政赤字の対GDP比が諸外国の値と比べて大きく乖離していることは深刻な本質的問題である。この巨額の国債残高の意味を、今思い知っている情況であると思う。
3)適正な為替レートは2010年に達成されていた1ドル80円だった
相応しい為替レートは、名目実効為替レートと実質実効為替レートが同じ場合だろう。そこで以下のニッセイ基礎研究所による解説記事を引用する。https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=71027?site=nli
下の図は、この解説記事から抜き出した国際決済銀行による日本円の名目及び実質の実効為替レートである。
これを見れば、2010年までの為替レートは大きく円安に振れていたことが分かる。1990年頃でも実質としては、円の実力は名目の倍程度あった。しかし、そこから急激に円の価値が減少し、2010年ごろには名目と実質がほぼ一致している。
つまり、2010年の1ドル80円のレートは円高などではなく、正しいレートだったのである。その時の不況を円高不況と呼ぶのは間違いで、前日銀総裁の黒田氏の時におこなったマクロな金融政策で円安誘導することは、一時的な対症療法的な意味はあったかもしれないが、根本的に間違った対策だったと言えるだろう。
デフレ不況の原因を三本の矢で克服するというアベノミクスは言葉の上では正しいかもしれないが、日本の経済が円滑でない原因を正しく追及しないで、安易に円安誘導に走ることになった。三本の矢の最初の一本だけ放ち、あとの二本が放たれなかったことが問題なのである。日銀による大量の国債買い入れによるマネーサプライを増加させる金融政策だけでは副作用が大きい。
その結果、日本円の信用は下落し、中央銀行が自国都合で金融政策が実行できないほどになったのである。この悪政に手を貸した前日銀総裁の罪は重い。
日銀も日本政府もこの失敗は隠すだろう。(補足6)
以上は、元理系の一素人の文章ですので、批判や間違いの指摘等歓迎します。
補足:
1)このことは何度も議論している。2022年に書いた以下の記事を観てもらいたい。
https://ameblo.jp/polymorph86/entry-12723713884.html
2)SMBC日興証券の宣伝では、57万円程の証拠金で10万ドルの買いポジションが持てる。一か月の間に今の金利差が続けば、金利差分の儲け(スワップ)が54900円にもなる。それに加えて円安が1円進めば10万円の儲けが加算される。為替介入して円高に振れれば、その時がFXを楽しむチャンスとなる。正義(悪だくみを砕くタイプ)なき為替介入の愚かさが理解できるだろう。
3)田中氏によると、外貨準備は約1兆2000億ドルであり、現在の為替では約170~180兆円となる。現在外貨準備をこんなに大量持つ必要がないので、為替介入で得た円はそのまま国債残高を減少させることに利用可能だという。つまり、NTT株を売って5兆円ばかり欲しいと政府が思うなら、NTT法改訂などという姑息なことをせずに為替介入をすれば簡単に稼げるという話である。
4)このままの情況で日銀が国債をゼロに近づければ、国債価格は著しく低下し、ハイパーインフレになる可能性が高い。日銀がそれを防いでいるのだが、その副作用として金融政策が自由にとれないというのが現在の円安である。
5)この問題に答えるだけの知識を、現在の私は持ち合わせていない。ただ、増資という形で帳尻を合すか、貸借対照表に国債の価値を額面で記載するかの何方かの方法をとるだろう。何れにしても、日銀の信用は減り、高いインフレの原因になると考える。
6)明治に始まった日本は、長州の下級武士たちが英国系の金融資本の指導で作り上げた国であり、日本民族が独自に作り上げた国ではない。かの国の支配者である金融資本家たちは、人類が長い年月を費やして作り上げた近代西欧文明の「真や善」を無視して、利己的に国家を支配し運営する習性がある。それは、ガザ地区の陰惨な情況や、ウクライナ戦争のインチキを見ればわかる。その指導で作り上げた日本も、同様に自分たちの国家支配を優先し、不都合は隠して済ませる体質である。
編集履歴: 15:25、18:45;翌日朝再度編集改題して最終稿。(以上)