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人類史の本流は中華秩序なのか、それとも西欧型秩序なのか

1)米国が露呈させた中国共産党政権の真の姿と日本の課題   日本が抱えている最重要な課題は、コロナ問題や拉致問題等ではなく、表題の問に対して明確な答えと姿勢を持つことである。短期的な経済的利益に囚われないで、現在が世界の歴史の方向が決定される時なのかどうかを考えるべきである。...

2024年5月14日火曜日

拡大する貧富の差の中で日本は滅びるのか

日本では、国内企業の改善や成長が世界に追い付かず、国民の間に貧富の差が拡大し、途上国に似た状態が現れつつある。金融資産の外国逃避が円安とともにスパイラルに起これば、その方向へ加速される。新NISAはその切っ掛けになる可能性大だが、しかし切っ掛けにしか過ぎないと思う。

 

日本経済の低調の根本原因は、政治ではなく文化にある。西欧文化を受け入れながら、その経済発展モデルを拒否する日本の文化である。終身雇用を最善とし発展には必須とされる労働の流動性(適材適所の実現)を拒否する。突出したアイデアは、和を乱すものとして議論されない。

 

人々は、「世間」の標準に従順で新規性を好まず保守的且つ平和的で「波風」を嫌う。議論が出来ず、西欧風社会を作っても、村社会の本質を無くそうとはしない。


勿論、これはあくまで平均としての話である。グローバル企業ともなれば、そんなことはとっくに卒業していると言う人も多いだろう。ただ、少なくとも政官界やマスコミ、更に大学などの研究機関などでは旧態依然だろう。若い人が教授になれば抜擢人事だと言われる。抜擢とは何のことだろう?

 

日本経済は政府のデフレ政策が原因であり、”財務真理教”を排除して積極財政に転ずれば、日本経済は復活するという人は今でも多い。(補足1)しかし、彼らと財務省幹部或いはその方針を支持している正統派の経済人との議論がマスコミに流れることはない。国会での議論は、予め決まった原稿を読むだけの儀式である。

 

日本文化の下では、議論すれば口論となり、最終的には喧嘩となって人間関係が破壊される。そして、山本七平が言うように、主語が明確でない言葉が、人と人の間に空しく投げかけられる。街中に見られる多くの標語は、その残骸である。(補足2)

 

 

1)経常収支の中身

 

上の図は日本の経常収支の中身を1996年からグラフにしたものである。経常収支とは、IMF(国際通貨基金)が示した方法により計算した、輸出入、金融取引、旅行などサービスや知的所有権などの取引、無償資金援助などにおける国全体の収支の合計である。

 

折れ線グラフが示している様に、経常黒字は毎年達成されている。しかし、その中身に大きな変化が生じている。21世紀の始めまでは、貿易黒字によって安定した経常黒字が達成されていた。しかし、2011年から貿易収支が赤字となる年が多くなり、それに代わって第一次所得収支が増加し、経常黒字を保っている。

 

第一次所得とは、主に海外への債券や株などの投資が産み出した所得である。この項目は、企業の海外進出や年金基金等の海外投資による収益が主だろうが、今後新NISAによる海外株式(補足3)への投資が大きくなれば、個人投資の寄与も大きくなるだろう。

 

この変化は、日本国内で企業が産み出した製品が、海外での競争力を無くしつつあること、そして、金融資産を持つ者は海外へそれを移動させ、その投資収益をかなり得ていることを示している。つまり、投資をする場合、競争力を失いつつある日本よりも、外国に投資することの方が有利ということである。

 

その結果、労働で稼ぐ一般市民の多くは益々貧しくなり、海外投資で稼ぐ階級の者は一定の所得を保つことになる。今後海外投資が出来る層とそれが出来ない層との間に大きな貧富のギャップが生じる可能性が高い。

 

勿論、一流企業の日本株を買うことは、その企業の海外進出という形で、その投資の一部は海外に向かう。更に日本の安い労働賃金や円安などの恩恵で国際競争力を今後も維持できる企業なら、海外直接投資をする企業と同様に生き残りが可能だろう。

 

そして、そのように生き残った企業の経営者や投資者は、先進国と同様の所得を得ることが出来るだろうが、労働者は現在のベトナム等の労働者と同じ所得となるだろう。それが表題の意味である。

 

 

2)円安について

 

通貨の交換比率、つまり為替レートは、貿易や金融取引など海外との決済の合計で決まる。外貨を持つ人が、日本円に交換して日本の商品を買うことが多くなれば円高に動き、逆に日本円を持つ人が、それを外貨に換えて海外製品を買うことが多くなれば円安方向に動く。

 

日本での人件費や家賃、更に国内での商品価格が幾らであっても、国際取引でなければ通貨の交換レートには影響しない。(補足4)

 

それら海外との取引収支の合計が日本の経常収支ということになる。ただ上述のように、日本国全体の収支(経常収支)が黒字でもその中身が変化していることに注意が必要である。何故なら、為替レートは現金のやり取りで決まるからである。

 

第一次所得が増加して黒字を維持しても、外国で稼いだ資金が再び外国に再投資されれば、お金の流れ(キャッシュフロー)で見た場合、赤字となっている可能性がある。つまり、日本全体としてせっせと稼いでも、稼いだ方々が外国に蓄財するのでは、日本は彼らのベッドタウンになってしまう。

 

そのように指摘する人がいる。東京財団政策研究所の「進む円安と経常収支の構造的変化」と題する文章を見てもらいたい。https://www.tkfd.or.jp/research/detail.php?id=4352

 

その中で、小黒 一正氏は以下の様に書いている。

 

海外で現地生産している企業であれば、ドルで稼いだこの収益の多くは円に変換して日本に戻さず、ドルで再投資するはずだ。

 

また、「証券投資収益」は株式配当金および債券利子の受取・支払を表すが、このうちの「債券利子」から得る収益は証券投資収益の約90%(2022年度)を占める。断言はできないが、ドルで稼いだこの債券利子の収益の多くも、円に変換せず、ドルで再投資する可能性が高い。

 

この海外で稼いだ金は海外に再投資されるという指摘は他にも多い。キャッシュフローが赤字なら、ドルと円の交換レートが円安に向かうのは当然のことなのだ。

 

勿論現在の円安の主要な原因に、日米の政策金利における大差があるだろう。しかし、日銀が金利を上げても、円安の本質的治療にはならないということである。またここで重要なことは、金利を上げれば、日銀は実質的に債務超過になることである。そうなれば日本円の信用は保てないだろう。

 

それでも日銀総裁は、簿価では債務超過ではないので、国債の償還を受けても新規国債は買わなければ良いのだと強弁する。そうなれば、日本政府は大日本帝国のように変身して、国債購入を日本国民に強要することになるかもしれない。その時、新ニーサを始めたことによる国民の預金の海外流出を悔いるだろう。一体、岸田は誰に言われて新NISAを始めたのか? 分っている人は分かっているだろう。

 

 

3)貿易統計等

 

日本は農地の狭い資源小国であり、食糧とエネルギーを外国に頼っている。それは本質的なもので、日本は本質的に政治的に脆弱な国である。そのこと位は国民は熟知する必要がある。余計なことだが、日本の右翼系の方の頭にはこの自覚に欠ける人物が多い。

日本の経済活動を輸出入の点から眺める。上の表は、財務省の輸出入の統計(令和5年)である。合計すれば、93000億円余りの赤字である。この赤字への寄与が大きいのが赤でマークした食糧(8.2兆円)とエネルギー(25.7兆円)である。

 

我々の生命維持は、食糧とエネルギーの供給をしてくれるこの貿易の結果であり、その為のシステムのお陰である。この貿易システムは米国を中心に世界に根を張っており、米国は世界最強の軍事力でそれを護っている。それが日本の政治経済の基本的構図である。

 

この貿易の赤字幅を現在辛うじて抑えているのが、自動車など輸送機器(19.5兆円)と一般機械(8.9兆円)等の輸出産業である。(カッコ内は概数)日本に外貨を運び込むことにおいて、トヨタやホンダなど日本の自動車メーカーが最も大きな役割を果たしているということである。

 

その外貨収入が廻り廻って、食糧とエネルギーの購入費となっているのである。繰り返しになるが、日本は、外貨が入手できなければ国民の生命の維持さえ出来ないという脆弱な国なのである。以前、そこまで言って委員会という番組で、自称元皇族が日本は内需依存国であり、経済的に強い基盤を持っているなどと言っていたが、これが右翼の典型的な間違った意見である。日本は貿易立国なのだ。

 

この日本の自動車産業を破壊すること念頭において特に欧米を中心に繰り広げられているキャンペーンが地球環境問題である。日本が得意とす内燃機関型の自動車を追放して、構造的に簡単な電気自動車以外を禁止する方向に進むことを目的の一つとしている運動である。

 

それは、EVは大型蓄電池の製造を必須とするなど、製造から廃棄までの全プロセスを考えた場合、例えばプラグインハイブリッド車と比較して、CO2の発生や重金属汚染の問題などで、決して”環境に優しい”とは言えない。そんな事を無視してEVを推進する姿勢が、この運動のうさん臭さを示している。

 

そんなことには欧州特にドイツや北欧の人間は素知らぬ顔である。彼らは生存競争を非常に厳しく考えている。

 

貿易収支の話に戻る。上の表を良くみると、輸出産業の中で電気製品や機械類の競争力が低下しているようである。(補足5)進む円安の中でこの収支となる程の競争力であれば、この分野が今後貿易収支の赤字幅縮小の為に大きく働くとは思えない。赤字が今後大きくなる可能性が高い。

 

終わりに 

 

新型コロナ以降、各国がバラマキで財政支出を拡大し、日本も大量接種と大量廃棄のワクチンなどで無駄な政府支出が多かった。そのお金のバラマキによる物価上昇も加わり、インフレ状態になって来ている。最近では下図のように3%程度の物価上昇率が定着している。今後、更に円安による輸入物価の上昇も加わるだろう。https://www.stat.go.jp/data/cpi/sokuhou/tsuki/pdf/zenkoku.pdf

 

今年中に日銀は、この物価上昇を見て利上げを決断するだろう。それは、預金金利や住宅ローン金利だけでなく国債金利の上昇を意味する。その結果、国民の貧困化が進むだろう。国の財政も、ウクライナ支援などで今後放漫財政を続けて、益々借金体質が進むだろう。

 

また、利上げによって新規国債の発行が徐々に困難になることに注意が必要である。最悪の場合、政府は財政難に陥る可能性も今後出てくる可能性があると思う。今は英知をあつめて国難に対処する時である。のんびりと政治資金問題を議論している場合ではないと思う。

 

以上、理系素人による日本経済に対する感想です。批判やコメント期待します。

 

 

補足

 

1)この主張をする人は、民間人では三橋貴明氏、藤井聡元内閣官房参与(安倍内閣)など。江田憲司衆議院議員(立憲民主党)、西田 昌司参議院議員(自民党)などもこの中に入ると思われる。彼らの国家の債務がGDPの何倍あろうが、意味がないなどの発言が強烈である。

https://www.youtube.com/watch?v=ZqANXqn1Tlw

https://www.youtube.com/watch?v=xpNB-_v3Pnc

 

2)日本語と日本教について:10年前にブログ記事として書いているので一応引用します。

https://ameblo.jp/polymorph86/entry-12466514091.html

上の図が私の日本の言語文化に対する理解である。

 

3)海外への株投資にはNASDAQ100、S&P500などのインデックスファンド(株価連動型投資信託)を含む。日本のインデックスファンドとしては日経225に連動するファンドなどがある。世界中の有名株を組み合わせたオルカン(オルカン=all country)と呼ばれる投資信託が積立NISAでは人気があると前のブログで書いた。

 

4)発展途上国の名目年収5000ドルの人は、先進国の同じ名目年収5000ドルの人よりもはるかに裕福である。一人当たりGDPなどの国際比較データを見るとき、この事を忘れると全く間違った理解をすることになる。

 

5)電気製品と一般機械の輸入は夫々3%以上増加しているが、輸出は同程度減少している。自動車を含む輸送機器の輸入22%増加(金額は4133憶円余り)し、輸出は24%増加(金額は236300億円余り)

 

(19時、編集あり;5/15早朝全面的に編集の上、最終稿)

2024年5月8日水曜日

日銀が利上げ出来ないもう一つの理由は新NISAでは?

二度の為替介入にも拘わらず円安が続いている。為替介入は、外れた相場をもとに戻す効果はあるが、理由があって動いた相場を元の値に戻そうとしてもその時点での相場に戻るだけのようだ。ただ、国民注視の前で何もしない訳にはいかなかったのだろう。

 

高橋洋一氏が言うように、100円代で購入した米ドルを150円以上で売ったのだから財務省は大儲けしたことは確かである。もし利上げの前にひと稼ぎしようと言う為替介入なら見上げたものだが、そうではないだろう。

 

日米の大きな金利差で生じたこの円安は、購買力平価で判断した場合は異常である。日銀は、利上げすべきなのだが、円安以外の原因でのインフレが明確に2%以上になっていないから利上げしないと言う。しかし、理由は別にあるだろう。

 

評論家の増田俊男氏は、その理由の一つを語っている。米国は、高金利下での景気の冷却を懸念しており、物価が落ち着き次第に利下げしたい。そのタイミングを待っている。そんな時日本が利上げするとかなりの資金が日本に流れ、米国の景気冷却の切っ掛けになる。米国経済の冷却が始まると、日本等にも影響が及ぶ。日銀はそれを恐れているというのである。

https://www.youtube.com/watch?v=H3uTk9-PU1w

 

ここで日銀が利上げ出来ない政治的理由として新たに指摘したいのは、利上げにより岸田政権の人気急落が予想されることである。

 

今年岸田政権が始めた新NISAは、日本国民の1200兆円にも及ぶ個人預金を米国に逃がす制度になっている。実際、新NISAの積立枠の多くは米国の投資信託に流れ、米国の景気を支えるのに(大きくはないかもしれないが)一役買っているのは確かである。

 

 

全世界の株を対象にしたインデックスファンド(俗称オルカン)でも構成株の60%は米国株である。その他、S&P500とかNASDAQ100などは全て米国株である。岸田政権下の日本は、円安政策と連動させて米国経済の為にも頑張っているのである。

 

今年1月早々に新NISAで米国株投資信託を買った人は、今年1月には140円だったドル円レートが現在155円程になっていることと、米株自体も10%以上の値上がりしていることも合わせて、これまでのたった4ヶ月あまりで20%以上の含み益を得ている。


ここで、日銀が利上げをすると、日本円は130~140円になり、この含み益が吹き飛ぶ可能性がある。そうなれば、密かにほくそ笑んでいた人たちも、あからさまに嘆きと恨みの声を上げることになるだろう。

 

今でも個別株への投資では、そんな嘆き節が聞かれているというのであるから、上記のような場合はすごいことになるだろう。

 

 

 

2)岸田政権への打撃

 

岸田政権は、従来の自民党政権以上に米国に従順である。それが安定的に政権を運営する上で一番簡単だからだろうと想像する。自分の総理大臣の地位と様々なメリットが約束される。第一、安倍さんのようにはならない。

 

 

米国盲従政策の一つが、盲目的なウクライナ支援であり、大量のCovid-19ワクチン購入であり、更にもう一つがこれまで誰も出来なかった世界一の日本国民の預金を米国に流すことである。(補足1)それらが、日本のマスコミのプロパガンダ的報道の支援も得て、素直な日本国民を背後に実行できた。

 

自然に景気後退になったなら、おとなしい日本国民は必死に我慢するだろう。しかし、新NISAと円安政策で国内外の株投資へ誘導されたあと、利上げによる円高で梯子を外されたら、多量に誕生した俄か素人投資家たちの魂胆と怒りの声は岸田総理へ引導を渡すことになるだろう。

 

税金収入を犠牲にしてまで新NISAを実行するのだから、日本株や日本株の投資信託に限るべきだった。それが、政府財政を増加させてGDP上昇を考えるよりも遥かに上策である。岸田政権の愚策と米国隷属の姿勢が、日本の金融を崩壊させようとしているのである。

 

 

終わりに:

 

デフレ脱却の為には、積極的に財政拡大してGDPを増加させるべきという考えもあるが、それは現在の日本では間違いだと思う。5年以上前までは、今回のような通貨安は想像できず、私もその考えに染まっていた。しかし、今日の異常な円安に歯止めが掛けられない程の財政赤字(補足2)では、これ以上の財政赤字の積み上げは日本経済を危うくする。

 

 

同じ金を使うなら、例えば適材適所を促進するための労働の流動化、既得権益の排除、労働生産性を向上させる投資の促進やインフラ整備など、地道な努力をするべきである。それと、健全な競争を社会に喚起する”文化的”政策も、他国同様に成長するには不可欠だろう。

 

三橋貴明氏ら所謂リフレ派の人たちの多くは、今でも「政府の債務を増加させれば経済成長する」という事を理由に、財政拡大を主張している。確かに、日本円で統計を取る限りGDPは成長するだろう。しかし、通貨の実力が崩壊すれば、長期的には逆に貧困化を招く。財政赤字を垂れ流してGDPを上昇させ、暮らしを楽にできる程、この世界は甘くないと思う。

https://www.youtube.com/watch?v=NvSp3uNyoQY

 

彼らが未だにMMTという思想にすがっている理由がわからない。インフレが大きくなるまでは幾らでも財政支出すればよいというMMT政策は、基軸通貨発行国のみが用いることが出来る。日本には適用できないことが今回証明されたと思う。

 

以上は一理系人間の素人分析です。コメント批判など是非お願いします。

 

補足:

 

1)郵政民営化の時、日本の簡保生命のお金を米国に投資させるためだと言われた。その時の郵貯と簡保のお金が350兆円だった。その時よりももっと円滑に且つ大規模に米国に資金が流れるだろう。

 

2)日銀総裁が言うように、日銀の大量保有する国債は元の価格で貸借対照表に掲載する限り、書面上は債務超過にはならないし、満期で償還を受けることができる。しかし、その後その借り換えをするには国債をもっと高利で発行しなければならない。その時は、もっと困難な情況に追い込まれるような気がする。

     

(おわり)(12:30補足1追加、編集)

2024年5月2日木曜日

日本円崩壊の危険性:預貯金の海外流出との関連

 

日銀の金融政策決定会合の後、円安の流れが急激になった。為替介入により若干もどしたもののその流れは止まりそうになく、年内に170円にもなる可能性もある。更に最終的には日本円崩壊のシナリオも全くない訳ではないという話が、証券会社の現役為替アナリストとして著名な佐々木融氏により為されている。

https://www.youtube.com/watch?v=okRlXPrUcZg

 

この恐ろしい話が成立する背景に、日本の個人金融資産2100兆円の半分以上1100兆円が預貯金としてため込まれていることがある。その円預金が、新NISAを利用した海外通貨建ファンドなどに既にかなり向かっている。より大きな利息や今後の為替差益を考えるなら、それが賢いと証券会社に教えられるからだろう。

 

これ以上の円安の流れが確実となれば、その傾向が益々大きくなる可能性が高い。日本では、国民の間に時として巨大な流れが出来る文化の国である。その流れを米国のヘッジファンドが見た時、円売り攻勢を仕掛け、円安の流れを大きくして利益を得ようと考えることは容易に想像できる。

 

更にそれに呼応する形で、日本の個人預貯金のお金が外国に流れる。そのようなスパイラルな円安進行が恐ろしいシナリオである。全体としては、ヘッジファンドなどが円安の流れを煽ることで日本円預貯金の外国への流出を助け、その手数料と売り買いの差益を得るということになる。

 

日本に残された金融資産は相当減少し、残った分も大きく目減りすることになる。金融資産を日本円で持っている人は、超円安で貧困化しその中であえぐことになる。勿論、日本はインフラも整備され技術をもった人材も豊富なので、企業の日本回帰などが盛んになり、そこからの輸出が大きな富を生み、どのくらいかは分からないが一定期間の内に経済規模も人々の生活も元に戻るだろう。ただし、かなり犠牲者を出した後である。

 

この波が日本円崩壊と言えるほどに極端な場合も全くない訳ではないだろう。その時、日本円は通貨価値をまともな数値で言及できるように所謂デノミが行なわれる可能性もあるだろう。預金封鎖後に、これまでの100円を1円とするなどの改訂である。日本では第二次大戦後に行われたし、外国でも通貨危機後に行われている。

 

纏めると: そして、真面目に働き稼いだ金を少しづつ蓄財した国民のかなりの部分が貧困化した結果、大部分を占める中流以下の日本国民の間に大きな貧富の差を作り上げる。借金が大きく目減りして得をするのは、放漫財政の挙句大きな借金を作り上げた国家やそれを見越して債券を発行しまくった一部の法人だろう。その事態は日本全体としては本当に愚かである。

 

勿論、これは最悪のシナリオで殆どあり得ないのだが、同じメカニズムでもっと小さい景気のうねりが発生する可能性が高い。日本は食糧とエネルギーを輸入に頼っているので、これらの価格高騰により、貧困層は危険な情況に追い込まれる可能性がある。更に、日本国民に発生した貧富の差は、日本のお互いに他人を思いやるという稀有な文化を破壊する可能性も高くなる。

 

 

2)異次元の金融緩和の評価

 

日銀がまともに為替を安定させるための金融操作が出来ないのは、前の記事に書いた様に、”異次元の金融緩”の結果日銀が保有する多量の国債残高である。それは、アベノミクスの一環として黒田日銀総裁の時に行なわれた市場からの国債の大量買い付けと、政策金利のマイナス化である。

 

この議論で最初に思い出すべきことは、赤字国債の発行と日銀が国債を引き受けることは、財政規律を無くする危険性を防ぐために禁止されていることである。財政法には以下の様に書かれている。

 

第四条: 国の歳出は、公債又は借入金以外の歳入を以て、その財源としなければならない。 但し、公共事業費、出資金及び貸付金の財源については、国会の議決を経た金額の範囲内で、公債を発行し又は借入金をなすことができる。更に、第五条すべて、公債の発行については、日本銀行にこれを引き受けさせ、又、借入金の借入については、日本銀行からこれを借り入れてはならない。 但し、特別の事由がある場合において、国会の議決を経た金額の範囲内では、この限りでない。

 

1955年以降約50年間続いた下劣な政治の付けを、大量の赤字国債発行とその日銀による引き受けという財政法に違反した形の金融緩和策で乗り切ろうとしたのは、自民党政府の殆ど犯罪的政治である。勿論、官僚のワル知恵を借りて特例法などを制定し、法律違反は形の上では避けている。

 

今では、内閣は赤字国債発行という事態に悩んだ時の蔵相の気持ちなど完全に忘れ去っている。(補足1)下のグラフを見てもらいたい。赤い棒グラフはその本来違法である赤字国債の金額である。この30年近く、国家の予算の40%近く或いはそれ以上を国債に頼っている。

 

繰り返しになるが、自民党政府は法で禁止されていることを、その法の思想を完全無視して、毎年税収よりも40兆円程余分に支出している。マスコミ等が報道すべきは、このような問題の原点からの経緯・歴史である。そのような本質的で真面目な議論が全くこの日本と言う国には欠けている。日本国は残念ながら、まともな近代国家ではない。

 

いささか脱線気味だが、以下のことはブログ記事毎に書いておきたい。明治の時代、日本はに西欧に出来上がった政治システムを移植したが、その精神に学ぶことはしなかった。 これは財政だけでなく政治の全ての部分について言えることである。

 

尚、以前のブログ記事で、日本株にはむしろ明るい将来があると書いたが、上記のような円安スパイラルが起こった場合には、日本は貧困化し輸出で稼ぐ会社以外の日本株は実質的価値を大きく下げるだろう。

 

終わりに

 

以下の動画を見てもらいたい。元財務官僚で嘗て内閣参与をされていた方が現在の円安について話している。為替レートについて一片の真実を語っている(=本来一ドルは110円位)と思うが、平衡論であり動的議論は一切無視している。因みに、この方は「アベノミクスで日本経済大躍進がやってくる」という本の著者である。

 

https://www.youtube.com/watch?v=KCU3R2LDWVA

 

話の内容は書き下ししないので、直接聞いてもらいたい。この円安に関する話は、例えば「その住宅地は海抜2mなので、この100年や200年の間に海に沈む危険性は全くありません。例外的に20m程高くなったりしますが、すぐ収まるので気にすることはありません」に似ている。

 

物理でも化学でも、現象の解析・議論には平衡論と動的議論の2つがある。上記動画の主は、平衡論で「ドル・円は110円が正当なレートであり、たまに2割3割ズレることはあっても、すぐに元に戻るのだ」と語る。しかし、そのプロセスの中で一部の日本人の金融資産が数分の1になり、(他の1部の人の資産はほぼ全される)その他の人々の資産はかなり目減りするもののかなり保全される。その結果、大勢が貧困に突き落とされることになるが、そんなことは些細なことだとして無視を決め込むのである。

 

このように発信する動機は、自分の内閣参与時代の間違いを隠すことと、極めて強い自尊心だと思われる。この国には、このような議論を論破する人物が、近くに現れない。また、もし現れても何の利益にもならないとして、放置するだけである。日本には議論の習慣がない。議論は口論となり喧嘩となるからである。それはあらゆる面で、日本病の根本原因である。

 

以上は、一素人のメモですので、コメント或いは間違いの指摘を歓迎します。

 

補足:

 

1)赤字国債の発行は昭和50年にはじまった。この年の12月25日,「昭和50年度の公債の発行の特例に関する法律」(特例公債法)が公布され,赤字国債がはじめて発行された。赤字国債の危険性を知る時の大平蔵相は歯止め装置を置いた。しかし、それも撤廃されて無制限に発行されるようになった。その切っ掛けは、自民党の人気低下だったと思う。一時発行を止めていた赤字国債が再度大量に発行されるようになったのは、自社さ政権の村山総理の時である。

https://www.jsri.or.jp/publish/research/pdf/81/81_02.pdf

(13:00 編集あり;15:45 本文§2最後の文章に”実質的”を追加; 22:00 最後の§の打消し線部分を修正後、最終稿)