トランプ関税をどう考え、どう対処すべきか?
米国トランプ大統領の経済システムへの過剰介入によって世界は経済危機を迎える可能性がある。トランプ氏(以下敬称略)は現役の経済人なのでこのようなことにはならないと高をくくっていた人もいただろうが、期待外れだった。トランプには軌道修正を期待したいが無理かもしれない。
4月2日、トランプは米国に新たな関税障壁を設ける件について、今日は米国開放の日だという言葉で演説を始めた。何十年間、米国の製造業でまじめに働く労働者が諸外国の関税や非関税障壁によって苦しめられてきたと言うのである。今後、外国産品に高い関税を掛けて米国に製造業を戻し、中間層に富の増加を実現するという。
https://www.youtube.com/watch?v=6eEo1HEmL-4
これまで米国は、物品や資本の移動を自由にするという自由貿易体制に世界を導く主導的役割を果たしてきた。そして、途上国に資本を投下し、製造業を移転して、経済発展させるとともに自国の資本収益を上げてきた。米国は、得られた豊富な資金により、新規産業のフロンティアとなり、GAFAM等を誕生させた。
その結果、米国はこの50年間にGDPを20倍ほどにも増大させるとともに、世界経済におけるリーダーとしての地位を謳歌してきた筈である。米国経済がいつまでも鉄鋼やアルミなどの材料や自動車などの重厚長大産業に依存していては、現在のような地位は無かっただろう。その大きな流れ(国際分業体制)を考慮しないで、まるで世界から虐待を受けた被害者のように言う身勝手さには、これまでトランプを応援してきた人たちも含めて多くが不快感を感じただろう。
米国は、その金融力を用いて軍備を拡大し、世界覇権と米国に富を運ぶドル基軸体制を維持してきた。そのような体制による果実は、この数十年間における米国という国家の力の維持と富の蓄積である。その恩恵は上層部のほんの一部に偏在していたので、中産階級にも向けるという改革をする場合、国内問題の解決という形で行うべきであり、世界の混乱と引き換えに為されるべきことではないと思う。
繰り返しになるが別角度から短くまとめる:
米国のみが世界に借金を垂れ流して、それを肥やしに発展途上国が産業の近代化を進め、その利益の多くを米国に還流したのが、今日の巨大経済と軍事大国の米国を作ったのである。3月末の記事の「おわりに」でも書いたように、米国が世界のリーダーとして、その負担とともに恩恵を受けてきたのである。負担だけ強調されても世界は困る。
政権交代した途端にその負担を放棄すると言い出し、その恩恵部分を評価するのではなく「米国はこれまで損ばかりしてきた」と話すのは異常である。これが米国トランプ政権の新関税政策に関するトランプのアナウンスを聞いた感想である。
直近数十年間の国際分業体制を進めることで得てきた経済成長と基軸通貨を支配する特権的立場の強引な維持により得てきた力と富(多くは無形資産的かもしれないが)を見ない振りをして、その長い時間をワープする(あるいはキャンセルする)ようなやり方で強引に製造業の米国回帰を企むのは、米国中間層にも良い結果を生まないだろう。
輸入品に高額の関税を掛けて所得税を廃止する方針だと言うが、それでは中間層や低所得者層をインフレでいじめることになる。所得税をなくし、関税を国家予算の出所とした場合、その恩恵を受けるのは富裕層であり、中間層以下は関税負担の主役となる。金持ちのための政策を、自分は中間層の味方だなんて言って進めるのはインチキではないのか?
2)トランプ関税を実施する背景
ここで少し冷静になって、トランプの立場から考えてみる。トランプがこのような関税政策を発表したのは何故か、何を目的としているのかについて、トランプ第一期政権時の米通商代表であるロバート・ライトハイザー氏(以下敬称略)の考え方がyoutuberである張陽氏によって解説されているので、それを少し紹介し、ところどころに自分の考えも追加する。https://www.youtube.com/watch?v=i9Il8FdZf_8
張陽氏の上記動画では、タッカー・カールソン氏(以下敬称略)が3月20日に行ったインタビューを我々素人にもわかりやすく解説したものである。尚、ロバート・ライトハイザーは、保護貿易主義者であると言われている。https://x.com/TuckerCarlson/status/1902468999511994461?t=3404
ライトハイザーは、自由貿易と資本の自由化のシステムを採用したことは、米国にとって失敗だった。米国は商品市場を世界に開放することで、貿易赤字を続けることになったからである。この20年間の毎年の貿易赤字は、対外金融資産から対外負債を引いた値(純国際投資ポジション)をー3兆ドルのからー23兆ドル(マイナスは赤字)へと拡大した。
これは米国から多額の富が海外へ流出したことを意味し、それは、他国の自国民の生活向上の為ではなく米国から富を奪うためにこのシステムを利用した経済政策と、米国エリート層の近視眼的政策が原因である。
その結果、米国の製造業が潰れてしまっただけでなく、製造技術も海外に流出してしまい、米国ではそれらの物が作れなくなった。そして、米国の主力である筈の中間層は崩壊し貧しくなり、富裕層は益々裕福になって、富裕層1%の富は中間層60%の富より多いという異常な状況となっている。
更に、中間層に残された適当な仕事はなくなり、彼らは将来への希望も無くした。これは米国の危機である。
ここで米国をこのようにした他国の経済政策とは、労働者の賃金を低く抑えたり、輸出補助金などを付けたりして、製品の米国での競争力をつけて輸出することを意味している。また、米国エリート層の近視眼的政策というのは、そのような外国の方針を知りながら、その国への技術供与などを行ってきたことや、また他国への資本投下や資本収益を自由に行うため、いくつかの国際的取り決めを行ってきたことなどである。
例えば、米国エリート層(注:つまりディープ・ステート)が進めた、中国へ最恵国待遇を与えたこと、WTOへの加盟を許したこと、NAFTA(北米自由貿易協定)の締結などの近視眼的な政策が、米国から巨額の富が流出したことの主な原因である。更に、米国内の事態が深刻になっても、その対策を取らなかった。
トランプ政権は、この他国の政策に対抗するために外国製品に関税を掛けて米国内での製品との競争条件を平等にすると言うのである。それによって海外製品の米国内での競争力が相対的に低下し、米国に製造業が復活し、中間層が自分たちにふさわしい仕事を取り戻すというのである。
ロバート・ライトハイザーは第一期トランプ政権の通商代表であり、その下で実務を担当していたジェミソン・グリア氏が現在の通商代表であるので、このままではライトハイザーの考えの通りに米国の保護主義は進む可能性が高い。この政策の愚かさについては前セクションに書いた通りである。米国の著名人には本当にすごい人が多い。バカみたいな人から天才的な人まで。
3)日本はどうするのか:
一時間半にも及ぶライトハイザーへのインタビューの後半のかなりの部分が対中国貿易戦争に焦点が当てられている。従って、この新たな相互関税という名の課税は、かなり対中国を念頭においた外交戦略的意味を持つ可能性がある。
また、米国内の企業が部品調達などでコストが増加し経営が困難になるとして悲鳴を上げると、トランプは方針に修正を加える可能性が残されているかもしれない。例えばメキシコはこの相互関税(reciprocal tariff)の対象国から除外されるというアナウンスが流れている。https://edition.cnn.com/2025/04/03/americas/mexico-praises-preferential-us-tariffs-treatment-latam-intl/index.html
トランプが掲げた相互関税の表(最初の動画)には、国ごとに米国からの品物に関する輸入障壁が%表示されているが、この数値は単に米国からの輸入額と米国への輸出額の差を%表示しただけであるという。従って、米国からの天然ガスや石油の輸入を増加させるという約束をすれば、この相互関税の幾らかを削る交渉が可能かもしれない。
同時に、揮発油税や消費税をこの際廃止或いは大幅減額するのも良い。財政拡大には慎重であるべきだが、消費税を例えば5%に戻し、輸出品への還付金を全廃することも、米国への良いメッセージになる。消費税削減は、消費拡大から景気抑揚に大きく働くだろう。また、揮発油税はすくなくとも暫定税率分は廃止すべきだろう。
これを機に、政治経済の制度改革や税制改革、更には政府組織の改編整理や政府支出の削減なども、市民一般の意見(有識者という既得権益社代表の意見ではなく)を取り入れて進めるべきである。災い転じて福となすという格言を思い出すべきだと思う。
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