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2023年8月31日木曜日

福島第一原発の処理水放水の何が問題なのか?

1)福島第一原子力発電所の現状

 

2011年9月の東日本大震災の直後、福島第一原発は停電し、且つ予備電源も動かなくなったことで、原子炉が冷却できなくなり、1-3号炉の核燃料棒が溶融する事故(メルトダウン)となった。更に、極めて高い温度に加熱された水蒸気から発生した水素が爆発して、装置や建物を破壊し、核反応生成物などを含む水等を空気中にバラまいた。これが原発事故の概略である。


尚、4~6号機は定期点検中、5,6号機は水素爆発の被害を受けず、4号機は隣接建屋での水素爆発の影響を受けた。その後、事故炉に海水を汲み上げて注入するなどの冷却方法で原子炉の核反応の暴走(爆発)が防止された。当時の吉田所長以下所員の命を懸けた努力で、チェルノブイリ事故以上の事故となることが食い止められた。(補足1)

 

現在、3-4号機の使用済燃料プールにあった全ての燃料は建屋外に取り出されている。1-2号機については、使用済み燃料プールからの燃料取り出しも未だ始まっていない。https://www.tepco.co.jp/decommission/progress/about/

 

ここで重要なポイントは、何もしなければ1-3号炉で再度核連鎖反応での加熱が進み大爆発を起こして、チェルノブイリを超える被害を起こす可能性があると言うことである。廃炉を目指して進むしかないのである。何故この重要なポイントに対する言及がないのか? 

 

原子炉事故は未だ終わっていないことを政府はハッキリ言うべきだ。(補足2)

 

 

2)チェルノブイリと福島第一の比較 

 

チェルノブイリでの事故は、4号炉(出力100kW)だけの核分裂暴走であった。13号路は事故後もしばらく働き、5,6号炉は未完成であった。それでも福島第一原発の10倍以上の放射性物質を放出している。http://www.rri.kyoto-u.ac.jp/NSRG/Chernobyl/Henc.html

 

主な放射性物質放出量を福島第一原発の場合と比較すると;

(放出量はPBq単位)

ヨウ素131

セシウム137

ストロンチウム90

プルトニウム239

チェルノブイリ

1760

85

10

0.013

福島第一

160

15

0.14

極微量

https://www.city.aizuwakamatsu.fukushima.jp/docs/2013091700016/

 

原発のタイプは異なるが、原発一機の出力はどれも1GW前後であり、一基当たりの燃料の量もほぼ同じ程度だろう。従って、上記会津若松市のHPに掲載さてている結果は、チェルノブイリの事故では、ほとんど汚い爆弾(補足3)のような爆発が起こっていたことを示している。

 

チェルノブイリ事故の場合、残った原子炉の中ではそれ以上の核連鎖反応は殆ど起こらず、核物質の漏洩は石棺で埋めて行なうのは賢明だろう。このチェルノブイリのケースと比較して、福島第一の処理後の冷却水の海中放棄を批判するのは、政治的プロパガンダである。

 

3)冷却水の由来

 

福島原発では後日、冷却水注入に係わる電源やその他の修理がなされ、普通の水が用いられるようになった。何れにしても、冷却水はメルトダウンした核燃料と接触するため、多くの放射性核種を含む汚染水としてタンクに溜め込まれる。

 

冷却水は熔けて底に溜まった核燃料を取り出す(核デブリの処理)まで、注ぎ続ける必要があるが、部分的に破壊された格納容器から漏れ出る大量の汚染水は、海中に捨てる訳にはいかないので、タンクに一時保管されるのである。

 

 

この汚染水の説明は東電の頁にもある: 汚染水とは原子炉を冷やすために注入した水や、破損した建屋から入る雨水、山側から海側に流れている地下水が、原子炉建屋等に流れ込み、溶融した燃料に直接触れたり、原子炉建屋内等に溜まっている放射性物質を含む水と混ざることなどで生成する。

 

この汚染水を、核分裂生成物を分離する装置ALPSで部分的に浄化し、安全性を向上させた水(処理水)として海に放出する。繰り返しになるが、燃料デブリを取り出し廃炉するまでこの作業は必要である。

 

ALPSで処理しても排除できない核種で、最も放射能が高いのがトリチウムであるが、それ以外にもセシウム137や放射性キセノンなど、吸着などの手段で取り出しにくい同位体が少量含まれる。この海上放水を国際的に理解してもらうために、国際原子力機関の臨検を受け入れるのである。

 

 

4)政府によるALPS処理水の海洋放出の決定と中国の反応:

 

ヤフーニュースによると、福島第一原発の処理水放水は菅首相が「海洋放出を2年程度の後に開始します」と2021413日に宣言したことにより日程に上った。この件が中国との外交問題になったのは、その同じ日に中国の趙立堅報道官が以下のような声明をだしたことに始まる。

https://news.yahoo.co.jp/articles/5a51a51578a65d01f39ca1935aff02fbbe48826c?page=1

 

「日本の福島の原発事故の核廃水処理問題は、国際的な海洋環境と食品の安全、人類の健康に関わることだ。国際的な権威ある機関や専門家は、福島原発のトリチウムを含む廃水を海洋に排出することは、周辺国の海洋環境と公衆の健康に影響を与えると、明確に指摘している。」

 

しかし、後述のIAEAと中国では完全に異なった判断をしたこと

2年あまり経って、岸田首相が予定通り今年(2023年)8月後半に放出を始めると決めたのだが、それは、「処理水保管タンク」の水量が98%を超え、作業に支障をきたす可能性が出てきたからである。

 

今日、中国をはじめ諸外国の原発が福島第一原発以上のトリチウム排出を行なっていることが知れ渡り、最近中国は、処理水放水に反対する理由に、福島原発から出る処理水には燃料デブリと接触することにより放射性重元素が入っていることを持ち出すという、論点のすり替えを行っている。

 

ヤフーニュースにあるように、中国はこの再処理水の海中放出への反対運動を、日本の分断の為に行っているのである。中国の本当の攻撃目標は、原発処理水ではなく中国の脅威に備えるための東アジア版NATO類似の日米韓の三国間連携である。

なお、各国の原発排水からのトリチウム排出量は、以下のページに示されている。上述のように各国の原発から排水には、トリチウムが福島原発処理水から出るものより相当多く含まれる様だ。

https://www.cn.emb-japan.go.jp/files/100193104.pdf

 

 

5)IAEAの協力

 

74日には、来日したIAEA(国際原子力機関)のラファエル・グロッシ事務局長が、岸田首相に対して、安全にお墨付きを与える「包括報告書」を手渡した。この報告書を得るまでの経緯とその内容について若干記す。https://www.iaea.org/sites/default/files/23/07/final_alps_es_japanese_for_iaea_website.pdf

 

政府は2年前にIAEAにレビューを要請し、IAEAは原理原則や安全基準などから福島原発処理水の海中排出について検討した。

 

包括報告書によると、日本政府は2021年4月の菅政権による海中放水の宣言後、直ぐに IAEA が関連する国際的な安全基準を適用しつつ、東京電力福島第一原子力発電所に貯蔵されている ALPS 処理水の処分の安全性に関する詳細なレビューを実施することを要請した。

 

レビューを透明かつ包摂的な方法で実施するために、IAEAはタスクフォー ス(検討部隊)を設置した。同タスクフォースは、アルゼンチン、オーストラリア、カナダ、中国、フランス、 マーシャル諸島、韓国、ロシア、英国、米国、ベトナムからの国際的に認められた独立した専門家とIAEA 事務局の専門家を含む。

 

IAEA タスクフォースは、 2021 9 月に第一回会合以降、数多くの会合を開催してきた。そして、ALPS 処理水の海洋放出に対する取組及び、東京電力、原子力規制委員会及び日本政府による関連の活動は、国際安全基準に合致しているかどうかの査察を行った。

 

ALPS 処理水の放出は、放射線に関する側面との関連で、社会的、政治的及び環境面での懸念を起こしていることをIAEA は認識している。しかしながら、包括的評価に基づき、現在東京電力により計画されている ALPS 処理水の放出は、人及び環境に対し、無視できるほどの放射線影響となると結論付けたのだ。

 

6)処理水排水を批難することで中国に協力し、日本に分断を持ち込む人たち:

 

昨日、ある動画を見た。元京都大学原子炉実験所の助教(昭和時代の助手)の小出裕章氏が福島県三春町で行なった、処理水放出に反対する講演会での講演ビデオである。https://www.youtube.com/watch?v=nxpVO0bL5X8

 

この中で小出氏は、大量の処理水が発生するのは、福島第一原発を作る際に地盤を20m程削り取り、海抜を10mまで下げたことで、事故後大量の地下水が原子炉に流れ込むことになったのが原因であると解説している。

 

従って、本来しっかりとした防護壁で完全に取り囲む工事などを行うことが大事で、そのようなことをせずに、汚染水を海中に放出するのは人類に対する罪であると言う。

 

この解説には汚染水の生成についての誤魔化しがある。それは、地下水の流入が全くなくても、格納容器とその下に溶融落下した燃料を冷却するための冷却水の注入が必要だという点に言及していないことである。

 

もし、冷却水の注入がなければ、再度大爆発が起こり、汚い爆弾を落としたような惨禍に福島を中心に日本が見舞われる可能性があるということを隠しているのである。報道する人たちが揃ってこのことに触れないのは本当に無責任だと思う。

 

つまり、廃炉処理はどうしてもしなければならない。燃料物質のウラン235が無くなるまで冷却水を流し込み、その冷却水をため込むことは不可能である。何故なら、ウラン235が半分になる時間だけでも7億年かかるのである。

 

そして冷却水を注入し続けなければ、メルトマトダウンした核燃料物質が更に反応して、チェルノブイリのように汚い爆弾を落とされた情況になる可能性がある。

 

その他、専門家でありながら深く検討もしないで、無責任な発言をする方もいる。例:

 

 

終わりに: 

 

日本人は議論が出来ない文化をもつようだ。この件、専門家は何故沈黙するのだ。原子力工学専攻の方も相当な人数いる筈である。例えば何故、上記小出裕章元京大原子炉助教の講演会場に出向いて、堂々と反論しないのだ。どうして元或いは現教授連中は沈黙しているのだ。

 

処理水海中放出に反対なら、そのように発言すべきだし、それしかないのなら上記のような無責任な元学者らを批難する文章を何かの手段で発表すべきだ。

 

 

補足:

 

1)米国企業のIBMに勤務していた人が、東京にいては危ないということで、所員を避難させた。その一人が名古屋に逃げてきたと当時勤務していた国立研究所の上司から聞いた。原子炉で働く所員の努力のおかげで、事故を起こした原子炉の中の核燃料では福島(事故炉は3機)の方が3倍近くあるにもかかわらず、チェルノブイリ(事故炉は1機のみ)のケースよりも桁違いに放射性物質の放出が少なかく抑えられたことを先ず知るべきだ。

 

2)私は、放射線の取り扱いには30年ほど前の一時期従事していた(放射線取扱主任者一級免許あり)が、本来は基礎科学者であり、原子炉については素人である。そこで、随分躊躇したのだが、誰もこの重要なことを言わないので、仕方なくブログ記事にすることにした。

 

3)汚い爆弾とは、完全に核分裂反応が進むように設計しないで、核燃料物質をばらまくことを目的にした原子爆弾である。(ウィキペディア参照)

 

午前9:00編集、補足3追加;17:00、爆発として予想されるのは水素爆発なので、誤解の恐れのある部分を3カ所ほど表現を改めました。善9月1日早朝、終わりにの部分の感情的な部分を削除、そのほか数か所の文法的あやまりを修正

ーーーーーーー 終わり ーーーー 

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