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2023年12月15日金曜日

この50年間に拡大した貧富の差について:そのメカニズムと米国の政治

この50年間、世界経済の様相は大きく変わり、貧富の二極化が進んでいる。その原因について、世界をけん引する米国の経済を中心に少し考えてみる。

 

下図は、米国の所得上位1%の人たちと下位50%の人たちの所得全体に対する割合を、1970年代から図示している。1970年ころには下位50%の人の取り分が上位1%の人の倍程度あったのが、1995年頃に等しくなり、それ以降は上位1%の人たちの取り分の方が大きくなり、その格差が2020年代まで拡大している。

 

 

1970年代、上位1%が所得全体の10%程度を占めていたので、その層の人たちは平均として全平均値の10倍程の所得を得ていたことになる。一方、下位50%の人たちは約20%程度の所得を分け合っていたので、この両層の一人当たり平均所得の比は約25倍となる。

 

2010年代になると、上記簡易的な計算を繰り返すと、この両層の平均所得の比は約75倍となる。この大きな格差は、社会を不安定化するレベルであり、これを許した米国政府の政治責任は大きい。

 

尚、上のデータは、世界での経済的不平等の実態を調査し、そのデータベースを公表している国際的な団体World Inequality Laboratory WIL、世界不平等研究室)による。(補足1)

 

次に、このWILのデータベースから、米国の個人が蓄積したwealth(富、資産)の階層別経年変化のグラフをコピーさせてもらう。

 

 

この図によると、米国における冨の不平等は1970代或いはそれ以前から極めてひどい情況にある。例えば2019年、上層1%が冨の35%を占めるのである。上層10%で見ると、冨の71%を占め、残り29%程の殆どを中間層40%が占める。下層50%が持つ富は殆どゼロ(0.1%)である。

 

ボトム50%の人たちの富のシェアは2%を超えたことはなく、2007年からの10年間はマイナスに転落している。この富の不均衡の原因は、米国政府が所得の再分配等の方策を十分には取らず、そのままで良しとしたことである。

 

ここで重要なのは、この間に米国民主党は労働者階級の政党と言うより、ウォールストリートを中心としたエスタブリッシュメントの為の政党であることが明らかになったことである。元々労働者階級の政党では無かったのであり、化けの皮が剥げたというべきだろう。


このような政治は、民主&共和の両党が覇を争う国では、仮にその内の一つを支配しただけでは実行不可能である。

 

米国の政治を真に支配するのは金融資本家であり、両党が政治の表舞台で真の支配者の演出により対立を演じていたに過ぎないのだろう。(補足2)米国は世界の民主主義のリーダーだとは、よく言えたものだ。

 

この巨大金融資本の政治と経済を支配するシステムを、つまり富の不均衡を温存する政治を、そしてそれをグローバルに展開する政治を、ネオリベラリズムと言うのだろう。

 

尚、日本のデータも、このWILのサイトで見ることが出来る。1980年では、上位1%と下位50%の所得の比は約302010年代では約40である。日本は米国ほど重症ではないが、それでも格差は広がりつつある。また、一人当たりの保有する富(wealth、財産)では、2010年代でトップ1%とボトム50%の比は260ほどにもなる。日本でも両層の間にフローで40倍ストックでは260倍の格差がある。

 

北欧スウェーデンでは、1980年代と2010年代での同様の所得の比は、夫々14-18倍20‐25倍位である。かなり健全に近いのは、政府が意識してこの不均衡是正に動いているからである。それでも、近年格差が広がりつつあるのは、グローバル化経済の競争の中で一定の豊かさを維持するためには避けられないのだろう。

 

 

2)富の不均衡の原因:

 

WILのサイトで米国の所得分布を更に調べると、1920年代にも上層1%が所得の20%を占めていた。それが1970年代に11%程度に落ちこみ、2020年代に再び20%代を回復したのである。このことから、この所得の不均衡は、資本主義社会に固有の現象と考えるべきだろう。

 

ただ、その不均衡の是正が、社会の制度改革などで一旦は成功しつつあったが、このところのグローバル化で再び大きくなりだしたと考えれば、長期にわたる所得の不均衡を説明できるだろう。それら1970年までに国内に導入された制度としては、独禁法制定、税制改革、社会保障制度、社会福祉制度などがあるだろう。

 

それら過当競争の防止や富の再分配の為の制度等が着実に実行されれば、理想的には冨の不均衡を大きく正すことが可能な筈である。それが1950年から1970年代までの不均衡の一部解消なのだろう。(これらは何れも想像です)

 

そして、多分スウェーデンなどでの比較的小さい富の不均衡の理由も、それらの政策が積極的に実施された結果なのだろう。

 

ここで少し原点に戻って考えてみる。世界の資本主義経済は、産業革命後の生産の大規模化と金融制度の巨大化や進化を両輪として成長したと思う。その経済システムにおいて、その収益分配には労働に対する分配と提供された資本に対する分配がある。

 

資本に対する分配が、労働に対する分配より大きければ大きいほど、その資本の再投資により経済システム(会社等)の成長率が大きくなる。労働に対する大きな分配を要求する側と、資本提供側の力関係が資本主義社会の政治構造をつくるのだろう。

 

上層1%の人たちとは、所謂金融資本家等を含む。下位50%とは労働者階級である。この間の大きな冨の不均衡は、資本家側の意思が優先的に政治に反映していると考えられる。

 

20世紀も後半になると、更なる資本主義経済の発展の為には、レアアースなどの希少資源や大量のエネルギー、地域に特徴的な技術などを必要とするようになる。そこで、効率的な経済運営の為にはグローバルな経済ネットワークが必須となる。その結果、1970年代からの本格的な経済のグローバル化が、新しい冨の不均衡のメカニズムとして加わった。

 

もし、米国の金融資本が目的とするのが、米国民の生活を豊かにするのであれば、グローバルな経済ネットワークの構築の為に、直ちに米国資本の中国進出などグローバル化政策には至らないだろう。途上国への資本進出は、双方の国の経済構造と政治構造を歪にするからである。

 

20世紀の後半に始まる米国的新自由主義的経済の世界への展開は、政治における世界支配が真の目的として隠されていたのではないだろうか。それが、少なくとも所謂グローバリストたちの政策を観察した結果であり、そのように考えると、昨今の政治と経済の関係が分かりやすい。

 

その一環として、米国の金融資本は東アジアに投資拠点を開発し拡大した。その代表的な例は、1990年代からの共産主義独裁の中国への資本投下である。

 

産業の一つの中心であった製造業が中国に移動し、中国が世界の工場となれば、西側諸国の労働者層には、製造業での稼ぎが出来なくなる。その結果、容易に転向できない製造業労働者は、下層に転落するしかなくなった。それが米国等での金融資本の巨大化と、それに伴う冨の不均衡拡大である。

 

1970年代から再び大きくなった冨の不均衡の原因は、この経済と政治のグローバル化であることに疑いは無いだろう。

 

このような下位50%の経済情況、平均としての富(資産等)のシェアが2%以下で時としてマイナスとなる情況から、その国の経済を牛耳る金融資本の視野の正面にあるのが、その国民の福祉では無いことは明白である。

 

 

終わりに:

 

米国は、資本家の活動が理想的に進むように、活動空間を広げることに熱心だった。それが経済のグローバル化である。その大きな地球規模の経済的システムの円滑な運営には、その”血液循環”とも言える通貨と金融システムを自分たちの意のままに制御する必要がある。それが世界の基軸通貨としての米ドルの確立と、その地位保全である。

 

そのために米国は、オイルダラーの制度を作り守るため、イラク戦争、アラブの春、カラー革命などに主体的に関与してきたのだと思う。更に、その政策実行に使われた巨大な国家予算計上が、巨大な国家債務を生み、それが形を変えて私人や法人の巨大な金融資産となった。その米国の国際政治の最終的な目的は、グローバルな帝国の建設だというのは、単なる陰謀論なのだろうか? 否である

 

政治経済での玄人の方々のコメントを歓迎します。また、本文中に間違い等ありましたら、ぜひご指摘ください。

 

補足:

 

1)このサイトはフランスにあるParis school of Economics にあるWorld Inequality Laboratory (世界不平等研究室)が中心になって運営されているようだ。100名程度の経済学者が国際的なチームをつくり、データを収集し、まとめている。(Wikipedia 参照)

 

2)たまに本当の対立が生じかけることもある。その時にこそ、真の支配者の影が感じられるようになる。たとえば、1912年ウッドロー・ウィルソンが大統領選に立候補したとき、タフトに勝てそうにないのでセオドア・ルーズベルトは共和党を分裂に持ち込み、ウイルソンの勝利に貢献した。そのウイルソンは、米国ユダヤ系資本家にとって悲願だったFRBを創設し、通貨発行権を得た。セオドア・ルーズベルトという人物は、ユダヤ系資本家のシフとともに、日露戦争に日本が勝利するように仕向けた人物である。日本は彼らが世界を支配するための駒だった可能性が高い。ただ、それに十分気付かなかったのか、傲慢になった大日本帝国は、第二次大戦で完膚なきまで打ちのめされた。

 

(11:00編集、三番目の図を追加、18:00 二番目のセクションの書き直し編集;20:10;翌朝 再度編集)

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