1)中国王毅外相と日本の外相及び首相との会見についての報道
10月24日に訪日した中国の王毅外交部長(国務委員;以下王毅外相)が茂木外相と会った。茂木外相は尖閣周辺海域への中国公船の侵入について改めて抗議し、前向きな対応を強く求めた。それに対して王毅氏(以下人物の敬称略)は、「この問題で中国の立場は明確です。我々は自分たちの主權をこれからも守る」「日本の漁船が周辺領域に入ったため、対応を取らざるを得なかった」と主張した。その後記者会見がなされた。その模様で判りやすいのは、日本テレビの動画である。(25日午前0時44分配信)https://www.news24.jp/articles/2020/11/25/04768612.html
10月25日、JIJI.comによると、王毅外相と菅首相は、官邸で約20分間会談した。菅は、中国公船による尖閣諸島周辺の領海侵入や、香港情勢に懸念を伝え、中国側の「前向きな対応」を強く求めた。同時に、安定した日中関係の重要性も訴えた。王毅は会談後、記者団の取材に応じ、尖閣周辺海域での日本漁船の活動に触れ、日本側が「既存の共通認識を破壊した」と主張。こうした現状を改めることで「問題を沈静化させることができる」と語った。
https://www.jiji.com/jc/article?k=2020112500779&g=pol (JIJI.com)
この報道では、菅首相の要求に対して王毅外相が何と答えたかは書かれていないが、茂木外相に向けたものと同じ答えをしたのだろう。首相は、外相から前日の王毅発言を聴いている筈なので、同じことを繰り返し、同じ反応を聴いて何になるのかわからない。日本テレビの報道でも、王毅は同じ主張を繰り返したとある。
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20201126/k10012731281000.html (NHK)
https://www.news24.jp/articles/2020/11/25/04769097.html#cxrecs_s (日本テレビ)
28日の産経新聞の産経抄によると、菅との会見後の記者会見で王毅は「原因は(日本の)偽造の漁船が繰り返し敏感な海域へ入っていることで、過去にはなかったことだ」と答えたという。この答えは、日本の外相や首相の要求をまともには聴いていないことを意味している。
https://special.sankei.com/f/sankeisyo/article/20201128/0001.html
その後、王毅が日本を去って韓国で会談をしているとき、日本の官房長官は王毅発言にたいして遺憾の意を表明した。このやり方が外交と言えるだろうか? あとで事務室から遺憾の意を表明するのではなく、主人が正々堂々と会談の中で発言し、そのような疑念が生じないようにすべきではないのか。独立国の外交とは思えないほどみっともないやり方である。しかし、そのように報じたメディアはない。https://www3.nhk.or.jp/news/html/20201126/k10012732741000.html
JIJI.COMの記事の下に一般のコメントがあるが、それは圧倒的に菅や茂木の弱腰外交を批判する内容だった。同じ内容のABEMA newsの報道がyoutube上にアップされているが、そこでも一般国民の反応は日本の弱腰外交に対する批判である。(補足1)https://www.youtube.com/watch?v=8dwY5yoWxME
2)外相や首相が中国に要求した前向きな対応とは何なのか?
尖閣は中国の領土であると明確に語る王毅に対して、日本の首相や外相が要求する「前向きな対応」とは何なのか?それと同時に、安定した日中関係の重要性も訴えたとある。尖閣諸島を自国の領土であると明言する中国に対して、それとは独立に安定した日中関係があり得ると考えているのだろうか?
別の表現で繰り返す。尖閣というのが戦前からの日本の領土であり、それを中国が侵略して自国の領土であると主張することに日本が抗議するのなら、「同時に、安定した日中関係の重要性を訴えた」とはどういう意味なのか? 適切な喩えではないかも知れないが、皿を割った者にたいして、今更その皿の重要性を訴えて何になるのか?
尖閣問題が、日本にとって本当に憂慮すべき問題であるなら、首相は何故前日の茂木と王毅の話し合いと、その後の会見での王毅発言を前提に、話をスタートしないのか。そうすれば、王毅は何らかの具体的対策を含んだ答えを要求されていると感じただろう。その後の記者会見で、厚かましく偽装漁船の話しなど出来ないだろう。
しかし首相はそうしなかった。そして、外相と同じ内容の言葉を話し、外相へ向けたのと同じ答えを受け取った。互いに話をしている様に見えて、実は何も話をしていないのだ。それでは、時間だけが過ぎて、中国は例えば「実効支配して30年になる」と、ある時言い出すだろう。
3)官房長官の遺憾表明
ところで、官房長官は何に遺憾の意を表明したのだろうか? 王毅に、漁船に見える公船で領海侵犯をしたと言われてたとして、「漁船に見える公船」という表現が失礼だというのか、それとも領海侵犯を行ったと言ったことが遺憾だというのか、何方なのか?
後者の「領海侵犯を行った」は、尖閣は中国の主權の及ぶ範囲だと言う主張の別表現に過ぎない。それは、首相や外相との会談で何度も言っている。そうすると、「偽装漁船」という言葉に対して遺憾だといっているのだろうか?
この「偽装漁船」は、領海侵犯の方法に過ぎない。問題の中心は、領海侵犯である筈。つまり、記者会見で王毅が言ったのは、より具体的に自分の主張を明確にしただけである。その主張そのものは、外相及び首相との会談で何度も行っている。
つまり、官房長官の遺憾表明は、何のためなのか分からない。あり得るのなら、王毅さんの訪問のあとに、二度と厄介なことが起こりませんようにと塩を撒いたというレベルの行為だという解釈である。別の解釈は、第三者を意識したという解釈である。
終わりに
10月初旬、軍事的に膨張する中国を念頭に日米豪印外相会議が開かれ、この会議を年1回の定例会議とすることで合意した。更に11月17日の豪州首相の来日などで、日本の対中姿勢に変化がないかどうか、国際的に孤立化している中国には気になったことだろう。
そこで習近平主席は、日本の様子を見るために王毅外相を派遣したのだろう。そして、日本側に横柄にみえる態度を取っても、欧米の首脳のようには、日本は面と向かって反発できないことを確認しただろう。
会談での日本首脳の発言は、中国向けではなくが、日本国民に向かってのものに聞こえる。何故なら、中国の王毅には何の効果もなかったからである。つまり、国民に対して「中国に物を言ったという実績」を積み、同時に王毅に「日本は中国には強くは逆らわないとの印象」を与える為だろう。
王毅が日本を離れてから、官房長官が遺憾の意を表明したことは、政権に近い自民党幹部らが醸成する習近平招聘の“空気”を打ち消す助けにするとともに、米国、オーストラリア、インドに向けての精一杯のメッセージなのかもしれない。
「尖閣は中国の領土である」という発言を繰り返し、尖閣近くで操業しているのは日本政府が送った偽装漁船だと言った王毅に対して、外交下手だとして菅政権を応援する産経新聞の報道や分析も、日本政府の意を汲んでのものだろう。記事を書いた産経新聞記者は、日本の現状と対中国外交が解っていないと思う。高橋洋一氏の同様の分析も、評価できない。(補足2)
中国は最近、日本に対する態度が大きくなってきている。昨年だったか、王毅も王岐山も、日本を訪問した時には、既に中国人が広い面積の土地を購入している北海道を視察した。私には、まるで植民地の視察に出向くような風に見えた。
今後、米国が東アジアから撤退することになり、専門家の多くは日本が中国の自治州に近い国になることを予測している。(掲載図参照、補足3)その中国との未来の関係をどうするのか?それが、日本の政治を担当するものが第一のプライオリティで国民に向かって説明すべきことである。
その中心的課題に比べて、尖閣問題もオリンピック開催も、どうでも良い位に小さい問題である。中国の王毅、楊潔篪、王岐山らは、心の中にしっかりと日本の自治州化(或いは植民地化)という考えを抱きながら、日本を訪問し、日本の総理や外相と会見していることを忘れてはならないと思う。評論家も、その前提で中国要人の発言を評価しなければならない。(21:30全面的に編集;翌日小編集2回)
補足:
1)不思議なのは、何時も政府は批判ばかりされているが、それでも自民党政権は揺るがないことである。選挙が(選挙制度、区割りなどを含め)正しく行われているかどうか、日本こそ問題にすべきではないのか? つまり、不正は制度の中に組み込まれている。一票の格差と小選挙区制により、自民党が政権を取るように決められている。更に、裁判所の判事も法律を厳格に解釈せず、行政の追認機関となり、統治行為論などという言葉で誤魔化している。
2)同じことを元財務官僚の高橋洋一氏がyoutubeで話している。そこでは、日本政府が記者に質問をさせて、王毅氏に「日本政府が偽装漁船を出して挑発している」という期待どおりの応答を引き出させたという解釈をしている。そんなこみいったことをしなければ、その程度の意思表明ができないのなら、日本はまともな国ではないことを自ら白状しているようなものだろう。
https://www.youtube.com/watch?v=zCkKzwcDvY8&t=4s
ところで、偽装漁船というのが嘘なら、明確にすべきである。日本側漁船だが、石垣島からあの危ない地域に、本当に漁に出るだろうか?
3)米国が世界の警察官では無くなる。それはGDPシェアの低下を見ても明らかである。その状況から米国トランプ大統領は、日本は日本独自で防衛するようにと言ってきた。そう言ってくれるだけで、トランプはこれまでにない日本に優しい大統領である。それ以外の大統領は、(日本国民にも見える)表面上は優しい言葉を発してきたかもしれないが、裏では日本の総理を脅してきただろう。
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