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2023年9月3日日曜日

ALPS処理水の海上放水基準と反対運動の論理

最近大きな話題になっているのが、福島第一原発の廃炉処理に於いて発生したALPS処理水の海中放水である。この処理水の海中放水に反対する動画をアップしている人として、例えば、元京大原子炉実験所助手(現在助教と呼ぶ)の小出裕章氏、 フリージャーナリスト の烏賀陽弘道氏(元朝日新聞記者)、及び衆議院議員の原口一博氏などを挙げることが出来る。

 

その中で、最も影響力を持つのが、原口衆議院議員の発言である。原口氏の主張は以下の動画で聞くことが出来る。https://www.youtube.com/watch?v=DLjWQG6Sq2w

 

 

これを聞いていると、議論する立場或いは前提が、日本政府と全く異なると感じる。日本政府は、事故炉の廃炉処理の一環として処理水放水を行い、その安全性を主張しているが、原口氏らは、原発全廃の主張の為に処理水放水の危険性を強調している様に見える。問題意識は全く異なる様だ。

 

政府は、格納容器の底にメルトダウンした核燃料が存在するので、それを取り出して廃炉処理をしなければならないと考える。その為の方法や具体的手順などが確定するまで、燃料物質を冷却し続け、その結果生じた水を浄化して放出しなければならない。

 

一方、原口氏は海の生態系や漁師など海で生きる人たちに対し、処理水放水が与える影響を最重視しているようだ。彼は、考えられる全ての放射性核種の濃度を決定し、更に、海での生物濃縮の影響なども明らかにし、将来害をなさないことを証明してこそ処理水放水は許されると言う。

 

また、ALPSという装置で多くの放射線核種を除去したとは言え、メルトダウンした燃料等と直接接触した元汚染水を海に放出するのは世界で初めてなので、将来においても完璧に危険性が排除されると科学的に証明されない限り、処理水は海に放水すべきでないと言う。

 

原口氏を始め処理水放水に強く反対する人たちに共通しているのは、数百キロの核燃料(燃料デブリ)を原子炉格納容器とその周辺から取り出す必要性の議論をスキップしている点である。

 

原口氏は、上記動画で「燃料デブリを取り出すことなど不可能である。危険で近づけない」と言いながら(上記動画29:30~)、その対策を示す努力をしないで、中国などの反対を招くなど外交的損失も大きい(補足1)として放水に反対する。代案を示さないで、ただ反対するのである。

 

この件、数年以上前から話題になっていた。その時に、積極的にいろんな案を提出するなどの活動をしないで、海中放水を実行する段になって、強硬に反対運動を始めるのは、将に反対のための反対だと感じる。

 

彼らは、原発廃止運動を進めるための手段として、今回の処理水放水を利用している。もしそうでないなら、処理水の海中放水が話題になった時点で、何故もっと反対しなかったのか? 代案を出さなかったのか?

 

3年以上前の産経新聞に、ALPS処理水に関して以下のような文章を含む記事が掲載されている。https://www.sankei.com/article/20200114-FV2AWAPQ6ZO7FPWE234SHMCUQE/

 

① 政府の委員会で候補案が議論されたのは、水で薄めて海に流す「海洋放出」と、空中に蒸発させる「大気放出」を主要な選択肢とする案である。

 

② 漁業関係者などの間には処理水放出を強固に拒否する声がある。風評被害を警戒しての反対だ。大気放出では農林業にまで風評の影響が及びかねない。

 

③ 事故から2年後に現在の浄化装置が稼働を始め、国際原子力機関(IAEA)からも再三、海洋放出などを勧められていたにもかかわらず、約千基の大型タンクに計100万トンを超えるトリチウム水をためてしまった。

 

この記事がネットにアップされたのが 2020114日(多分紙面には15日ごろ掲載だろう)で、その後20214月になって漸く菅首相が2年後という期限をつけて海洋放出を宣言したのである。

 

IAEAの勧めを海中放水の良い機会として実施せず、方々に反対の論理が組み上げられる時間を待って、放水を開始した様にも見える。必ず海に放水しなければならないことを知りながら、批判の矢面に立つことを恐れて、問題を後回しにし大きくしたのだ。(補足2)

 

これ以上延期出来ないとなって、海中放水を始めたところ、中国に難癖をつけられたのである。(補足2)それを見て、野党議員は良い政治的テーマだとして、批判を始めたのだろう。

 

処理水放水が始まってから、活発に反対の動画を発表するのは、動機不純である。国会議員なら、あくまでも、今回の事故(2011年の事故)の最終的な被害総和を最小にするにはどうすべきかという論点から、議論すべきである。

 

以下、重要な点の復習として、告知濃度比総和とその意味について調べたので記載する。そして、関係する放射線障害に関する一般的な情報を追加して、この記事を終わる。

 

 

2)ALPS処理水の安全性:告知濃度と告知濃度比総和

 

ALPS処理水の安全性について環境省が公開している情報をまとめると以下のようになる。「廃液中に含まれるすべての放射性物質による影響を総合して告示濃度比総和が「1」を下回るように規制がおこなわれます」と書かれている。

https://www.env.go.jp/chemi/rhm/r3kisoshiryo/r3kiso-06-03-07.html

 

ここで告知濃度(限度)とは

日本の原子力発電所等から環境中に放出される液体・気体廃棄物に含まれる放射性物質の規制基準は、国際放射線防護委員会(ICRP)の勧告に基づき、追加的な公衆被ばく線量(人体に与える影響)を、年間で1mSv 未満にすることを基本に定められている。

 

具体的には、ある放射性核種が含まれる水(処理水)を、生まれてから70歳になるまで毎日約2リットル飲み続けた場合に、平均の線量率が1年あたり1mSv に達する濃度が告知濃度(限度)である。放射性核種ごとのこの濃度は法令で定められており、告示濃度或いは告知濃度限度と呼ぶ。

 

つまり、ある核種をXベクレル/kgBq/kg)含まれる水を毎日2リットル飲み続けた時に、年間1mSVの被爆量となるとすると、この核種の告知濃度限度は、Xベクレル/kgということになる。

 

告知濃度限度が、核種A,核種B、核種Cで、それぞれAn BnCn (単位はBq/kg)だとすると、それらの核種が、夫々a, b, c (単位はBq/kg)の濃度で含まれる水の告知濃度比総和は、(a/An + b/Bn + c/Cn)となる。

 

処理水がこの告知濃度比総和がmSv/以下でなければ、海に放水できないということになる。この告知濃度比総和は、検出されている放射性核種全てについて行なう。

 

 

3)ALPS処理水の安全性:自然放射線との比較

 

処理水の安全性の感覚を正しく持つには、我々はどれだけの自然放射線を受けているかを知るべきである。地球上で生を受けた我々の体には、4000ベクレルのカリウム402500ベクレルの炭素1420ベクレルのポロニウム等が既に存在する。

 

これらによる内部被ばく量は、合計約1mSv/ 年 である。更に我々は、外部被ばくとして、宇宙線や土壌からの放射線などを受けている。これらを合計すれば、平均して2.1mSv/年の放射線被爆の下に生活しているのである。これらのことを考えれば、合計1mSvの告知濃度比総和は、処理水の放出には十分に安全な基準である。

 

上記結論を支持する研究結果を下に示す。放射線の影響として人々が恐れるのはガンの発生であるが、それが放射線線量との関係を示した図である。https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_safety/food_safety/risk_commu_2017_004/pdf/risk_commu_2017_0004_171201_0003.pdf

 

こ の図によると、100Sv以下の放射線を被爆しても、ガンの発生確立は誤差の範囲でしか増加しないということになる。(補足3)

 

Lの処理水を365日飲み続けても、1mSvにしかならないと政府が言い、それをICRPが監視しているというのなら、それを信じて福島での廃炉作業を見守るべきだと思う。ICRPの言ったことよりも、中国政府の言ったことを重視するのは間違いである。

 

また、生物濃縮(補足4)なども、突出した具体例があれば個別に考慮する必要がある。しかし、今回の処理水投棄の時点で、明らかになっているものだけ考察すれば良いと思う。

 

福島第一原発に関しては、これ以上二次災害を出さずに、国中の知恵を集めて廃炉まで進むべきだと思う。

 

 

補足:

 

1)今朝の香港系のメディアによれば、中国政府が日本の処理水放水を大々的に攻撃したのだが、中国国民に予期せぬ反応が出たようだ。その結果、中国政府自身が困っているという。そこで、中国政府はその沈静化に動き始めたという話である。

 

 

2)日本の政治家は自分の職業としての政治家の地位が大事で、どこかから反対が出るような政策の判断や実行等を先送りにすることが非常に多い。それは日本を1952年に始まった米国の属国状態に置き続けることは、政治家にとって楽な道だとしてむしろ積極的に維持してき自民党政治家の一般的な姿である。因みに、そのような政党に頼らず新党を立ち上げようという動きが最近出ている。参政党もその一つだが、百田新党も面白い。

 

 

3)急性の放射線障害としては、LD 50/60(60日以内に被曝した人たちの50%が死亡する線量)は、無治療の場合は3Gy、集中治療を行なった場合は6〜8Gyとされている。(ウィキペディアの急性放射線症候群の項参照)この場合のGy(グレイ)は吸収線量という物理量であり、Gyの単位はJ/kgであり、それに線質効果の係数(放射線の種類、持つ運動エネルギーなどの効果)を掛けたのがSvである。今回の議論では、差し当たりSv(シーベルト)と同等と考えてよい。

 

4)ポロニウム210は魚特に内臓に濃縮されるが、どのような魚を食べても被ばく量は1 mSv/year 程度であり、心配には及ばない。

(8:20 表題の改正;1.の最後の文章修正;20:00 補足の引用を修正)

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