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2017年7月1日土曜日

エドワード・ルトワック著「戦争にチャンスを与えよ」の感想

1)買い物の際に立ち寄った本屋で偶然表題の本を見つけて買った。米国のエドワード・ルトワック氏は、安倍総理が日本に招いて話を聞いたという著名な戦略家である。この本にはルトワック氏の、戦争に対する考え方がわかりやすく書かれている。久しぶりに脳みそが大いに刺激された。

表題の「戦争にチャンスを与えよ」というのは、「戦争が起こっているのなら、無責任な干渉はせずに当事者に任せることも、選択肢として考えるべきである」という意味である。それは、「戦争には平和を実現するという目的がある」からである。勿論、根本原因から除去するような干渉なら望ましいが、それは干渉する側に多大の経費(あるいは犠牲)を強いるので、一般にはありえない。

戦争と平和に関してよく聞く言葉は、「戦争は平和を害する行為であり、避けなければならない」というものである。戦争と平和が単なる選択の問題ならその通りだろうが、そのような戦争はほとんど存在しない。つまり、戦争を絶対悪とするのは、「戦争が起こるのには理由がある」ことを無視した無責任な解釈なのである。その無責任な解釈を根拠に行われがちなのが、(カバーに書かれた)“国連やNGOや他国による中途半端な人道介入”などである。

以上は表題の意味である。あえて繰り返すと:戦争と平和を単純に対立した概念と捉えるのは間違いであり、戦争は平和に至るプロセスであるという考え方をすべきである。戦争に至る原因は、平和の時代に二つの勢力(国家)の間に積み上げられた、不満と憎しみのエネルギーであり、それを燃焼し尽くすのが戦争である。途中で介入して戦争だけを止めても、その憎しみのエネルギーが残ったままでは、何の解決にもならないということである。

2)何故そのような介入をするのか? ルトワック氏は、それをビジネスとする人たちがいるからだと答える。その代表的なのが、国連や戦争難民を支援する非政府組織(NGO)などである。ビジネスだから、当然コスト(人的被害を含む)を最小にし、組織の持続と自分たちの利益を優先する。

そこには、平和を害する原因の根本的解決という視点はない。以下私流にいうと:そのビジネスが平和を享受しているその他多くの国家の国民たちに提供する(売る)のは、残忍な行為の除去と悲惨な状況にある子供達の救助という達成感であり、そのコストは介入する側の人員に対する被害と軍事介入の経費である。国連のように、加入者から労務提供を受ける場合もある。

売上金は加入者からの拠出金であり、利益は組織の継続維持と組織管理者の地位と給与である。しかし、カメラが回っている間だけ、目の前の悲惨な光景を取り除いても、それはカメラが捉えない新たない悲惨な光景の原因を作り出すだけの可能性が高い。この本では、その辺りを例を豊富にあげて解説している。そのように考えると国連という組織、特にそこが行う“人権ビジネス”がよくわかるような気がする。(補足1)

ここで、本書全体を通しての著者の考え方のエッセンスを一つ書くと、「人間でも動物でも、自然淘汰が種の保全をもたらした。そのプロセスに過剰に干渉することは(例えば、人権の無原則重視の文化)、人類にとってマイナスである。」ということである。戦争もそのプロセスの一つである。そして、戦争を完全に無くすることは国家や民族にとって不可能であるから、戦争にはならないように、そして、戦争になれば当然勝つべく、戦争に備えるべきである。

そのためには、国家のリーダーは戦略的に思考し行動しなければならない。(補足2)その為には戦略的思考法を身につける必要があり、それは一般的(つまり個人的)レベルの思考法とは根本的に異なる。私流に追加すれば、戦術的思考法、戦略的思考法など、思考法の多層性を理解しなければならないということになる。個人的な思考法では人命は地球より重い存在であるとしても、戦略的思考では人命を消耗品的に考える必要もある。

時間スケールも空間スケールも個人的思考と戦略的思考では全くことなる。戦略的思考の主体は国家(や民族)であり、一般的(個人的)思考の場合の主体が個人である場合とは異なるのは当然である。例を一般的思考法で表現したのが、「戦略のパラドキシャル・ロジック」(第6章)であり、それは例えば、「勝つことは次の負けに繋がる」などである。個人では一回の負けに巻き込まれれば全てが終わるが、戦略的思考の主体である国家は長期間存在し続けるのである。

3)この本には、日本の読者を意識した章もある。その部分には注意が必要である。何故なら、著者はアメリカ人だからである。

北朝鮮問題:

北朝鮮に対する日本の姿勢が、この本の120頁に以下のように書かれている。北朝鮮へ対応する日本の選択肢として、「降伏、先制攻撃、抑止、防衛」の4つがある。ところが日本はそのどれも選択していない。代わりに選択されているのが、「まあ、大丈夫だろう」という無責任な態度だ。

この記述自体は正しいのだが、重要な前提が書かれていない。つまり、北朝鮮問題の本質は、朝鮮戦争の再開である。そこで責任を持つのは、国連軍、北朝鮮軍、中国義勇軍であり、日本はそこには含まれない。北朝鮮問題を解決する責任を有する主な二つは、北朝鮮と米国である。勿論、米国の責任だといって、米国を攻撃(口撃)するだけでは、戦略的行動とは言えない。米国に先ずは正しい(日本の利益になるような)行動を要求すべきである。そこから、本に書かれた戦略を考えるべきである。

それに、日本政府が(吉田茂などは別にして)一貫して目指すのは、抑止という選択である。しかし、それを妨害する二大勢力として、米国と中国がある。https://blogs.yahoo.co.jp/mopyesr/42722151.html

尖閣問題:

著者は国家公務員(海上保安庁など)の常駐を勧めているが、それは無責任な進言である。それを実行すれば中国軍が直ちに尖閣占領に乗り出す可能性が高いと思う。日本はこの戦いに既に負けている。それは現状日本に何の抑止力もないからである。この問題は既に考察したので、以下のサイトをご覧いただきたい。 https://blogs.yahoo.co.jp/mopyesr/43296137.html

以上の他に、200頁あまりの新書版であるが、有益な考え方が満載されている。これほど内容の濃い本は読んだことがないと言っても過言ではない。ぜひ読んでもらいたい本である。

補足:
1)国連女子差別撤廃委員会が、日本への勧告案に女系の女子にも「皇位継承が可能となるよう皇室典範を改正すべきだ」と勧告する文言が含まれていたという。一旦は削除されても、今後この種の干渉が続くだろう。 http://ironna.jp/article/3341

2)著者は戦略の専門家であり、日本の戦国武将の戦略も研究している。第7章で、武田信玄、織田信長、徳川家康の戦略について解説している。

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