米国大統領がトランプに代わったのでウクライナ戦争が近いうちに終わるという、“反グローバリスト”の人達の期待は若干甘かった。そして、“グローバリスト”たちの言う“グレートリセット”の緒戦とも言えるこの戦争は、元々の危惧の通り、世界大戦へ拡大する可能性が出てきた。(補足1)
この戦争は、2008年のオレンジ革命から2014年のマイダン革命など、米国ネオコン政権によるウクライナの反ロシア化と東欧へのNATOの拡大が背景にある。その経緯の中でウクライナ東部に住むロシア語を話す人たちの大量殺害などもあり、これらがロシアに対する挑発となって始まったと言える。(補足2)
トランプは、この戦争を早期に停戦させると発言し米国大統領となった。反グローバリストたちは、トランプがグローバリストの戦略を潰してしまうだろうと期待して、“トランプ革命”を見守った。(補足3)それがグローバリストの予定路線に戻ったのは、米国務長官の「ウクライナ戦争は米国とロシアの代理戦争である」との発言からである。
トランプ政権の国務長官がこの戦争への米国の関わりの本質を「ウクライナ戦争は、ウクライナを米国の代理とした米露間の戦争である」と公的に発言したことで、トランプは停戦仲介の前にその覚悟の程を示すように要求されたことになる。つまり、気楽に不条理に支配された戦争をやめさせるという第三者的関与が出来なくなったのである。
この代理戦争を始めた民主党政権の政策を改めるという具合に、自国の現代史の問題として政策変更を明確に示す必要がある。米国のこれまでの国際政治の誤りを認めて政策変更をするか、或いは米国ネオコン&グローバリストの主張通りにこの戦争を継続するかの選択に追い込まれたのである。
トランプにとって、自国の国際政治上の誤りを認めることは極めて困難だろう。トランプが剛腕であるものの単なるポピュリストであれば、当然後者を選び早期停戦の目論見は完全に外れる。もしトランプがグレートリセットの企みと戦う英雄なら、最初にその困難なことをやり遂げた後に、現実的なウクライナとロシアの関係を、EU諸国の反対も押し切って実現するだろう。それは世界の主権国家体制を守ることになる。
残念だが、トランプはMAGAという時代遅れの思想を本気で具体化しようとするポピュリストだったと、歴史において評価される可能性が大きいというのが現在の私の考えである。ウクライナ戦争が米国に多額の出費を強いて来たという理由が、トランプがこの戦争の停戦を目指す唯一の理由としてあったようだ。
多額の出費故にウクライナ支援から遠ざかる米国を横目に見ながら、フランスと英国の左派政権は、今週にもウクライナに軍事顧問団を派遣する可能性が高いと言われる。これでトランプの早期和平の目論見は崩れた。https://www.youtube.com/watch?v=jlfTt1EWhYo
EUのVon der Leyienは、米国がNATOから遠ざかるのなら、EUがその肩代わりをすると言いだした。それと同時にフランスのマクロンは、EUの核の傘はフランスが受け持つべきだと言い出した。政治のグローバリズムの実行、つまりグレートリセットは、主権国家主義の雄であるロシアを弱体化することから始まるというのだろう。
2)トランプの早期和平失敗の経緯
2月28日のトランプとゼレンスキー会談の後、米国は前政権時に始まった対ウクライナ軍事支援を停止し、その後CIA長官がウクライナとの諜報情報の共有を「一時停止」するよう命じ、その後短期間に停戦に進むかと思われた。しかし、余りにもロシア有利の形での停戦から和平に進むのは、西側の無様な敗戦ではないかという意見が米国に現れたようだ。
その言葉がトランプにも敏感に響いたのようだ。長年の米ソ冷戦で作られたロシア悪者論は、米国市民の心中深く残っている筈である。トランプはあくまで中立の立場からウクライナ戦争の停戦仲介に臨まなければ、ほぼ固まった米国民のトランプ応援の基盤が破壊される可能性があるからである。
その微妙な雰囲気をマルコ・ルビオ国務長官も敏感に受信したようだ。そしてルビオは「トランプ大統領は、この紛争が長期化し膠着状態にあるとみており、率直に言って、これは核保有国、つまりウクライナを支援する米国とロシアの間の代理戦争だ」とフォックス・ニュースに語ったのである。
この発言内容はこの戦争の当初から知られていた事実であり、ロシア側(Dmitry Peskov報道官談)も同意した。ロシアのプーチン政権もウクライナ侵攻の動機の正統性を米国も認め、これで一挙に停戦かと思ったかもしれない。
しかし、ルビオ国務長官は別の思惑、つまり、ウクライナ戦争は米国とロシアの代理戦争なので、米国とウクライナはもっと強く連携しなければならないという方向にこの事実を利用しようと上記発言をしたようだ。トランプには「ウクライナを代理に立てた米国とロシアのどちら側の味方ですか?」と聞こえただろう。
サウジアラビアでの米―ウクライナ協議には米側代表としてマルク・ルビオ国務長官が参加したことは、その時点でトランプの早期和平の試みが失敗したことを示している。その後発表された内容の薄い停戦合意発言から、これは代理であるウクライナと雇用主である米国との作戦会議となったと以前のブログに書いた。
マルコ・ルビオ氏は、国務長官への就任を野党側からも支持された人物であり、ロシアと中国を嫌う人物として知られていた。その国務長官をウクライナとの協議に派遣したことは、トランプの姿勢変化と見ることができる。そこにイスラエルロビーの働き掛けがあったかもしれないと前回ブログに書いた。https://ameblo.jp/polymorph86/entry-12889749237.html。
トランプは、この戦争の歴史を背景に、具体的なプロセスとしての停戦方法を持っていなかった可能性が大きい。トランプが短期間で停戦可能だと言ったのは、単に彼がグローバルエリートたちとは離れた存在であり、且つ上記のグローバリストの企みと歴史的経緯とを十分には考察していなかったからだろう。
トランプが停戦に熱意を示したのは、彼の心の内にノーベル平和賞狙いのようなポピュリストとしての目的か、米国側の出費削減の目的があったからだろう。国際社会への米側の責任或いは米国の貢献という類のレベルの高い期待をトランプ政権に持ったのは間違いなのだろう。
実際、トランプはNATOや日米や日韓等の軍事同盟関係を軽視することで、米側の国際政治への関与を減らそうとしている。NATO諸国や日本への軍事費の対GDP増加を要請する発言も、単に米国の出費削減を考えての発言だろう。
米国がNATOの中心としての地位を放棄する姿勢をとれば、ヨーロッパでの政治的影響力を無くすことになり、フランスや英国がその穴埋めに動くので、上述のように仏マクロンや英スターマーがウクライナ戦争への関与を強め、和平が遠ざかるのは当然ではないのか。
これでトランプの早期和平の目論見は崩れた。トランプの高い評判は、反グローバリスト側でも崩壊する可能性が高くなってきただろう。
終わりに:
世界は米国を中心として複雑なネットワークを形成しており、米国の態度急変はそのバランスを崩す可能性がある。今まで世界のリーダーとして米国は振る舞い、その負担とともに恩恵を米国は受けてきたことをトランプは知らないのだろうか。
そのリーダーシップを放棄すれば、世界は次の体制に移るまで混乱を来す可能性が大きいことを、トランプは知らないのだろうか。
米国が世界政治のリーダーシップを放棄すれば、世界のパワーポリティックスのバランスが崩れる可能性が高くなる。同様に、米国が世界経済でのリーダーシップを放棄すれば、世界は不況に陥る可能性が高くなる。トランプの世界各国との貿易において米国は損をしてきたという理解は非常に浅いと思う。
鉄鋼とアルミ、自動車に対し25%の関税をかけることで、それら産業における米国内での雇用を確保しようとしているが、それは余りにも短絡的過ぎるように思う。米国内でそれら産業が停滞したのには、それなりの理由が他にある筈である。
世界の経済は、一つの複雑なシステムとなっている。それにも関わらず、夫々の品物の生産と分配を個別に一次元問題として設定するトランプの思考は単純過ぎる。トランプ関税は、世界経済には大きなマイナスであり、米国内でも物価を上昇させるなど、米国市民の間からブーイングが起こる可能性が高い。実際、日米を始め、世界の株価は急落している。
補足:
1)世界のグローバルエリートたちは、自分たちのために地球環境の保全と人口削減を考えている。その表の機関として世界経済フォーラムが存在し、その定期総会であるダボス会議でWEFの会長であるクラウス・シュワブはグレートリセットなる提言を行った。グレートリセットとは、現在の経済システムである株主資本主義を廃止し、全ての法人組織を社会全体の保有とする改革=世界の共産革命を意味する。そしてこのグレートリセットは、レーニンとトロツキーという二人のユダヤ人革命家がロシアで実行し失敗した革命に続く、第二の世界共産革命の企みである。これを支持するグローバルエリートたちとその周辺をグローバリスト、この革命に反対する人たちを反グローバリストと言う。
2)このような緩衝国的な地域をめぐる争いは、日清日露の二つの戦争にも共通している。ウクライナ戦争をこの構図で見ない日本人が圧倒的多数であるのは不思議である。それは当ブログサイトで何度も書いたように、マスコミが米国ネオコン政権のプロパガンダ機関であった結果である。
3)トランプは大統領就任後に素早く米国政府の無駄を無くすという政策で、米国のグローバリストたちが国際政治に関与するための機関としてきたUSAID(米国国際開発庁)の整理に着手し、それが2008年と2014年のウクライナでの親ロシア政権を潰すための活動資金を提供したこと等を明らかにした。それらの活動には米国務次官補やユダヤ系資本家であるジョージソロスが大きく関与したことを明らかにした。
(翌早朝編集あり)