昨日、理研のSTAP細胞論文に関する調査報告会見がテレビで報道された。小保方氏が単独でデータを捏造や改竄したと認定し、他の共著者に不正行為はなかったと結論つけた。冒頭で理研の幹部が頭を下げて何かに謝罪した。
中日新聞4月2日の朝刊では、阪大の中村準教授(科学技術社会論)の「不正を防ぐ為の研究倫理教育や指導が欠けていた。研究者の競争的環境が、短期的な見返りや成果を求めるような歪んだものになっていたのでは」と言う指摘、更に、阪大病理学の仲野教授の「捏造の責任が小保方氏一人にあるとしても、論文に関しては、個人の問題に帰着させるには無理がある。何故こういうことが起きたのか、組織として問題が無かったのかを検証し、問題があったのなら是正する必要がある」とのコメントが掲載されていた。
まず、理研の会見について意見を述べる。冒頭で幹部が頭を下げ謝罪したのは、不可解な光景である。いったい何を誰に謝罪しているのか? しかし、理研幹部と阪大の2人の関連分野の方は、共有の視点を持っているようである。それは組織の研究管理という視点である。しかも、その視点は研究資金とか設備とかでなく、研究者の指導や教育へ向けられているのである。この点で至らなかったことを、理研の予算の出所である納税者に謝罪しているらしい。この理研幹部の謝罪は、日本独特の光景であり欧米の人には理解できないのではないだろうか。大学院を経て学位を得た者に、新たに(研究倫理的な面での)指導や教育をする必要などない。理研などの研究所において、研究者を対象に幹部がすべきことは、採用や昇降格、解雇等である。もちろん、若手研究者はプロの研究者として、自分の意志と力で研究能力の向上に日々努めるべきことは、言うまでもない。しかし、研究者の倫理や心得などの教育は、大学が学生相手にすべき仕事の筈である。この最も基本的なことを、上記の方々は判っていない。
次に、捏造を含む論文に関する責任問題であるが、この責任には二種類あり、区別して議論すべきである。まず、論文の内容に関する責任であるが、これは筆頭著者にデータ捏造があったとしても、共著者全員の責任である。この点は仲野教授の意見と同じである。研究での作業分担があり、分担者がその意味を理解しないで協力し、その結果を集めて筆頭著者とcorresponding author(C.A.; 論文の責任者)のみで部品を組み立てるように論文を作成したのなら、著者は本来2人であり、残りの作業分担者の名前と作業の概略は謝辞の中で述べるのが本来の形である。(注1)その場合でも、筆頭著者とC.A.の方は同程度の責任がある。もし、筆頭著者がC.A.になっていない場合は、C.A.の方の責任が重い。C.A.が誰であるかの言及を含めて、そのような説明は理研の会見になかった。ただ、この論文の評価(負の評価)は、関係する研究者の評価に反映されるべきことであり、犯罪者のような取り扱いはしてはならないと思う。理研が成すべきことは、彼らの研究者としての評価を人事異動及び研究費配分などへ反映させることである。
次に、データ捏造の責任であるが、これはデータ捏造した人以外に誰も気付かなかったのなら、ここでは小保方氏一人の責任である。この場合小保方氏は、共著者達及び自分の研究者としての評価を落した責任を持つ。小保方氏がこの件で謝罪するとすれば、共著者に対してである。データ捏造した者に対して理研が更に(人事的処分以外)なすべきことは、研究費の不正使用として、資金の返還などを求めることもくらいかとおもう。(注釈2)
「STAP細胞が本当にあるのか?」と言う疑問をテレビでよく聞く。これは、論文が取り下げられれば、白紙である。つまり、上記「」内の文は、「心霊現象は本当にあるか?」と同程度の疑問文であり、改めて公金をかけて行なうべきでない。また、マスコミ全体が三流週刊誌のようになって、連日報道すべきことではない。
注釈:1)誰でも著者に入れ、自分も入れてもらうという業績を膨らませる不正が幅広く行なわれている。文部科学省はこの点を厳しく教授等に指導すべきである。
2)この件は、例えばプロ野球において、選手が筋肉増強剤を使うという様な不正をした場合と同じ様に考えれば良いと思う。球団はその選手の教育や指導の責任を問われることはない。球団幹部も、特に米国では、テレビの前で謝罪することはないだろうが、その選手は解雇されるかもしれない(野球界で生きられないかもしれない)。この比喩に同意されない人は多いだろう。しかし、研究者は個性あるプロフェッショナルであり、紋きり型の人材を養成するシステムになじまない。
本質を突いたご意見で、全く同感です。
返信削除なお、STAP細胞の真偽については、理研では野依氏主導の下に、機関として検証するとのことですが、その必要は無いだけでなく、国費無駄遣いの上乗せになりませんか。
ねつ造と認められたのであればSTAP細胞は白紙となります。それでも可能性を信じる研究者がいれば、自己の責任で研究すればよいと思います。