作家の百田尚樹氏と評論家の有本香氏が共同で日本保守党を立ち上げた。百田氏が何度も動画等で話しているように、LGBT法案を成立させ日本の伝統文化を破壊する勢力に、今後の日本の政治を任せられないというのが、この政党立ち上げの動機のようである。
結党宣言(①)https://hoshuto.jp/、党の綱領https://hoshuto.jp/regulation/、そして、百田及び有本両氏を含む何人かの討論の動画(②): https://www.youtube.com/watch?v=IkXu-ItX7Rc が、その本質を知る上に参考になる。
このyoutube動画は6日間で127万の視聴回数をあげており、今後の日本政治において一定の存在感を示すものと思われるので、ここで日本保守党の独自評価&批判をしてみる。誤解等も当然あり得るが、参考にしてもらえればと思う。
結党宣言に対する批判
結党宣言は、「日本ほど素晴らしい国はないと私は断言します。神話とともに成立し、以来およそ二千年、万世一系の天皇を中心に、一つの国として続いた例は世界のどこにもありません。」という皇国史観的な文章で始まる。
続いて、日本史の概観と現在政治の問題点が述べられている。要するに、「2000年の間独立を守ってきたが、第二次大戦で完全破壊され、世界の最貧国になった。しかし、そこから驚異的な復興を成し遂げた」という、一方的で客観性に欠けた日本史の概略である。(補足1)
現在の政治の話に進んで、拉致問題の放置、野放図な移民政策、LGBT法を強引に制定するなどの与党の悪政から、日本の伝統と国土、日本の国民を守るために戦うと宣言している。
失礼ながら、この結党宣言は出来が悪いと言わざるを得ない。この江戸末期以来の危機的状況に焦る気持ちは分るが、歴史認識も現状の理解も粗い上に客観性に欠ける。
現在の日本国は、厳しい国際環境の下で政治的に米国の占領下にある。このことを、現在の政治の条件として把握しないのは愚かである。
現在の日本に必要なのは、保守ではない。パワーポリティックスで動く国際情況の中で、如何に生き残るかを探る現実的政治である。(補足2)
厳しい21世紀の国際情況の中で生き残り、米国による占領政治から脱出して独立を果たすべく、民意を耕し真面な現実的政治家を育てることが大事である。皇国史観を持ち出し、国粋主義的政党を作って20世紀の間違いを再び犯そうとするのは非常に愚かである。
日本保守党の設立者たちを囲んでのテレビ討論
アベマテレビでの討論動画では、日本保守党の政治方針が議論されている。 20分ほどの所で、日本保守党「4つの軸」という字幕が見られる。それらは:①LGBT法は天下の悪法である。 ②万世一系の皇統を護持せよ。③現状の移民政策は見直すべし。④エネルギー政策を見直すべし。
https://www.youtube.com/watch?v=IkXu-ItX7Rc
全く異質な「政策の柱」が並んでいて、どのような空間を想定しているのか皆目わからない。明確な軸として存在感があるのは②の「万世一系の皇統を護持せよ」のみである。
現在の自民党政府の行政、特に岸田政権の米国民主党への追従姿勢、つまり“野放図な移民政策”とLGBT法に反対し、政治を国民の手に取り戻したいという主張らしいのだが、それらは不平不満であり、公党を特徴づける座両軸のようなものにはなり得ない。エネルギー政策だけ、経済政策の中から取り出すのも奇妙である。
最後の方、52分あたりから歴史認識の議論になって、日本保守党の特徴が明らかになる。結党宣言における「素晴らしい国」の話である。
百田氏らは、現在の東南アジアア諸国等の独立は日本の日露戦争から第二次大戦までの戦いの結果であるとの考え方を示し、それを日本の功績の様に宣伝したいようだ。つまり、大東亜共栄圏構想の思想を評価継承する姿勢である。ここの議論を再録する。
元経産省官僚の宇佐美典也氏は、「英国などは、かなりひどいことをやった過去があっても、栄光の大英帝国と平気で言うのだから、日本も戦前の歴史のプラス面を強調して栄光ある日本と言う政党もあっても良いと思うが、それがメインになっては困る」という言い方で牽制した。
それに対する反論として有本香氏は、フランスでもイギリスでも「どれほどリベラルな政党でも、それぞれ自分の国は素晴らしい国であると言う政党しか存在しない」と言う。素晴らしい国という表現は曖昧だが、ここでは“素晴らしい歴史の国”の意味で、大東亜共栄圏構想の擁護の為だろう。(補足3)
それに対し、宇佐美氏は、「フィリピンなどへ仕事で行って、日本はフィリピンの解放などの為に太平洋戦争やったなんて言ったら、仕事にならない。日本はフィリピンを荒らしまわったと思っている人が多いからだ」と反論している。
この大事な話を、他のゲストや司会者が「どちらの考えもあり得るので、議論しても始まらない」として、話を打ち切っている。愚かである。更に、万世一系の皇統を守る必要性については、全く議論されなかったのも不思議である。
日本保守党は単なる右翼政党である:
上記議論で、有本氏と百田氏は、他の参加者や視聴者を誤魔化している。それは、日本は第二次世界大戦の敗戦国であり、有本氏が比較の対象として取り上げたフランスやイギリスは戦勝国である。ドイツの主要政党には、ドイツは素晴らしい近現代史の国だという政党など無いだろう。
世界の主要国の対日歴史認識は、「大日本帝国は自国の帝国主義的領土拡大の為に、満州までを覇権域とする外交政策をとった結果、欧米諸国と衝突して第二次世界大戦となった」のである。少なくとも、日本国がそのような歴史認識を講和条約で確認(約束)したことを忘れるべきではない。
もし、日本保守党が政権を執り結党宣言にあるような歴史認識を国際社会で明確にした場合、日本国は太平洋戦争前の米国F.ルーズベルトらによる嫌がらせの様な国際的制裁を再び体験することになるだろう。そんなこと、分っていないのだろうか?
「価値観外交を進めて世界平和に貢献する」と綱領に書いている。価値観外交が、人権、法治の原則、民主主義という価値観を大事に考える外交の意味なら、その国粋主義的思想と矛盾するのではないのか?
ドイツは狡猾に(しかし賢く)戦争犯罪をナチスドイツの仕業であるとして処理し、再出発した姿を全世界に強調して示している。日本は過去の戦争を国家として詳細に振り返り、間違った者たちを処分していない。
日本の近代130年余は、絶対君主制で破滅への道を歩んだ歴史だった。そして、天皇家は辛うじて日本の中心に残った。再び政治に天皇を持ち込む政党は、大日本帝国の真似は出来るが、国民主権の政治からは遠ざかるだけだろう。
日本保守党は、「神話とともに成立し、以来およそ二千年、万世一系の天皇を中心に、一つの国として続いた」という、事実とはかけ離れた言葉を公党を立ち上げる宣言に用いた所で、政府与党となる資格を失っていると私は思う。
補足:
1)2000年間独立を守った国とはどんな国なのか? 日本保守党が定義する「国」とはどのような実体なのか? 日本という国が2000年前に存在したという話など、聞いていない。
2)「保守」は、社会を構成している「現在の人の知恵や知識」よりも、過去から現在まで其処で生きた遥かに多くの人により作られた「現在の社会」を重視する立場である。ただ、保守は革新のアンチテーゼであり、国際関係が大きな影響力を持たない大国において、「革新」との議論で未来の方向を探す政治に相応しい。日本に昔の英国風政治の概念を持ち込む理由はない。
3)ここで、「素晴らしい国と素晴らしい歴史の国」では全く意味が違う。この違いが議論のなかで誰もがわかる形で進まないのが、日本語という言語文化の劣ったところだろう。つまり、議論に参加する者は相当身構えなければ、日本人の間での厳密な議論など不可能だと思う。
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