1)歴史は複雑に絡んだ膨大な出来事の中から、一部を取り上げて原因と理由の論理でつなぎ合わせた物語である。したがって、歴史を書いた側の事情により、いろんな歴史が存在する。”陰謀論”とは、正史とされる歴史を編纂した権威が、ある出来事に対する異なった解釈に貼り付けるラベルだと思う。
今朝久しぶりに時事放談を見た。最初の話題は、韓国大統領の朴槿恵氏が友人のチェ・スンシルに国家機密を漏洩したとして弾劾された件であった。ゲストの石破茂氏はこの件と40年前の朴正煕元大統領暗殺事件との関連を語った。つまり、母親が殺されたあと朴槿恵に近づいたのが、チェ・スンシルの父親で、キリスト教系新興宗教の開祖である崔太敏であったが、その後両家の家族ぐるみの付き合いに発展した。そのことが大統領として適切でないと、当時KCIA部長だった金載圭が朴正煕に指摘した。しかし、全く聞き入れなかった朴正煕に立腹して暗殺したと言うのである。
政府与党の重鎮である石破茂氏がテレビ番組で言うのだから、しっかりとした情報であるだろうと私は思った。おまけに同席した仙谷由人氏も司会の御厨貴氏も何も異論を出さなかった。(補足1)
しかし、ウィキペディアには全く異なった情報が書かれていた。この事件は、学生による反政府運動に対する取り締まりが緩いと、当時KCIA部長だった金載圭が朴正煕大統領に叱責されたことが原因で、それを恨んだ金載圭が朴大統領と車智澈大統領府警護室長を射殺したと書かれている。この時、金載圭は部下に大統領府警備員(車智澈の部下)の射殺を命じている。つまりKCIAが組織的に行ったのである。
一方、日本の公安調査庁の元調査第二部長であった菅沼光弘氏の理解する朴正煕大統領暗殺事件の様相はこれらと全く異なっていた。菅沼氏が得た情報では、朴正煕大統領は中国や多くの国に核兵器が拡散していく状況下で、核武装しない国家は真の独立国家とは言えない(なり得ない)と考え、日本の協力を得て核開発を目指したこと。その姿勢が米国の逆鱗に触れて殺されたと言う。KCIA部長の金載圭は暗殺の際に、「閣下死んでいただきます。私の後ろにはアメリカがいます」と言ったと、菅沼氏はその動画で話されている。
https://www.youtube.com/watch?v=xCTfGiUpZVc&t=337s
これらの説は全く異なった話であり、真実は一つであるから、少なくとも二つは捏造された事実を用いて書いた”歴史”である。もし、この三つの説の中に真実があるとすれば、菅沼氏の紹介した説であると思う。なぜなら、ウィキペディアに記載されている事件の進行は、暗殺事件が組織的になされたことを示しているからである。つまり、組織としての明確な方針が決定されていなければ、上司といえども国家要人の暗殺を部下に命じ、それがスムースに実行されるとは思えないからである。
その後、金載圭は絞首刑となったが、彼は使い捨てにされたのだろう。金載圭にとって、その時にKCIAの部長であったことが不運だったのだろう。このケースがその後の日本の政治にも影響しているかもしれない。日本も中国が核装備した佐藤内閣の時に、核装備を検討したことがあるが、佐藤首相は簡単にそれを諦めている。(補足2)このとき、米国に日本の核武装は許さないと釘を刺された筈である。その時用いられたハンマーは、朴正煕暗殺事件ではなかったかと想像する。
2)朴正煕大統領暗殺の件では、真実は陰謀論の方にあると思う。政治が嘘と誤魔化しの世界である以上、正史が真実と程遠いのはあたりである。正史と真実がかなり近いのは、科学の分野くらいだろう。それでも、利害と絡んでくると捏造が出てくる。
利害とは科学者が職業として成立するようになれば、より高い給与や名誉と真実究明が競合関係になるからである。例として、STAP騒動は未だに記憶に新しい。また、国家の名誉や国際的地位などと絡んでくれば、巨大な捏造もあり得る。その意味で、ノーベル賞は科学の発展に良い影響ばかり与えるとは限らない。個人が科学研究の道へ向かう動機として、自然への興味の他に個人的で世俗的な目的となり得るからである。
「陰謀論に走ってはおしまいだ」と言って、主流派に占める自分の地位を守るのは、全く真実に興味がない世俗的な人の行為である。また国家のトップにあるものが、自分の命を第一に考えていては、矛盾だらけの正史と多くの陰謀論の国になるだろう。
(編集、12/12 7:00)
補足:
1)この番組の面白くないところは、ゲスト二人は自分の思うところを述べるだけ、司会者はそれらを聞くだけ。互いの議論も議論から浮かび上がる真実もないところである。
2)1967年12月11日、佐藤総理は衆議院予算委員会で次のように答弁した。「核は保有しない、核は製造もしない、核を持ち込まないというこの核に対する三原則、その平和憲法のもと、この核に対する三原則のもと、そのもとにおいて日本の安全はどうしたらいいのか、これが私に課せられた責任でございます。」と述べた。(ウィキペディア)
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