1)政府は、海外であれ国内であれ、国民保護に一定の尽力をするのは当然である。ただし、それは一定の範囲内、且つ、公平でなくてはならない。シリアで拘束され、今回解放された安田さんの件で、“自己責任論”を主張する人で、それを否定している人は皆無だろう。範囲があるのは、有限の資源・資金しか国は持たないからである。
国家の命令で行った行為の責任は、国家がとる。その最終的な形は、国家賠償である。戦死した兵士に軍人恩給がでること、勤務中にその業務が原因で死亡した国家公務員に出される賠償も、それが国家の責任においてなされた業務の結果なので当然である。(補足1)それ以外の国民の行為は、すべて自己責任で行われる。それについては、昨日ブログ記事として書いた。
安田さんのシリアでの取材も、アルジェリアにおいてプラント建設に従事した日揮の関係者の活動も、同様である。日揮の関係者10名は殺されたが、安田さんは生きて帰国できたのは幸運だった。https://sanpoturedure.blog.so-net.ne.jp/2013-01-25-9
日揮の方々は、当然自己責任の原則でアルジェリアに入っている。今回のケースで一点異なるのは、政府が退避勧告を出していた地域に、安田さんはその勧告を無視して入ったことである。従って、政府の通常の業務としての邦人保護活動の対象になるのかどうかさえ疑わしい。しかし、同じ日本国民として見過ごすわけにはいかないというのが、おおかたの意見だろう。ただ、テロリストに対して数億円の国民の税金を支払った上での解放だったとしたら、スキャンダルの一つになり得る。
2)安田さんの開放について、政府はおそらくかなりの金銭的負担をするだろう。カタールが身代金として支払った3億円を、後々何らかの形で日本政府が支払う筈だからである。日本で自己責任論を巡って騒ぎが大きくなれば、政府はカタールと改めてその秘匿の交渉をする可能性があるが、もしそれがなければ、内閣官房機密費など隠れた予算が使われる可能性が高いと思う。
それは元毎日新聞記者の著名人であり、その配偶者の助命嘆願の様子もテレビで報道されていたことと関係しただろう。一般の無名の人間が海外で同じ様な目にあったとしても、そのようなことはしてくれないだろう。そのような裏があったとしても、それは政府を形成する政治家の判断であり、安田さん自身とその家族の方々は、この件で負担に思う必要など一切ない。
一般人の中には、そのような裏の可能性を敏感に察知している人も多いと思う。そのため、安田さんの拘束は、自己責任で退避勧告の出た地域に出かけた結果であり、自己で責任を負うべきだという意見がネット上で多く出された。多くは個人的且つ無名の声である。それに対して、大手メディアが介在する形での有名人の反論が、まるで消防士の火消しのようにネット上に出されている。毎日新聞などが、有名人のナイーブな反論を掲載するのは、その反論の最終的な責任を彼らに押し付けるためである。
その報道パターンから、左翼の言論封圧を想像する。この国の異常にレベルの低い言論空間は、言論弾圧などの事態に容易に進むことを示しており、一種の恐怖を感じる。例えば毎日新聞は(ヤフーニュース:毎日新聞10/27、21:19配信)、そのプロパガンダをアルピニストの野口健さんのツイッターを利用して行っている。
「邦人保護は国にとっての責務。事が起きてしまえば『自己責任だから』では片付けられない」「使命感あふれるジャーナリストや報道カメラマンの存在は社会にとって極めて重要」など。(補足2)
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20181027-00000073-mai-soci
しかし、毎日新聞は社説「シリアで拘束の安田さん:先ずは無事な解放を喜ぶ」の中で、以下のように書いているようだ。以下の動画中に表示された記事から、その社説の一部を再録する。https://www.youtube.com/watch?v=MPjiv3P6Jew
政府が「退避勧告」を出しているような危険地帯での取材には周到な準備が必要だ。危険を察知する状況判断も重要になる。安田さんが海外で武装勢力に拘束されたのは2004年のイラクに続いて二回目だ。最初の開放時には自己責任を追求する意見もあった。安田さんはトルコで謝意を示す生命を発表した。映像を見る限りしっかりした口調だ。邦人保護や戦場巣材で共有すべき教訓はないか。帰国後、是非話してほしい。
新聞社としての公式見解として、“最初の開放時には自己責任を追求する意見もあった”という表現で、日和見的に自己責任論を述べているのである。公式にはまともな見解を社説として出しながら、著名人の意見を使って大衆の中のまともな意見を封圧し、その他の大衆を愚かなる方向に導いているのである。
朝日新聞のこの件での大衆誘導としては、10月24日の「羽島慎一モーニングショー」でのテレビ朝日の玉川徹氏の意見や、gooニュース7月12日21:30配信の記事中の石川智也氏の意見を、一昨日のブログで紹介し批判した。
補足:
補足1)テレビ朝日の玉川徹氏の、10月24日の「羽島慎一モーニングショー」での発言は、軍人が捕虜になった場合の責任と今回のケースでの責任を同一視している。
補足2)”企業戦士”たちも、それから社会で活躍するその他全てのひとも、社会にとって重要な部分を背負っている。そのような意見を言うのなら、「職業に貴賎なし」と別のところで言うべきではない。
0 件のコメント:
コメントを投稿