〜永世中立を放棄させられたスイスと、金融の空洞化に蝕まれる日本〜
嘗て世界の金融界には、二つの「絶対的な安心」という共通認識があった。一つは、戦火すら寄せ付けない永世中立国スイスの金庫。もう一つは、巨大な対外資産を背景にした有事の円である。
しかし今、この神話が同時に崩壊している。その裏側にあるのは、単なる政治の変節ではない。「米国の意志一つで、特定の国家が世界経済から瞬時に切断される」という、ドル決済網を武器にした支配のロジックである。
どれほど独自の伝統や政策を掲げようとも、米国の管理下にあるドルの帳簿に依存している限り、その生殺与奪の権は常に米国の手中に握られている——。この逃れられない「従属の構造」こそが、国際金融の冷酷な真実なのである。
1. スイスが「中立」を放棄した本当の理由
スイスが金融大国としての地位を確立したのは1934年の銀行法(顧客の個人情報や口座情報を守秘義務の対象とし、漏洩に刑事罰を科す制度)からであり、特に冷戦下で「どの陣営にも属さない避難所」として不動の地位を築いた。
その結果、スイスの巨大銀行UBSの資産は1兆ドルを超えて、国家のGDPを超えるほどとなっていた。しかし、その外国人が預け入れた資金は、米国が握る**「ドル決済網」の上にあるという弱点をもっていた。それが明らかになった切っ掛けがウクライナ戦争であった。
欧州に留まるロシア人個人資産の約3割がスイスに集中していたことに注目した米国民主党政権は、スイスの銀行をドル決済網からの排除を示唆することで、ロシア人資産の凍結を迫ったのである。200年の伝統よりも、明日のドル決済。スイスは生存のために「中立」というブランドを売らざるを得なかったのである。
その後の悲惨な状況は以下の動画で語られている。中立国というブランドを失ったUBS銀行は、次第に預金引き出しなどによる財務の不健全化が進んだようだ。USB銀行とその巨大さゆえに崩壊させられないスイス国家にとって新たな危機となっているのである。
https://www.youtube.com/watch?v=xV33e7U2l3k
2. 「金融グローバル化」というボディブローを受けた日本
日本経済の低迷はプラザ合意の円高誘導に始まるとされる。しかし、実質実効為替レートで見れば、それは日本が克服可能な範囲であった。むしろ、日本経済の息の根を止めかけたのは、その後の「金融のグローバル化」という目に見えないボディブローであった。
かつて日本には「外為法」という強固な防壁があり、外貨は国家が管理していた。しかし、1990年代以降、米国からの「年次改革要望書」などによる市場開放の要求により、この防壁は取り払われた。それ以降、日本の市中銀行が直接米国内にコルレス銀行(※用語解説参照)を利用した外貨取引が可能となった。
この金融のグローバル化と、その後実施された異次元の金融緩和が組み合わさった結果、銀行の行動原理は劇的に歪んだ:
資金の海外逃避: 銀行は、手間とリスクのかかる国内の中小企業融資(目利き)を捨て、高金利な米国のコルレス銀行(Correspondent Bank)(※2)の帳簿へ資金を移し、利ざやを稼ぐ「安易な運用」に走った。
「資金の循環器」の停止: 本来、銀行の仕事は経営支援を通じて成長企業を育てることであった。しかし、自由に外貨を運用できるようになった今、日本の銀行は「国内産業を育てる知恵」を失い、単なる「低コストな資金調達の窓口」へと成り下がってしまったのである。
これまで日本の都市銀行は、単なる金貸しではなかった。企業の毛細血管にまで入り込み、経営を支え、産業を育てる『世界で最も精緻な経済の循環器:心臓』だった。しかし、金融のグローバル化によってその循環ルートは日本国内から切り離され、米国のグローバル決済網へ接続された。
心臓が自らの身体(国内産業の企業など)を顧みず、血液(資金)を外部へ流す臓器となったとき、日本経済という巨体は内側から枯死し始めたのである。
3. 二国に共通する「経済的主権」の喪失
スイスは外圧で「中立」を奪われ、日本は金融のグローバル化によって「国内の資金循環」を失った。どちらも、「自国の資本が、他国の決済網という『他人の土俵』に依存する」という致命的な脆弱性を抱えるようになったのである。
両国ともにグローバル経済の中で、金融の主権を奪われたことになる。経済において主権を奪われたとき、それは必然として政治的主権をも失うことになる。スイスはロシア人富豪の資産凍結し、日本もロシアに対する経済制裁を行ったことで、非友好国に指定された。
その結果、スイスは200年間にわたって築いた永世中立国の信用を失い、日本も隣国のほとんどと非友好的な関係を持つという危機的状況となったのである。
あとがき:物理の盾から、金融の鎖へ
かつてのスイスは軍事力で「物理的」な中立を死守した。しかし、デジタル帳簿上で実行される「ドル決済網からの追放」という金融武器の前に、アルプスの要塞は無力だった。
日本経済低迷の40年は、プラザ合意後の円高が引き金を引いたと言われる。しかし、その後の復活を妨害した一因として、経済主体(細胞)に遍く資金(血液)を循環させる「経済インフラ(心臓)」としての銀行機能が、金融自由化によって徐々に喪失したことこそが真因であると思われる。
私たちが信じていた金融の聖域が崩れ去る今、この冷酷な仕組みを理解することだけが、自分たちの資産と未来を守る唯一の盾となるのではないだろうか。
【執筆背景】 本記事は、筆者(ブログ主)がAI(Google Gemini)による調査・分析協力を得て、国際金融の深層構造をまとめたものである。
(用語解説)
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(※1)コルレス口座(Nostro Account):銀行が外貨決済のために現地の銀行に開設している預金口座。
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(※2)コルレス銀行(Correspondent Bank):自国の決済網を他国の銀行に利用させるために取引関係を結んでいる銀行。相互の帳簿を同期させて決済を代行する。
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