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人類史の本流は中華秩序なのか、それとも西欧型秩序なのか

1)米国が露呈させた中国共産党政権の真の姿と日本の課題   日本が抱えている最重要な課題は、コロナ問題や拉致問題等ではなく、表題の問に対して明確な答えと姿勢を持つことである。短期的な経済的利益に囚われないで、現在が世界の歴史の方向が決定される時なのかどうかを考えるべきである。...

2024年5月14日火曜日

拡大する貧富の差の中で日本は滅びるのか

日本では、国内企業の改善や成長が世界に追い付かず、国民の間に貧富の差が拡大し、途上国に似た状態が現れつつある。金融資産の外国逃避が円安とともにスパイラルに起これば、その方向へ加速される。新NISAはその切っ掛けになる可能性大だが、しかし切っ掛けにしか過ぎないと思う。

 

日本経済の低調の根本原因は、政治ではなく文化にある。西欧文化を受け入れながら、その経済発展モデルを拒否する日本の文化である。終身雇用を最善とし発展には必須とされる労働の流動性(適材適所の実現)を拒否する。突出したアイデアは、和を乱すものとして議論されない。

 

人々は、「世間」の標準に従順で新規性を好まず保守的且つ平和的で「波風」を嫌う。議論が出来ず、西欧風社会を作っても、村社会の本質を無くそうとはしない。


勿論、これはあくまで平均としての話である。グローバル企業ともなれば、そんなことはとっくに卒業していると言う人も多いだろう。ただ、少なくとも政官界やマスコミ、更に大学などの研究機関などでは旧態依然だろう。若い人が教授になれば抜擢人事だと言われる。抜擢とは何のことだろう?

 

日本経済は政府のデフレ政策が原因であり、”財務真理教”を排除して積極財政に転ずれば、日本経済は復活するという人は今でも多い。(補足1)しかし、彼らと財務省幹部或いはその方針を支持している正統派の経済人との議論がマスコミに流れることはない。国会での議論は、予め決まった原稿を読むだけの儀式である。

 

日本文化の下では、議論すれば口論となり、最終的には喧嘩となって人間関係が破壊される。そして、山本七平が言うように、主語が明確でない言葉が、人と人の間に空しく投げかけられる。街中に見られる多くの標語は、その残骸である。(補足2)

 

 

1)経常収支の中身

 

上の図は日本の経常収支の中身を1996年からグラフにしたものである。経常収支とは、IMF(国際通貨基金)が示した方法により計算した、輸出入、金融取引、旅行などサービスや知的所有権などの取引、無償資金援助などにおける国全体の収支の合計である。

 

折れ線グラフが示している様に、経常黒字は毎年達成されている。しかし、その中身に大きな変化が生じている。21世紀の始めまでは、貿易黒字によって安定した経常黒字が達成されていた。しかし、2011年から貿易収支が赤字となる年が多くなり、それに代わって第一次所得収支が増加し、経常黒字を保っている。

 

第一次所得とは、主に海外への債券や株などの投資が産み出した所得である。この項目は、企業の海外進出や年金基金等の海外投資による収益が主だろうが、今後新NISAによる海外株式(補足3)への投資が大きくなれば、個人投資の寄与も大きくなるだろう。

 

この変化は、日本国内で企業が産み出した製品が、海外での競争力を無くしつつあること、そして、金融資産を持つ者は海外へそれを移動させ、その投資収益をかなり得ていることを示している。つまり、投資をする場合、競争力を失いつつある日本よりも、外国に投資することの方が有利ということである。

 

その結果、労働で稼ぐ一般市民の多くは益々貧しくなり、海外投資で稼ぐ階級の者は一定の所得を保つことになる。今後海外投資が出来る層とそれが出来ない層との間に大きな貧富のギャップが生じる可能性が高い。

 

勿論、一流企業の日本株を買うことは、その企業の海外進出という形で、その投資の一部は海外に向かう。更に日本の安い労働賃金や円安などの恩恵で国際競争力を今後も維持できる企業なら、海外直接投資をする企業と同様に生き残りが可能だろう。

 

そして、そのように生き残った企業の経営者や投資者は、先進国と同様の所得を得ることが出来るだろうが、労働者は現在のベトナム等の労働者と同じ所得となるだろう。それが表題の意味である。

 

 

2)円安について

 

通貨の交換比率、つまり為替レートは、貿易や金融取引など海外との決済の合計で決まる。外貨を持つ人が、日本円に交換して日本の商品を買うことが多くなれば円高に動き、逆に日本円を持つ人が、それを外貨に換えて海外製品を買うことが多くなれば円安方向に動く。

 

日本での人件費や家賃、更に国内での商品価格が幾らであっても、国際取引でなければ通貨の交換レートには影響しない。(補足4)

 

それら海外との取引収支の合計が日本の経常収支ということになる。ただ上述のように、日本国全体の収支(経常収支)が黒字でもその中身が変化していることに注意が必要である。何故なら、為替レートは現金のやり取りで決まるからである。

 

第一次所得が増加して黒字を維持しても、外国で稼いだ資金が再び外国に再投資されれば、お金の流れ(キャッシュフロー)で見た場合、赤字となっている可能性がある。つまり、日本全体としてせっせと稼いでも、稼いだ方々が外国に蓄財するのでは、日本は彼らのベッドタウンになってしまう。

 

そのように指摘する人がいる。東京財団政策研究所の「進む円安と経常収支の構造的変化」と題する文章を見てもらいたい。https://www.tkfd.or.jp/research/detail.php?id=4352

 

その中で、小黒 一正氏は以下の様に書いている。

 

海外で現地生産している企業であれば、ドルで稼いだこの収益の多くは円に変換して日本に戻さず、ドルで再投資するはずだ。

 

また、「証券投資収益」は株式配当金および債券利子の受取・支払を表すが、このうちの「債券利子」から得る収益は証券投資収益の約90%(2022年度)を占める。断言はできないが、ドルで稼いだこの債券利子の収益の多くも、円に変換せず、ドルで再投資する可能性が高い。

 

この海外で稼いだ金は海外に再投資されるという指摘は他にも多い。キャッシュフローが赤字なら、ドルと円の交換レートが円安に向かうのは当然のことなのだ。

 

勿論現在の円安の主要な原因に、日米の政策金利における大差があるだろう。しかし、日銀が金利を上げても、円安の本質的治療にはならないということである。またここで重要なことは、金利を上げれば、日銀は実質的に債務超過になることである。そうなれば日本円の信用は保てないだろう。

 

それでも日銀総裁は、簿価では債務超過ではないので、国債の償還を受けても新規国債は買わなければ良いのだと強弁する。そうなれば、日本政府は大日本帝国のように変身して、国債購入を日本国民に強要することになるかもしれない。その時、新ニーサを始めたことによる国民の預金の海外流出を悔いるだろう。一体、岸田は誰に言われて新NISAを始めたのか? 分っている人は分かっているだろう。

 

 

3)貿易統計等

 

日本は農地の狭い資源小国であり、食糧とエネルギーを外国に頼っている。それは本質的なもので、日本は本質的に政治的に脆弱な国である。そのこと位は国民は熟知する必要がある。余計なことだが、日本の右翼系の方の頭にはこの自覚に欠ける人物が多い。

日本の経済活動を輸出入の点から眺める。上の表は、財務省の輸出入の統計(令和5年)である。合計すれば、93000億円余りの赤字である。この赤字への寄与が大きいのが赤でマークした食糧(8.2兆円)とエネルギー(25.7兆円)である。

 

我々の生命維持は、食糧とエネルギーの供給をしてくれるこの貿易の結果であり、その為のシステムのお陰である。この貿易システムは米国を中心に世界に根を張っており、米国は世界最強の軍事力でそれを護っている。それが日本の政治経済の基本的構図である。

 

この貿易の赤字幅を現在辛うじて抑えているのが、自動車など輸送機器(19.5兆円)と一般機械(8.9兆円)等の輸出産業である。(カッコ内は概数)日本に外貨を運び込むことにおいて、トヨタやホンダなど日本の自動車メーカーが最も大きな役割を果たしているということである。

 

その外貨収入が廻り廻って、食糧とエネルギーの購入費となっているのである。繰り返しになるが、日本は、外貨が入手できなければ国民の生命の維持さえ出来ないという脆弱な国なのである。以前、そこまで言って委員会という番組で、自称元皇族が日本は内需依存国であり、経済的に強い基盤を持っているなどと言っていたが、これが右翼の典型的な間違った意見である。日本は貿易立国なのだ。

 

この日本の自動車産業を破壊すること念頭において特に欧米を中心に繰り広げられているキャンペーンが地球環境問題である。日本が得意とす内燃機関型の自動車を追放して、構造的に簡単な電気自動車以外を禁止する方向に進むことを目的の一つとしている運動である。

 

それは、EVは大型蓄電池の製造を必須とするなど、製造から廃棄までの全プロセスを考えた場合、例えばプラグインハイブリッド車と比較して、CO2の発生や重金属汚染の問題などで、決して”環境に優しい”とは言えない。そんな事を無視してEVを推進する姿勢が、この運動のうさん臭さを示している。

 

そんなことには欧州特にドイツや北欧の人間は素知らぬ顔である。彼らは生存競争を非常に厳しく考えている。

 

貿易収支の話に戻る。上の表を良くみると、輸出産業の中で電気製品や機械類の競争力が低下しているようである。(補足5)進む円安の中でこの収支となる程の競争力であれば、この分野が今後貿易収支の赤字幅縮小の為に大きく働くとは思えない。赤字が今後大きくなる可能性が高い。

 

終わりに 

 

新型コロナ以降、各国がバラマキで財政支出を拡大し、日本も大量接種と大量廃棄のワクチンなどで無駄な政府支出が多かった。そのお金のバラマキによる物価上昇も加わり、インフレ状態になって来ている。最近では下図のように3%程度の物価上昇率が定着している。今後、更に円安による輸入物価の上昇も加わるだろう。https://www.stat.go.jp/data/cpi/sokuhou/tsuki/pdf/zenkoku.pdf

 

今年中に日銀は、この物価上昇を見て利上げを決断するだろう。それは、預金金利や住宅ローン金利だけでなく国債金利の上昇を意味する。その結果、国民の貧困化が進むだろう。国の財政も、ウクライナ支援などで今後放漫財政を続けて、益々借金体質が進むだろう。

 

また、利上げによって新規国債の発行が徐々に困難になることに注意が必要である。最悪の場合、政府は財政難に陥る可能性も今後出てくる可能性があると思う。今は英知をあつめて国難に対処する時である。のんびりと政治資金問題を議論している場合ではないと思う。

 

以上、理系素人による日本経済に対する感想です。批判やコメント期待します。

 

 

補足

 

1)この主張をする人は、民間人では三橋貴明氏、藤井聡元内閣官房参与(安倍内閣)など。江田憲司衆議院議員(立憲民主党)、西田 昌司参議院議員(自民党)などもこの中に入ると思われる。彼らの国家の債務がGDPの何倍あろうが、意味がないなどの発言が強烈である。

https://www.youtube.com/watch?v=ZqANXqn1Tlw

https://www.youtube.com/watch?v=xpNB-_v3Pnc

 

2)日本語と日本教について:10年前にブログ記事として書いているので一応引用します。

https://ameblo.jp/polymorph86/entry-12466514091.html

上の図が私の日本の言語文化に対する理解である。

 

3)海外への株投資にはNASDAQ100、S&P500などのインデックスファンド(株価連動型投資信託)を含む。日本のインデックスファンドとしては日経225に連動するファンドなどがある。世界中の有名株を組み合わせたオルカン(オルカン=all country)と呼ばれる投資信託が積立NISAでは人気があると前のブログで書いた。

 

4)発展途上国の名目年収5000ドルの人は、先進国の同じ名目年収5000ドルの人よりもはるかに裕福である。一人当たりGDPなどの国際比較データを見るとき、この事を忘れると全く間違った理解をすることになる。

 

5)電気製品と一般機械の輸入は夫々3%以上増加しているが、輸出は同程度減少している。自動車を含む輸送機器の輸入22%増加(金額は4133憶円余り)し、輸出は24%増加(金額は236300億円余り)

 

(19時、編集あり;5/15早朝全面的に編集の上、最終稿)

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