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2024年5月21日火曜日

トランプが次期大統領になっても米国と世界は現在の延長上を進む 

もしトランプが次期米国大統領になったら、米国はどうなるか、日本は、そして世界はどうなるかという分析は、恐らく方々で行なわれているだろう。

 

トランプは、時代の周り角にあって市民一般の広範な支持を背景に政治の方向を大きく変える可能性のある政治家である。これまでの米国の政治の根幹的部分に変化を加える可能性があり、当然ながらこれまでのエリート層からは様々な妨害を受けて来た。

 

ポピュリズム政治の危険性と革新的政治に対する期待を伴って、このような政治家が現れたということは、これまでの政治が市民一般の要求を長い間無視してきた証拠である。所謂Deep Stateが本当の支配者だったのか、マスコミとそこに出る評論家などが全く無能か欺瞞的だったかのどちらかか或いは両方である。

 

このトランプの理解(モデル)として標準的なのは、米国金融資本家などグローバリストたちの利益優先ではなく、各国に出来るだけ干渉しないで米国民の利益を第一に考える政治家(モデル①)である。(補足1)ただその姿勢の背景に、グローバリストに対抗して主権国家体制を維持すべきであるという国際政治にける思想が存在するのかどうかは、明確ではない。

 

つまり、地球規模で発達した経済システムと密接な国際政治の時代、つまり狭くなった地球上での社会変革について、所謂グローバリストたちの方向に対して、対立軸を提供出来るのかどうかは不明だと思う。(補足2)従ってトランプのモデルのその部分は様々だろう(②)。

 

1)グローバリズムVS反グローバリズムの対立とトランプ

 

冷戦終結後の米国の戦争に対する公式説明は、法と正義及び民主主義の下で自由主義経済圏を拡大し、リーダーである米国を中心にしたグローバルな政治・経済体制を維持発展させるための戦いというものだった。ただ、2017年からのトランプ政権下、米国は一度も戦争することが無かった。

 

そしてこの4年間に、米国民そして世界中の人々と米国グローバル資本家たちとの間の対立関係が大きくなったと思う。米国と同盟国の自由と民主主義の体制を守るためというこれ迄の戦争の論理には、細部に多くの疑問点が残されていても、相応の説得力があったかもしれない。しかし、この4年間だけ何故その体制に対する脅威が無かったのかという疑問には、答えようが無い。

 

遠い土地での戦争で亡くなった若い米国民の死を、自由と民主主義を守る為に命を捧げたとして説明する話は、これまでの米国の支配層による嘘ではなかったのか? 彼らは、世界の政治と経済を米国のグローバルな覇権で統一し、その中で彼らの資本を巨大化し、その利益を得るために我々(若い兵士を出した米国の家庭)を利用してきたのではないのか?(補足3)

 

そのグローバルな政治・経済の恩恵を、多くの米国と同盟関係にある国々や中国などその周辺国は受けたとした場合、彼らは相応の負担をして来たのか? 現在においても、その義務を果たしているのか? トランプ周辺から周囲に向けて、このような疑問が発信されたのではないだろうか。これが序論のトランプモデル①の主張である。

 

20世紀後半から、そのグローバル経済に矛盾が発生し始めた。その一つは金融資本の巨大化と人々の間に発生した貧富の差の拡大、そして伝統的な人々の生活様式つまり文化の破壊が進んだことだろう。ここでそのようなことが発生する理由について少し考えてみる。

 

自由主義経済とは、各資本が人間社会を競技場にして勝敗を競うゲームのようなものだろう。様々な技が発明され、資本は活動の自由度拡大の本能のままに、いつの間にかその競技場そのものまで拡大し変質させるのである。(補足4)競技と競技場がペアとなって変化することはどのスポーツの歴史にもある事だろう。

 

人間の為に奉仕する筈だった資本が自由主義経済のフィールドで、いつの間にか人間社会を支配下に置く暴君のような資本に巨大化し変質する。伝統的な社会の様々な要素を、それらの自由主義の障害であるとして排除するように要求する。その競技での負けは、その資本周辺の人間の生活を破壊することになるから、それらは本当は要求ではなく命令的である。

 

その様にして、社会の家族をはじめとする人間関係、そしてそれらで創られた地域共同体は既に破壊されている。(補足)現在、それら巨大資本は西欧の近代政治文化が作り上げた主権国家体制まで破壊しようとしている。それは自然の成り行きなのかもしれないが、ある時点からは意図的にその方向に政治活動が始まった。

 

そのグローバル経済の主役である国際金融資本家たちが、結託して行っている世界の政治運動をグローバリズム、それを支持して活動する勢力をグローバリストと呼ぶようになった。現在グローバリズムのプロパガンダの中心は、クラウス・シュワブが主催する世界経済フォーラム(WEF)であり、シュワブが主唱する世界の大変革の開始が、グレートリセットである。

 

グローバリストにエネルギーを供与するのは、巨大資本を動かす金融資本家達である。主権国家体制と国際法などを遵守すべきだという反グローバリズムの主張をする者たちは、当然ながらその他多数だが、そのリーダーと見做されている人たちは国際金融資本の力により撲滅されつつある。彼らは時として民族主義者と呼ばれるが、それは不適切な呼称であり、単に保守主義者と呼ぶべきだろう。

 

最近反グローバリスト活動をしている及川幸久氏が、グローバリズムと世界経済フォーラムの関係について解説しているので、その動画を引用させてもらう。

 

 

 

冷戦終結以降、米国グローバル資本家(殆どがグローバリスト)たちの利益と米国民一般の利益とが、互いに対立するのではないかという疑問が広がった。更に、上述のトランプとトランプ政権の4年間は、反グローバリズムの反撃とでも言うべき政治であり、そのグローバリズムVS反グローバリズムの戦い(第三次世界大戦と言う人も居る)が始まったのだという考え方が、米国だけでなく世界に広く伝搬した。

 

栄光の米国を取り戻すと言う風にトランプは言っているが、それは上のような思想をその背後にしている訳ではないかもしれない。つまり、トランプを主権国家体制を衛る人物と考える人たちがおおいが、それは買いかぶりかもしれない。これが序論の②で示したトランプに対する各人各様の理解である。

 

 

2)対ウクライナ政策におけるトランプの妥協とハマス・イスラエル戦争

 

トランプは嘗て、「自分が大統領になったなら24時間以内にウクライナ戦争を終わらせる」とか、「ウクライナ支援に金を一銭も出さない」と言っていた。

 

しかし、その姿勢にも大きな変化が出て来た。例えば、419日のガーディアン紙の記事には、最近トランプはウクライナの存続は米国にとって重要だと言い始めたと書かれている。その記事掲載の数日後、米国下院でウクライナ支援を含む予算案が通った。https://www.theguardian.com/world/2024/apr/19/ukraine-war-briefing-donald-trump-says-survival-of-ukraine-important-to-the-us

 

提出された法案には、ウクライナ支援の610億ドル、イスラエル支援の260億ドル、台湾支援の80億ドルが組み込まれ、合計950億ドルのパッケージとなっており、現在既に成立している。トランプのウクライナを守るべきという最近の変節発言で、共和党の多くもグローバリストたちに迎合するようにウクライナ支援法案に賛成した。(補足6)

 

この変節の理由はどこにあるのだろうか? ハマス・イスラエル戦争と関係あるのだろうか? 私は素人ながら、米国のネオコン・グローバリストたちは、トランプの固いユダヤとイスラエルを支持する姿勢をトランプ崩しの取っ掛かりとして利用したのだと思う。

 

つまり、ハマス・イスラエル戦争が始まった後(或いは始めた後)、トランプは「あなたのイスラエルとユダヤを支持する気持ちは、本物ですか」と問われることになった。つまり、イスラエルとウクライナを支援する人たちに、ロシアがイスラエルの潜在的敵国(補足7)であるのに、ロシアと戦っているウクライナを支援しないトランプの姿勢は何か変だと指摘されたのだろう。

 

その“問い質し”が、今年411日の記事に書いた3月下旬のイスラエルのネタニヤフ首相に近い新聞ハヨムによるトランプへのインタビュー(動画を引用)だったのだろう。その記事の中で、まるでイスラエルによるトランプの面接試験のようだと書いた。そのインタビューに臨んだ人たちは、イスラエル政府や米国のユダヤロビー(補足8)とも関係が深いと思う。

 

この他、トランプが共和党からの大統領候補に決まってから、ユダヤロビーやイスラエル政権の周辺人物達とトランプの間で、密な接触があったと思われる。日経新聞によると、上記法案の審議に際して、下院議長ジョンソンは方々からレクチャーを受け、4月にそれを持ってフロリダのトランプ邸を何度か訪問したという。

 

その結果、トランプはグローバリスト勢力との闘いを断念か、或いは彼らと妥協した可能性が高い。

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN234YV0T20C24A4000000/

 

その情況下では、トランプと雖も先ずは生き残り、大統領選挙に勝利する必要がある。それが最近のトランプとその周辺の柔軟?な対応に関係しているのだろう。トランプはイスラエルを強く支持して来た。イスラエル支持は、グローバリスト達の心の最底部にある重要ファクターであり、それはバイデンよりも明確であると思う。

 

もし、トランプが次の4年間の任期中に妥協してくれるなら、彼らにとってバイデンよりも好ましい大統領かもしれない。民主党からの大統領候補のバイデンは、焦っているかもしれない。イスラエルへの弾薬輸送を止めたのは、その結果かもしれない。

 

このようにトランプを落とし込む米国グローバリストたちの戦略が成功したのだろう。ただ、大統領選挙でトランプを応援する筈だった一部の人たちは、反トランプになる可能性がある。米国は混沌としている。ロバートケネディJr.に今後スポットライトが当たることになるかもしれない。そうなれば、彼の命が危くなるような気がする。

 

 

終わりに

 

日本からトランプを支持している人たちの多くは、彼の言葉の背後にプーチンなどと同じ民族主義者トランプを見ていた筈である。そして、ウクライナ戦争に関しては、ゼレンスキーが戦争を継続できなくなって、戦争に不利な情況下でも和平に動くことをトランプは想定していただろう。

 

この姿勢は、ロシアを潰してしまいたい米国ネオコングローバリストたちの考えとは本質的に相容れない。ただ、トランプは現実主義的な政治家であり、民族主義者としてグローバリストたちと理念で対立し潰されては元も子もないので、姿勢を修正したのだろう。

 

ハマス・イスラム戦争が始まった以上、イスラエルの支援を明確にしなければ次期大統領の椅子には座れない。トランプは、イスラエル支援のためにはウクライナ支援も同時並行的に必要ならと、これまでの言動との矛盾を最小限に抑えつつウクライナ支援の方向に舵を切ったのだろう。

 

これまでトランプを支援してきた人は、最近トランプ支持者が書いた次期トランプ政権(仮)のウクライナ政策などに関する記述や、その要旨のツイート(補足9)などを見てがっかりするかもしれない。これらは次期トランプ政権(仮)の実現を睨んでの妥協が反映されていると思う。兎に角、大統領にならなければトランプは何も出来ないのだから。

 

大統領選挙が近づくにつれて、米国のあらゆる面で混乱が発生している。大学生によるパレスチナ支援のデモなども、大学生以外が大勢参加しているようだ。場合によっては軍事攻撃を伴う内戦に突入する危険性すら存在する。

 

米国では、今後34ヶ月、内戦と暗殺事件が勃発する可能性がある。米国には是非この国難を乗り切ってほしい。米国の国難は、日本にもその余波が及び、たいへんな事態になる可能性がある。トランプ大統領候補とその周辺の変化も、崩壊に向けた遷移状態にある米国を反映していると思う。

 

 

補足:

 

1)このようなトランプのモデルで国際情勢を分析している日本人youtuberとして、馬淵睦夫氏、渡辺惣樹氏、及川幸久氏などを私は思い出す。勘違いだと思われる方がおられましたら、コメントにて御指摘ください。

 

2)トランプは過去の第一期の政権において、北朝鮮の金正恩、中国の習近平、そしてロシアのプーチンの3人とも高く評価していた様に思う。ただ、世界のリーダーである米国の大統領として、彼らに市民一般にも解るような明確なメッセージを送ったという話は聞かない。彼らが米国と同盟国にとって味方なのか敵なのか、その根拠とともに明確にしなければ、世界のリーダーとしての米国の大統領に相応しいとは言えないだろう。ポピュリスト的政治家が成功するには、エリート層の冠である従来型に比較して極めて優れた能力と、実行力を示さなければならない。トランプ嫌いの多くの人は、その点が不安だから嫌うのだろう。

 

3)グローバリストの世界覇権の獲得の背景(目的)にシオニズムを考える人も多いだろう。シオニズムは、聖書にあるイスラエル王国の再建の話を、神に代わって人間つまりユダヤ人が行うべきだという思想である。聖書にあるのは大イスラエルだが、人間が行うのならそれが世界全体となるのなら、それは彼らにとってベストだろう。

 

4)不換紙幣でもドル基軸通貨体制を護る工夫、資本の移動の自由などWTO体制の構築、IMFなどによる国際金融システムの維持など。

 

5)日本では、巨大資本が集まる都会の周辺にニュータウンと呼ばれる地域が数多く造成され、全国から集まった人々はただ棲息の為の街を造った。子供は大学教育の後に、親元を離れて遠くの企業に就職し、長子相続などの伝統や家族共住の慣習も無くなり、昔の地域共同体は形は現在存在しない。形だけの祭りをその地域で継続する街の姿は、空蝉のように見えなくもない。

 

6)トランプの”変節”については、日経新聞も書いている。それによれば、この法案では支援金を単なる贈与ではなく、貸与と言う形にして、免除する場合は議会の議決を経るという形でトランプの意見を取り入れているようだ。トランプの姿勢の急変の背景に、大統領選へ向けた票固めと見るのは、ある意味当然だろう。https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN234YV0T20C24A4000000/

 

7)旧約聖書のエゼキエル書38章に書かれている世界の最終戦争において、イスラエルを攻める国(民)としてゴグとかマゴグという名称が出てくる。新約聖書のヨハネの黙示録にも似た記述がある。それは現在ではロシアと考える人が多いようだ。因みに、現在の政治情況でも、ロシアはイランの味方であり、イスラエルの潜在敵である。グローバリストたちがロシアを潰したいと思う心の大元に、これら聖書の記述があると考える人が多いだろう。

 

8)イスラエルのユダヤ人も様々な考え方の人がおり、ユダヤ教正統派からあまり宗教を感じない人までいるだろう。正統派は、シオニズムにすら反対しており、将に神の御心のままに生きることを100%実行していると言える。一方、現実主義の人たちは、シオニズムを世界帝国建設に読み替えて、グローバリズムを実行しているのだろう。ネタニヤフ首相、米国のユダヤロビー、そして米国政界の大部分は、殆ど一体だと考えられる。

 

9)トランプ支持のグループが書いたトランプが次期政権に就いた時の政策とについて書いた本https://apnews.com/article/america-first-trump-biden-russia-ukraine-policy-54080728c6e549c8312c4d71150480ba とそこに書かれたウクライナ戦争終結のプランに関しては、https://ameblo.jp/sherryl-824/entry-12852302264.html を見てもらいたい。これらは妥協の産物であり、それでトランプを捨て去るのは“もったいない”と思う。

 (18:30 編集あり)

 

 

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