コメ価格の高騰が続き、低所得者の食生活は危機に瀕している。政府は備蓄米を放出したと言っても、安いコメは一般庶民の手の届くところには来ない。そこで大手スーパーのイオンは一キロ341円の関税を支払ってカリフォルニア米を輸入し、4キロ税込み2894円で売り出すと発表した。今回の発表は、米国大使館においてジョージ・グラス大使が同席して行われた。
https://www.youtube.com/watch?v=X4gdBXIbUM4
この価格は、通常の5キロのパックでは3618円となり、現在のスーパーでの日本米の価格よりも10%以上安い。もし関税がなければ、4キロ1530円(5キロ1913円)で販売できた筈である。この関税も現在の1/3程度にすべきだと思う。もしこの関税が多額になれば、農政の改革に役立てることもできるだろう。農地の大規模化や農業法人としてコメ農家を再編するための資金とすればよい。
このイオンの英断に対して、日本の食料安全保障にとって取り返しのつかない一歩になりかねないとの意見がJBpress というビジネス関連のネット新聞に掲載された。この記事は、青沼 陽一郎氏という元テレビ記者の文章である。 https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/88351
青沼氏は「食料植民地ニッポン」という本を出版するなど、食料政策について詳しい方のようで、今回のイオンによるコメの輸入販売を「日本の食料安全保障」の崩壊の引き金になると憂いているようだが、この方は食料安全保障という言葉を誤解している。
経済停滞の30年間を経験し、国民の平均給与が上昇しない中で貧富の差が拡大し、日本人全てがコメを三食食えなくなって、何が日本の食料安全保障か? そんなものはとっくに崩壊しているか、或いはそんなものは最初から存在しない。単に自民党農林族や日本全国の農協という既得権益者の打ち出の小槌を使うときの掛け声にすぎないのだ。
2)食料安全保障という思想と日本国
食料安全保障について外務省は、「全ての人が、いかなる時にも、活動的で健康的な生活に必要な食生活上のニーズと嗜好を満たすために、十分で安全かつ栄養ある食料を、物理的、社会的及び経済的にも入手可能であるときに達成される状況。」と定義している。
https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000022442.pdf
例えば東シナ海などで紛争が起こり、物資の供給が滞ることになった場合、国民の食の安全は数か月の間に崩れる。日本は、米国やロシアのような食料自給が可能な国ではないのだから、食料安全保障はそれらの国々と比較して相当困難な国である。
その達成には、優秀な機械等の輸出品を持つことなどで外貨を稼ぐ手段を確保するとともに、円滑な貿易が可能なように国際関係を維持しなければならない。上記文章をHPに掲載しているのが外務省であり農水省でないことが、その現実を如実に語っている。
日本においては、食料安全保障は総合的な戦略で達成すべきことであり、単に米くらいは輸入に頼らない体制を守るべきだという簡単なことではない。そのように考えれば、米国との安定で相互に大きな不満を残さない貿易関係維持は日本の食料安全保障の要諦である。
今回のトランプ関税はWTO(世界貿易機構)のルールから考えれば暴挙だが、米国との貿易及び外交関係維持のためにも、日本はその暴挙を農政改革の引き金にすべきである。
3)日本の農政改革
日本のコメ生産に従事する人たちの平均年齢は70歳にもなろうと言われている。
https://losszero.jp/blogs/column/col_268
https://nechiotokoyama.jp/blog/517
また、2020年度の農林水産省のデータによると、専業農家の平均年収は約250万円から300万円のようだ。https://agrijob.jp/contents/myagri/rice-farmer
このコメ生産農家の状況を見れば、日本政府は食料安全保障に対して全く無策であったことは明らかだろう。それでありながら、コメ価格が倍になっても高関税を放置し、国民の一部に十分食べられない状況を作り出しているのだ。
この問題を解くことは簡単である。それは農家の経営規模の拡大であり、若い人たちが農業で将来設計が可能なように農政を改革すべきである。今こそ、農協と自民党農林族という既得権益者を日本の農政から追い出すべき時なのだ。
自民党議員たちには難題であるなら、参議院選挙で自民党に投票しないことが何よりの食の安全確保の手段である。
=== おわり ===