1)米国が露呈させた中国共産党政権の真の姿と日本の課題
日本が抱えている最重要な課題は、コロナ問題や拉致問題等ではなく、表題の問に対して明確な答えと姿勢を持つことである。短期的な経済的利益に囚われないで、現在が世界の歴史の方向が決定される時なのかどうかを考えるべきである。
9月30日の記事で、中国共産党政権は、共産党独裁という政治手法と核武装を含めた強大な軍事力などありとあらゆる手段を用いて(=超限戦的手法)、中華秩序を人類史の本流にすることを目指していると書いた。共産主義と中華思想はともに、世界覇権を目指す思想或いは宗教である。
日本国が対中外交を考える場合、既に中共政府の本質を見抜いた米国の対中姿勢に対して、反駁することは賢明でないことを知り、利己的且つ近視眼的なチャイナ・スクールの外交方針を取り入れないことが、安全保障上最重要だと思う。(補足1)
2−3年前のトランプ政権を振り返ると、「米国ファースト」を看板に、中国だけでなく日本を含めた世界中の国々に対し厳しい要求を突きつけた。そのプロセスの中で、中国共産党政府の政治文化が西欧政治文化と本質的に相容れないという事実が、世界に周知されることとなった。(補足2)
そこでトランプ政権の外交方針に質的転換がなされた様に思う。つまり、基本的価値を共有する多くの国々と協力して、中国と米国等の経済におけるデカップリングが中心課題に定着したと考える。(補足3)経済におけるデカップリングは、必然的に政治のデカップリング、つまり第二次冷戦を意味する。それは、中国にとっても、中国と密接な経済関係を築いた米国等にとっても、イバラの道であり、長期に亘るだろう。
中国共産党政権は、法治主義を採らず人権を軽視する国であるだけでなく、主権国家体制も、ご都合主義的に主張しているに過ぎない。それは、他国の領海にある岩礁を軍事基地化したことや、一帯一路上で行われる弱小国に対する借金外交からも明らかである。岩礁は埋め立てても、領土とすることは国際法上認められない。ましてや、他国の領海と思われる場所の岩礁においては、何をか言わんやである。
長い殺し合いの歴史を経て、人類が漸く手にした宝である「社会と信用」の基盤は、基本的人権と法治主義という原則である。そして、同じく宝として、その上に築かれた主権国家体制と国際法秩序が存在する。その国際社会の信用があって、主権国家間の秩序ある経済活動と政治的関係が存在する。中国はその西欧の政治文化とは全く異質な政治文化である中華秩序を自国の戦略としている。
その中国現政府の本質を、習近平政権を強化するために副主席として辣腕をふるった王岐山(補足4)が、米国のフランク・フクヤマに学者らしく率直に語った。その言葉を要約すると、「中国は神が統治する国であり、法律は人が書いた紙切れに過ぎない」である。この中国共産党政権の本質が、今日まで明確にならなかったのは、鄧小平の韜光養晦(とうこうようかい)戦術による。https://ameblo.jp/polymorph86/entry-12628399398.html
鄧小平は、大国になるまで中国の爪を隠し、能力を覆い隠して、西欧社会から取り込むものは全て、中国を強力及び強大な国家にする為に栄養をとるという感覚で、取り込む戦術をとった。西欧が作った国際社会の一員として参加するのではなく、太古の時代から彼らが考える歴史の本流として、「中華秩序の構築」を考えていたのだ。
中国の強烈な自信は、5000年の歴史の産物なのかもしれない。しかし、中国は開かれた学問を構築することが出来ず、英雄的人物、孔孟や朱熹が築いた半宗教・半科学の儒教を築いたのみである。議論によって無限の人間の参画を可能にした、開かれた科学(或いは哲学)的社会を構築した、西欧文化に劣る。(補足5)
2)チャイナ・スクールの企みに乗るべきではない
日本の外交安全保障は、米中という二大国の間を、非武装という憲法の巻物を懐に入れた軽武装で、何方にも良い顔をして実現出来るほど簡単ではないだろう。今後、天安門事件後の日本のように、中国との関係改善に率先して動くことは、結果として日本を過酷な中国支配の下に導くだろう。
中国国営新華社通信によると、菅総理との日中首脳会談において、習主席は「歴史など重大で敏感な問題を適切に処理し、新時代が求める中日関係の構築に努力したい」と表明したという。その場面の詳細はわからないが、東シナ海の件は明確に習近平に伝達したようだから、それを受けての発言かもしれない。菅首相は、相応に老練な政治家なのかもしれない。
戦前戦中の中国国民との歴史問題は、日中友好条約とその後のODAなどを通じた協力関係で、解消された筈である。その上、どのような歴史問題が存在するのか? 平和友好条約は、両国がこれまでの歴史を乗り越えて、未来を志向して友好関係を築こうという約束である。何故、過去の歴史を何度も掘り起こすのか? それは日本を軽く見て、歴史をATMの暗証番号のように使いたいということだろう。
日本は、中国に事実を綴った歴史など、司馬遷の書いた史書を含めて何も存在しないことを知るべきである。大躍進運動、文化大革命、天安門事件なども、嘘で塗り固められているか、消えているだろう。中国における歴史は、現政権の道具に過ぎない。それは、韓国が日本に提起する歴史問題と同じである。(cf. 李栄薫編著「反日種族主義」)
日中関係や日韓関係で重要な点は、これらの対象となる国々は日本国の政治を心の底で、馬鹿にしているということである。それはそれらの国々の責任というより、日本側の責任である。日本に独立国家としての尊厳を護るという能力に欠けるからである。つまり、何時でも必要な時に、必要なように利用できる国であり、その鍵(上記暗証番号)は歴史問題である。
中国政府は、日本に対しては恩とか義理の感覚を持たないことを嫌という程味わった、この50年の日中間の歴史を反芻すべきである。その本質的原因も、中華思想による。つまり、中国は、日本を朝貢国の一つ、中華秩序の下位の国と見ているからである。
優越感と劣等感は表裏一体である。前のセクションで書いた中国の優越意識である中華思想(または中華思想G2;補足6)も、5000年の歴史を持ちながら西欧諸国に追い抜かれた中国の劣等意識を基礎にして生じている。中国の対日蔑視も、韓国の対日感情も、同様の理由だろう。日本は有史以来、外に学ぶ姿勢をもった海洋国家である。明治以来の西洋文化の吸収も、東アジアで一番早かった。それに対する同様のメカニズムによる複雑な感情が中国や朝鮮に存在するのである。
兎に角、日本国は政治の質の改善に努力すべきだが、差し当たり可能な方法は首相公選制位だろう。日本国民に自分たちが政治に関与できるのだという実感を持つことが先ず大事な一歩だからである。その政治の改善を、全く新しい土壌から生まれ、徐々に実力を発揮しつつある菅首相に期待したい。(補足7)
補足:
1)このような観点に立って見た時、従来型の大国間で日本の位置を調整するバランス外交は、質的な歴史の変化を見ていない可能性がたかい。その種の典型的な解説として、元外交官の亀山陽司氏の論説を引用する。この文章は、米国は基本的人権や法治主義を日本や西欧諸国と共有する国家であるが、一方の中国は、それらをゴミ箱に捨てると副主席が明言した国であることを、一顧だにしていない。更に、日本が取るべき方向にも、何の記述もない。
2)後に、これを明確に示すことになったのが、ヨーロッパの親中国家の姿勢の急変である。例えば、チェコの上院議長が台湾を訪問し、「私は台湾人である」とケネディの用いた方法により、自由主義の台湾を支援し、間接的に反人権国家の中国を批判した。 https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2020-09-07/QG2Q0AT0G1KW01
3)トランプ大統領は、「米国ファースト」という政策の下、日本に対する要求として、米軍駐留経費の4倍増要求などを日本に伝えた。それは、安全保障において自立していない日本の姿を強烈に教える効果があった筈だが、国はそれを国民に隠した。それは、中国に対する認識が甘かったトランプ政権初期のころの話であり、最近その言葉をあまり聞かない。勿論、いつか復活するのだが。 https://www.tokyo-np.co.jp/article/37289
4)王岐山は、習近平が国家主席の座を争った薄熙来の政策を乗っ取り、腐敗追放という美名の基に、多くの政敵を消した。しかし中国では、出世した者が様々な不正で蓄財することは常識である。習近平も腐敗から超越した存在ではないことは言うまでもない。 http://www.jfss.gr.jp/home/index/article/id/867
5)この西欧文化は、たまたまギリシャ文化とキリスト教文化の融合により生まれたと、私は理解している。私は、歴史学や文系の人たちが学ぶ「哲学」の素人であり、誰かにこのあたりを詳細に解説してもらいたい。(ギリシャ文明の偉大さ=>
http://www.uraken.net/rekishi/reki-eu06.html )
6)中華思想は、1000年前に既に存在しただろう。蛮夷の国と戦い支配と非支配を繰り返しながら、中原を守った漢民族に生じた。それが最初のバージョンである。現在の中国共産党政権の持つ中華思想は、バージョン2(or generation 2) といえるだろう。
7)9月26日に書いたブログ記事は、菅首相の評価を早まったと思う。既に追補として、30日の大紀元の記事を冒頭に追加していますが、ここに改めて菅総理の評価の部分は撤回させていただきたい。
ーーー
0 件のコメント:
コメントを投稿