1)ビットコインなどデジタル仮想通貨は、ネット空間のみに存在する通貨に似た存在である。その基本的な特徴などについては、昨年秋のブログに書いた通りである。
http://rcbyspinmanipulation.blogspot.jp/2017/10/blog-post_29.html
ビットコインは送金や決済の手段として一部に使われているが、価値の変化が緩やかであるという通貨の基本的要請を欠いている。それは、その価値が発行元の信用とリンクしていないことが原因である。
発行時から現在までの1000倍ほどの価格変化はバブル的であり、今後その価値は相当下がるだろう。(補足1)外国ではビットコインに対するストレートな批判も多い。例えば、JPモルガンチェイスのCEO Jamie Dimon が、デジタル仮想通貨を詐欺だと発言している。(下のcnbc.comの記事参照)
ビットコインなどの仮想通貨は、最新技術を”目くらまし”に用いた、責任ある発行元も国境も存在しない“私設通貨”(補足2)であり、多くの国家や国際社会がそのままに放置しているのが不思議である。例外的に中国は、それが外貨流出の原因となったという事情もあり、規制を強化した。https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2018-01-11/P2DJF76JIK0001
現在ビットコインの総価値がIMFの特別引き出し権(SDR)の額を超えていて、それを含めてデジタル仮想通貨の影響で、世界の金融が大混乱に陥る可能性が出ているという。IMFのRagarde総裁も、その危険性を指摘している。その一方、Ragarde総裁はビットコインに用いられたブロックチェイン技術は評価しており、SDRに導入することを考えているようである。https://www.cnbc.com/2017/10/13/bitcoin-get-serious-about-digital-currency-imf-christine-lagarde-says.html
2)紙幣はもともと金(ゴールド)の預かり証であり、金の希少価値と紙幣発行元の信用で、その価値が保証されていた。その後不換紙幣の時代になって、中央銀行の資産に対応する負債を分割したものとしての意味に代わった。中央銀行例えば日銀の資産のほとんどが日本国債であることを考えると、その信用と価値には一定の確かさがある。それらが一切存在しないデジタル仮想通貨に投資対象としての将来性がある筈がない。
日本の情けないところは、新聞報道でもTVの政治経済バラエティでも、その類の真面目な議論があまりされていないことである。最近のニュースバラエティは、ほとんど相撲協会の理事選挙とか小泉今日子の不倫騒動など下らない話題で独占されている。
経済に関するネット記事や解説、あるいは日経新聞などではもちろん議論されているが、その頻度や分かりやすさなどが十分では無いと思う。例えば、日経新聞は「デジタル通貨、世界の中銀で待望論」という類の見出しで、記事をかいている。その記事はビットコインなどの仮想通貨を宣伝しているようにも読める。
https://www.nikkei.com/article/DGXLASDC05H0M_V00C17A9MM8000/
その記事の一節を引用する:
世界の中央銀行が、法的な裏付けを持つデジタル通貨の発行を相次ぎ検討し始めている。今の驚異的な速さでビットコインなどの仮想通貨が普及し続けると、資金決済サービスなどで自国通貨の存在感が低下し、いずれ金融政策にも影響を及ぼしかねないとの危機感からだ。
デジタル通貨の発行を検討する理由が、その資金移動の追跡が可能なことや送金手続きが安全且つ簡単なことなどなら、そのような書き方はおかしい。仮想通貨が普及して自国通貨の存在感が低下するのなら、仮想通貨取引を禁止すれば済むことだと思う。上記のような書き方だと、時代の変化に付いて行くべく、ビットコイン購入を考える人が増加するのではないだろうか。
日経新聞の読者が皆、デジタル通貨とデジタル仮想通貨の区別を理解しているのなら良いが、一部でも理解していないのなら、トラブルを誘引しかねない。もう少し慎重に書くべきだと思う。つまり、上記文章で述べている中央銀行の例えばデジタル円は、IMFのデジタルSDRと同様、発行元も法的裏付けも存在するデジタル通貨であり、それはビットコインなど仮想通貨とは本質的に異なる。
評価するべき部分と批判する部分を明確にして議論してもらいたいと思う。
3)ネット上の通貨としては、詐欺事件で使われた「円天」が有名である。この円天とビットコインの違いを書いた文章が、ビットコイン研究所を名乗るサイトに掲載された。おそらくビットコインを宣伝したい意図で書かれたのだろう。http://doublehash.me/bitcoin-enten/
それを注意深く読めば、ビットコイン応援席側の本音がわかる。
ビットコインについていうと、仕組み的には、金(ゴールド)に近い。ゴールドは、発行体があるわけではなく、自然のなかに埋まっているものである。そして、ゴールドの価値を保証している政府や団体がいるわけではなく、ゴールドの価値はなにか?といわれても、人々がそれを価値があると古来信じてきて、価値の保存に使ってきた、という歴史であるとしか言いようがない。金属そのものの利用価値が反映されているわけではないからだ。https://bitcoinlab.jp/articles/134
上記ビットコインとゴールド(通貨としての)との類似性の記述は、もし金に希少性や金属自体の価値がないとすれば正しいと思う。ビットコインの数は2100万コインと限られているからといって希少性由来の価値があるとは言えない。何故なら、イーサリアムやリップルなど他のデジタル仮想通貨が次々と出るようになった現在、ビットコインの希少性は価値の根拠にならないからである。
金について、「金属そのものの利用価値が反映されているわけではない」とあるが、これは意図的にビットコインの性格を金並に持ち上げるための記述だろう。元々何の価値も根拠もないビットコインに比較して、金には有史以来「希少性と装飾能」により高い価値をもつという人類共通の認識があった。また仏像などの偶像や宗教的建造物が金でコーティングされてきた事実は、金の価値を象徴している。
上記ビットコインラボの文章は2015/8/03に書かれたのだが、おそらくその時には数千円程度だった1ビットコインは、その後咋年末には220万円という値をつけた。文章の最後でビットコインの解釈は自己責任でやるようにと言っているが、誤った情報を与えてビットコインへの投資を呼びかけたのだから、わずかだろうがデジタル仮想通貨に関する混乱の責任がある。
4)大きな問題点は、デジタル通貨の発行の時点にある。ビットコインが作られた時にはあまり世間の注目がなかったので、出発点については注目されなかった。発行元は無いかのようにいっている人が多いが、最初に誰かがビットコインを一定数配布したはずである。その誰かが発行元である。
ビットコインが高値をつけたため、新たに仮想通貨を発行すれば巨万の資金を調達できることに注目し、それを利用して会社を設立した人までいる。
https://ferret-plus.com/824やhttp://www.kigyosodan.com/blog/ico/
その最初のコイン発行をICO(initial coin offering) という。(補足3)最初の価格上昇を狙って購入するひとも多いだろうから、高値で発行してぼろ儲けする手段となり得る。そんなやり方で資金が集まるのなら、配当や株主総会などで後々厄介な株を発行するよりも遥かに得である。しかし、最後は値下がりして無になるだろうから、円天の詐欺と同じだと思う。
デジタル仮想通貨に関しては法的規制を早急にする必要があるのではないだろうか。
5)私設電子貨幣について:円天とアマゾンコインやヤフーマネー
円天を発行していたL&Gは、健康食品や布団を販売している会社でもあった。資金繰りがつかなくなり創設者は出資法違反容疑で逮捕された。円天は、最初出資者多数に高利を宣伝して買い込ませ、それをL&Gが取り扱う商品を買う際に用いることが出来ると宣伝した。そこで出た利益の一部を配当として、最初は円で最終的には円天で出資者に還元した。
高利を約束して買い込ませる部分を無くせば、そのやり方は、アマゾンコインやヤフーマネーとよく似ている(補足4)。つまり最大の違いは、最初に年利36%という高利を約束して出資金をネズミ講的に大量に集めた点だろう。
その会社(L&G)が、資金繰りができなくなったのは、①元々ネズミ講的な詐欺行為だったからなのか、②予測が甘く品物の売り上げが予想通り行かなかったのか? 破綻の原因は直感的に①であるが、演繹的論理で②ではないと断言するのは困難だと思う。つまり、アマゾンコインやヤフーマネーとの峻別は困難ではないだろうか。
アマゾンコインは体験していないのでわからないが、ヤフーマネーに関して言えば、一般客が品物を買うだけでなくヤフー市場内で物を売り、その対価を受け取る際にも用いることが多い。ヤフー市場内では完全に貨幣としての機能を果たす。つまり、市中銀行への金の流れが無い状態で、売り買いを継続することが可能である。 したがってこれらは、取引空間を限定された貨幣である。この種の私設マネーはどこまで法的に許されるのかは、法律の素人である私にはわからない。
補足:
1)咋年12月17日に最高値223万円を付けたビットコインは、今朝午前一時からは100万円を切っている。
2)ここでは、発行元が国家の中央銀行か政府の貨幣を公的貨幣、それ以外を私設貨幣と呼ぶことにする。ヤフーマネーやアマゾンコインなども私設貨幣の範疇に入るのだろう。企業のポイントもその中に入るかもしれない。
3)新規株式上場(IPO; InitialPublic Offering)と似ている。その資格を与えられた企業は、その際に多額の資金を得る。しかし、その後は株主に配当をだすこと、経営権の部分的付与などの義務が生じる。ICOにはどちらも無い。
4)100円は100アマゾンコインに相当する。また、100円はヤフーマネーの100円である。ヤフーマネーの場合、オークションやマーケットで品物を売ると、それをヤフーマネーで自分の口座に保管することができる。何かをオークションで買った時に、それを用いることで期間限定だがヤフーのTポイントをもらうことができる。このTポイントは円天の配当に相当する。つまり、それらは限られたマーケット内の“私設”通貨である。
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